第46話 沈む月の迷い①
その連絡は授業中に届いた。
ミラが学校に戻ってきて数日、ようやく授業にも身が入るようになった私は、授業中に届いたラインの通知に少しだけ嫌な予感を覚えた。
授業中にスマホを出して没収されても困るので、授業が終わるまではその嫌な予感を噛み殺しながら過ごしたのだった。
授業が終わり、メッセージを確認する。
「急遽だが、明日戦闘が決まった」
ラインはセレーネさんからだった。
戦いに関する連絡だがそれ以上の詳細は何もない。
前回の戦いからまだそこまで日が経っていないのにもう次の戦いが決まってしまった。
しかもすぐ明日というのは珍しい。
今までは少なくとも三日くらい前には連絡が来ていたのに。
メッセージを確認してミラの方を見ると、ちょうどミラも私の方を振り返った。
同じくメッセージを見たのか私と同じように怪訝な顔をしている。
ともあれ決まってしまったものは仕方が無い。
あと二日待ってもらえれば夏休みに入るというのに困ったものだ。
ブーッ
するとまたラインの通知が届いた。
セレーネさんから詳細連絡が来たのかとラインを開いてみると、送り主は狭黒さんだった。
グループラインではなく個人ラインに連絡が来ている。
私は急ぎメッセージを確認した。
「今日、授業後に会えないかい?」
学校が終わると、ミラと一緒にバスに乗って駅に向かった。
狭黒さんとは駅から少し離れたところにあるカフェで待ち合わせをした。
学校が終わるような時間はどこの店も混んでいるのだが、その店はいつも比較的空いているからだ。
店内に入ると、奥の席にアルフィルクの姿が見えた。
さすが美人さん。あんなに奥にいるのにすぐに分かるくらい目立つ。
私とミラはアルフィルクを目印に席まで向かった。
「お待たせでーす」
「あら未明子。それにミラも、わざわざ来てくれてありがとう」
「ううん。それは全然いいんだけどさ。……狭黒さんはそこで何をしてるの?」
アルフィルクの座っている反対側の席を見ると、狭黒さんが机に顔を突っ伏していた。
そして机の上にはやたら大きなサイズのホットサンドとデザートが乗っている。
いずれも食べかけの状態だった。
「調子こいて頼みすぎて、食べられなくて苦しんでるのよ」
「な……なんでメニューの写真に対して実物がここまで大きいんだろうね……」
死にそうな狭黒さんが顔色悪くつぶやいた。
あー、やってしまったか。ここはデカ盛りで有名なお店なのだ。
特にフードメニューはそれを知らずに頼むと信じられないサイズの物が出てきて食べきれずに詰む。
狭黒さんは見事にその罠に引っかかった上に、さらにデカ盛りのデザートまで頼んでいて完全に逃げ場なし状態だった。
「ふ……二人とも、よければどうだい?」
狭黒さんは無理やり作った笑顔を浮かべながら手元のホットサンドを勧めてくる。
「だから止めておきなさいって言ったのに。二人とも、甘やかさなくていいわよ」
「でも死にそうになってるしかわいそうだよ。私は貰おうかな」
「夜明さん、私はこっちのデザートを頂いてもいいですか?」
「いいともいいとも。たんと食べておくれ。若者は頼りになるなぁ」
学校終わりはいつも腹ペコになっている私はともかく、少食なイメージのあるミラがデカ盛りデザートをペロッと食べきってしまったのにはちょっと驚いた。
もしかして私の恋人、甘い物は別腹星人だったのかな。
もうデカ盛りフードに殺されると諦めていた狭黒さんは、そのフードがあっという間に机の上から消えてしまった事にひとしきり驚くと、優雅にコーヒーを飲んでいた。
「いやあ助かった。これに懲りてカフェでフードを注文する時は慎重になるよ」
「あなた前にも似たようなことを言ってなかった?」
「そうだったかな? と言うことはこれらの経験は私の大脳皮質には蓄積されないのかもしれないねぇ」
「次に同じ事したら食べきるまで絶対に帰さないからね」
「ごめんなさい」
いつもの夫婦漫才を見せられミラと苦笑いを浮かべていると、狭黒さんが少し真面目な顔つきに変わった。
アルフィルクもその空気を感じたのか、緊張した面持ちに変わる。
わざわざ戦闘の前日に呼び出されたからには何か重要な話があるに違いない。
「まずは突然の招集に応えてくれてありがとう。セレーネさんからの連絡は確認したかい?」
「はい。今回はいつもに比べてずいぶん急なスケジュールですね」
「そうだね。相手からの連絡が入ったのも一昨日らしい」
いつもの流れだと、まずはセレーネさんから戦闘に参加できる候補日を聞かれるところから始まる。
その候補日を全員分集めてから相手と戦闘日の擦り合わせを行うらしい。
今回は候補日を聞かれるどころか、いきなり明日という指定が入るくらいの突発的な戦闘みたいだ。
「幸い五月くんもすばるくんも夕方からなら無理なく集まれるらしいが、さすがに急すぎて困ってしまうね」
「セレーネさんはそれに関して何か言っていましたか?」
「すまん、としか言ってなかったよ」
リーダーの狭黒さんにも詳しい説明が無いのか。
今回は随分とイレギュラーなケースみたいだ。
もしこんな風に集められて、どうしても抜けられない予定があったらどうするんだろう?
