第48話 沈む月の迷い③
「ミラ、フォーマルハウトを知ってるの?」
『ステラ・アルマならみんな知ってるよ。宇宙一の厄介者、全てのステラ・アルマから忌み嫌われる1等星」
天使の心を持ったミラにそこまで言わせるなんて、アイツはよっぽどの嫌われ者らしい。
あの時、江の島で会ったのが本当にフォーマルハウトなら、確かに人に好かれるキャラクターでは無さそうだ。
しかしどうして突然この場に現れたんだろう。
今回の敵はすでに全員出撃しているはずだから敵のチームメンバーって訳でもないだろうし。
『気をつけて。アイツが現れていい事なんて絶対に起きない』
「そんなに面倒なヤツなの?」
『もし敵として現れたなら最悪ね』
ミラの口からアイツとか最悪なんて言葉を聞く日が来るなんて。
とりあえずミラがフォーマルハウトにいい印象を持っていないなら、私にとっても吉な相手ではないと認識しておこう。
フォーマルハウトはそんな風に言われているとは知らず、フラフラとサダルメリクちゃんの方に向かって歩き続けていた。
サダルメリクちゃんと戦っていた敵のステラ・アルマはフォーマルハウトの接近に気づくとすぐに戦闘体勢を取る。
そうか、敵はフォーマルハウトをこちらの未出撃の機体だと思っているのか。
こっちの機体数が足らないのは分かっていることだし、戦場に知らない機体が現れたらそりゃ敵の未出撃の機体だと思うだろう。
敵の一人が、持っていた長剣でフォーマルハウトに斬りかかった。
フォーマルハウトは攻撃されたと言うのに、特に何をするでもなくその機体の方にゆっくりと体を向ける。
次の瞬間。
斬りかかった機体に5つの穴が開いていた。
コルク栓のような綺麗な円が、その機体の腹部に突然現れたのだった。
何か攻撃をされたようには見えなかった。
動画のコマ送りのように、斬りかかった次のコマにはすでに穴が開いているように見えた。
そして体に穴を開けられた機体が、自分に開いた穴を見る前に更に5つの穴が開く。
私が唖然としてその様子を見ているうちに更に5つ、また5つ。
5の倍数で増えて行く穴が30を数える前に、その機体は爆発した。
敵が斬りかかってから数秒のことだった。
悪夢のように、1体のステラ・アルマがあっという間に塵に変わった。
爆発の後に残った炎と煙の中で、いつか見た亡者のようにフォーマルハウトが佇んでいた。
身体のいたるところに爪や牙を連想させる装飾が施されている刺々しい見た目の機体だ。
今まで見た機体の中で一番身長が高いのに、猫背で立っているので異様な圧がある。
背中からは排気管のような管が何本も生えていて、そこから紫色の煙が絶えず吹き出ている。
機体色の紫も相まってその姿は ”毒” をイメージさせた。
「……暁さん。あの機体いまどうやって敵を攻撃したか見えましたか?」
「いえ……気づいたら敵が穴だらけにされていました」
暁さんにも見えなかったのか……。
どんな攻撃をしたのかは分からないが、とにかく一瞬でステラ・アルマを破壊したのは分かった。
でも理由が分からない。
何で突然やってきて敵を破壊したんだ?
こちらに加勢してくれるつもりなのだろうか?
