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第63話 キラリ光るHOPE 動く、動く⑥

 普段の生活からして様々な状況を予測し行動する夜明だったが、まさか自分の家の玄関にこれから倒そうとしている敵がやってくるとは想像できなかった。

 

 一度モニター越しにその姿を見ているとは言え、至近距離で顔を合わせるのは初めての相手だ。

 夜明は何か情報を得ようと突然の来訪者を観察する。


 目の前の女性はステラ・アルマの例に漏れず整った顔立ちをしていた。

 ただ、顔を付き合わせているだけで何とも嫌な気分になってくる。

 目の前に立つ女性のどこをそう感じるかの正体は掴めなかったが、少なくとも穏やかな気持ちで対応するのは難しそうだった。


「ちょっと話をしたいんだ。外がいいか? それとも上げてもらえるか?」


 フォーマルハウトは至って普通に話しかけてきた。

 まるですでに交友関係でもあるかのようだ。


 目的も分からない相手を部屋に上げる訳にはいかない。

 いや、そもそも話に付き合うこと自体が危険ではないか?

 だがいくら警戒したところで住んでいる場所を知られてしまったのは最悪だ。


「おーい。色々考えが巡ってるとは思うが、まずどうしたいか言ってくれ。こっちもここに棒立ちは困るんだ」


 とにもかくにもまずは相手の目的を探ること。

 そして、隣で鬼の形相で睨んでいる同居人をいかに鎮めるかだ。


「先に確認させてもらってもいいかな? どうしてここが分かったんだい?」

「ようやく話してくれたかと思ったらいきなり質問か。まあ、お邪魔してる立場だからちゃんと答えるよ」


 そう言うとフォーマルハウトは自分の目の前にゲートを開いた。

 以前の戦いの時に見た紫色のゲートは、何もない空中に開いている。

 アルタイルの言うようにこれが彼女の特性のようだ。


「この前見せたと思うんだが、私は好きな場所にゲートを開く事ができる。で、このゲートは私がマーキングした対象の近くにも開くことができるんだ。今回の場合は姫……ああ、アルタイルだな」

「それでアルタイルくんを追ってきたのか」

「追ってきたと言うよりそろそろ話が進んだ頃だと思って会いにきたんだ。そしたらこの家から彼女が出てくる姿が見えた。あの、人付き合いの苦手な姫が来る所なんて一緒に戦う仲間の所以外にないからな」


 フォーマルハウトは何故か上機嫌に語った。

 アルタイルと旧知の仲である事は聞いていたが、姫と呼ぶからには敬うような関係なのだろうか。

 ただの愛称に過ぎないのかもしれないが。


 フォーマルハウトは、開いているゲートをチャックをしめるようにゆっくりと閉じる。


「ニッコニコの笑顔で走って行ったってことは犬飼未明子との契約がうまくいったんだろ?」

「そうだとしたら君にとっては非常にまずい状況なんじゃないかい?」

「なんでだよ? 私はそうなるように色々頑張ったんだぞ」

「……なんだって?」

「私は姫と戦う為に犬飼未明子のステラ・アルマを殺したんだ」


 夜明は耳を疑った。


 ずっとフォーマルハウトの目的がはっきりしなかった。

 どうして突然現れてミラを殺したのか。

 どうして未明子を生き残らせたのか。

 

 ……そんな事の為だったのか。


 自分がアルタイルと戦う状況を作り出す為。

 たったそれだけの理由でミラは殺されたのだ。

 

「ただステラ・アルマを殺しただけだと犬飼未明子が戦いをやめる可能性があったからな。わざわざ恨みを買うような殺し方をしたのさ」


 山のような罵詈雑言が夜明の口から吐き出されそうになった。

 だがその全てを押し殺し、何とか自分の中から会話を捻りだす。


「それは未明子くんじゃなきゃいけなかったのかい? ミラくんを殺さずとも他のステラ・カントルとアルタイルくんを契約させれば君の願いは叶ったんじゃないのかい?」

「なに言ってんだ。姫のお気に入りは犬飼未明子だろ? それ以外の誰かをあてがうなんて可哀そうじゃないか」


 ではミラを殺すのは可哀そうだとは思わなかったのか?

