第69話 醜い生き物⑥
ファブリチウスの直撃を受けて飛行のコントロールを失った私は、未明子の操縦によって何とか墜落だけは免れた。
地面激突スレスレで立て直し、すぐそばにあった建物の裏に身を隠したのだった。
攻撃された箇所を確認すると腹部の3分の1程がえぐれて焼け焦げてしまっていた。
だが胴体を焼き切られなかっただけマシだ。
『未明子、大丈夫だった?』
「それはこっちの台詞だけど……うわぁ……1等星のステラ・アルマはダメージがこう伝わるんだ」
私が受けたダメージは操縦者に感覚で伝わる。
少しのダメージなら影響は無いが、体が欠損するほどのダメージなら確実に伝わってしまう。
痛みはない代わりに、いま未明子は自分のお腹が少し欠けている感覚を味わっているだろう。
「こんなにお腹がえぐれてたら戦うどころか動けないんじゃない?」
『これくらいならまだ大丈夫だわ。流石に同じところにもう一撃もらったら危ないかもしれないけど』
「す、凄いね1等星って」
これくらいのダメージならロボットの形を取っている時なら問題はない。
問題は人間の姿に戻った時だ。
私の体のサイズ的に、激しく出血するのは間違いない。
うまく止血できる余裕があるといいけど。
『……アイツはどこに行ったのかしら?』
空中に浮かぶ柱の上にはすでにフォーマルハウトの姿は無かった。
またゲートを使ってどこかに移動したらしい。
「ここに居て視線を感じないって事は、おそらくこの建物の反対側にいると思う」
『建物越しに砲撃してこないかしら?』
「多分大丈夫じゃないかな。相手の位置が確実じゃないのに撃ったら自分の位置を教える事になるからね」
空に飛び上がって向こう側の様子を伺いたいが、下手に動くと狙い撃ちされる可能性が高い。
おそらくこちらが飛び出すのを待ち構えているハズだ。
『あの固有武装、使ってた未明子からすると弱点はある?』
「やっぱり接近されると辛いよ。近距離モードもあるにはあるけど、あれは近寄って来る相手への牽制が役割だからね。ファブリチウスをコピーしてる間は接近戦で叩くのがいいと思う」
大きなダメージを負ってしまったが、仕切り直しできたおかげか未明子は冷静に戻っていた。
さっきは怒りに任せて突っ込んだせいで一本取られてしまった。
そのミスがこの程度で済んだのはラッキーだったと思おう。
だけどあのゲートは本当に厄介だ。
同じ座標に開けないという弱点はあっても応用が効くから読みきれない。
固有武装であるファム・アル・フートよりも遥かに厄介な能力だ。
「さっきの時間差砲撃は驚いたけど、でも気になる事もあった。それを確かめる為にもう少しここに隠れよう」
『気になる事? 何か他にも弱点を見つけたの?』
「弱点……は言い過ぎかな。だけどアイツの鼻をあかせるかもしれない」
『未明子がそう言うなら別に構わないけど、でもここに隠れてると多分……』
私がそう言い切る前に、その多分は起きてしまった。
目の前に唐突にゲートが開く。
しかも一つだけではなく、複数のゲートが一気に開いた。
やはり建物の影であろうとゲートを使って撃ってくる気だ。
未明子はそれを見るなり加速してその場から離れた。
ゲートからファブリチウスのビームが出てきて、建物を破壊していく。
空には飛び上がらず建物の影を動き回った。
次々とゲートが開き、そこからビームが飛び出してくる。
目の前、背後、斜め上、様々な方向から飛んでくるビームを継続的な加速で回避し続けた。
『何で見えていないのにこっちの位置が分かるのかしら?』
「あれだよ。私と鷲羽さんがマーキングされてるやつ。あれで見えない位置でもおおよその場所にゲートを開けるんだ」
そう言えばマーキングされていたんだった。
そのせいでどこにいてもアイツはストーカーのように現れるし、いまも見えない私の近くにゲートを開いている。
アイツの気持ち悪い行動がそのまま戦闘に役立っているのが腹立たしい。
「江の島で会った時も壁の向こうから私の近くにゲートを開いて、ミラを隣の洞窟まで移動させてたもんな。でもこれで確かめたい事は確かめた! 飛ぶよ!」
未明子はそう言うと、今度は上空に加速して建物の影から飛び出した。
建物の反対側を見ると思った通りフォーマルハウトがこちらに狙いをつけているのが見える。
私の姿を確認するや否や、フォーマルハウトはすぐにファブリチウスで砲撃してきた。
人の固有武装を利用していると言うのに撃つタイミングも方向もバッチリ。正確に私を狙ってくる。
未明子は上空への移動を急停止すると、今度はファブリチウスの砲撃に向かって加速した。
迫ってくるビームを避けず、逆に向かって行く。
このままだと直撃確定だったが、未明子は加速力にアニマを込めて命中直前でビームを回避する。
そしてまだ砲撃体勢のまま硬直しているフォーマルハウトに向かって更に加速した。
フォーマルハウトの目前まで近づいたところで右手のアイヴァンを構える。
まだアイツは防御体勢を取れていない。
攻撃のチャンスだ!