世界の消滅と比べればどんな予定だって軽いと言われればそれまでかもしれないけど、その予定を潰されたことによって今後生き辛くなるなら考え物だ。
「おお、来たね! こっちだよ!」
私がそんなことを考えていると、狭黒さんが入口の方に向かって手を振る。
他にも誰か呼んだのかと思って振り返ると制服を着た暁さんの姿が見えた。
暁さんの制服姿は初めて会った時以来だ。
私達の学校の地味なセーラーとは違う、オシャレなブレザーの夏服を着ている。
やっぱりブレザーはいいな。
私は中学もセーラーだったからブレザーの制服も着たかった。
「遅くなりました」
「いやいや、ここまで来てくれてありがとう」
「暁さんも呼び出されたんですか?」
「いえ、わたくしもと言うより全員に声をかけられたみたいですよ」
「うん。五月くんにも声をかけたんだがツィーくん共々、今日は都合が悪いらしい」
全員を呼び出すならグループラインを使えば良かったのに、何でわざわざ個別ラインでそれぞれに連絡したのだろうか?
私はてっきり他のみんなには聞かれたくない話があるのかと思っていた。
「あ、サダルメリクは父の手伝いがあって本社の方に行っているので今日は来られません」
「うわー。サダルメリクちゃんやっぱり普通に働いてるんですね」
「働いていると言っても出来上がった物に対して感想を言っているだけですけどね」
漫画やおもちゃだらけの部屋で、お菓子とジュースを飲みながらゲームに対して文句を言っているサダルメリクちゃんを想像する。
うーん、絶対そんなポジションではないんだろうけど容易にその光景が想像できてしまうな。
「それで夜明さん。お話とは如何な内容でしょうか?」
暁さんもこのタイミングでの呼び出しに深い意味があると思ったのか神妙な顔で質問した。
私とミラも狭黒さんに注目した。
「実は今回の戦い、私とアルフィルクは外させてもらおうと思っているんだ」
「外させてもらう? 今回は戦わないって事ですか?」
「そうだ。今回のみならず、今後も参加できない事があるかもしれない」
何の冗談なのかと思ったが、隣に座っているアルフィルクの顔を見る限り何かを企んでいるとかではなさそうだ。
「理由を聞かせて頂いても?」
「……実はみんなに話していなかったが、私はある病気にかかっているんだ」
私は一瞬耳を疑った。
……狭黒さんが病気?
こんなに元気で、いつも飄々としている人が、病気?
「SLE。分かりやすい呼び名で言うなら自己免疫疾患と言ってね。体内の免疫異常によって臓器の機能不全が起きてしまう病気なんだ」
SLE? 自己免疫疾患?
普段の生活の中で聞きなれない名前の病気だった。
病気については全く詳しくない。ただ、私が想像しているよりも重い病気だと言うのが狭黒さんの表情から理解できた。
ふいに、狭黒さんについて今まで気になっていた事がいくつか頭に浮かんだ。
美人さんなのにいつも目の下に濃いクマがある。
夜はあまり寝られていない。
普段から引きこもりであまり外に出ない。
家ではダラダラしていてアルフィルクが生活の面倒を見ている。
もしかして狭黒さんが怠惰に暮らしてるのは、私が考えていたような理由ではなくて、病気で人よりも体が弱いからなんじゃないだろうか。
よくよく考えたら、あのアルフィルクがだらしのない人間を放っておく筈がない。
恋人だから甘やかしてるのかと思っていたけど、そうではなくて本来だったら普通に生活するのも難しい人を、文字通りそばで支え続けていたんじゃないだろうか。
羨ましく見えていた二人の熟年夫婦のような生活が、その実、全く意味の違う物だったことに気付いて、なんて浅はかだったんだろうと恥ずかしくなった。
「そんなに驚かないでくれたまえ。確かに厄介な病気ではあるがまだ軽度のものですぐに動けなくなったりするものではないんだ」
すぐに、という言葉がチクリと刺さった。
私の顔色が悪くなったのを察した狭黒さんがフォローを入れる。
「それにこの病気も今は治療薬があってしっかり治る病気だからね。そんなに深刻になるような病気ではないよ。こうやってカフェに出てきてバカ食いするくらいには元気さ」
「でも病気であることに変わりはないんですよね?」
「そうだよ。だから休める時には休ませてもらおうと思っているんだ。無理をしないのが病気との付き合いの基本だからね」
そう言われても狭黒さんが無理を言っているようにしか思えなかった。
病気の人はすぐに自分は大丈夫だと言い出す。
だからどうしても心配してしまう。
アルフィルクは何も言わず、ただ姿勢を正してまっすぐ私達を見ている。
隣を見ると、ミラもしっかりした顔付きで狭黒さんを見据えていた。
