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第47話 沈む月の迷い②

「あれ? ここって……」


 ミラの操縦席から周りを見渡すと、そこは見覚えのある場所だった。


「深大寺入口の交差点ですね。以前みんなで来た植物園の近くのようです」


 サダルメリクちゃんに搭乗した暁さんがすぐに場所を特定してくれた。

 私のイーハトーブ参加歓迎会を兼ねた全員参加デートで来た場所だ。

 あの時は植物園前で集合だったけど、バスの降り場がこの辺りだったのを覚えている。


「あれもう三ヶ月も前なんだなぁ」

「すばるちゃん家でミラちゃんを着飾ったね!」

「大変有意義な時間を過ごせました。そういえばあの時に撮影した写真をみなさんに共有していない気がいたします」

「え!? それください!! ミラの着せ替え写真ってことですよね?」

「そうです。わたくしとサダルメリクが撮影係で200枚くらい撮影したと思います」


 普通に撮影会になってるじゃん。

 今更ながらにみんなして遅刻してきた理由が分かったよ。


「暁さん家でのファッションショーもまだ行けてないや」

『夏休みに入るしみんなでお泊まり会とかしたいね』

『徹夜でボドゲパーティ、やりたい』

「この前ツィーと一緒にかわいい寝巻を買ったからお披露目するね!」

『は? あれ人に見せる用に買ったのか? 私はあんなの着て人前に出たくないぞ』

「ではこうしましょう。本日の戦い、犬飼さんと五月さんのどちらが多く敵を倒せたかで勝負をして、勝った方が相手の寝巻を指定できると言うルールで」

「げぇ! とうとう暁さんが命をかけた戦いにまでゲームを持ち出してきた」

「命をかけるからこそ何か楽しみが無ければやっていられませんからね」


 私達はこのあたりの感覚がすでにおかしくなっていた。

 戦いで相手を倒すのは相手を殺すということだ。

 多く敵を倒した方というのは、多く人を殺した方ということに他ならない。


 みんなそんなのは百も承知だ。

 そしてこんな会話をしながら自分達がおかしなことを口にしていると言うのも百も承知だ。


 いや、おかしいと分かっているんだから、おかしくなり切れていないんだろう。

 まともな神経では敵を殺すなんてできない。

 自分で自分を騙してかろうじて正気を保っているのだ。


 私達はこの戦いを続けると決めた時からそういう覚悟をした。


 だから私は今日もファブリチウスの引き鉄を躊躇なく引く。

 重たい重たい引き鉄を、誰にも負けない速度で引いてやるんだ。



『まあ五月はワンコなんかに負けないから、私はどんなルールでも構わないぞ』

「あー言いましたねツィーさん。もし負けたらめっちゃ変なの着せますからね」

『じゃあお前が負けたらミラにめっちゃエロいの着せるからな』

「はぁ!? 狙うんなら私を狙わんかい私を!」

『お前を煽るならミラを標的にした方が効果が高いだろ』

『未明子が見てくれるなら私は別にいいけど』

「ダメでーす。そんなのは私が許しませーん。ミラのえっちな姿なんて誰にも見せないからね」

『じゃあお前が勝てばいいだろが』


 三ヶ月たっても私とツィーさんの関係はほとんど変わっていなかった。

 こんなやり取りをしていても仲は良いのだから、ある意味最初から仲良しだったとも言える。



 私達の不毛な争いは終わりそうになかったが、この平和な時間はそろそろ終わりそうだった。


「境界の壁が消え始めましたね」


 こちらのフィールドと敵のフィールドを隔てる壁が早くも消え始めた。

 敵の準備も整ったという事だ。

 前回が長すぎただけで、普通はこれくらいの時間で壁が消えていく認識だったので別段焦りもしない。


「では作戦通りわたくしと五月さんで前線を支えつつ、犬飼さんは後方から砲撃をお願いします」

「「了解!」」


 リーダーが作戦の確認をすると、私達は消え行く境界の壁に向かって進み始めた。






 未明子達が配置された地点よりも北東側、ちょうど植物園を挟んだ反対側に敵の配置地点があった。


 宇宙航空研究開発機構、JAXAの航空宇宙センターがあるそのエリアでは、1体のステラ・アルマが境界の壁に向かって進んでいく仲間を見送っていた。


 うしかい座2等星のステラ・アルマ、イザール。

 