破壊された機体と同じチームだった二人は、味方が一瞬でやられたのを見ると逃げるようにフォーマルハウトから距離を取った。
暁さんも慎重に距離を取り、今やこの戦場にいる全てのステラ・アルマとその操縦者がフォーマルハウトに釘付けになっていた。
視線を集める紫色のステラ・アルマは、気怠そうに辺りを見回すと酷く冷たい声でこう問いかけてきた。
『犬飼未明子。どいつだ?』
その声は、江の島の岩屋で声をかけてきた背の高い女性の声に間違いなかった。
私を探している。
あの時言っていたように、また私が目的のようだ。
「ミラ、こっちも外部通信いける?」
『ちょっと待って。何でアイツ、未明子の名前を知ってるの?』
ミラの声は震えていた。
絶対に関わりたくない相手が私の名前を呼んだのだ。
いい気持ちにはならないだろう。
「実はこの前、江の島であの人に会ったんだ」
『いつ? 私ずっと一緒にいたじゃない』
「岩屋ではぐれた時。なんか私に話があるとかって」
『どうしてそれを話してくれなかったの!?』
「ご、ごめん……」
ミラが声を荒らげた。
まさかこんなに怒られるなんて。
決して気分のよくなる話ではなかったし、せっかくのデートに水を差されたくなかったのだ。
『何を話したの? アイツ未明子を狙ってるってこと?』
「分からない。話をしたって言っても、お互い名乗りあったくらいでどっか行っちゃったんだ」
『ああ……なんてこと。私が一番近くにいたんだから、私が未明子を守らなきゃいけなかったのに』
「ごめんね。帰りにでも話せば良かった。まさかそんな危険な相手だと思ってなかったんだ」
『ううん。私が先に未明子に伝えておけば良かったよ。直接会いに来るなんて想像してなかった』
ミラのこの口ぶり、まるでフォーマルハウトがやってくることを知っていたみたいだ。
そう言えばさっきも「いつかやって来ると思ってた」って言っていた。
『未明子、私が話すね』
「ええっ!?」
ミラがこんなに積極的に前に出るのも意外だ。
まるで私をフォーマルハウトに関わらせないようにしているみたいだ。
『そこで止まってフォーマルハウト。ここに何しに来たの?』
『うん? お前が犬飼未明子のステラ・アルマか?』
『見ての通り私達は戦闘中。ここに割って入ってくるような権限はないはずよ』
『なんだ権限って? 私は自分の好きなように動いてるだけだ』
『いいから答えて。目的は何?』
ミラが強い口調で問いかける。
しかしそんな事は気にせず、フォーマルハウトはこちらに向かって歩いてきた。
『目的はお前を殺す事だよ』
その言葉には殺意も害意も無かった。
どこに行くの? と尋ねられて「散歩」と答えるような、言葉通りの意味以外に何も感じない言葉だった。
私を含め、おそらくこの場にいる全員の緊張度が一気に上がった。
今、目の前でたやすく1人のステラ・アルマを破壊した相手が私を殺すと言っている。
それはフォーマルハウトとの戦闘が避けられないと決定した瞬間だった。
『どうして?』
『うるさいな。何でいちいち質問に答えないといけないんだ。自分で考えな』
ミラの質問に苛立った声をあげたフォーマルハウトが両手を左右に広げる。
すると機体を取り囲むようにオレンジ色の光が発生し、その光はフォーマルハウトを囲う環となった。
まるで土星にかかっているような環は、ゆっくりと回転しながら鈍い光を放っている。
『ファム・アル・フート』
フォーマルハウトがそう言うと、背中の排気管から出ていた紫の煙が勢いを増した。
全ての排気管から吹き上げられる煙が上空に立ち昇っていくと、ある程度の高さでかたまり始めた。
やがて上空に堆積した紫の煙は、積乱雲のようなサイズまで成長し周囲の空を覆い尽くしたのだった。
「紫の……雲?」
さっきまで見えていた夏の青い空は、毒々しい紫の雲に覆い隠れて完全に見えなくなってしまった。
以前、海外でハリケーンが通った後に空が紫色になったというニュースを見たことがある。
映像に映ったその空は幻想的でとても美しかった。
だがこの紫の空は美しさなど微塵も感じさせず、ただただ不安を掻き立てるだけだった。
『痛ッ!!』
突然ミラが悲鳴を上げた。
空を見上げている間にフォーマルハウトの攻撃を受けてしまったのかと思ったが、相手が何かをしてきた様子はなく、先程までのようにダラダラとこちらに向かって歩いてきているだけだ。
「大丈夫!?」