暁さんは目をつぶって何かを考えているようだったけど、すぐに狭黒さんに向き直った。
「承知しました。では今回は夜明さんは不参加という事でよろしいですね?」
「すまないね」
まぶしいくらいに真っ直ぐとした対応だ。
この中で私だけが、まだ受け入れられないでいた。
重たい事実をすぐに悪い方に考えてしまうのは悪い癖だというのは分かっている。
だけど悪い想像があっという間に現実に変わる事もよく分かっていた。
私は大切な人が病気だと聞かされてすぐに納得できるほど頭が柔軟ではなかったのだ。
「犬飼さん。しっかりしてください。夜明さんが不参加で、私達が呼び出されたのならば決めなければいけない事があります」
暁さんが私の方を向いて強い口調で言った。
優しさと厳しさを含んだ、暁さんらしい声のかけ方だった。
「流石すばるくん。私の考えも伝わっているみたいだね」
「ど、どういう事ですか?」
「夜明さんはチームリーダーで戦闘における作戦参謀です。そのポジションの人が抜けるという事は、その代わりを務める者が必要になります」
「まさか、私と暁さんのどちらかがそれをやるって事ですか?」
「ご名答。ちなみに五月くんは向いてないって辞退しているよ」
狭黒さんがニヤニヤしながら私達を指差した。
そういうことか!
だから個別に連絡を送ってきたんだ。
もしこれをグループラインでやっていたら、五月さんが辞退したのを見て、流れで私も辞退していた。
そうならないように直接呼び出したんだ。
「冷静な判断力と戦闘経験豊富なすばるくんか、奇跡を起こすルーキー未明子くんか、私はどちらがリーダーでも面白いと思っている」
その言葉は私に重くのしかかった。
リーダーというのは常に変化していく戦況を把握し、的確な指示を飛ばさなくてはいけない。
しかも私達がやっているのは命のかかった戦いだ。
負けることはすなわち死ぬことを意味している。コンティニューなどは一切無い。
一度の判断ミスが自分だけならず他のメンバーの命まで奪う可能性だってあるのだ。
そんな大事なポジションを私なんかが務められる訳が無い。
「私は暁さんがいいと思います!」
「不肖ながらわたくしもその方が良いと思っております」
何と!? ここで暁さんと息が合ってしまった。
「ほう。それぞれの主張を聞こうか?」
「え……あの、私は戦闘中は自分のことばっかりで、知らないことも多くて、誰かに指示をしたりするのは凄い向いてないと言うか……ですね」
「すばるくんはどうだい?」
「はい。わたくしでしたら戦闘タイプ的にも戦況を把握しやすく、有事の際は最悪自分だけは守りきる事ができるので途中で司令塔を失う事がありません。それに対して犬飼さんは確実に敵を討つ事だけに専念して頂いた方がパフォーマンスを発揮できるタイプで、状況把握や行動指示にリソースを割くのは勿体ないと考えます」
暁さんの理路整然とした話しぶりに、自分の小学生みたいな主張が恥ずかしくなって、私は顔を真っ赤にして机に突っ伏した。
アルフィルクの方から「フッ」と息が漏れる音が聞こえて更に恥ずかしくなったのに、追い打ちのようにミラからも「ふふっ」という笑い声が聞こえてきたので、私はたまらず机からずり落ちてミラの膝の上に倒れこんだ。
「私も指揮はすばるさんにお任せした方が動きやすいと思います」
ミラが私の頭をよしよしと撫でながら言う。
「ふむ。では、今回のリーダーはすばるくんに任せるとしよう。申し訳ないがよろしく頼む」
「尽力いたします」
まだ恥ずかしくて机の下から顔を出せない私は、その決定をミラの膝の上で拍手して賛成した。
狭黒さんから暁さんへの簡単な引き継ぎが終わり、今日は解散となった。
帰り道で暁さんが「差し出がましい事を申しましたが、わたくしなりの犬飼さんへの評価と受け取って頂ければ幸いです」と言ってくれた。
私はむしろ暁さんがリーダーを引き受けてくれて助かった身だし、お礼を伝えておいた。
「やっぱりああいう場面で気を遣える人が好かれるのかな」
「自分の意見はしっかり通して、相手へのフォローも欠かさないのは大人の対応だね」
カフェからの帰り道、ミラとそんな話をしながら歩く。
「あ、SLEってどんな病気か調べてみよう」
「SLEは全身性エリテマトーデスって病気のことだよ。夜明さんが言っていた通り、自分の細胞を攻撃する抗体ができちゃうせいで全身の臓器に炎症や障害が起こるの」
「凄い詳しいじゃん! もしかして狭黒さんの病気のこと知ってたの?」
「……うん。前にアルフィルクに相談されたの」
「そうだったんだ」
ミラは知っていたんだ。
知っていた上で狭黒さんやアルフィルクと今までの付き合い方をしていたんだから、私も気にせず同じように付き合うべきなんだろうか?
