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第60話 キラリ光るHOPE 動く、動く③

 ツィーの爆弾発言に一番驚いていたのは未明子だった。


 表情こそ変わっていないものの完全に固まっている。

 まさか自分だけではなくツィーまで出撃しないとは予想だにしていなかったのだろう。


「ど、どう言うこと? ツィーまで出撃しないって」

「前回の戦いのダメージがまだ残っててな。アニマも足りないし、変身してもせいぜい1分くらいしか戦えないんだ」

「五月、それ本当なの?」


 アルフィルクに問い詰められた九曜五月はうなだれて申し訳なさそうにしている。


「う……うん。ごめんね。みんなには相談してなかったんだけど、まさか未明子ちゃんが出ないなんて思ってなくて」

「あの、ツィーさん。そんなに具合が悪いんですか?」

「ワンコが珍しい顔してるな。そんなに心配しなくても大丈夫だ。筋肉痛で部活を休むのと同じ感じだ」


 筋肉痛で世界の存亡をかけた戦いを休まないでと言いたい。

 だけどツィーのあの性格だからもっと大きな怪我をごまかしているのかもしれない。

 未明子も同じ心配をしたようで執拗に容態を聞いていた。


 でもそうなると3等星2体での出撃になる。

 敵が余程の素人の集まりでもない限り覆せない戦力差だ。


「ああもうしつこいな。そんなに心配するなと言ってるだろが。変身なしならフルマラソンできるくらいは元気だ!」

「良かった……」

「で、どうするんだ。それでもお前は出ないのか?」


 ツィーが鋭い目つきで未明子を見る。

 未明子はその視線を受けてばつの悪そうな顔をした。

 それでも出撃するつもりは無さそうだ。


「夜明さん。私が全員を引きつけますので倒せそうな相手から倒して行って下さい」

「やるだけやるしかないね。1体ずつ確実に削っていこう」


 すばると夜明は思いのほか落ち着いていた。

 すばるが全員を引きつけるつもりなら7対1。

 正直私でもやりたくない役目だ。

 この二人にどんな勝算があるのだろうか。


「ではそろそろゲートを開くぞ?」

「よろしくお願いいたします」

「こちらもOKだよ」


 管理人が戦闘用ユニバースへのゲートを開くと4人は迷う事なくゲートに入っていく。

 アルフィルクだけはゲートに入る直前で未明子を見たが、未明子はそれを無視した。


 ツィーは手を振りながら「頑張ってこいよー」などと余裕の表情で応援している。

 五月も腕を組んでそれを静観していた。


 私はこのメンバーの戦いを見ていない。

 だからこの空気が余裕から来るものなのか諦めから来るものなのか分からない。

 ただ未明子の落ち着きのない顔を見ていると後者のような気がする。


「いいの? あなたの我儘であの4人は死ぬかもしれないのよ?」

「大丈夫だよ。4人とも私なんかより全然強いんだから」


 そう言う割には真っ青な顔をしていた。

 私は未明子がその気になってくれないと戦えないから、どんな結果になってもここで見守るしかない。



 4人が移動してしばらくすると、管理人が展望フロアの大きな窓を観戦用のモニターに変えた。

 ここで戦いの様子を見られるみたいだ。


 モニターに映し出された4人がそれぞれ変身と搭乗を終える。


 戦闘に参加するのが4人。

 そしてこちの世界に残っているのが4人。


 半分の戦力しか出撃しないこの戦いは、特別な作戦も無く始まった。


 




 10分後。

 戦闘は概ね予想通りの展開になっていた。

 