……が、このまま振り下ろしたりはしない。
今度は直進を急停止。
大きく右側に避けるように加速した。
直後、上空からファブリチウスのビームが降って来る。
「ワンパターンなんだよ!!」
ゲートによる時間差砲撃も回避。
アイヴァンをフォーマルハウトの肩口に叩き込む。
その斬撃はファブリチウスの側面で防がれてしまった。
切先が砲身にめり込むも、これ以上刃が進まない。
この固有武装、見た目以上に防御力も高いみたいだ。
『いいぞいいぞ犬飼未明子。どんどん私に対応していくな。それは私を理解し始めているってことだ』
「そうだよ。そうやってお前のやりたいことを全部潰してやる」
『それは無理だ。まだ君は私を甘く見ている』
フォーマルハウトはファブリチウスでこちらの攻撃を防御したまま、コル・ヒドラエの発射体勢を取った。
「お前も私を甘く見すぎだ!!」
未明子はアイヴァンを斬り込んでいる腕にアニマを込める。
ギリギリと刀がファブリチウスごとフォーマルハウトの体を押し込み始めた。
その状態で、未明子はフォーマルハウトに向かって加速した。
アニマを込めた斬撃+加速力。
加速の力も加わって刀は更に押し込まれた。
『く……っ……ぐああっ!!』
私の質量を乗せた重い攻撃が、耐えきれなくなったフォーマルハウトを叩き潰した。
叩きつけた地面に敷かれている石畳が飛び散る。
派手に地面がえぐれ、体が半分埋まる程の衝撃を受けてフォーマルハウトは動けなくなっていた。
未明子はすかさず持っていたファブリチウスを蹴り飛ばすと、フォーマルハウトの肩口を左手で掴んだ。
「こうやって触られたらゲートなんて開けないだろ?」
コイツがゲートを開く時、ゲートの入口は自分の体から少し離れた場所に開く。
自分の体の一部をゲートに変化させることはできない。
そう予想していた未明子は、パイルバンカーを装備している左手で直接体を掴んだのだ。
火薬が破裂する音と共にパイルバンカーの杭が射出されフォーマルハウトの体を貫く。
杭は肩から胸にかけて貫通して、体からはみ出た杭が地面に突き刺さった。
『うあああああああッ!!』
苦痛による叫びが響く。
指を斬り落とされてもケロリとしていたが、流石に体を貫かれたらそうはいかないようだ。
フォーマルハウトは押し潰された姿勢のままコル・ヒドラエを撃ってくるが、狙いが正確では無く簡単に避けられた。
パイルバンカーの杭を体から引き抜くと、次の攻撃が来る前に後方に退避する。
フォーマルハウトは胸に大きく開いた傷口を抑えていた。
パイルバンカーの杭は銃弾など比較にならないくらいに大きい。
あんな物が体を貫通したら大概の機体は大破する。
それでも爆発せずに耐えきるのが1等星の機体だ。
「いい悲鳴だなぁ。癒される。それに今のでお前の核が潰れなくて良かったよ」
『なに言ってるんだ。わざわざ位置を調整して核を外したくせに』
「流石にバレてたか。お前にはまだまだ苦しんで貰わないといけないからさ」
『……何度も忠告するが、決められる時に決めておかないと後悔するぞ?』
「じゃあ私も忠告しておくよ。もうゲートは使わない方がいい。お前が次にゲートを開いたら、もっと痛い目を見るぞ」
『なんだと?』
自由な場所にゲートを開ける能力はフォーマルハウトの専売特許だ。
他のステラ・アルマで同じ能力を持っている個体は見たことが無い。
つまりこの能力はフォーマルハウトにとって一番自信のある武器なのだ。
それに対して使うな、なんて忠告は挑発に他ならない。
『何をする気か知らないがゲートの使い方は私が一番理解している。万に一つも君にしてやられるようなことはないさ』
未明子の挑発に乗るように、フォーマルハウトは再び自分の前にいくつかゲートを開いた。