 青色をベースとした機体で、体の各所にハートをかたどった装甲を纏っている。

 小柄で頭部にティアラのような装飾をつけ、腰にマントのような布を巻きつけているのが特徴的な機体だ。


 その機体は右手に共通武器のスナイパーライフルを持って、前進していく10体のステラ・アルマを眺めていた。


「毎度の事ながら私一人だけが安全圏にいるのは心が痛むよ」

『でもこれが一番効率の良い戦法だからさ。乃杏のあが気に病む必要はないよ』


 乃杏のあと呼ばれた少女はイザールの操縦席に座って申し訳なさそうな顔をしていた。

 年齢にしては幼さの残る顔に、片目が隠れるくらいまで伸びた黒髪が更に幼さを強調する。


 今年の春に高校を卒業して大学生になったばかりの乃杏は、先月この戦いに巻き込まれたばかりだった。

 戦闘経験の少なさもあるが、それよりもイザールの持つ固有武装を活かす為に一人だけ後方に残されている。

 

 イザールの固有武装「プリケリマ」

 自分以外の機体の全てのステータスを一段階強化する固有武装だ。


 強化対象の機体はイザールの創り出すエンブレムを装着する事によって、出力・スピード・装甲が恒久的に一段階強化される。

 全てのステータスをほぼリスクなしに強化するのは非常に強力だが、この固有武装が恐ろしいのは対象数に制限が無いことだ。

 理論的には全ての世界に存在する全てのステラ・アルマを強化する事も可能である。


 故にいま前進して行った味方の10体のステラ・アルマは全機体この固有武装の恩恵を受けている。

 

『乃杏がやられない限りはみんなが強化を受けられるからね。瀬良せら可憐かれんなんて、元々の強化と合わせたら2等星にも負けないくらいだよ』

「分かってるけど、みんなが命がけで戦ってるんだからせめてサポートだけでもしてあげたいよ」

『ダメ。下手に出て行ってやられでもしたら、それこそ皆の足をひっぱっちゃうよ?』


 乃杏の友達想いな性格を知っているイザールは、それ故に彼女が無鉄砲になる所も理解している。

 思いのままに突っ走らないようにある程度手綱を引いてあげるのが自分の役目だと考えていた。


「イザールのもう一個の固有武装を使えば遠くから援護射撃くらいできるでしょ?」

『シュトルーベも使う気? でもあれアニマを結構消費するし、プリケリマの消費量と合わせたらギリギリかもしれないよ』

「大丈夫だよ! また今夜も一緒に寝ればすぐに回復するって!」

『あーあ。アニマ供給の説明をするんじゃなかった。私の乃杏がすっかりいやらしい子になっちゃったよ』

「酷い! 私そんなにいやらしい女じゃないよ。イザールのことだって真剣に愛してるんだから」

『はいはい。乃杏は自称大人の女だもんね」

「また子供扱いしてる! 私の方が身長高いのに!」

『そういうところで張り合うのが子供っぽいんだよ』


 まだ知り合って間もないのにイザールは乃杏にベタ惚れだった。

 人一倍臆病で体も弱いのに、誰かの為なら頑張れる乃杏が可愛くて仕方がなかったのだ。


 戦いが終わった後はいつも倒した相手のことを考えて落ち込んでいる。

 それなのに戦って疲れた仲間を一生懸命励ましてあげている姿が好きだった。

 少しでもみんなの力になれるように、好きでもない戦いのことを必死に勉強する姿が好きだった。


 そんな乃杏の姿にイザールだけでなく、みんなが心を癒されていたのだ。


 ”ステラ・アルマには宇宙が選んだ自分と最も適合するステラ・カントルが一人だけいる”


 誰をステラ・カントルに選ぶのもそのステラ・アルマの自由だ。

 だけど、この星の数ほどいる人間の中に完璧に自分と適合する人間がたった一人だけ存在している。

 それはまさに宇宙から選ばれた運命の人と言えた。

 2等星以上のステラ・アルマは、その一人を感覚で探し出すことができるのだ。


 イザールの最適合者は乃杏だった。

 最初から神経シンクロが非常に高く、イザールは乃杏の思考に素早く反応する事ができた。

 そこから体を重ねるようになって、今ではほとんど同体と言ってもいい程に反応速度が早くなっていた。


 宇宙が選んだ相手と自分が本当に好きになれる相手が一致する確率はどれくらいなのだろう?