 サダルメリクが3等星4体と2等星1体を受け持ち、アルフィルクが2等星2体と戦っていた。

 アルフィルクは逃げながらの戦いで上手く2体をあしらっている。

 夜明の判断力と操縦が人並み外れて高いのが分かる戦い方だ。

 ただし敵に決定打を与えられずにジリ貧状態になっていた。


 すばるの方は5体の敵に囲まれてほぼリンチ状態だった。

 大盾を使って攻撃を防いでも必ず誰かの攻撃は喰らってしまう。

 持ち前の装甲である程度の攻撃は弾き返しているが、ここまで激しい攻撃に晒され続ければダメージの蓄積も大きい。

 それでも敵の攻撃のスキを見つけては丁寧に反撃を繰り出し、3等星のうち2体にはかなりのダメージを与えていた。


「二人とも強いわね。普通だったらとっくにやられているわ」


 正直な感想を述べる。

 言うだけあって二人とも本当に強い。

 だけどこのままでは間違いなくやられるだろう。

 それは未明子も分かっているのか額に脂汗をかいていた。


「どうするの? 今なら誰もやられることなく助けに入れるわよ?」


 これも正直な感想だった。

 すばるも夜明も思った以上に頑張っているが予想していた状況を覆す程では無い。

 やはりどうしたって多勢に無勢なのだ。


 未明子はじっとモニターを見ながらシワができるくらい強く自分のスカートを握っていた。

 彼女は何を期待しているんだろうか。

 戦闘に奇跡は起こらない。

 戦う力と、作戦と、立ち回りの総合結果で起こることしか起こらないのだ。 


 私はもう何も言わないことにした。

 どうするかはもう彼女に任せる。

 このまま二人を見殺しにするのも、助けるのも、未明子が選ぶことだ。

 私は未明子のやりたいことをやりたいようにしてあげるだけだ。

 

 だけど数分後、この針のむしろのような状況はアルフィルクからの通信で終了することになった。



『セレーネさん! 夜明の体調が急変したわ!』


 モニターに映し出されたアルフィルクは敵から離れた所で膝をついていた。

 うまく建物の影に隠れているので敵に見つかってはいないが発見されるのは時間の問題だろう。


 確か夜明は病気だと言っていた。

 まさかこの最悪のタイミングで症状が悪化したのだろうか。


『このままじゃ身動きが取れないわ! 撤退を!!』


 ただでさえ戦力不足だと言うのに夜明まで撤退を強いられてしまった。

 

「……仕方がない」


 管理人はそうつぶやくと、モニターに向かって手をかざした。

 それに呼応するように戦場にいるアルフィルクが光に包まれていく。

 

「待ってください! 狭黒さんが撤退したら暁さんが一人になってしまいます!」


 未明子が管理人に詰め寄った。

 しかし管理人は夜明の撤退を止めようとはしなかった。


「だからと言って狭黒をあそこに残しておいたら恰好の的になってしまうだろう」

「そうですけど……」


 未明子が改めてモニターを見ると、戦っていた2体の敵がアルフィルクの撤退を確認していた。

 やや困惑していたようだがすぐにすばるの方に向かって走り出す。


 これですばるは7体のステラ・アルマと一人で戦うことになった。

 もう決定だ。

 このまま未明子が出なければ、すばるは死ぬ。


「セレーネさん、こちらから暁さんに通信はできないんですか?」

「それは不可能だ。あくまで向こうの声を拾っているだけだからな。今までもそうだっただろう?」

「……うぅ……」

「ワンコ。すばるに通信を入れてどうするつもりなんだ? あとは一人で頑張れとでも言うつもりか?」

「……いえ」

「じゃあ黙って見てろ。お前が決めたことだろう?」

「……」


 そう。

 この状況は未明子が望んだ結果だ。

 少なくとも何かを言える立場には無い。

 

 感情の読めなくなった未明子の顔に焦りが張り付いていく。



「みなさん、聞こえていますか?」


 それはすばるからの通信だった。

 全員がモニターを見る。

 そこには5体のステラ・アルマに攻撃され続け、とうとう装甲が破壊され始めたサダルメリクの姿が映っていた。


「心配をかけてしまいますが問題ありません。わたくしの想定していた通りです」


 こちらの返信が無いことは分かった上での通信だった。

 もしこの状況がすばるの想定していた通りなら、最初から死ぬつもりだったとしか思えない。

 夜明が撤退した事によりすばるの死は確実になったのだ。


「犬飼さん。お気になさらずそこでわたくしの戦いを見ていてください。わたくしはあの時ミラさんを守れなかった。ですので、せめて今の犬飼さんの気持ちだけは守りたいと思います」


 すばるは先程までダメージを与えていた3等星の内の1体に体当たりをして転倒させると、倒れた相手に大盾を突き刺した。


 喉元に深々と盾を突きたてられた機体がその場で爆発する。

 あの状況で敵の1体を破壊したのだ。


「フォーマルハウトがやってくるまでわたくしがどんな敵も倒してみせます。犬飼さんが大切にしているミラさんとの絆はわたくしが貫きます。この暁すばるの覚悟、どうかそちらで見ていて下さい!!」