「その言葉、忘れるなよ?」
未明子は私を上空に飛び上がらせた。
フォーマルハウトを見下ろす位置まで飛ぶと、アル・ナスル・アル・ワーキを展開する。
だけど今はフォーマルハウトの周囲にゲートが開いている。
このまま撃ち込んでも無効化されてしまうのは明白だった。
何かあのゲートを突破する作戦があるのだろうか?
「鷲羽さん。先に謝っておくね。ごめん」
『へ?』
何故かこのタイミングで良く分からない謝罪をされてしまった。
それは何の謝罪? と聞こうと思った時には、未明子はアル・ナスル・アル・ワーキを放っていた。
フォーマルハウトを狙うと思ったその射撃は、アイツではなくアイツの立っている少し手前の地面に当たった。
地面に撃ち込まれた6本のビームが地面を破壊して周囲に土煙を起こす。
土煙がフォーマルハウトの体を覆うと、お互いに相手の姿を目視できなくなってしまった。
『これだとこっちの方が不利だわ! アイツは見えなくてもだいたいの場所にゲートを開けるのよ!?』
「それが狙いだよ!」
案の定、空を飛んでいる私の周りにゲートがいくつも開く。
そしてゲートからはファブリチウスでは無くコル・ヒドラエのビームが飛び出してきた。
未明子はそのビームを回避しながら、ゲートの周りをウロウロ飛んでいた。
「……これじゃない……これは位置が悪い……」
何やらブツブツ言いながらビームを避け続けている。
このまま避け続けるのは可能だが、回避しているだけでは状況は変わらない。
それともこれもフォーマルハウトのアニマを削る作戦なんだろうか。
何発かビームを回避すると、未明子は新しく開いたゲートの前でピタリと止まった。
「……これだ」
そしてゲートの前でアル・ナスル・アル・ワーキを展開する。
『あ!』
そこに至ってようやく私は未明子が何を考えているか理解した。
どうしてさっき謝られたかも。
そして、戦いの前にツィーと固有武装について話していた理由も理解した。
目の前に開いたゲートからコル・ヒドラエのビームが飛び出てくる。
未明子はそれをあえて回避しなかった。
ビームは私の左肩の砲身に命中して、左肩全体に爆発が起きる。
爆発でバランスを崩すも、すぐに体勢を立て直すと、
未明子はビームが出てきたゲートに向かってアル・ナスル・アル・ワーキを撃ち込んだ。
フォーマルハウトが開くゲートには入口と出口がある。
入口から撃ち込まれたビームは離れた場所に開いている出口から出てくる。
中が繋がっているから当然だ。
だからこれも当然なのだが。
出口から何かを撃ち込んだ場合、それはフォーマルハウトにとっての入口から出てくることになる。
未明子が撃ち込んだアル・ナスル・アル・ワーキのビームは、ゲートの出口からゲートの中を通って、フォーマルハウトの目の前の入口へと撃ち出された。
『は!?』
まさかゲート越しに攻撃されるなど思っていなかったフォーマルハウトは、そのビームを至近距離で喰らった。
激しい爆発がフォーマルハウトを包み込む。
回避などできるハズも無い。
あのタイミングで目の前にビームが現れたら、私の加速でも完全に避け切れる自信は無い。
爆発が起こした煙が晴れると、ビームはフォーマルハウトの右腕に命中していた。
アル・ナスル・アル・ワーキの威力で右肩から先が全て吹き飛んで無くなっている。
さしものフォーマルハウトも、大きすぎるダメージによってその場に両膝をついた。
ただ、こちらのダメージも相応だった。
爆発によって肩側にあった2本の砲身が完全に破壊されてしまった。
もうここからビームを撃つ事はできない。
砲身が4本になってしまい破壊力はかなり下がっただろう。
「ごめん。鷲羽さんの固有武装を犠牲にした」