 未明子自身にとどめを刺させるようなやり方を可哀そうだとは思わなかったのか?


 夜明はミラと幸せそうにしていた頃の未明子の顔と、樹海で会った見る影もなくなった未明子の顔を思い浮かべて全身から怒りが湧きあがる。


「お前は未明子くんがいまどんな思いをしているのか知ってるのか?」

「知らないよ。泣いて姫にすがったんじゃないのか?」

「あの優しかった子が、どんな覚悟でいま生きているのか知らないのか?」

「だから知らないよ。生きてるんならいいだろ」


 この女が、宇宙一の嫌われ者と言われているのが肌で理解できた。

 こいつとは会話ができない。

 こちらの言葉も思いも、何も理解しようとしていない。

 ただ自分の言いたいことを口から出しているだけだ。

 

 夜明は基本的に他人を尊敬していた。

 例え自分より能力が低かったとしても、例え敵だったとしても、自分には無い何かを持っている可能性があるからだ。

 だから挑発という手段を取る事はあっても誰かを貶めるような事は絶対に言わない。

 そんな夜明が初めて心の底から思った。


 コイツはクズだ。


 同じテーブルに座っては駄目だ。

 理解しようと思っては駄目だ。

 言葉を交わしては駄目だ。

 コイツに何かを与えては駄目だ。

 

 徹頭徹尾、コイツは私達を害するモノでしかないんだ。


 夜明はおそらく初めてであろう激しい敵意と憎悪をフォーマルハウトに向けた。

 その激情は、隣でフォーマルハウトを睨め続けていたアルフィルクを一瞬冷静にさせる程の熱だった。


「知りたかったのは未明子くんとアルタイルくんの契約がうまくいったかどうかかい?」

「そうだ。それがうまくいったんだったらお前達も褒めてやろうと思ってやってきた」

「別にお前に褒めてもらうような事はないよ」

「そうか。じゃあ他に用はない」

「では最後にお前に私達の気持ちだけ預けておくよ」

「ほう。それは少し興味があるな」

「お前は未明子くんが殺す。私達と未明子くんが、お前を確実に殺すから楽しみにしているといい」


 フォーマルハウトは口笛を吹いて夜明の言葉を歓迎した。

 そして先程までの興味の無さそうな顔から、一転して熱を帯びた顔に変わる。


「いいね! そういうのは嫌いじゃないよ。お前の……いや君の名前を教えてもらっていいかな?」

「これから死ぬ相手に名乗っても仕方ないだろ」

「殺される相手の名前くらい知っておきたいだろ? この通りだ」


 そう言うとフォーマルハウトは仰々しく頭を下げた。

 そこに誠意は欠片もなく、完全にパフォーマンスだった。

 人の意を挫く、侮辱する礼でしかなかった。


 それを見た夜明もアルフィルクも怒りが頂点に達した。

 最早正式に戦うまでもなく、この場で片をつけてやりたい気持ちだった。

 だが夜明は震える拳を握りしめると怨嗟のような声でつぶやいた。


「狭黒夜明」

「夜明か。いい名前だ。覚えておくよ」

「ではもう帰りたまえ」

「そうさせてもらうよ。お邪魔したね、夜明」


 フォーマルハウトは嬉しそうに踵を返すと、玄関のドアに手をかけた。

 アルフィルクが何か言おうと身を乗り出す。

 するとすかさず夜明がアルフィルクの手を掴んで制止した。


「なにするのよ!?」

「アルフィルク。君の美しい声をあんな汚物にぶつける必要はないよ」


 アルフィルクは溜まりに溜まった恨み言をぶつけてやるつもりだったが夜明の顔を見て言葉を飲み込んだ。

 それは怒り・軽蔑・憎悪・敵意・嫌悪、様々なマイナスの感情が混ざった、夜明との付き合いの長いアルフィルクでも初めて見る顔だった。


「そうそう。忘れるところだった。二週間後このユニバースの次の戦いが決まる。私はその戦いを乗っ取るつもりだ。そこで決着をつけると姫に伝えておいて欲しい」

「……承知した」

「よい戦いになることを願っているよ」


 それだけ言うと、フォーマルハウトはニヤリと不気味な笑いを浮かべて外に出て行った。

 