 計算するのは難しいけど、イザールと乃杏はそれが一致した二人だった。



「お願いイザール。せめてみんなが戦っているのが見える所まででいいから進みたいの」


 イザールは乃杏にこの声でお願いされると弱かった。

 固く意思を固めているつもりでも、ふと何でも許してしまいそうになる。

 惚れた弱みだった。


 今回の敵は2等星が2体に3等星が2体。

 頭数では完全にこちらが有利だし、固有武装による強化が効いていれば負けることは無いはずだ。

 その上、完全に人の視界から姿を消すことができるもう一つの固有武装「シュトルーベ」を纏えば、乃杏が攻撃されることもないだろう。


『じゃあ近づくだけだよ? 戦闘に参加するのはよっぽどみんなが危なくなってからね』

「やった! ありがとう。イザール大好き!」


 乃杏には敵わないなと思いながら、イザールは腰に巻いているマントを翻して頭から被った。

 すると周りの風景に溶け込むようにイザールの姿が消えていく。


 シュトルーベを纏って立ち止まっている限りは完全に姿を周囲に溶け込ませ隠密する事ができる。

 ただし動くと影だけが見えてしまうのが弱点だ。

 その影も、暗闇や建物が多い場所ではよっぽど目立たないので、この状態になったイザールを発見するのは非常に難しいだろう。


「それじゃあ石之腰乃杏いしのこしのあ、前進いたします!」


 乃杏が加わってからのチームは、安定して勝利できるようになってきた。

 乃杏の優しい性格が他のメンバーにも伝播してチーム内の空気も良くなっている。

 この戦いの後も、メンバーの一人の誕生日をみんなで祝う約束をしていた。


 だからだろうか。イザールは油断していた。

 自分達が命をかけた戦いに臨んでいることを。

 大切なパートナーの命を預かって戦っていることを。

 少しだけ忘れてしまったのかもしれない。


 

「ん? イザール、あれ何だろう?」

『!? 乃杏!! 避けてッ!!』



 イザールが気づいた時には、目の前に巨大なビームが迫っていた。






「反応消えました。命中したと思います」


 ファブリチウスの側面から砲身を冷やす蒸気が排出される。

 射撃対象とはお互いにほぼスタート地点から動いていないが、ファブリチウスの射程内だった。


「でも良かったんですか? 前はカウンター系の固有武装の可能性もあるから、見えない敵に長距離射撃は危ないって言ってませんでした?」

「あの時はこちらに長距離射撃タイプがいると事前に割れていたので控えました。今回の場合、それが敵にバレておりません。それでもなお後方に残ると言うことは、向こうも長距離射撃タイプであるか、もしくは支援タイプの可能性が高いです。いずれの場合もステラ・アルマの存在を感知できる犬飼さんに先制攻撃してもらうのが得策と考えました」