『フォーマルハウトの右腕を消し飛ばしたんだもの。これくらいのダメージなら我慢するわ』
火力が下がったのは痛手だがダメージレースとしては完全に上回っている。
こちらの武器と相手の腕を交換ならどう考えても割がいい。
それに流石に腕を片方失えばアイツはもう戦えないだろう。
仮にまだ戦う気でも片腕ではこちらの攻撃を受けきれない。
これで実質勝負はついたと言える。
『でも何であのゲートの攻撃なら撃ち返せると思ったの?』
コル・ヒドラエの攻撃力はそれなりに高い。
もしさっきの攻撃が正確に命中していたら、おそらく腕を吹き飛ばされていたのは私の方だろう。
砲身を失う程度で済んだのは未明子が被害の少なくなる攻撃を見極めたからだ。
「アイツはゲートを開く時はこっちを目視している。見た場所に開いたゲートの攻撃は正確だけど、こちらを見ずにマーキングしたゲートを開く場合は狙いが甘くなるんだ。だから土煙をあげて目視できないようにした」
『さっき気づいたのってそれだったの?』
「うん。私はアイツに見られてるかが分かるからね。視線を感じない状態で開かれたゲートで、かつ止まっていても次の攻撃が当たらない場所に開くゲートを待ってたんだ」
いまの未明子は誰かの視線を感じる能力を持っている。
例え目眩しの煙がある状態でもフォーマルハウトがこちらを目視しているかどうかの判断がつけられるから、マーキングで開いたゲートを判別できるらしい。
それは確かに凄いが、犠牲を出してでも相手を攻撃しようと思う判断も凄い。
未明子は膝をついて俯いているフォーマルハウトに近づくと、少しだけ間合いを取って着地した。
フォーマルハウトは動かずに、腕が無くなった右肩を押さえている。
「これで勝負はついたな。だけど終わったなんて思うなよ? ここから私の恨みを晴らさせてもらうからな」
未明子が冷たく言い放つ。
腕を吹き飛ばしたくらいでは少しも恨みは晴れていないようだった。
フォーマルハウトはそれを聞くと肩を抑えたまま立ち上がった。
『おいおい。だから何度言わせるんだ。決められる時に決めろと言ってるだろ? どう考えても今のはトドメを刺す場面だろ』
腕を失ったとは思えない強気の発言に驚いてしまった。
すでにコイツに勝ちの目は無い。
トドメを刺さずともここからは未明子が好き放題できてしまう。
上から目線で忠告されるような状況では無いと言うのに。
『あーあ。何度も勝つチャンスがあったのにな。姫の言う通りに油断せずに決着を付けておけば良かったんだ』
「その言い方だとここから逆転できるみたいな言い方だな?」
『逆転? まあ私が負けてるように見えるならそう聞こえるのか。でもそう思ってるのはお前だけだ』
突如、フォーマルハウトが押さえていた右肩が青く光り始めた。
青い光は傷口を抑えている左手から出ている。
その光はまるで温度があるかのように暖かく、美しい光を放っていた。
そして光そのものが形を作っていき、やがてその形はアイツが失った右腕の形に変わっていった。
光が収まると、フォーマルハウトの右腕は元通りになっていた。
当然最初に斬り落とした人差し指も戻っている。
それどころか、腕とは関係ないパイルバンカーが貫通した体の穴も塞がっていた。
つまりダメージが回復しているのだ。
「……え?」
『おお、凄いな。こんなに早く正確に治せるものなのか。流石姉さんの固有武装』
『なに……何なのその能力!? 体の欠損を治せる能力なんて知らないわ!!』
『あー。姫は見せてもらって無かったか。そもそもあまり戦いの場に出てこないからな姉さんは。これはスピカ姉さんの固有武装 ”アジメク” だよ』
『……スピカお姉様の?』
