第67話 醜い生き物④
フォーマルハウトが直接撃ってくるビームと、ゲートを利用して四方八方から放たれるビームをかわしながらサーベルで斬り込む。
何度斬りつけても全てビーム刃で防がれてしまうが、攻め続けた甲斐もあってだんだんとフォーマルハウトの体勢が崩れてきていた。
完全に体勢を崩しきって大きな隙を作れればダメージを与えられるチャンスだ。
未明子はこの機を逃さず攻め切るつもりでいた。
十数回かの攻撃でようやくバランスを崩したフォーマルハウトのビーム刃を撥ね退け、ガラ空きになった胴体に向かって左手のパイルバンカーの杭を射出する。
しかし杭がフォーマルハウトの体に命中する寸前、「キィン!」という高い音が響き、杭は狙いを逸れてしまった。
いつの間にかフォーマルハウトの左手には短い刀が握られており、その刀で杭を弾かれたのだ。
未明子はすぐに右手のサーベルで斬り返す。
だがその斬撃は、これまたいつの間にかフォーマルハウトの右手に握られていた長い刀で弾き返されてしまった。
「この刀は……フォーマルハウトォ!!」
未明子が唸り声をあげた。
フォーマルハウトの持つこの2本の刀には見覚えがある。
ツィーの固有武装、アイヴァンとナビィだ。
フォーマルハウトは一歩間合いを詰めると、逆手に持ったアイヴァンで逆袈裟斬りを仕掛けてきた。
未明子はそれに対応するようにサーベルを勢い良く振り下ろす。
ギィン……!
刀とサーベルがぶつかり合い、先程よりもやや重めの音が響いた。
刃で刃を押し合うが、今のぶつかり合いでこちらのサーベルにはヒビ割れが起きていた。
やはり共通武器と固有武装では強度に差がありすぎる。
パキリという乾いた音が鳴ったかと思うと、サーベルの切っ先部分が折れてしまう。
それを見たフォーマルハウトはすぐさま次の斬撃を繰り出してきた。
サーベルが折れたことにより敵の刀を受け切れなくなってしまった未明子は、斬撃をかわす為に後方に加速した。
『逃がすかよ!!』
するとフォーマルハウトは左手のナビィをこちらに向け、その刀身を発射してきた。
こちらの後退に合わせて発射された刀身が目の前に迫る。
このタイミングでは更に加速する余裕は無かった。
未明子は大きく体を左にずらして、射出されたナビィの刀身をギリギリでかわす。
だが、かわした先にはこちらを待ち構えるように紫色のゲートが大きく口を開けていた。
「まずい!」
目の前に開いたゲートからは、アイヴァンの刃が飛び出てきた。
この攻撃も体勢が悪く回避は不可能だ。
しかし未明子はとっさに右手にアニマを集中させて、刀の切っ先を掴んだ。
通常であれば刀を素手では防げない。
だがアニマを大きく消費することで一時的に押し止めることはできる。
「うおおおおおおおッ!!」
2,000程のアニマを消費してアイヴァンの切っ先を止めた未明子は、そのままゲートからアイヴァンを引き抜き始めた。
ここまでアニマが込められていれば流石のフォーマルハウトも力負けしたようで、ゲートから腕ごと引っ張り出されていた。
未明子はゲートから出ているフォーマルハウトの腕に狙いをつけると再びパイルバンカーを射出した。
爆発音と共に本体から薬莢が飛び出て、ゲートから引っ張りだされているフォーマルハウトの腕を杭が襲う。
だが、すんでのところでフォーマルハウトはアイヴァンを握っていた手を離し、腕をゲートに引っ張り込んだ。
すぐにゲートが閉じられると、射出された杭が目標を失い虚しく空を切る。
「クソ! 右腕を潰せたと思ったのに!」
未明子は毒付きながら、フォーマルハウトが手放して地面に刺さっていたアイヴァンを引き抜いた。