 玄関の扉が閉まり、何とも言えない空気が流れる。



 フォーマルハウトが出て行った後もアルフィルクは興奮が収まらずしばらく呼吸が荒くなっていた。

 逆に夜明は自分でも驚くほど冷静になっていた。

 代わりに頭の中が、まるで世界最高のCPUでも入れられたかのように凄まじい速さで稼働していた。

 それは全てフォーマルハウトを倒す為には何が必要かの回答をはじき出していた。


「すまないアルフィルク。私としたことが熱くなってしまった」

「別に構わないわよ。むしろ飛び掛かっていかなかっただけ偉いものだわ」

「少し頭を冷やしてくるよ。アルフィルクはみんなに今起こったことを説明してきてもらってもいいかい?」

「大丈夫? ついて行こうか?」

「いや一人で大丈夫だよ。代わりに……」


 そう言うと夜明はその場でアルフィルクを抱きしめた。

 突然の夜明の珍しい行動に、動揺したアルフィルクが固まる。

 

「ちょ、ちょ、ちょ……」


 何かを言おうと焦るがうまく言葉が出ない。

 しばらくすると、夜明はアルフィルクを抱きしめていた腕を離し何も言わずに外に出て行ってしまった。



 夜明の後ろ姿を見送ったアルフィルクは、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。


 頭はクリアになったが心拍数が驚くほど上がっていた。

 それはフォーマルハウトへの怒りのせいなのか、夜明の行動によるものなのかは分からなかった。

 

 アルフィルクはさっき掴まれた手首が真っ赤になっているのを見て少しだけ恍惚とする。


「人のこと言っておいてなんだけど、私もDVされる側を楽しんじゃう素質ありそうね……」 


 アルフィルクは部屋に戻りながら、夜明の少し乱暴になった口調を思い出して胸を熱くしていた。











 フォーマルハウトが夜明の家にやってきてから数日後。

 私は桜ヶ丘の駅から歩いて5分ほどの場所にある、多摩川の河川敷の土手に座っていた。


 あの日、私が帰ってすぐにフォーマルハウトが夜明の家に現れた事はその日の晩に教えてもらった。

 まさかフォーマルハウトが個人をマーキングしてゲートを開けるなんて知らなかった。

 通りで私の周りにヒョイヒョイ現れると思っていたらそういうカラクリがあったのか。


 未明子が江の島でフォーマルハウトに会った時もすでにマーキングされていたに違いない。

 おそらくあの日。

 鯨多未来について相談された日に、未明子はフォーマルハウトに目をつけられていたのだろう。

 

 そう考えるとフォーマルハウトが誰かに接触する時は全て私が原因になっている気がする。


 私がこのユニバースにやって来なければあんな厄介者を呼び込む事はなかった。

 いや、例え他のユニバースを選んでいたってアイツはそこに来て同じように滅茶苦茶にしただろう。


 何でここまで執着されるのか全く心当たりがない。

 別にアイツに対して手を貸しただとか、優しくしただとか、好かれるような覚えはないのに。



「遅くなってごめんねー! 思ったより混んでてさ!」


 フォーマルハウトの事を考えて憂鬱な気分になっていると背後から声をかけられた。

 やって来たのは九曜五月とツィーだ。


「でもこんなに暑いのにココアあったかいので良かったん?」

「冷たいのを飲むとお腹壊すのよ」

「アルタイルは夜明の家でもココアを飲んでたな。ココアが好きなのか?」

「コーヒーを飲んでもお腹壊すのよ」

「お前本当に最強の1等星か? そこらの小学生じゃないのか?」


 ツィーが私の頭をヨシヨシと撫でる。

 非常に不服だがどうせ私の力では叶わないので好きにさせておいた。


「それで? 特訓の方はうまく行ってるの?」

「うん。アルタイルちゃんにアニマの使い方を教えてもらってから世界が変わったって言うか、今まで本当に無駄なエネルギーの使い方をしてたって分かったよ」

「ツィーも私と同じ高速移動タイプなんでしょ? なら尚更アニマの使い方は研究しておいた方がいいわ。移動に慣性を利用するだけでも全然変わってくるからね」


 口に出すのは簡単だがそれを実践するのは難しい。

 ゲームのようにコントローラーを操作するのとは訳が違う。


 ステラ・アルマの操縦は人間の体の動きと同じだ。

 どこに力を入れて、どこの力を抜くか。

 走る時も、跳ぶ時も、避ける時も、全身に力を入れっぱなしではアニマの無駄遣いだ。

 

