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第52話 君の手を握ってしまったら①


 私は未明子の変化に気づけなかった。


 彼女の様子から察するに、おそらく昨日他のユニバースとの戦闘が行われたのだろう。

 そして終業式の今日も登校して来たということは無事勝利したようだ。


 いつも通りの時間に登校してきて、いつも通りに私の隣の席に座る。

 何らおかしなところは無かった。


 ただ、鯨多未来くじらだみらいが学校を休んだ。

 担任にも連絡が来ておらず、未だに本人とは連絡が取れないらしい。

 

 以前にも数日間欠席したことがあったが、その時は未明子が心あらずという感じだったので、彼女が大きな負傷をしたんだろう事は予想がついた。


 でも今回はさっぱり事情が分からない。

 未明子なら知っているに違いないと聞いてみるも、よく分からない笑顔を向けられただけだった。


 何かがおかしい気がする。


 未明子は鯨多未来以外とはあまり喋らないので、彼女がいなければ学校にいる間はほとんど口を開かない。

 いつも通りと言えばいつも通りなのだが、何と言うか今日の未明子からは生気を感じない気がする。

 昨日の戦いがよっぽど激しかったんだろうか。


 すでに私がステラ・アルマだと言うことには気づいているのかもしれないが、今までそれについて聞かれたことはなかったので私からは話さないようにしていた。

 もしそういう話ができる仲になっていたら、相談くらいはしてもらえたんだろうか。 



 結局学校にいる間は未明子とほとんど話すことはできず、式が終わると彼女はそそくさと帰ってしまった。

 下手に詮索して嫌われるのも嫌なので気にせず学校を後にする。



 学校を出た後、前に未明子に連れて来てもらった桜ヶ丘公園の記念館へとやってきた。

 最近は学校終わりにここに来ることが多い。

 別にこの建物が好きな訳ではない。ただ未明子が教えてくれた場所というのが特別な感じがして気に入っているだけだ。


 今日は終業式だけだったのでまだ陽も高かかった。

 資料館は休館日なのでこの時間でも人気ひとけは全く無い。

 木々のざわめきしか聞こえない、この何とも言えない静けさだけは好きだった。

 

 鞄からお弁当を出すと足を机代わりにして広げる。

 静かな森の中で一人黙々と食事をするのは贅沢だ。

 我ながら傑作だった玉子焼きを箸でつかむと、それを口に運んだ。


 だけど、その玉子焼きが私の口に入ることは無かった。

 口に運ぶ途中、突然現れた何者かに奪われてしまったのだ。


「うっまぁ!」


 私は箸を弁当箱に叩きつけると、いつの間にか隣に座っていた邪魔者を睨めつける。


「相変わらず料理の腕は神クラスだ。姫と一緒になれる奴は幸せ者だな」

「フォーマルハウト。あなた何しに来たの?」


 私の贅沢な時間は一瞬にして崩れた。

 せっかくお気に入りの場所で、楽しみにしていたお弁当を食べるところだったのに、コイツが現れたのでは全部台無しだ。


「そりゃあ姫の手作りの玉子焼きを食べに来たんだよ」

「あなたの為に作ったわけじゃないわ」

「ほお。じゃあ犬飼未明子の為に作ったのか?」

「いつの間に名前を調べたのよ。本当に未明子にちょっかい出すのやめなさいよ」

「今日、あの子には会えなかっただろ?」


 フォーマルハウトが嫌な笑顔で私を見る。

 夏の気温で暖められた風がどこからともなく吹いて私の髪をなびかせた。

 