『うん。突然肩に痛みが……ああッ!!』
またミラが悲鳴をあげる。
明らかに何らかの攻撃を受けているのに、今度もその正体が分からない。
フォーマルハウトを見ても何の動きもない。
だが、さっきまでと変わっていることがあった。
雨が降っている。
いつの間にか雨が降ってきていた。
紫色の雨だ。
まだパラパラと降っているだけだが、その雨はあの紫色の雲から降ってきているようだ。
『この雨、もしかして……』
ふとモニターを見ると、雨が当たったミラの腕の装甲が若干溶けていた。
「まさかこの雨、酸!?」
それに気づいた時、雨が本格的に降ってきた。
とっさに雨をファブリチウスで防御する。
耳を澄ますと、雨の降る音に加えて「シュウウウ」という音が聞こえた。
間違いなくこの雨によって体が溶かされている。
最悪だ。こんなに広範囲に酸の雨を降らされたら逃げ場なんて無い。
同じように酸の雨が降る範囲にいる味方を見ると、サダルメリクちゃんが大盾を傘代わりにして、その下に二人で隠れていた。
流石にあの盾なら酸を防げるようだ。
しかしあれでは二人とも動けない。
残った敵チームの二人は、隠れる場所が無いせいで酸をまともに食らってのたうち回っている。
持っている武器ではとても雨を防げそうには無さそうだ。
とは言えこちらもファブリチウスで体全体を隠すのは不可能だ。
腰から下は今も溶かされ続けている。
周囲に身を隠せそうな場所はなく、下手に動くこともできなかった。
……そうだ。
これを降らしている本人はどうなんだ。
こんなに広範囲に酸の雨が降ったら、本人だってタダではすまない。
私がフォーマルハウトを見ると、避けるだとか防ぐだとかは一切せずに、酸の雨を全身に浴びながらこちらに向かって歩いている。
どこか溶けている様子はなく、ただの雨の中を悠々と歩いているように見えた。
「何あいつズルい! 自分には効かないの!?」
『おーその声は犬飼未明子だな。その機体に乗っているってことで間違いないらしい』
「ちょっと! ミラが怪我するからこの酸の雨を止めてよ!」
『酸の雨? ……ああすまん。これは酸じゃないんだ。ただ私に強化を与えるだけの液体だよ。この液体を浴びると私は一時的に強化されるんだ』
「嘘つけ! みんなめっちゃ溶かされてるじゃん!」
『私以外のステラ・アルマにはちょっと刺激が強いからな。酸で溶けてるんじゃなくて、性質が合わないから溶けてるんだ。よく見ろ、別に街は溶けてないだろ?』
そう言われて足元の建物や植物を見ると、言われた通り濡れているだけで特に変化はない。
もしこれが酸だったとしたら周囲はドロドロになっているところだ。
しかしだからと言ってこちらのダメージになるのは変わりない。
『戦闘前にちょっと強化しただけなんだけどな。2等星以下の奴はこんなのがダメージになるのか』
本人は攻撃しているつもりもなくて、戦う準備をしただけらしい。
だけどこちらはすでに甚大なダメージを受けている。
装甲がグズグズになっている部分もあるし、関節や剥き出しだった本体部分が焼け爛れてしまった。
『まあすぐ止むだろうから我慢してくれよ。じゃあこちらの準備も整ったしそろそろヤるとするか』
冗談じゃない。
こちらは全然戦える状態じゃない。
雨を防ぐ為にファブリチウスは使えないし、この場を動くこともできないのだ。
せめて雨が止むまでフォーマルハウトの攻撃を防ぎ続けるしかない。
が、私のその考えは甘かった。
モニターでフォーマルハウトを確認しようとした瞬間、すでにアイツの姿は無かった。
ほんの数秒目を離した隙に、フォーマルハウトはその場から消えていたのだ。
周囲を見渡してもどこにも見当たらなかった。
「犬飼さん! 後ろです!」
暁さんの声が聞こえた時にはすでに遅かった。
背部からの大きな衝撃と共に、私はその場から吹っ飛ばされていた。
地面に叩きつけられ、受け身を取れずに吹っ飛ばされた先で倒れ込む。
モニターのダメージレポートには背部に赤いアラートが出ていた。
どうやら背中から強烈な一撃を食らわされたらしい。
吹っ飛ばされた先で痛みに悶えていると、無防備になった体を雨が削っていく。
それによってモニターにどんどんアラート表示が増えていった。
痛がってる暇もないのか!
早く起き上がってどこかに隠れないと……。
立ち上がろうとすると、いつの間にか目の前にフォーマルハウトが立っていた。
もうこっちに移動してきたのか!?