固有武装の力を使って所有者の書き換えを行うと、アイヴァンの柄の色がピンク色に変わる。
これでこの武器は私の武器になった。
『バランスを崩したのは誘いだったのね。危うくやられるところだったわ』
「でもまたコピーの固有武装を使わせた。こっちもアニマを消費してるけど向こうの方が消費は激しい」
『そうね。夜明達の鏡像を創ったりしてるし、もうかなりのアニマを使ってると思う』
そうなのだ。
フォーマルハウトはかなりのアニマを消費している。
私達1等星の強さはアニマの内蔵量で保っている。
他の等級のステラ・アルマに比べて圧倒的に多いアニマ量で敵を圧倒するのがその強さの理由だ。
逆に言うとそれだけだ。
1等星が強いのは圧倒的なアニマの内蔵量、それだけ。
もし全く同じ条件で戦った場合。
例えばの話、同じアニマの内蔵量で私とツィーが戦ったら、おそらく私に勝ち目は無い。
何故なら私は単純な攻撃行動にすら大量のアニマを消費する。
相手の近くまで加速して攻撃できる回数はツィーに比べれば遥かに少ない。
その何度かの攻撃を凌ぎ切られたら、それだけでアニマ切れを起こす程だ。
だから私達はアニマの消費をうまくコントロールしなければいけない。
等級が下の相手ならいざ知らず、同じ1等星同士の戦いであれば尚のことアニマの消費には気を使わなければいけないのだ。
それは1等星であれば誰しもが理解している。
その観点で行くと、フォーマルハウトのアニマの使い方は少し雑だった。
特に夜明達の鏡像を作り出したのはやはり納得がいかない。
せっかく他に戦う敵がいたのだから夜明達の相手はそこに任せれば、万全の状態で私と戦う事もできたのに。
「アイツ、またツィーさんの武器をコピーしてる!」
フォーマルハウトが奪われたアイヴァンをもう一度コピーしていた。
こちらがアイツの武器を奪ってもまたすぐに新しい武器を作り出されてしまう。
相手の火力を下げられないのは痛いが、それ以上に未明子は仲間の武器がコピーされるのを露骨に嫌がっていた。
『接近戦を誘ってるのかしら?』
「ツィーさんの武器は両手を使う。今なら指のビームも使い辛いだろうから斬り合いに応えてもいいかもしれない」
『また何か企んでる可能性もあるわよ?』
「企んでるだろうね。でもそうやって後手に回ってても絶対に勝てない。臨機応変に対応していこう!」
いまの距離ならすぐに接近して斬りつけられる。
未明子は迷いなくフォーマルハウトに向かって加速した。
するとフォーマルハウトは、こちらが加速したのと同時に右手のアイヴァンを振りかぶっていた。
まさかあの刀を投擲に使うつもりなのだろうか?
あの刀は切れ味はいいけどそれ以外に特に能力は無い。
投げたところで真っ直ぐ飛ぶだけだ。
こちらが加速中で回避できないとでも思っているのなら大間違いだ。
コル・ヒドラエのビームですらかわせるのに、投擲された刀くらい加速しなくてもかわせる。
予想通りフォーマルハウトが右手の武器を投げてきた。
こちらの加速度と合わせると凄まじい速さで飛んでくるが、未明子は身を捻ってそれを難なく避けた。
そして武器を投げたまま動かないフォーマルハウトに、奪い取ったアイヴァンで斬りかかる。
このタイミングならアイツの回避は間に合わない。
アイヴァンの刃がフォーマルハウトの右腕を完全に捉えた。
……と、思った矢先だった。
全身に激しい痛みが走った。
刀がフォーマルハウトの腕をまさに斬り落とさんとするところだったのに、正体不明の痛みが私の動きを止めた。
痛みの先を見ると私の腹部から光の紐のような物が出ている。
その紐はフォーマルハウトの手に繋がっていた。
体を焦がすようなこの痛みは……電撃!?