 すばるが滅多に出さない大きな声を出した。

 その声に未明子がビクッと体をこわばらせる。



 すばるは両手に持った大盾を振り回すと、自分を取り囲んでいる敵に向かって投げつけた。

 残った3等星の内1体に盾が直撃してそのまま盾の重量に押し潰される。

 盾の内側で爆発が起こり、2体目の敵が倒れた。


 だがそれによって防御の要を失ったすばるは、2等星の遠距離攻撃をまともに食らい吹き飛ばされてしまった。

 爆煙の中からサダルメリクの装甲が飛び出てきて、すぐそばに落下した。


 装甲が剥がれてしまったなら、ここからは容赦なく本体にダメージが入る。


 その様子を未明子は目を大きく開けて見ていた。

 すばるとサダルメリクがやられていくのをただじっと見ていた。



 彼女はいま何を考えているのだろう。

 恋人が殺されて、残ったのはその恋人が大事にしていた仲間だけだった。

 その仲間の命がもうすぐ消えようとしている。

 自分の我儘で、大事なものがまた一つ無くなるのだ。


 もしこのまま未明子が出撃しないなら、おそらく九曜五月とツィーが無理にでも出撃するだろう。

 そして満足に戦えないまま死ぬ。

 

 それでも未明子が出撃しないなら戦えなくなった夜明とアルフィルクがもう一度出撃して、そして何もできないまま死ぬ。


 そうやって大事なものを全て失った後に、世界が終わるならばと自分が出撃するのだろうか。

 もう未明子の大事なものは何もなくなった世界を守って戦うのだろうか。


 私はそれを覚悟した。

 未明子がそうしたいならそれに従うまでだ。

 だから私は静かに未明子の言葉を待った。


 


「……行こう」


 消えてしまいそうな、か細い声が聞こえた。

 声のした方を見ると未明子が目と唇を震わせて私を見ていた。


「ミラはもう死んだ。私がこだわっていても、もう何も繋がっていかない」


「それよりも生きている気持ちを、繋げていこう」


「それがきっと、最善だ」 

  

 彼女は私を見ながら、私に対してではなく自分にそういい聞かせていた。


 私は何も言わずに黙ってうなずいた。

 それを見た未明子はこちらに向かって歩いてくると、私の肩にそっと手を置いた。

 

 そして全てを諦めたような、いまにも泣き出してしまいそうな顔を浮かべて


 私に優しくキスをした









 何とか敵を2体倒して残った敵は5体。

 防御力特化とは言えここまで攻撃されると防御力ではどうにもならなかった。


 蓄積されたダメージは深刻だ。

 もし火力の高い固有武装の攻撃でも食らったら爆発大破まで見えていた。


 それでもすばるは冷静にいま選択できる最大の手を考える。


 夜明が戦っていた2等星がこちらにやってくるまでにせめて目の間にいる2等星は倒しておきたい。

 だがその2等星が使用している固有武装も防御型の盾だった。


 こちらのように防御力全振りの大盾では無いが、相手の攻撃を受け流す事に特化した形状をしている。

 攻撃を避けながら反撃を試みるも全てその盾で受け流されてしまっていたのだ。


 相性が悪い。


 ダメージ覚悟で相手の懐に飛び込んでのカウンターで1体ずつ破壊していくつもりだったのに、あの盾のせいで計算が狂っている。

 もし2等星2体を合流させてしまったら全員の集中砲火を受けて沈むのは確実だった。


「やはり努力だけではどうにも覆せない戦力差というものがありますね」

『すばる。本気で聞くけど、どうするつもり?』

「賽は投げられました。後は結果を待ちましょう」

『その賽ファンブってないよね?』

「どうでしょう。それこそダイスの神様のみぞ知る、ではないでしょうか」


 すばるはクスクスと笑ってみせた。

 