 必要な箇所に必要なアニマを注ぐ。

 不要な箇所へのアニマはなるべく控える。

 それだけでも別次元の戦い方ができるようになる。

 そして動きにアニマをうまく注げるかは操縦者の技量次第なのだ。


「ミラちゃんの固有武装が凄いアニマを使うのに、ツィーの固有武装は扱うのにそこまでアニマを消費しないのは、動きの方にアニマを使えって事だったのね。今になってようやく分かったわ」

「誰かが説明してくれる訳じゃないからね。破壊力にアニマを使うタイプと動きにアニマを使うタイプがあるなんて普通わからないし」

「ちなみに、頭にアニマを使うタイプってのもあるのか?」

「頭じゃないけど精神力にアニマを使うのは良くあるわね。例えば特殊なフィールドを発生させたり、触れた物の情報を読み取ったり」

「なるほどな。そういうのと戦った事あるぞ」


 固有武装は様々なタイプがあって把握しきれない。

 そうでなくても1等星はステラ・カントルによって新しい固有武装が創られていく。

 次に戦う相手が未知の武器を持っているなんてザラだ。

 

「アルタイルちゃんが今まで一番苦手だった固有武装ってどんなのだったの?」

「トリモチね」

「トリモチ」

「私の高速移動は背中の翼が重要な役目を負っているわ。だから翼にトリモチがへばりついた時は制御が効かなくなって危うくやられるところだったわよね」

「トリモチか。何か夜明が前に熱弁してた気がするな。実用性あったのか」


 思い出しても嫌な汗をかいてくる。

 まさか倒した敵の体からトリモチが飛び出てくるなんて思わなかったわ。

 全身トリモチでベタベタにされて、私は泣いた。


「ねえ。つっこんだこと聞いてもいい?」

「答えられる内容なら答えるわよ」

「ぶっちゃけ、ステラ・アルマがこの星で戦い始めたのっていつ頃からなの? いまの言い方だとアルタイルちゃんは前にも別のステラ・カントルと一緒に戦ってたみたいだし、実は凄い前からこの戦いって行われてるの?」


 その質問はステラ・カントルなら誰しもが考えている内容だと思う。

 おそらくツィーにも同じ質問をしたことがあるんじゃないだろうか。

 ただ彼女はその質問に答えられるほどの真実を知らなかったんだろう。


「じゃあ答えられる内容だけ答えるわね。この星での戦いが始まったのは実はそんなに前からじゃないの。おそらく西暦2000年前後から始まったんだと思うわ」

「めっちゃ最近じゃん! じゃあステラ・アルマって最大でも20年ちょいしか存在してないって事?」

「それが答えられない内容になるわ。この話の続きをするなら、あなた達ステラ・カントルは大きな選択をしなくてはならない」

「大きな選択?」

「これは2等星以下は知らない真実になるわ。知っているのは1等星か、もしくは特別な2等星ね。四季の図形を受け持つ星とか」

 

 春の大三角、夏の大三角、秋の四辺形、冬の大三角、他にもいくつかあるけど、そういう星のステラ・アルマはおそらく通常よりも多くの真実を知らされている。


「じゃあ1等星で夏の大三角であるアルタイルちゃんはアタシ達の知らない真実をいっぱい知ってるって事?」

「いっぱいかは判断の難しいところだけど、この戦いに関する事であればほぼ理解していると思うわ」

「以前戦った秋の四辺形の奴がこの戦いを仕組んだ奴がいるって言っていた。それについても知っているのか?」

「知っているわ。でもそれも今は答えられない内容なの」

「機密事項ってやつ?」

「いいえ。私が話したくない訳では無いの。ただその真実に触れたらあなた達は引き返せなくなる。それでも良ければみんなで相談して決めて。みんなが決めたなら私は喜んでそれを話すわ」