「うわあああああッ!」
未明子の悲鳴が操縦席に響き渡った。
緩衝膜で包まれた操縦席はある程度の衝撃なら吸収してしまうが、電気や熱には弱く衝撃に比べると軽減率が低い。
この威力の電撃だと操縦者がダメージを受けるくらいには影響が出てしまう。
『大丈夫!?』
「な……なんとか……でもどこから……?」
どうして電撃を食らってしまったのだろうか。
フォーマルハウトは刀を投げただけなのに。
体を貫いている電気を纏った紐の反対側を見ると、そこには一本の槍が空中に浮かんでいた。
いや、浮かんでいるのではなく何もない空中に刺さっている。
その槍の持ち手から出た紐が、フォーマルハウトの手に繋がっているのだ。
いつの間にそんな槍がそこに刺さっていたのだろうか。
『犬飼未明子。君は固有武装の戦いに慣れていないな』
「なんだと?」
『固有武装は常識通りの動きをするとは限らない。刀がいつの間にか別の武器に変わっている事だってあるんだ』
フォーマルハウトが左手に持っていたナビィを掲げる。
その小さな刀が一瞬ドロリと溶けたかと思うと、いま見た空中に刺さっている槍と同じ形に変わった。
『これは武器を媒介にして電撃発生装置を作り上げる固有武装だ。投げた先の任意の場所に突き刺さり、装置と使用者の間に電撃を走らせる』
「そんなの分かるか!」
『そうだよな。こういう初見殺しも固有武装の特徴だ。じゃあそのダメージは甘んじて受け入れておけ』
フォーマルハウトが右手を握りこむと電撃の威力が上がった。
「わああああああッ!!」
まずい。
電撃が体を貫通しているせいで体を反らして逃れることができない。
私はこれくらいの電撃なら問題無いけど、未明子の体がもたない。
未明子は電撃に苦しみながらもフォーマルハウトから離れるように後方に急加速した。
そのまま電撃の紐を伝って発生装置に体当たりする。
私の体に衝突した発生装置が破壊され、体を縛っていた電撃が消える。
体に自由が戻ったところですかさず上空に飛んでその場から離れた。
「はぁ……はぁ……くそ……!」
『少しは勉強になったか? まあ他にも色々なのがあるから見せてやるよ』
フォーマルハウトは左手に持っていた発生装置をその場に捨てると、今度は右手に野球のグローブのような物を作り出した。
そしてすぐ傍にあった自分の身長の倍以上はある、柱のようなアトラクションをそのグローブを使って掴んだ。
メキメキと掴まれた場所が歪んでいき、やがて「バキィ!」という大きな音がして柱が砕けた。
フォーマルハウトはその柱を片手で引っこ抜ぬくと、それをこちらに向かって投げ飛ばしてきたのだ。
『なにあの馬鹿力!?』
飛んでくる柱自体はたいした速度では無い。
簡単に回避できるが、さっきギリギリで回避して手痛い目にあった事を考えて、大袈裟にその飛来物を回避する。
その柱がこちらと同じ高さくらいまで飛んでくると、フォーマルハウトは右手でフィンガースナップをした。
いわゆる指パッチンと言うやつだ。
すると柱が空中でピタリと止まりその場で静止する。
そこから登ってもいかなければ落下もしていかない。
完全にその場に停止した。
『停止した? これで空の逃げ場を塞ぐつもり?』
他にも何か投げてくるとばかり思っていたが、フォーマルハウトを見ると目の前に開いたゲートに入り込んでいた。
どこかに移動したのだ。
園内を見回すがフォーマルハウトの姿は見つからない。
どこかに隠れてまた今みたい建築物を投げつけてくる可能性が高い。
もしあの調子で空に建築物をバラまかれたら飛行に支障をきたす。
「……視線!」
未明子がそう叫ぶと、私の右の翼が爆発した。
爆発のせいで一瞬コントロールを失いかけるが、すぐに立て直す。
未明子が視線を察知した先を見ると、空中で停止している柱の上にフォーマルハウトが立っていた。
そこから左手のコル・ヒドラエを撃ち込んできたのだ。
「鷲羽さん大丈夫!?」
『大丈夫! これくらいならまだ飛べるわ!』
さっき投げた柱はフォーマルハウトの足場になっていた。
つまり柱を投げたのは攻撃の為でも逃げ場を塞ぐ為でも無く、空中に自分の足場を作る為だったのだ。
『無機物を空間に固定する固有武装だ。こうすれば姫が空中に逃げてもビームの射程に入れられる。面白いだろ?』
そう言うとフォーマルハウトは続けざまにコル・ヒドラエを撃ってきた。
空に逃げれば仕切り直しができるなんて考えは甘かった。
柱から離れるように後方に加速する。
空中は私の庭だと思っていたのに、まるでフォーマルハウトに追い詰められているようだ。
『未明子、アル・ナスル・アル・ワーキを撃ち込みましょう。あそこなら逃げ場は無いわ!』
「いや、駄目だよ。ゲートを開いて無効化される」
『でもこのままじゃ、いいようにやられてばかりよ!?』
「落ち着いて。ここで躍起になってもアイツが喜ぶだけだよ。いいじゃん。楽しむつもりなんて無かったのに、だんだん攻略甲斐のある戦いになってきた」
『……え?』
「それに予定通りガンガン固有武装を使わせてる。全然やられっぱなしじゃないよ。だから落ち着いて戦おう」
『あ……ごめんなさい』
未明子は冷静だった。
さっきの電撃でダメージを受けているハズなのに、私よりもしっかり状況を把握している。
私の馬鹿!