動きがあまりに早すぎる。
モニターいっぱいにフォーマルハウトの足先が映し出されると、再び大きな衝撃。
思いっきり顔を蹴り上げられた。
体がグルンと後方に持って行かれ、後頭部から地面に叩きつけられる。
その衝撃によって私は昏倒してしまい、思考が飛んでしまった。
当然ミラも動くことができない。
画面には更にアラート表示が増えていく。
たった二回攻撃されただけなのに、紫色の雨と合わせてダメージの蓄積が大きすぎる。
そしてまた衝撃が来た。
今度は寝転がっていた腹部を蹴られたようだ。
……やばい。
このままだと本当に嬲り殺されてしまう。
どうにかして一度立て直さないと。
でも反撃するどころか動くこともできない。
モニターに映るダメージレポートはどこもかしこも真っ赤になっていた。
私のせいでミラが壊れていく。
私がミラを守るって言ったのに。
体の痛みと、あまりの絶望に、私は意識を手放しそうになった。
「未明子ちゃん!!」
その時、九曜さんの声が聞こえた。
それによってかろうじて意識を繋ぎ止めることができた。
目をこすって周りを見ると、九曜さんがフォーマルハウトに斬りかかっていた。
……また助けられてしまった。
私は飛びそうになっていた意識を戻すべく自分の頬を叩いた。
ダメだ。絶望してても何もいい事は無い。
すると、ふいに体を溶かしていた雨が止んだ。
見上げると、サダルメリクちゃんが大盾で守ってくれていた。
相変わらずダメージは酷いままだが、雨に当たらないだけでもかなりマシだ。
「犬飼さん、大丈夫ですか?」
「かなりやばいです……アイツの動きが早すぎて反応できません」
「確かに動きは早いですが、それに加えてあの敵は移動するのにゲートを使っています」
「ゲート?」
「はい。先ほど犬飼さんが背中を蹴り飛ばされた時、敵は自分の目の前にゲートを開いて、犬飼さんのすぐ後ろに開いたゲートに移動したのです」
「ゲートってユニバースの移動に使うゲートですか?」
「おそらく。正確には違うモノかもしれませんが、とにかく敵はゲートを通って好きな場所に移動ができるみたいです。そのせいでどれだけ距離が離れていてもすぐに追いつくことができる」
そういう事か。
突然目の前から姿を消して背後に現れたり、吹っ飛ばされた先に現れたのはゲートを使っていわゆる瞬間移動みたいなのをしているからなのか。
ファブリチウスで雨をガードして死角を増やしていたのが仇になった。
「でも任意の場所に移動するゲートは管理人にしか開けないって言ってたのに」
「分かりません。あの敵が1等星なら、そういう能力なのかもしれません」
今まで戦ったことのない相手だ、どんな特性を持っているのか分からない。
もしかしたらそういう固有武装の可能性もある。
「申し訳ありません。盾を一枚置いていくのでこれで雨を防いでください。わたくしは五月さんに加勢しに行かなくてはいけません」
こうしている間にも九曜さんはフォーマルハウトと一人で戦っている。
あんな敵と一人で戦うなんて無茶だ。
暁さんにはすぐに加勢に行ってもらわなければ。
「大丈夫です。少し休んだら私も参加するので、九曜さんを助けてください」
「ご無理されませぬよう」
そう言うと暁さんは大盾を一枚私の上に立てかけて、戦う九曜さんの元に向かった。
ともあれ、私は一呼吸つくことができた。
「ミラ、大丈夫……じゃないよね……」
『うん。ごめんね。もうちょっとだけ休ませて』
この戦いに赴く前に、前回の戦いで得たポイントでそれぞれ強化を施した。
ミラは今度こそ装甲強化をさせてもらい、二段階強化したばかりだった。
それでもここまでダメージを受けてしまったのだ。
でもその強化がなければとっくにやられてしまっていただろう。
とにかく今は回復に専念するしかない。
一つ気になったのは、何故か暁さんも九曜さんもフォーマルハウトについて何も聞いてこなかったことだ。
この中で唯一私だけがフォーマルハウトに会っていたのに誰もアイツについて私に質問してこない。
