第59話 キラリ光るHOPE 動く、動く②
「私と鷲羽さんの絆?」
「そう。私とあなたの間にはとても大きな繋がりがあるの」
未明子は私に対して興味がない。
好きでも嫌いでもなく興味がない。
それは未明子にとって私がただの行きずりの存在だからだ。
だから私と未明子には特別な繋がりがあって、特別な関係だという事実を伝えたい。
「全てのステラ・アルマには、たった一人だけ自分と最も適合するステラ・カントルがいる」
「……何それ?」
「ステラ・アルマが誰をステラ・カントルに選ぶかはそれぞれの自由。自分が本当に好きだと思った人を選んでいいわ。ただしその選んだ人と自分の適合率が高いかは別の話なの」
未明子の感情の読めない瞳が少しだけ揺れている気がした。
少なくとも私の話に関心を持ってくれてはいるみたいだ。
「性格的な相性が抜群だからって、その人と自分の適合率が高いかは分からない。でもこの広い宇宙の中で、最初からお互いの適合がとても高いパートナーが一人だけいるのよ。そして2等星以上のステラ・アルマはその一人を特定することができるの」
このユニバースの2等星であれば、鯨多未来とさっき会ったばかりのツィー。
その二人は知っている筈だ。
もしその二人がこの話をしていなければ、おそらく未明子にとって初めて聞く事実になる。
少なくとも鯨多未来は話していないだろう。
いや、絶対に話す訳が無い。
私の話に半信半疑な未明子が、訝しそうな目でツィーの方を見た。
2等星であるツィーはコクリとうなずく。
「そいつの言っているのは本当だ。私は五月が自分と最も適合率が高いと分かっていた。だが適合率が高いから五月を選んだ訳じゃないぞ」
「……それはみんな知ってる話なんですか?」
「わ、私は初めて聞いたよ。ちょっと……いや、結構驚いているね」
珍しく夜明が焦っていた。
やはり2等星の二人からは知らされていなかったみたいだ。
「以前戦ったモスモスが言っていた。 ”ステラ・アルマは等級によって知らされている真実が違う。等級が高いステラ・アルマほどより多くの真実を知っている” だそうだ。これは2等星以上しか知らない真実だったみたいだな。通りでアルフィルクとサダルメリクと話が合わない訳だ」
「……じゃあ2等星であるミラは最初から私と相性がいいって分かってたんだ」
「いえ。それは無いわ」
「え?」
「それだけは絶対に無いと言い切れるわ。だって未明子と最も相性がいいのは私だもの」
それを聞いた未明子は完全に呆気に取られていた。
何言ってるの? とでも言わんばかりの顔で私を見ている。
……その顔を見るとこの話を続けていいものか迷ってしまう。
「私が、わし座1等星のアルタイルが、未明子にとっての一番星 ”ステラ・プリムス” なの」
「ステラ……プリムス……?」
これがずっと言えずに……いえ、言わずにいた真実。
私にとって未明子は、宇宙が選んだたった一人の女の子。
未明子にとって私は、宇宙が選んだたった一つの星。
これが私と未明子の特別な絆。
鯨多未来は未明子とステラ・ノヴァを起こした。
でも本来なら、私が未明子とステラ・ノヴァを起こしていても不思議では無かったのだ。
ようやく何を言われたのか整理できたらしい未明子は険しい表情をしていた。
そして少しだけ感情を露わにして言った。
「それは嘘だよ! もしステラ・プリムスなんてのがあるんだとしたらそれは絶対にミラだ。だって私とミラは相性バッチリだった。その証拠に初めてロボットになったミラに乗った時も、私が思ったようにミラを動かす事ができたんだ。普通は操縦者の思考が反映されるまでにラグがあるってアルフィルクが言ってた。ですよね、狭黒さん? アルフィルクとはそうだったんですよね?」
早口で畳み掛けるように質問された夜明は「まあ、そうだったね」と渋々返答を返した。
「ほらやっぱり。もしミラと私がそのステラ・プリムスとか言うのじゃなかったら、そんな風にはならないでしょ?」
「初めてなのにほぼラグはなかったのね?」
「そうだよ。私とミラは最初からずっと最高の相性だったんだ」
未明子は我が意を得たりとばかりに興奮気味に語った。
確かに鯨多未来といきなりそこまでの適合を見せれば相性の良さを感じてしまうだろう。
でもそこには未明子の知らない真実が隠れている。
「未明子くん。それに関しては私から話してもいいかな」
夜明が静かにつぶやいた。
突然話に入ってきた夜明に、未明子は不審そうな顔をしていた。
私が話すよりもきっと一緒に戦ってきた夜明から説明された方が納得いくに違いない。