サポートすべき私が焦ってどうするの。
「投げ槍とパワーグローブの固有武装か。他にはどんなのがあるんだろう? 投げ槍はもう対策できるし、パワーグローブの弱点も分かった。調子に乗ってもう一回くらい使わないかな。目に物見せてやるのに」
『え? もう対抗策を考えついたの?』
「うん。あんなの鷲羽さんの加速力があれば怖いのは最初の一回だけだよ。多分フォーマルハウトもそれは分かってるからもう使わないんじゃないかな」
私が焦っている間に未明子の中ではすでにあの固有武装への対策は終わっていたらしい。
何とも頼もしいが、その分自分への嫌悪感が高まる。
「でも鷲羽さんの言う通りあそこは逃げ場がないから積極的に攻めてもいいかもね。接近戦とかやり辛そう……だし……」
『未明子?』
急に未明子の声が小さくなり、
そのまま黙ってしまった。
もしかしてさっきの電撃のダメージが思ったより効いているのだろうか。
こちらから操縦席の様子は分からないので声が聞こえなくなると不安になる。
『未明子? 大丈夫?』
「……ごめん。さっき鷲羽さんに落ち着いてって言ったばかりだけど、次は私が冷静でいられなくなるかもしれない。もし暴走しそうになったら、止めて」
『え? どうしたの?』
「アイツ……本当にいますぐ殺してやりたい……!!」
今まで冷静だった未明子が急に怒り始めた。
操縦桿を砕かんとするくらいに強く握りしめる。
ただその理由はすぐに分かった。
空に浮かぶ柱の上からこちらを見ているフォーマルハウトがある武器をコピーしていた。
それは自分の身長に届きそうな長さの大きな銃だった。
銃の種類で言うとスナイパーライフル。
長距離にいる敵を狙撃する為の武器だ。
「ファブリチウス……」
そう。あれは鯨多未来が使っていた固有武装。
未明子がずっと頼りにしてきた武器だ。
あんなのを見せられて冷静でいられるワケがない。
大切な人が使っていた武器を自分に向けられる未明子の怒りは計り知れなかった。
「お前が!! お前がそれを使うな!!」
『おお。予想以上のいい反応ありがとう。ほら、そっくりそのままだろ?』
フォーマルハウトはおどけてファブリチウスを見せびらかした。
アイツの能力は見た目も能力も全く同じにコピーする。
いまアイツが手に持っている物は、つい一月前まで鯨多未来が持っていた物と同じ見た目だ。
もうどこを探しても見つからない鯨多未来の面影が一番憎い相手の手に握られていた。
「くそッ! くそッ!!」
『おいおい。まだ撃ってもいないのにそんなに苦しむなよ。久しぶりに愛銃が見られたんだから感謝の言葉をくれてもいいんだぞ?』
「それはファブリチウスじゃない! ファブリチウスはミラと一緒に消えたんだ!!」
『いや。これはお前のステラ・アルマの武器だ。だから威力も同じさ』
フォーマルハウトはファブリチウスをこちらに向けると、わざとゆっくりと狙いをつけて撃ってきた。
赤いビームが高速で迫ってくる。
『未明子! 避けて!』
未明子はそのビームを何故かギリギリで回避した。
体の横をかすめていったビームは遠くの方にある丘に命中すると爆炎を巻き上げた。
あたり一面が燃え上がり、ビームが命中した場所は大きく抉れていた。
もしあのビームが直撃したら私の装甲では耐えきれないかもしれない。
あたり所が悪ければ一撃で破壊される可能性もある。