そんなタイミングがなかったと言えばそれまでなのだが、他に理由があるとすれば一つしかない。
「ミラ。もしかしてフォーマルハウトがいつか来るってみんな知ってたの?」
『……』
ミラの沈黙はほぼ答えを聞いているようなものだった。
『私が前に話したの。フォーマルハウトっていう危険なステラ・アルマがいつかこのユニバースに来るって』
「どうして私には教えてくれなかったの?」
『未明子はまだ戦いに慣れていなかったし、そんな奴がいるって話して不安にさせたくなかったの』
ミラなりに私に気を使ってくれていたらしい。
江の島で私がしたのと同じ理由だ。
だが聞いてはみたものの別にそれ自体を責めたい訳ではなかった。
そもそも話してくれていたとしても、私に事前にできる対策はなかったからだ。
ミラの言う通り不安になる位が関の山だ。
それよりも知りたいのは
「ミラはどうしてフォーマルハウトが来るって知ってたの?」
こっちの方が重要だった。
過去にフォーマルハウトと何か因縁があったのか、それとも誰かから教えてもらったのか。
何か理由がある筈だ。
『……あの子が、あの子が来たから……』
「あの子?」
『あの子がフォーマルハウトを連れてきたの……あの子さえ現れなければ……』
要領を得ないが、誰かがフォーマルハウトをこのユニバースに連れて来たと言うのだろうか?
「ミラ、あの子って……」
私がそれを聞こうとした時、目の前に凄い勢いで何かが飛んできた。
そしてそれが地面に突き刺さる。
私は心の中で「ひぃ」と悲鳴があげてしまった。
目の前に突き刺さったモノを見ると、それは刀だった。
ツィーさんの固有武装アイヴァンだ。
刃がボロボロになって柄の部分が折れている。
これが飛んできたという事は……。
二人が戦っている方を見ると、戦況は予想以上に悪かった。
九曜さんはフォーマルハウトの周りを飛び回って何かを避けているが、攻撃に転じる余裕は全く無さそうだった。
しかも雨の影響でミラと同じように装甲がグズグズになっている。
加勢に向かった暁さんはというと、地面にうつ伏せに倒れていた。
その背中にはあの5つの穴が開いている。
「嘘……暁さんが!?」
敵チームのステラ・アルマが食らっていた謎の攻撃を暁さんも食らっている。
でもどうして背中を攻撃されているんだ?
九曜さんの攻撃をかわしながら暁さんの背中を取れる訳がない。
いくらフォーマルハウトが強いと言っても、そこまでの差があるものなのか?
離れてフォーマルハウトが戦っているのを見て、ようやくどういう攻撃をしているのかが分かった。
九曜さんがさっきから必死で避けているのはそれだ。
フォーマルハウトが指先を向けると、そこから紫色のビームが超高速で発射されていた。
指を向けてから発射するまでと、ビームの速度が尋常じゃなく早い。
しかも全ての指から発射できるようで、右手の5本と左手の5本から交互に発射している。
その超高速のビームを九曜さんは全てギリギリで避けていた。
見極めてギリギリでかわしている訳ではなく、九曜さんの反射神経とツィーさんの反応速度でギリギリかわせていると言った感じだ。
そのせいで九曜さんが攻め入る隙がない。
あのままでは九曜さんもいつかあの攻撃を食らってしまう。
暁さんが倒れてしまった今、私が援護しなくてはいけない。
「話はまた後で聞かせて! 九曜さんを助けなきゃ!」
『分かった。何とか上体だけ起こせば座ったままでも撃てるよ』
まだ立ち上がって踏ん張るだけの回復はしていない。
ならばミラの言った通り座ったままの姿勢で撃つしかない。
姿勢が低い分いつもよりも狙いがつけにくいが、泣き言を言ってられない。
私はファブリチウスを構えた。
九曜さんを巻き込まないように気をつけながら、フォーマルハウトに狙いをつける。
例え1等星のステラ・アルマだってこの砲撃が直撃したらひとたまりもないはずだ。
敵の動きは早い。
けど私のセンサーを駆使すれば当てられるはずだ。
いや、当てなければ負ける。
私は心を落ち着けて狙いを定めると、ファブリチウスの引金を引いた。