 おどけるすばるではあったが、凄まじい攻撃に晒され続けたことによってすでに大怪我を負っていた。


 頭を強く打った際に額が割れ、顔の左側を血が絶え間なく流れ続けている。

 片鼻から血が垂れて、長く美しい黒髪も大きく乱れていた。

 いつも優雅に、上品に、凛と澄ました顔をしているすばるからは想像できないほどに憔悴した姿が、いま陥っている状況を表していた。


 さらに2等星の攻撃で吹き飛ばされた時に左腕を痛め、操縦桿を握るだけでも激痛が走っていた。

 痛みと吐き気に襲われながらもそれを精神力で支えていたすばるの状態は、ボロボロのサダルメリクといい勝負だった。 


『でも本当、詐欺師だよね。何が、そこで見ていてくださいだよ』

「何のことですか?」

『全部、未明子さんを出撃させるための、お芝居でしょ?』

「まあメリク。こんなボロ雑巾のようになってまで頑張っているのにお芝居なんて酷いです」

『五月さんとツィーに出撃しないようにお願いして、夜明さんとアルフィルクに撤退するように指示しておいて、何を、とぼけてるの?』

「おや。バレていましたか」

『そこまでして、未明子さんが来なかったら、どうするの?』

「来て下さいますよ。絶対に来ます」

『なに、その根拠のない自信。一度寝た信頼関係?』

「そうだと言ったら怒るでしょう?」

『もう、ずっと怒ってるんだけど?』


 そんな関係がなかったとしても未明子は絶対に来てくれるという自信がすばるにはあった。

 何だかんだ言いつつも自分達を大事にしてくれているのを知っていたからだ。


 だから自分の仕事は未明子が来るまでにできるだけ敵を倒しておくこと。

 完全勝利などハナから計算に入れていないのだ。


「メリク。あの盾を持っているステラ・アルマに少々腹を立てているので、次はあの機体を倒しましょう」

『さっき、ぶっとばされたしね。何か作戦はあるの?』

「ありません。小細工はやめて全力でぶつかります」

『大丈夫? 頭打って混乱してない?』


 サダルメリクに呆れられてしまい、すばるは苦笑いを浮かべた。

 だが作戦は無くとも勝算はあった。

 さっき投げた盾がちょうどいい位置に転がっている。

 あの盾を使って敵を倒す方法を思いついていた。


「参ります!」


 他の敵からの攻撃を受けながら、2等星の機体に向かって突進する。

 その機体が銃を向けてくるがもう関係ない。

 このまま突進するのみだ。


 銃撃を腕で防御しながら転がっている自分の盾の前までやってくると、敵めがけて盾を蹴り上げた。


『痛あああああッ!!』


 流石のサダルメリクのパワーでもあの重い盾を蹴り上げるのは無茶があったらしい。

 蹴り上げた足の痛みに悲痛な叫び声を上げた。


 ただその甲斐あってか盾は顔の位置くらいまで浮き上がった。

 その浮き上がった盾に肩からぶつかり、そのまま敵に向かって盾越しにタックルを決める。


 敵は突然目の前に浮き上がった全身を覆いつくす程の盾に視界を奪われて回避どころでは無かった。

 サダルメリクに押し出された盾にぶつかり、そのまま引きずられ後方にあったビルにぶつかる。


 ビルと大盾にサンドイッチされた敵の機体は、ビルが倒れるほどめり込んだ所で爆散した。



「これで、3体」


 5対1の状況から2等星も含めた3体も倒せたなら大金星だ。

 敵からすれば、囲んで痛ぶっていた相手にここまで抵抗されるとは思いもよらなかっただろう。


 しかしすばるの快進撃もここまで。


 夜明と戦っていた2等星2体が、とうとうこちらに合流した。

 前方に2体、後方に2体。

 すでに戦闘不能に近いダメージを受けているすばるに、これ以上戦いを続けるのは不可能だった。


「ここまで、ですかね……」

『これ以上動けって言われても、無理だからね』

「わたくしの我儘に付き合っていただいてありがとうございます。後はもうひたすら耐えましょう」


 耐えましょうと言ったすばるだったが、目の前にいる2等星の内1体の腕に、これまた相性最悪の武器を見つけてしまった。

 小型の杭打ち機。

 俗にパイルバンカーと呼ばれる武器である。


 油圧、もしくは火薬によって鉄杭を打ち込む武器で、主目的は敵の装甲を貫通させる事である。

 つまり装甲防御型であるサダルメリクへの特化型武器だ。


 偶然夜明がその相性最悪の敵を引き連れて行ってくれていたが、もしあの敵がこちらにいたらもっと早く決着がついていたことだろう。