2等星の固有武装とは言えかなりの破壊力を持った武器だ。
『ふーん。威力を抑えれば連射できるみたいだな。悪くない武器だ』
フォーマルハウトは同じ場所からファブリチウスを連射してきた。
一撃一撃のビーム幅はそこまででは無いが、連射されるとかなりの空域をカバーされる。
それでも未明子はその全ての砲撃をギリギリで避け続けた。
その避け方はフォーマルハウトに対するあてつけの様だった。
「……お前が撃ったって当たる訳がないだろ?」
『そうだな。流石に姫の速度には対応できないか』
「違う。お前みたいな奴にファブリチウスは力を貸さない。お前じゃファブリチウスを使いこなせないんだ」
『そうかそうか。君の大事なステラ・アルマの形見だもんな。だがあと5発以内で命中させてやるよ』
「お前の砲撃になんか当たるかぁ!!」
未明子は右手のアイヴァンを構えて突進した。
フォーマルハウトがこちらに狙いをつけファブリチウスを放つ。
『1発』
ファブリチウスは真っ直ぐ飛ぶビーム砲。
威力は高いがそれ以外に特殊な能力は無い。
以前に聞いていた通りだ。
向かってくるビームをまたギリギリでかわして更に加速する。
『2発。3発』
今度は2発連続で撃ってくるが少し軸をずらせば当たらない。
その2発を避けてフォーマルハウトの目の前までやってきた。
ファブリチウスには接近戦専用のモードがある。
モードチェンジすると広範囲をカバーする射撃に変化する。
それは注意しなければいけないが、この距離ではそれも間に合わない。
『4発』
目の前で4発目を撃ってくるが、こんな近い距離でスナイパーライフルが当たる訳がない。
その砲撃も避けると、3度加速してフォーマルハウトの背後を取った。
「だから当たらないって言っただろ!? ファブリチウスを使いこなせるのはミラだけだ!!」
未明子が怒りをまき散らしながらフォーマルハウトの隙だらけの背中にアイヴァンを振り下ろした。
アイヴァンの刃が背中に届く寸前。
上空からビームが降ってきてそれを阻止した。
未明子は刀を振る腕を止めてビームを回避する。
あと0.1秒早く振り下ろしていたらそのビームに巻き込まれていた。
ビームが降ってきた方向を見ると、紫色のゲートが口を開けていた。
『ゲート……まずい! 未明子!!』
私の声に反応した未明子が後方に急加速する。
すると今いた場所に、左右から3発のビームが通過していった。
ビームが飛んできた方向にはやはりゲートが開いている。
『この固有武装、射程距離が長いのがいいな。私のゲートの中で長い時間維持できる。撃った後に全弾ゲートに収納しておいた』
フォーマルハウトは撃った砲撃をゲートに閉じ込めていた。
そして時間差で開放したのだ。
射程の短いコル・ヒドラエでは不可能だったが、ファブリチウスの射程なら長い時間ゲートに閉じ込めておけるようだ。
『君はああ言ったが、案外私の方がコイツを使いこなせるんじゃないか?』
「なんだと!?」
未明子が再び怒りを露わにした時、すでにフォーマルハウトの攻撃は完了していた。
私のすぐ横にいつの間にかゲートがぽっかりと口を開けていたのだ。
そのゲートからはファブリチウスの砲身が延びていて、私の脇腹にピタリと触れていた。
『5発』
フォーマルハウトの宣言通り。
5発目の砲撃は、私の脇腹に直撃した。