ここは夜明に任せようと思った。
「ここまで戦闘を経験してきてステラ・アルマについて気になっていたことは無いかい?」
「気になっていたこと? たくさんありすぎて覚えてないですよ」
「そうか。では前に教えた3等星と4等星以下の絶対的な違いは覚えているかな?」
「4等星以下は、固有武装を持っていない」
「そうだ。4等星以下のステラ・アルマはその特徴と言っても過言ではない固有武装を持たない。では、3等星以上の固有武装について思っていた事はあるかい?」
夜明の話を聞いている未明子の呼吸が荒くなってきた。
そして自分の頭をボリボリと掻きむしり始める。
……イラついている。
そしてイラついているという事は、すでに答えに辿り着けているという証拠だ。
「3等星であるアルフィルクは固有武装を1つ持っている。同じく3等星であるメリクくんも1つ持っているね。そして2等星であるツィーくんは2つの固有武装を持っている。そして今まで戦った他の2等星はどうだったか覚えているかい?」
私は今までの戦いを知らないが未明子は明確に覚えているのだろう。
明らかに焦りの出はじめた表情がそれを如実に語っていた。
「少なくとも私が見てきた2等星はみんな2つの固有武装を持っていた。であるならば同じ2等星のミラくんは固有武装を2つ持っていなくてはおかしい。だが私は彼女のファブリチウス以外の固有武装を見たことがない」
「たまたま今まで会った2等星がそうだっただけで、全ての2等星がそうだとは限らないじゃないですか!」
「それも私達1等星が知らされている真実だわ。4等星以下は固有武装を持たない。3等星は1つ、2等星は2つ、そして1等星は3つの固有武装を持っている」
私が言っているのは間違いなく本当のことだ。
1等星のステラ・アルマならみんな知っている真実だ。
「……じゃあミラは私の知らないもう1つの固有武装を持っていたってこと?」
「そう考えた方が自然だ。そしてその固有武装の能力は ”操縦者との適合率を最大限に高める” だと思われる」
夜明の言った通りだ。
宇宙が選んだステラ・プリムスだったとしても、出会った時から同期が完璧な訳ではない。
もしそれが最初から完璧に近かったならば、それはもうそういう能力だと考えた方がいい。
つまり鯨多未来は固有武装の能力で未明子との相性を最大にしていたのだ。
「そんな……そんなこと……」
未明子は頭を抱えて困惑していた。
自分と鯨多未来の相性が、運命的なものではなく能力的なものであったことがショックだったんだろう。
「三ヵ月前に私が未明子の学校に転校してきた日、まだ未明子はステラ・ノヴァを起こしていなかった。でも次の日に会った時にはすでに契約を終えた後だったわ」
「ステラ・アルマにはその人が契約したかどうかが分かるのかい?」
「さあ? それは等級に寄るのかもね。少なくとも私には分かったわ。まさか同じクラスに他のステラ・アルマがいるとは思わなかったけど、私が現れたことで鯨多未来は焦ったんでしょうね。ステラ・カントル候補が身近にいるのに、下手をしたら先を越されてしまうって」
「それじゃあミラは鷲羽さんが私のステラ・プリムスだって分かって私との契約を急いだってこと? あの時、私の気持ちに応えてくれたのは鷲羽さんに先を越されたくなかったから?」
ブツブツと小声で自問していた未明子は、プツンと糸が切れた操り人形のようにその場に座り込んでしまった。
私が慌てて彼女に寄り添おうとすると、それよりも早くツィーが駆け寄つけて未明子の肩に手を置いた。
「ワンコ、少し落ち着け。それは考えが偏り過ぎだ。本当にそうだったかはミラにしか分からん」
「……ミラにしか分からない?」
「そうだ。あくまでそういう状況だっただけだ。ミラがどういう気持ちだったかまでは分からん。それを勝手に決めつけるな。それに一番その答えに近いのはお前だぞ。お前が一番身近にいたんだから、ミラがどういう気持ちだったかはお前が結論を出せ」
「そう……ですね……」
ツィーにそう諭された未明子は、目を閉じて深呼吸をした。
しばらくすると落ち着きを取り戻したようで、「ふう」と息を吐くと立ち上がった。
そしてまた感情の読めない表情に戻ると、私を見て言った。
「鷲羽さんの言ったことは信じるよ。私には確かめようが無いけど、鷲羽さんはきっと私にとってのステラ・プリムスなんだと思う」
「それじゃあ……」
「でもそれとステラ・ノヴァの契約をするかは別の話だ。私と鷲羽さんが特別な関係であるかは重要じゃない。私にとってミラが一番大事な存在であることが重要なんだ」