 徐々に怒りがこみ上げてくる。

 私は一切隠すことなく、その怒りを顔に表した。


「未明子に何をしたの?」

「怖いなぁ。姫もあの子もかわいい顔をしてるのに何でそんなに恐ろしい顔ができるんだ?」

「答えなさい。未明子に何をしたの?」

「まあでも、それも魅力だよ。そこまで他人のことを強く憎めるなんてある意味才能だもんな」

「この場で八つ裂きにされたいの? 答えなさい」

「犬飼未明子に手を出したら姫から叱られるだろう? だから誓って彼女には何もしていないよ」

「どうして私が未明子と会っていないと思ったの? 未明子はちゃんと学校に来ていたわ」

「……は? なんだと?」


 フォーマルハウトは目を丸しくて驚いていた。

 こっちが質問をしていたと思ったのに、驚いたのはコイツの方だった。

 普段からあっけらかんとしているコイツをそこまで驚かせるような事を言っただろうか。


「犬飼未明子に会えたのか?」

「くどいわね。普通に登校していたわよ」

「そうか……」


 フォーマルハウトは苦虫を噛み潰したかのような表情で、右手の人差し指の第二関節を親指で弾いていた。

 コイツのこの仕草は自分のやりたいことがうまくいかなかった時に出る独特の仕草だ。

 普段この仕草を見たらザマアミロと胸がすく思いだが、どうして今の流れで不機嫌になるのか探った方が良い気がした。


「私が未明子に会っているとあなたにとって不都合なの?」

「いや。そんなことはない」

「なんなのよ」

「これは思っていたより危険な賭けをしたかもしれないな」

「訳がわからないわ……今度は何を企んでるの?」

「このユニバースの拠点の場所は知っているか?」

「話を聞きなさいよ。……一応知っているわ」

「そうか。じゃあすぐにそこに行くといい。下手をしたら手遅れになるかもしれない」

「は?」

「忠告したからな」


 フォーマルハウトはそう言いながら、お弁当箱からもう一個玉子焼きをくすねて行った。

 私が指を刺してやろうと箸を振りかぶった時には、すでに開いていたゲートに体を沈め、そのまま逃げられてしまった。


「私の玉子焼き……」


 玉子焼きの件もそうだが、気になる話題を残していったのが腹立たしい。

 どうして今日は未明子に会えないなんて言い出したんだろう。


 フォーマルハウトは私に嘘はつかない。

 未明子に手を出していないと言ったのだからそれは間違いないのだろう。

 じゃあ何故……。


 私はすぐにその解答を得た。

 鯨多未来が学校を無断欠席している。

 それはつまりフォーマルハウトが鯨多未来に何かをしたということだ。


 私は急いでお弁当箱を片付けると、バス停に向かって走り出した。






 オーパ7階の展望ルームには未明子以外のメンバーが集まっていた。

 ツィーは療養中の為、正確にはセレーネを含めた6人がフリースペースにある机を囲んでいた。


 ただ、集まったものの一体何を話せばいいのか誰にも分からなかった。

 

 ミラを失ったばかりなのだ。

 それぞれが負った悲しみと喪失感は計り知れず、ここにいない未明子のことを考えると、やり切れなさは誰もが同じだった。


「黙っていても仕方がない。私が話を進めるよ?」


 居たたまれない空気を破って夜明が声を上げた。


「辛いかもしれないが、昨日の戦いであった事を確認しよう。もし齟齬があったら指摘してくれ」


 夜明は誰からの反論もないこと確認すると話を続けた。


「昨日の我々の戦闘に、みなみの魚座の1等星フォーマルハウトが乱入してきた。目的は本人の言を信じるならミラくんだった。私 ”達” では歯が立たず、フォーマルハウトは目的を達した」


 夜明があえて私達という表現をしたのは、戦闘に参加しなかった自分を含めてという意味合いだ。

 戦闘の場にいたか、そうでなかったかにあまり意味は無く、等しくフォーマルハウトには打つ手がなかった。


 故に、夜明が出撃しなかった件に関してもあえて説明はしていない。

 みんな理解していたのだ。

 例え初めから全員で戦っていても結果は変わらなかったと。


 結果だけ見ればツィーが負傷して回復が見込めない今、戦えるのは夜明と比較的ダメージの少なかったすばるだけである。

 次の戦闘のことを考えれば、夜明の判断は大正解だった。


「戦っていた敵が全滅し、最後まで残ったステラ・アルマはミラくんだった為ルール上は我々の勝利となる。セレーネさん、それは間違いないね?」

「間違いない。このユニバースは残存する」

「分かった。ではもう一点確認させてくれ。今回の戦い、日程が急に決まったのはフォーマルハウトの乱入が関与していたと考えていいのかい?」

 