 別に脅すつもりは無いけどこれは1等星として定められた私の役割だ。

 私達は地球の子、ステラ・カントルの選択に寄り添うだけ。


 その時が来たら私達ステラ・アルマは「元々の役目」に戻る。


「何にせよ、いま話すような内容では無い?」

「フォーマルハウトを倒せたら一度みんなで話し合ってみると良いわ。それまではフォーマルハウトに集中した方がいいかもね」

「そうしよっか。ツィーもそれでいい?」

「確かにとりあえずあの阿呆にケジメつけさせるのが先か。まあアイツを倒せたら次のストーリーが解放されるってところだな」

「メリクちゃんが聞いたら喜びそー」


 五月はおちゃらけていたが、ツィーは少し思うところがありそうだった。

 おそらくツィーも自分が本来は何者なのか理解している。

 ただ、それと今の状況がうまく繋がらないのだろう。


 それもそのはず。

 いまツィーはそういう状態にされているのだから。

 

 でも私は今はこれでいいと思っている。

 ステラ・アルマとしての大きな使命よりも、まずは大切な仲間だ。


「サダルメリクと言えば、すばるの怪我はもう回復したの?」

「あれ? アルタイルちゃん、すばるちゃん家でお世話になってたのに連絡先聞かなかったの?」

「聞いたわよ。聞いたけど私から連絡し辛いの」

「あー未明子ちゃん寝取られたもんね」

「九曜五月! 言っていい事と悪い事があるでしょ!」


 あまりにデリカシーの無い事を言われて、私は思わず持っていたココアのカップを潰してしまった。

 カップから飛び出したココアが地面にこぼれて土に染み込んでいく。


「お前毎晩ワンコと寝てる癖にまだそんなの気にしてるのか」

「気にするでしょ!? それ気にしない女の子いる!?」

「一度の過ちくらい水に流してやれよ。別にワンコがすばるに惚れた訳じゃないだろ」

「そんなこと言い出したら私にだってこれっぽっちも惚れてくれてないわよ未明子は! これだけ体を重ねても鯨多未来のことしか頭にないのよ!」

「まー落ち着け。それは分かっててお前は契約したんだろが」

「そ、それはそうだけど……」


 相変わらず未明子には鯨多未来しか映っていない。

 体を重ねている時も「ミラは」「ミラなら」とずっと言っている。

 仕方ないとは思うけどそれは本当に悲しい。

 他の女の事を考えながら抱かれる気持ちを考えたことあるのかしら。


「すばるちゃんならもう回復したよ。少しずつ戦闘訓練に参加してアニマの使い方を研究してる」

「と言うかすばるは受験生だからな。本当は戦いばっかりなのもあまり良くないんだが」

「出たよツィーのおかんモード」

「五月。お前このグループにどれだけお子様がいると思ってるんだ。悪いが夜明とアルフィルクも体の大きい子供だからな。私が保護者をやるしかないだろうが」

「ツィーも大変ね。このグループって変わった人が多いし」

「まあそれでもアルタイルは私に甘えていいからな」

「頭を撫でないでちょうだい」


 最初は未明子の為に仕方なくしていた交流だけど、私はだんだんと居心地が良くなってきていた。

 夜明もアルフィルクも、すばるもサダルメリクも、九曜五月もツィーも、もう私を仲間として迎え入れてくれている。

 例えそれが1等星の戦力としてでも構わなかった。


 私は未明子の為に、この仲間の為に戦う覚悟はできている。

 この先みんながどんな選択を取ったとしても、私はこのユニバースの戦士として戦うだろう。


 おそらく、この数日間で一番変わったのは私なんだろうな。



「何を難しそうな顔をしてるんだ? 一人で寝るのが寂しいなら私が一緒に寝てやろうか?」

「だから頭を撫でないでちょうだい」


 ただ、このマスコットみたいな扱いは何とかしないと。




 ひたすら訓練をする者。

 じっくりと作戦を練る者。

 

 そして、恨みを溜め込む者……。


 それぞれが濃密な二週間を過ごす。


 そしてフォーマルハウトとの戦いの日がやってきた。


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