未明子のその言葉からは強い意志を感じた。
……彼女ならそう結論付けると思っていた。
鯨多未来の存在がどれだけ彼女の中で大きいかはもう散々思い知らされたからだ。
だから私は譲歩することにした。
「分かったわ。じゃあこうしましょう。未明子がフォーマルハウトを倒すまで私に協力させて」
もうこれしかない。
私が未明子にとって大事な存在になれないのであれば、私は未明子の協力者になるしかない。
フォーマルハウトから彼女を守る為にはもうこれしか道はない。
「アイツを倒したら契約を解除するなり、二度と私には会わないなり、好きにすればいいわ」
「ステラ・ノヴァの契約って解除できるものなの?」
「呪いじゃないんだもの、お互いの合意があればできるわよ」
「でもステラ・ノヴァの契約を結ぶには鷲羽さんとキスしなきゃいけないでしょ?」
「別にキスくらいいいでしょ。友達同士だってするわよ。って言うか、あなたすばると何したか忘れたの?」
それを聞いた夜明とツィーが眉間に皺を寄せてお互いの顔を見合わせた。
あ、しまった。
……もしかしてすばる、あのこと誰にも言ってないの?
「とにかく! 私と付き合って欲しいって言葉は撤回するわ。一緒にフォーマルハウトを倒しましょう」
未明子にとっての最優先が鯨多未来なら私にとっての最優先は未明子だ。
この際、フォーマルハウトに未明子が殺されないならそれでいい。
「一回契約したらそのままズルズル付き合おうとか考えてない?」
「考えてないわよ。そんなに姑息な女じゃありません」
「付き合えないならキスだけでもとか思ってない?」
「そんな冴えない思考持ち合わせてないわよ! 流石に失礼でしょ!?」
「あ、ごめんなさい……」
なんだか言い負かすみたいになってしまった。
でも、実は未明子が言ったことも頭の片隅にはあった。
そのまま良い関係に発展できないだろうか。
キスを続ける内に未明子の気持ちが揺れないだろうか。
何のことはない。
私は自分で否定した姑息な女だったのだ。
それは絶対に口には出さないけど。
「どう? 未明子がフォーマルハウトを倒すにはそれしか無いと思うけど?」
これでも駄目ならもう私に手は無かった。
胸を張って自信を感じさせるポーズを取っているけど、心の中は全く穏やかではなかった。
お願い! お願い! と念じながら未明子の顔をじっとのぞき込む。
未明子は何やら苦い顔をしながら悩んでいた。
鯨多未来以外とは絶対に契約したくないんだろう。
だって彼女がいなくなったいま、未明子にとっては唯一残った彼女との絆だからだ。
でも絶対に彼女の仇を自分で討ちたいと思っているのも間違いない。
そしてその方法が私と契約する以外にないことも理解している。
あとは未明子が何を諦めるかだ。
全部を取ることはできない。
それができるなら鯨多未来は死ななかったのだから。
後ろで見守っている夜明とツィーも内心ハラハラしているのが伝わる。
私はもう一歩未明子に近づくと、彼女の目をじっと見た。
未明子は下から見上げる私の目を見返す。
しばらく見つめ合っていたが、私の視線に耐えられなくなったのかそっぽを向いた。
そして力いっぱい叫んだ。
「私は! ミラが本当に大切で! 今でも一番大好きなの!」
「分かってるわよ」
「だから! ミラとの間に残ったものを無くしたくないの!」
「分かってるわよ」
「ステラ・ノヴァの契約は、私とミラの最後の絆なのに……!」
「分かってる」
「でも……このままじゃフォーマルハウトと戦えない……!」
「そうね……」
「私から、これ以上ミラがいた証明を奪わないで……」
樹海で会ってからようやく未明子の心の悲鳴を聞けた気がする。
もっと、もっと深く、心の底に沈んでいる多くの悲鳴があるはずだ。
それを一つずつ吐き出させてあげたい。
「大丈夫よ。あなたとあの子は、もっと深いところで繋がってるでしょ?」
未明子は顔で手を覆うと、辛そうに顔を歪めた。
こんな場面でも鯨多未来の言葉に呪われた未明子は泣くことすらできない。
未明子を正しく泣かせてあげる為にも、フォーマルハウトは絶対に倒さなくてはいけないんだ。
私は静かに未明子を抱きしめた。
思っていたよりずっと細い体だった。
こんな細い体で、恋人の死を受け止めるなんて無理があるんだ。
結局その後も未明子の方から抱き返してくれることは無かった。
でも彼女は、私の提案を受け入れてくれたのだった。
(言い辛かったら別に構わないんだが。その、君の家で何かあったのかい?)