 今回の戦い、そもそも開始前から雲行きが怪しかった。

 その疑問は解消する必要がある。


「結論から言うとそういう事になる。本来であれば今回の戦いにワタシ達のユニバースは関係なかった。あちらのユニバースと元々戦う予定だったユニバースが突然消滅してしまったのだ。だから代わりにこのユニバースが急遽選ばれた」

「フォーマルハウトがそのユニバースを消滅させたと?」

「いや。1等星とは言え1体のステラ・アルマにそこまでの力は無い。信じたくないが、我々管理人の上位存在が力を貸している可能性が高い」


 管理人の上位存在という言葉にそれぞれが反応を示す。

 だがそれについて問いただす者はいなかった。

 その上位存在について説明されたところで、その者から詳しい話を聞ける訳ではないし、ましてやこの場に連れてくることなどできないと分かっていたからだ。


 そんな話を掘り深めるほど余裕は無い。

 セレーネの話で重要なのは、あの乱入は全てフォーマルハウトが仕組んだという事だ。


「ありがとう。今はそれだけ分かれば十分だ」


 夜明もこの話をそれ以上続けるつもりはなかった。

 それよりも今後どうするかを早急に決めなければいけなかった。


「フォーマルハウトがどうしてミラくんだけを殺したのか全く答えが出ない。そしてもっと大きな問題はフォーマルハウトが再度襲撃してきた時に私達に勝ち目は無いということだ」


 ”ミラを殺されて” という言葉がこの場にいる者の胸を抉った。

 みんな油断した訳でも、失敗した訳でも無い。

 それぞれが最善の行動をしたにも関わらずミラは殺されてしまった。

 1等星に対抗する方法を考えない限り次も誰かが殺される。

 相手の気分次第では全員殺される可能性もある。

 

 そうならない為には、頭を使って考えるしか無いのだ。


「ミラが殺されたばかりなのに、もう戦うことを考えなきゃいけないのね……」


 夜通し泣き続けて目の腫れているアルフィルクがつぶやいた。

 

「そうだ。生き残った側の責任だよ」


 アルフィルクは反論しない。

 夜明けの言った通り、生き残った者にはまだやる事がある。


「生き残った側の責任か……。悲しいよ。悲しくて逃げ出したいけど、アタシ達はやるしかないんだよね」


 五月は悔しそうに唇を噛んだ。

 自分がもっと強かったらミラを死なせる事も、ツィーを傷つけることもなかったのに。

 これまで死んだ者を背負って来た五月も今回ばかりは背負ったモノの重さに押しつぶされそうになっていた。



「よろしいでしょうか」


 会話が続かなくなりそうな中、すばるが挙手をしてみんなの目を集めた。


「今回の戦い、どういう経緯であれリーダーを任されたわたくしの責任だと考えております。本来ならば意見を述べる立場ではないのかもしれませんが、提案があります」


 暁すばるは、一見いつも通りに見えた。

 いつも通り背筋を伸ばしてまっすぐ全員を見据えている。


 それは心の強さや責任感から来るもので、決して彼女が薄情な訳ではない。

 彼女だって仲間を失って悲しくない訳がないのだ。

 それでもなお真っ直ぐ立たんとするその姿は、負の気持ちに押しつぶされそうな中でみんなに勇気を与えていた。


 だが、サダルメリクだけは理解していた。


(すばる……無理、しすぎ……)


 実はこの中で一番崩れてしまいそうなのはすばるだった。

 未明子からリーダーを奪い取っておいて、その未明子の恋人を死なせてしまっている。

 しかも一番指揮が必要なタイミングに自分はやられてしまっていた。


 それはすばるの責任感やプライドからして到底許せることではなく、本当なら死んでお詫びしたいと思っているくらいだった。

 それが許される状況ではない事を理解しているので、生き恥を晒してでも何らかの責任を取るつもりだった。

 