 視界の先には10人のステラ・アルマがこちらに向かっているのが見えた。

 敵が11人のチームなのは分かっていたので、1人が後方に控えていると判断した暁さんの指示でファブリチウスの長距離射撃を行ったのだ。

 それが功を成したようで、接敵して戦闘が始まる前に1人倒す事ができた。


「これで指揮系統が崩れれば良し。そうでなくてもこちらに長距離攻撃できる機体があると分かれば脅威と受け取っていただけるでしょう」


 暁さんの目論見がうまくいったのは、敵が一斉に動揺したような動きをしているのを見れば一目瞭然だった。

 攻撃されないように残してきた味方がいきなりやられたら無理もない。


「では相手が体勢を立て直す前にこちらから攻め入りましょう。五月さん!」

「あいよ。ツィー、行くよ!」


 暁さんと九曜さんが敵に向かって突進していく。

 敵はまだ動揺しているようで、二人が向かっても迎撃の構えすら見せなかった。


 私は隊列を崩す目的で敵の中央あたりに向かってファブリチウスを撃ち込んだ。

 砲撃をギリギリでかわした敵が散り散りに広がっていく。


 すでに敵の陣形はガタ崩れになっていた。





「ツィー、体の具合はどう?」

『悪くないぞ。いつも通りに戦える』

「オッケー! じゃあこの子達はこっちでやっちゃおうか!」


 五月は未明子の砲撃で隊列の崩れた敵に向かって駆け寄ると、接近に気づいた敵にアイヴァンを叩き込んだ。


 敵は五月の攻撃を回避しようとするが、攻撃が速すぎて間に合わず、やむなく持っていたアサルトライフルで斬撃を防いだ。

 しかしそんな物で受け切れるツィーの固有武装では無い。

 アサルトライフルはあっさり真っ二つに斬られてしまった。


 五月は武器を失って後ずさる敵に肉薄すると、今度は両足を斬りつけた。

 攻撃を避けられなかった敵は足に深手を負ってその場に転倒する。



 五月はその倒れた敵の真上に陣取ると、周りにいる敵に刀を向けて牽制した。


「悪いけどアンタには餌になってもらうね」


 この位置にいれば敵はうかつに攻撃できず、倒れた仲間を無理に助けに来ようものなら返り討ちにされる。


 周囲にいるのは3体。

 1体は両手に共通武器のショットガンを持っている。

 それを撃ってしまうと倒れている味方に直撃する可能性は大だ。

 この状態ではすでにこの1体は無力化されていると言っていい。


 その他の2体、薙刀のような長物を持った敵と、大きな槌を持った敵が一斉に攻撃をしかけてきた。


 五月はそれぞれの攻撃をすんでで避けると、体を回転させながら二つの刀を振り回す。

 くうを斬る鋭い音と共に剣閃が敵のすぐそばを通り抜けた。


 刀は命中しなかったが、それによって2体は五月の攻撃間合いの外まで後ずさった。



 敵は武器を構え直すと、2体でジリジリと五月を囲み始めた。

 この距離ならば安全と判断したのか、左右から同時に攻めてくるタイミングを見計らっているようだ。


 確かにその位置はアイヴァンの間合いの外。

 そしてナヴィの刀身発射では、命中させても仕留めきれない可能性もある。

 しかし五月には間合いの外を攻撃する方法があった。


「ツィー!!」


 その名と共に、ツィーの両手首のホルスターから銀色の糸が飛び出した。

 陽の光を浴びてキラキラと光る糸は、空中でスルスルと纏まって一塊ひとかたまりの太い糸になった。


 五月は持っていたアイヴァンとナビィを上空に放り投げ、両手から伸びる糸でそれぞれの刀を掴む。


 銀色の糸に括り付けられた二本の刀は、さながら空中に浮かんでいるようだった。

 ステラ・アルマと同じ名前のこの固有武装は五月の思った通りに動かすことができる。

 つまり剣を掴んだ糸は、同じ長さの腕と同様なのだ。


 空中に浮かぶ二本の刀は、糸に操られて敵の懐に飛び込んで行く。

 間合いの外だと思い込んでいた敵は、飛んでくる刀への反応が遅れて刀をかわす事ができなかった。


 薙刀を持った敵はアイヴァンの一閃により胸を袈裟斬りに、大槌を持った敵はナヴィによって武器を持っていた腕を斬り裂かれた。


 敵を攻撃した二つの刀はそのまま五月の元に戻ってくると、再び空中でその刃を敵に向ける。

 固有武装「ツィー」で刀を操作する限り、最早攻撃の間合いを読み切るのは容易ではない。



 共に深手を負った2体は、先程までの攻め気は消えて更に間合いを取った。

 後方に控えていたショットガンを持っている機体と合流して体勢を立て直す気だろう。


 それならそれで構わない。

 一つの場所に集まってくれるならむしろ好都合だと五月は考えた。


 大槌持ちは腕の深手で武器を振れないだろうし、接近したらショットガンも使えない。

 3体が固まったところで、敵が使える武器は薙刀だけだ。



 五月は糸を括り付けたまま、二本の刀を手元に戻した。


 改めてアイヴァンとナヴィを握ると、重心を落として足に力を溜める。

 3体が合流したのを見るや、地面を蹴りつけて敵のところに跳んだ。


 接近に反応した敵が薙刀で切り払う。


「遅い!」


 前回の戦いの大剣の切り払いに比べたら、まるで止まっているかのような速度だった。