(何かと申しますと?)
(さっきアルタイルくんが未明子くんと君の間で何かがあったって言っていてね)
(ああ。そのことでしたか。犬飼さんと寝ました)
(寝た!? 何でそんなことになったんだい?)
(わたくしなりのケジメといいますか)
(いえ、違いますね。わたくしの心を犬飼さんに救って頂いたが正しいですね)
(わたくしが未熟すぎる故、犬飼さんに甘えてしまいました)
(そ、そうだったんだね。その場にいなかったからきっと色々あったんだと思うんだが、メリクくんは大丈夫なのかい?)
(かなり荒れておりますね。犬飼さんとアルタイルが帰ってから毎晩いじめられております)
(そりゃあそうだろうね)
(でもメリクの怒りなんてかわいいものですよ。犬飼さんの方が激しかったです)
(ええ?)
(前に夜明さんの家でメリクとの話をしたことを覚えていたみたいで、とにかく乱暴されました。着ている物も全部破かれましたし)
(ああー)
(その後も体中を舐められ、齧られ、屈辱的な恰好もたくさんさせられました)
(へ、へえ)
(しかし体や性癖の相性で言うと悪くないかもしれません)
(よしだいたいわかった! とりあえず君たちの関係が悪化したとかではなくて安心したよ)
(前より仲良しですよ。無論メリクとの仲も良好です)
(それよりも先程の犬飼さんとアルタイルのステラ・ノヴァの件、少し心配がありますね)
(何か気になるのかい?)
(犬飼さんの性格的に考えられることがあります。その為に一つ仕込みをしたいのですがよろしいでしょうか?)
(仕込み?)
(はい。次の戦いの際に……)
夜明とのラインを終わらせて、すばるはスマホを所定の位置に置いた。
ベッドに寝転がりながら薄暗い天井を仰ぐ。
「電話の方が面倒ないのに、アルフィルクに聞かれないようにわざわざラインにしてくださったのですね」
自分と未明子の間に、もし何か不都合なことが起きていた時のことを配慮してくれたのだろう。
今回は戦い以外の面でも本当にみんなに迷惑をかけてしまった。
フォーマルハウトとの決着がついたら何かお詫びをしなくてはいけないなとすばるは考えていた。
一番悩みどころだった未明子とアルタイルの契約が何とかなった事で1等星が戦力に加わった。
アルタイルがどれ程の強さを持っているかは分からないが、ともかくこれでフォーマルハウトに対抗する術ができた。
未明子にミラ以外のステラ・アルマと契約させるのは酷だと理解しつつも、いつフォーマルハウトが襲ってくるかも分からない今の状況ではそうせざるを得ない。
もし未明子がアルタイルとの契約を拒否し続けるようであれば、すばるには一つだけ考えている手があった。
二人の契約がうまくいったなら使う必要はないと思っていたがもしかしたら次の戦いで出番があるかもしれない。
その為に早めに夜明に相談できたのは悪くない動きだった。
すばるは考える。
何をすればこの世界を守れるか。
何をすればこれ以上誰も傷つかなくて済むのか。
その為に何をする必要があるのか。
時間というリソースを使って、考え、備えるというのが自分に残された武器だ。
もう絶対に負けない。
それこそが自分を立て直す唯一の方法だと考えていた。
「私を無視してする、ライン、楽しかった?」
同じベッドに寝転がっているサダルメリクが、ネバついた声を出す。
サダルメリクはすばるの体にまとわりついて、ベッドの上に垂れたすばるの長い髪の毛で遊んでいた。
「メリクにいじめられながらメッセージのやり取りをするのも、なかなかの背徳感を感じましたよ」
「そう。私はあんまり、楽しくなかった」
「ではこの後はメリクのお好きなように。なんなら好みの服に着替えてきましょうか?」
「いいよ。すばるはしばらく私と寝るときは、服なんて着せてあげないから」
「夏場ですしちょうど良いですね。裸で寝ると質の良い睡眠が取れると言いますし」
サダルメリクは体を起こしてすばるの体の上に座り込むと、顔を近づけて自分の鼻をすばるの鼻に触れさせる。
そして息が届くくらいの至近距離から、すばるを睨みつけた。
「何を余裕見せてるの? 他の女と寝てごめんなさいって、言いなよ」