『姉さんも私の事は大っ嫌いなのに、怪我するとしっかり治してくれるから何だかんだ優しいよな。そのあとたっぷり怒られるんだけど、それがまた最高なんだ』
乙女座一等星スピカ。
フォーマルハウトが宇宙で一番嫌われているステラ・アルマなら、逆に宇宙で一番好かれているのは間違いなくスピカお姉様だろう。
誰に対しても優しく、そして厳しく、正しい在り方を導いてくれる最高のステラ・アルマ。
1等星の等級では14番目に位置するのにも関わらず、圧倒的な強さを持ち好戦的な1等星にも尊敬されている存在だ。
そして宇宙一の天然ボケというギャップがその人気を高めている。
私も例に漏れず可愛がってもらっているけど能力は知らなかった。
まさかそれをこの最悪のタイミングで知る事になるなんて。
『よし。問題なく動くな。じゃあ戦いに戻ろうか』
フォーマルハウトは元通りになった腕を軽く振り回して具合を確認していた。
せっかくダメージを与えたのにこれでまた振り出しに戻ってしまった。
いや、そんな事は無い。
私の固有武装が破壊された分、こちらの方が不利になっている。
「……あのさ。腕が元通りになったのは凄いけど、お前そろそろアニマが尽きるんじゃ無いの?」
一気に色んなことがありすぎて忘れていたが、未明子の言う通りだ。
何もこちらだけが不利になったわけではない。
アイツはこの戦いが始まってから他のステラ・アルマの固有武装を乱発している。
11万のアニマなんてもうほとんど残っていないハズだ。
もう動けなくなるどころか、変身すら維持できなくなる頃なのだ。
だがフォーマルハウトが焦っている様子は全く無かった。
むしろ余裕さえ感じさせながら言った。
『固有武装ってさぁ、凄いよな。敵のコピーを作ったり、欠損した体を治したりさ』
「何が言いたいんだ?」
『いやさ、そんな凄い固有武装の中で私の固有武装ってちょっと地味じゃないか? 2等星以下の連中には何かダメージが入るみたいだけど、効果としては一時的なバフが入るだけだ』
自分だけに強化がかかるのは強いと思うけど……。
ただ、そう言われればそうなのかもしれない。
強化されたところで結局私の加速には敵わないし、性能が大幅にあがる程ではない。
1等星の固有武装と言うには決定力に欠ける気はする。
『多分見落としてるんだよ。私の固有武装の本質を。この能力の強さを』
『だから何が言いたいのよ!』
『おっと姫がお冠だ。じゃあ結論を言うぞ。私の固有武装は私を強化する。パワーもスピードも防御力すらも。でも一番強化されるのはアニマの回復量なんだ』
『……え?』
『お! いまの姫の顔、人間の姿で見たかったな。結構絶望したんじゃないか?』
私はすぐに察してしまった。
そしてフォーマルハウトの言う通り、絶望感に襲われていた。
『姫の予想通りだ。この雨の中にいる限り、私はアニマをほとんど消費しない』
『……嘘でしょ……』
聞きたくなかった事実を聞かされ全身の力が抜けるのを感じた。
もう底が見えたと思っていたアイツのアニマは、実際はほとんど減っていなかったのだ。
今までずっとアイツのアニマを削る戦いをしてきたと思っていたのに、それは全部計算ミスだった。
ならばダメージを回復する能力を持っているアイツは、現状、戦闘開始とほぼ同じ状態だ。
それに比べてこちらは固有武装を破壊され、すでにアニマの内蔵量は半分を切っている。
不利どころでは無い。
『だから言っただろ? 決められる時に決めておけと。それにしてやられる事も無いと。もしかして私が強がりを言ってるだけだと思ったのか? 残念だがただの事実だ』
フォーマルハウトを追い詰めていたハズなのに、気がつけば追い詰められていたのは私達だった。
そして未明子もとっくに実感しているだろう。
この戦い、私達は負ける。……と。