 五月は切り払いの軌道のギリギリを飛び越すと、薙刀の敵に向かってアイヴァンを投げつける。


 手元から放たれた長刀は、薙刀の返しよりも早く敵の胸に突き刺さり、その胸を貫通した。


 次に五月は投げたアイヴァンから伸びる糸を高速でホルスターに巻き戻した。

 そうすることによって敵に深々と刺さったアイヴァンに体が引き寄せられる。

 糸を縮めることによる高速移動だ。


 そして一気に距離を詰めると、敵の体からアイヴァンを引き抜いた。


 五月は胸を貫かれた敵が倒れこんでくる影に隠れて、再びアイヴァンとナヴィを空中に放り投げた。

 刀を掴んだ糸を操作して、向こう側にいる2体に向けて刀を飛ばす。


 死角から突然飛んできた刀に反応が間に合わず、大槌の敵とショットガンを持った敵は、同じように刀に胸を貫かれた。


 五月はあえて3体とも胸のコアを攻撃した。

 下手に傷つくよりも、撤退して消滅におびえるよりも、この場で一瞬のうちに消滅した方が苦しみが少ないと思ったからだ。


 胸を貫かれた3体のステラ・アルマが同時に地面に倒れると、その体が光の粒になって消えていった。



 残った1体にトドメを刺そうと振り返ると、その向こうで未明子のファブリチウスの直撃を受けた敵が蒸発して消えていくのが見えた。


「こわぁ……相変わらず未明子ちゃんの砲撃はすっごい威力だね」


 でも、もしかしたらあれが一番痛みも恐怖もない優しい倒し方なのかもしれない。

 そんなことを考えながら、五月は倒れていた1体の胸にアイヴァンを突き刺した。





「犬飼さん! そのまま左の敵を撃ってください!」

「分かりました!」


 サダルメリクちゃんの特性によって自分の意思とは関係なくサダルメリクちゃんを狙ってしまう敵は、攻撃しては大盾で弾かれて吹き飛ばされ、立ち上がってはまた攻撃して吹き飛ばされてを繰り返していた。


 そうして疲れが出てきた機体を大きく吹き飛ばし、離れたところを私が狙い撃ちしていた。


 この戦い方で私が撃ち抜いたのはすでに3人。

 最初に長距離射撃で倒した1人と合わせて合計で4人の敵を倒していた。


 九曜さんの方が気になってそちらを見ると、瞬く間に3人を倒して、残った1人にトドメを刺しているところだった。


 これで合計8人倒した事になる。

 さっきまで11人もいた敵は、戦闘開始から数分で残り3人にまで減っていた。


 前回戦った相手が強すぎたせいか今回の敵には全く脅威を感じなかった。

 RPGゲームをやっていて、レベルアップすると今まで苦戦していた敵との戦いが楽勝になったりするけど、それと同じことが起きていた。

 もちろん残った3人がボスクラスで、ここから大苦戦するなんてこともありうるから最後の1人を倒すまで油断するつもりは無い。

 

 残った3人の敵がサダルメリクちゃんに飛びかかっていく。

 暁さんはそれを冷静に、確実に捌いていた。

 

 そろそろ1人がダウンしそうなので、私はファブリチウスを構えてその敵を狙う。


 

 その時だった。


 サダルメリクちゃんが戦っている向こう側に、何やら紫色のモヤが広がっていくのが見えた。

 モヤは段々と大きくなっていき、あっという間に10メートルを超えるほど広がった。


「なんかサダルメリクちゃんの向こうに変なモヤが見えない?」

『本当だね。何だろう?』


 ミラにも見えるなら私の目の錯覚では無さそうだ。


 明らかに自然の物ではないそれを警戒していると、ふいにそのモヤの中から手が出てきた。

 

 その手はモヤを掴むと、モヤの中から頭、さらに胴体、そして片足が出てきた。

 残った足がモヤから出て地面を踏んで、全身が出てきた時に初めてそれがステラ・アルマだと認識できた。

 

 突然何もない空間からステラ・アルマが現れたのだ。


 あのモヤ、もしかしてゲートなのか?

 ゲートの色がいつもと違うけどステラ・アルマが出てくるなんてそれ以外にありえない。


 あそこで戦っている3人以外にも未出撃の敵がいたと言うことだろうか?

 しかし敵は全部で11人のはずだ。

 戦闘中に数え間違えていた可能性もなくはないが、いま戦っている敵とは毛色が違う気がする。



 そのステラ・アルマは辺りを見回すと、ユラユラと暁さんの方に向かって歩き始めた。


 暁さんも接近に気づいたようで、戦闘を中断して謎のステラ・アルマから大きく距離を取った。

 同じく少し離れた所にいたツィーさんも気づいたのか、暁さんの方に向かって走り出した。



「何なんだあの機体? やたら嫌な感じがする……」


 ただ歩いているだけなのに、肌がピリピリするような、胸がゾワゾワするような得体の知れない気持ちの悪さが襲ってくる。


 

『……とうとう来た』

「えっ?」

『あの娘が現れた時からいつかやって来ると思ってた』

「ミラ? 知ってる人なの?」

『あのステラ・アルマの名は、フォーマルハウト』


 つい数日前に聞いたばかりのその名前に、私はこれ以上ない不吉な予感がした。


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