「メリクという恋人がいながら他の女性と枕を共にしたことをお許しください」
「許すわけないじゃんバーカ。ほら、足開いて」
「……お手柔らかにお願いします」
すばるは考える。
世界を守る為にまずはメリクの怒りを収めなければ、と。
戦いの日、そこには全員が集まっていた。
すばるとサダルメリク。九曜五月とツィー。夜明とアルフィルク。そして私と未明子。
私と未明子のステラ・ノヴァの契約が成立した日から数日たったが、あの後未明子とは会えなかった。
連絡先を教えてもらったので何度か連絡をしたのだが、忙しいからと一度も会ってもらえなかったのだ。
私は少し不貞腐れていた。
何故ならまだ契約のキスもさせてもらえていないからだ。
提案を受け入れてくれたけど、契約そのものにまだ抵抗があるらしい。
「今回の敵は2等星が3体。それに3等星が4体だな」
「ちょっと! 敵の数が多すぎない? これアルタイルがいなかったらどの道やられてたわよ?」
「うーん。前に考えてた ”戦うユニバースは近い戦力どうしになる” のルールは当たってるのかもしれないねぇ」
「でもアルタイルちゃんがこっちに加わったのって戦いが決まってからじゃなかった?」
「じゃあアルタイルを抜いた私達の評価が高いってことかしら」
「誰の評価か分からないけど、えらく高く見積もられたものだね」
そのルールは私達1等星も知らない。
戦う相手は完全にランダムだという認識だけどどうなんだろう。
私もこの戦いにおけるルールを全部把握している訳ではない。
と言うか、私はまだ契約を完了できていないから仲間に加われていないんだけどね。
「あの。みんなにお願いがあるんです」
「どうしたんだワンコ?」
「私、今回は出撃しなくてもいいですか?」
突然のお願いに全員がざわつく。
たったいま戦力的に私がいなかったら危ないって話をしていたのを聞いていなかったんだろうか。
未明子の言い分に、流石にアルフィルクが喰ってかかる。
「あなた何を言ってるのよ! アルタイルと契約したんじゃないの!?」
「まだしてないよ。フォーマルハウトが出てくるまで私は契約しない」
何よそれ。
私も聞いてない話よそんなの。
「私と鷲羽さんの契約はフォーマルハウトを倒す為の契約なんだ。だからそれ以外は私抜きで戦って欲しいんだ」
「はあ!? 何でわざわざ戦力を温存して戦わなきゃいけないのよ」
「アルフィルクだって前に出撃しなかったことあったじゃん」
「あの時はやむを得ない理由があったからでしょ? あなたとは違うじゃない」
「私にだって大事な理由だよ」
「いや、あなた意地張ってるだけでしょ? もう契約するって決めたんだからさっさと契約すませちゃいなさいよ」
アルフィルクの言っていることは至極当然のことだ。
少しでも鯨多未来との絆を残しておきたい気持ちは理解できるけど、これは完全に未明子の我儘だ。
そして状況的にも我儘を言える状況ではない。
するとすばるが、未明子とアルフィルクの間に入ってきて話を遮った。
「構いません。わたくし今回一人でも戦うつもりでしたし、犬飼さんが出撃したくないのであればその気持ちを優先させていただきます」
「ちょっとすばる。流石に私達だけじゃ厳しいでしょ?」
「いえいえ。ここまでの戦いでわたくしもレベルアップしておりますし、前回の戦いの報酬でメリクの強化もしていただけました。この程度の戦力であれば何とかなると考えます」
すばるはサラリと言い切った。
どうなんだろう。
サダルメリクは3等星のステラ・アルマ。同じ3等星の相手であれば問題ないかもしれないが、他に2等星が数体いる。
ツィーが2等星という事を考慮しても厳しい戦いになるのは間違いない。
案の定、すばる以外のメンバーは不安気な顔をしていた。
私も多分同じ顔をしているのだろう。
ここは未明子を説得して全員で戦うべきではないだろうか。
そんな事を考えていると、突然ツィーが「はいよ」と手を挙げて全員の注目を集めた。
アルフィルクからは行動が読めないタイプと聞かされていたが、こういう行動がそう思わせるんだろうな。
ツィーはみんなの視線が集まると、頭の後ろで腕を組みながらサラリと爆弾発言をした。
「すまんな。私も今回は出撃しないぞ」