 だがそれはそのまま今の状況にも当てはまる。

 あの武器を使われたら耐えるどころでは無い。

 おそらく一撃で核を破壊されて終わる。


「メリク。最悪の場合は……」

『駄目だからね。絶対駄目』

「……承知いたしました。いまある手札で何とかいたしましょう」


 ともかくこの囲まれている状況を何とかしなくてはいけない。

 前方に2等星、後方に3等星となれば後方を突破したいところだが、3等星の1体がここまで頑なに固有武装を見せていなかった。

 人数的な余裕があったからなのか、限定された状況でしか使えない武器なのか、十中八九後者であろうことは予測していた。


 幸い手元には盾がある。

 これで身を隠しながらなら突破も可能だろう。

 前方の2体が攻撃を開始する前に後方を突破する。


 そえ考えたすばるは盾を構えると後方に向かって走り出した。

 進行方向は見えなくなるが、盾に身を隠して2体の敵の間を通り抜ける。

 

 盾の勢いを恐れてか、敵はすばるの突進を避けた。


 敵の包囲を抜ける事に成功しこのまま走り抜けようと速度を上げると、すばるの足元で爆発が起こった。

 その爆発に足を取られて勢いそのまま転倒してしまう。


「しまった……!」


 倒れながら爆発が起こったと思われる場所を見ると、見事に地面が抉れていた。

 土が掘り起こされ白煙が立ち上っている。


「これは、地雷!?」


 すばるがダメージレポートでサダルメリクの足のダメージを確認すると、地雷を踏んだらしい右足はメチャクチャになっていた。

 吹き飛ばされた訳ではないが、移動の為の無限軌道は見る影もなくなっていた。


 共通武器にも地雷はあるがここまでの威力は出ない。

 サダルメリクの防御力であれば完全に防げる程度の威力だ。

 だがこの地雷は容易にサダルメリクの足を潰している。


地雷ランドマインの固有武装……」


 おそらく出し惜しみしていた3等星の機体の固有武装だろう。

 確かにさっきまでの乱戦であれば使い所のなかった武器だ。

 どうやら前方の2等星に気を取られている内に仕掛けられていたらしい。


『ああもう、ムカつく! すんごい痛いんだけど!』

「……これは流石に詰みですかね」


 足をやられてしまっては動くことができない。

 倒れた時に盾を手離してしまい、盾は少し離れたところに落ちていた。

 こうなるともうできることはなかった。


 後はパイルバンカーを核に打ち込まれて終了だ。


「貫通武器だとわたくしごと貫かれて終わりですかね。死ぬ時は綺麗に死にたいものでしたが」

『なに、諦めてんの? GMが終了宣言するまで、勝手に卓から降りないで』


 パイルバンカーを装備した敵が走ってこちらにやってきた。

 さっさとトドメを刺してしまいたいらしい。

 味方が3体もやられているのだからこれ以上被害が出る前に始末したいと考えるのは当然だった。


 敵が右手でパイルバンカーを固定すると、サダルメリクの胸に杭の先をあてた。

 杭は確実に核を貫く軌道だった。

 すなわち操縦席が破壊される。


 あのサイズの杭が人間の身体を打ったら確実に体はバラバラの肉片になるだろう。

 核が破壊されて消滅する前にすばるは人としての形を失う。

 だが恐怖は無かった。

 すばるは死を受け入れて、杭が打ち込まれるのを眺めていた。


(犬飼さんは、間に合いませんでしたか……)




 すばるが最後に未明子の顔を思い浮かべたその時。 


 突然パイルバンカーごと敵の腕が消え去った。


 その光景を見ていたすばるの視界の端に、スローモーションのように敵の腕が宙を舞っていくのが見えた。


 すばるは決して瞬きなどしていなかった。

 パイルバンカーが自分に打ち込まれるのをじっと見続けていたのに、気がついたら敵の腕が吹き飛んでいたのだ。


 腕を失った敵がその場に倒れ込み苦しみ始めた。

 すばるは何が起こったのか理解できずにいたが、いつの間にか自分の傍らに見たことの無い機体が立っているのに気づいた。


 いや、立っているのではない。

 正確には空から降りてきた。

 そして地面にゆっくりと着地したのだ。


 その機体は、背中に大きな翼を生やしていた。


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