 だが、すばるもまだ高校生。

 自分の力不足で仲間が傷つき、死んだという事実を清算できず、今にも折れてしまいそうな精神を何とか去勢で誤魔化している。

 サダルメリクはすばるのそういう不器用なところが、いつか自分を追い詰めるのではないかと心配していた。


 そんな心配を尻目に、すばるは話を続ける。


「以前の戦いを踏まえて反感を買ってしまうのを承知で、今後は戦いの際に敵をスカウトするのはいかがでしょうか?」

「懐柔か……これは耳が痛いねえ」


 すばるの出した提案は、新たに仲間を募ること。

 ただし自分達のいるユニバースではなく別のユニバースから。

 この提案はつまり、以前戦った斗垣・桔梗・コスモスと同じ事をしようと言うのだ。


「この世界で新たにステラ・アルマを探してステラ・ノヴァを起こすより、すでに戦闘経験のある者に加わってもらった方が確実に戦力増強できると考えます」

「……アタシはあまり気が進まないな」


 すばるの提案に対して五月が口を挟んだ。


「それをやられた立場だから分かるけど、自分の大切な世界を捨ててまで知らない世界を守る気にはなれないよ。下手したら裏切られて寝首をかかれるかもしれない。一緒に戦う味方に不安要素があるのは怖いな」

「はい。わたくしもそう思います。仮に説得がうまくいったとしても後々までしこりを残すのは間違いないかと」

「それじゃあどうやって協力を仰ぐんだい?」

「協力はお願いいたしません。脅迫を行います」


 脅迫という強い言葉を使ったすばるに場がざわついた。


「ステラ・アルマかステラ・カントル。ステラ・アルマの性質を考えるとステラ・カントルの方でしょうか。その者の命を人質とし、戦わざるを得ない状況に追い込みます」

「ちょ、ちょっと待って! そんなの悪人のやる事だよ!」

「著しく倫理に反した卑劣な行為だと認識しております。ですがそれで戦力を得られるならば必要悪だと割り切ります」

「そんな強引な手を使ったら、それこそしこりを残しちゃうでしょ!?」

「問題ありません。しこりは残りませんから」

「……!!」


 五月はすばるの表情を見て何を言わんとしているのかを理解した。

 どうしてそんなに残虐な思考になってしまったのか。

 すばるは基本的に優しい子だ。

 相手が嫌がらない範囲でいじったりはするが、誰かをこんな無下に扱ったりはしないと思っていた。


「いつも殺している相手を、殺す前に少し働いてもらうだけです。心配しないで下さい。全てわたくしが一人で行います」

「すばるちゃん、一体どうしちゃったの?」

「これがわたくしなりの責任の取り方です。仲間を殺されてそれでも清廉潔白でいたいとは思いません。わたくしはこの世界とみなさんを守るためなら手段は選びません」

「でもそれじゃあすばるちゃんが不幸になっちゃうじゃん! この世界を残して、幸せになりたいから戦うんじゃないの?」

「おや? 五月さんからそのような言が出るとは意外でした。わたくしの幸せなどサダルメリクが一緒にいてくれる以上にありましょうか? 五月さんだってそうでしょう?」

「そ、それはそうだけど……」


 そのやり取りを聞いたサダルメリクは少し呆れてしまった。

 今のすばるの言い方は、本音と言うよりも相手を説き伏せる為に自分を利用していたからだ。


 すばるは精神的にそろそろ限界だろう。

 これ以上虚勢を張る前に何かフォローをしないとまずい。


 サダルメリクがそう思っていると、アルフィルクが小さく手を上げた。


「アルフィルク? どうしたんだい?」

「あの……すばると五月が無理をしてでも前に進もうとしてくれているのは伝わったわ」

「いえ、わたくしは無理などしておりません」

「アタシだって無理なんてしてないよ!」


 そう言いながら、すばると五月は全く同じタイミングで机をドンと叩いた。


「二人ともいっぱいいっぱいじゃない。でも、一つだけ私の話を聞いてもらっても良い?」


 アルフィルクはすばると五月を落ち着かせるように、そっと二人の手に自分の手を重ねた。


「実はね、一人だけ心当たりがあるの。ステラ・アルマ」

「……え?」

「どういうことですか?」

「前に未明子に相談されたことがあるの。自分のクラスにステラ・アルマがもう一人いるって」

「もう一人? そんな狭い範囲に二人もステラ・アルマがいるなんてありえるのですか?」

「私も初めて聞いたわ。でもステラ・アルマが現れる場所は決まっていないから、ありえない事ではないのよ」

「じゃあその子にステラ・ノヴァを起こしてもらえば仲間が増えるってこと?」

「そうね。ただ私達のルールでステラ・ノヴァを起こしていないステラ・アルマへの干渉は禁じられているわ」

「では、ステラ・カントルであるわたくし達が動けばよいのですか?」

「いいえ。おそらくすでにパートナーのいる二人では相手にしてもらえないと思う。だから本当ならパートナーがいても距離の近い未明子にお願いしたいのよ」


 しかしそれは無理なお願いだ。

 未明子は昨日、最愛の人を失ったばかりだ。

 まだ受け入れるどころか、悲しみから立ち直れてもいないだろう。

 

「それを未明子ちゃんにお願いするのは辛いね……」

「わたくしもそう思います……」


 口には出さなかったが夜明もサダルメリクもその選択肢は無いと思っていた。

 未明子の気持ちの整理がつくまでは、そっとしておいた方が良いというのが全員の共通認識だった。


「そうなると、別の誰かに仲立ちをお願いするしかないねえ」

「できることならそのお願いした誰かとくっついちゃうのが有難いんだけど」

「アルフィルク、そういうのが禁止事項、だよ」

「分かってるわよ」

「ステラ・カントルなんて、簡単に、見つかるもんじゃない」

「う……サダルメリクが言うと説得力あるわね。別にステラ・カントル候補じゃなくてもいいから、そのステラ・アルマとうまく話ができる人を見つけられれば……」


 ではそういう人物に心当たりがあるかと問われれば、全員押し黙るしかなかった。

 そもそも肝心なことを全部ぼかした上で何と説明すれば良いのか分からない。


 ある学校にかわいい女の子を見つけたから、友達になって欲しい。その上でその子を紹介して欲しい。


 その人物に求めるのはそういう事になるが「何で?」の部分を答えることができない。

 ステラ・アルマにしろ、戦いに関する事にしろ、そこをすんなり理解できる人間がほとんどいないのは嫌と言うほど身に染みているのだ。


 アルフィルクとサダルメリクはステラ・ノヴァを起こしていないステラ・アルマに干渉できない。

 すばる、五月、夜明はすでにパートナーがいる以上、相手をしてもらえない。

 

 こうなると、そのステラ・アルマが何かの気まぐれでこちらに興味を持ってくれるしかないのだが、そんな気まぐれを待ってはいられない。


「やはり敵を脅迫するしか……」

「わー待って待って! もうちょい考えよう!」

「もう、すばると五月にそのステラ・アルマを拉致して来てもらうしか……」

「アルフィルクまで物騒なこと言い出しちゃった! 落ち着いて落ち着いて!」

「メリクくん何か作戦あるかい?」

「行動表作って、ダイス振る?」


 完全に暗礁に乗り上げてしまった。

 だが全員、こうやって何かを考えている方が悲しみを忘れられた。


 絶望に肩を掴まれた時ほどもがくしかない。

 今までの戦いで経験してきた事がこういう状況でも背中を支えていたのだった。



 ギィッ……


 終わりの無い会議が続く中、エレベーターホール横の非常階段の開く音がした。

 

「犬飼か?」


 セレーネが扉を開けた人物に声をかける。

 ツィーは療養中で動けないから他にここに来るなら未明子しか考えられない。


「いや、未明子くんは一人でここには入れないんじゃないかい?」

「え? じゃあ誰が来たん?」


 以前敵の侵入を許してしまった経験から全員の警戒度が上がる。

 固唾を飲んで身構えていると、ひょっこりと現れたのは小柄な可愛らしい女の子だった。


 ここまで走って来たのか息を切らして壁に手をついている。


 その女の子は息を整えると、その場にいる者に向かって静かに問いかけた。


「未明子は……どこ?」

 

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