「未明子、夜明さんが病気だからって気を遣おうとしてるでしよ?」
「う……考えてることバレバレだったか」
「病気との戦いは本人が一番理解してるから、今回みたいにダメな時はダメって言ってくれるだろうし、気にしないで今まで通りに付き合った方が夜明さんも嬉しいと思うよ? そういう風に受け止めてくれるって信じたから話してくれたんだろうし」
「そうだよね……。私だっていきなり接し方を変えられたら悲しいもんな」
狭黒さんは今までどんな気持ちで戦ってきたんだろう。
私達がしている戦いはゲームとは違って実際に怪我をしたり生傷が絶えない。体にとって絶対に良くは無い筈だ。
現に前回の戦いで狭黒さんも敵の攻撃を受けて負傷している。
そんな中で自分の病気と戦いながら敵との戦いも続けた狭黒さんは、私が思っているよりずっと立派な人なのかもしれない。
「未明子は病気とかしないでね」
私に届くか届かないかの小さな声でミラがつぶやいた。
だけどこればっかりは分からない。
今は売るほど元気の有り余っている私でも、明日突然何かの病に侵される可能性はゼロではないからだ。
神様が決めた犬飼未明子の運命の中にそれが無い事を祈るしかない。
でも私はあえてこう返事した。
「うん。私は体が丈夫だから心配いらないよ!」
どれだけ気休めになったか分からない。
だけどミラは少し寂しそうな笑顔で返してくれた。
次の日、オーパ秘密基地には全員が揃っていた。
狭黒さんとアルフィルクもいたのには驚いてしまった。
てっきり二人は来ないものだと思っていたからだ。
「体のことを考えて戦闘は控えさせてもらうが何か役に立つかもしれないからね。それに万が一みんなが撤退させられるような事態になったら出撃するよ。世界が消滅してしまっては体調も何もないからね」
ルール上は最初から全員が出撃している必要はないらしい。
お互いに敵の数は共有されるので、戦闘領域に数が揃っていなければ未出撃ということだ。
ただ、どの世界もあえて戦力を温存するほどステラ・アルマがいる訳ではないのでそれが有利に働くことはあまりないようだ。
もし未出撃の敵がいたら今回の狭黒さんのように理由があって出撃していないと考えた方がいいだろう。
私は、例え戦闘領域に狭黒さんの姿がなかったとしても後ろで見守っていてくれるだけで随分と気持ちが違った。
何なら狭黒さんとアルフィルクも守らなきゃという気持ちも相まっていつも以上に気合が入っていた。
この犬飼未明子、このコンチェルターレにおいて精神的な遅れなど微塵もない。
前回瀕死の重傷を負っていたツィーさんはすでに完治したみいで、いつものように眠たそうな顔をしていた。
むしろ九曜さんの方が前回の怪我が治りきっていないのか腕に絆創膏をつけている。
「九曜さん、怪我は大丈夫ですか?」
「全然問題ないよ! ちよっと傷が残ってるだけで体調も良いからね。未明子ちゃんとミラちゃんも、もう大丈夫っぽいね」
「はい。私もミラも怪我は全然大丈夫です!」
「聞いたよー? 何か未明子ちゃんのアニマがスッゴイらしいね」
キッと狭黒さんを睨むと、目を逸らして口笛を吹いている。
そんなのわざわざ言わなくて良いのに!
「何で未明子ちゃんだけそんなにアニマの数値が高いんだろね?」
「あれだろ。ワンコはむっつりスケベだから色々濃いんだろ」
「失礼な! むっつりでもスケベでも無いです!」
「ほーう? お前この前の戦いの後、ほぼ全裸になった私をじっと見てたらしいじゃないか」
「そりゃ心配で見てたんですよ! ツィーさんが死ぬかもしれないのに目を逸らせないでしょ!」
「馬鹿者。あんなもので私が死ぬか」
「ああーその態度! 私が助けてあげたの忘れたんですか?」
「そのあと私が助けたんだから貸し借りなしだろ」
「ぐぬぬ……。服を脱いだらあんなに良い体してるのに、何でこんなに性格は捻くれてるんだ」
「お前やっぱりスケベだろ!!」
あの時は本当に心配したのに、何か損した気分だ。
今度同じような事になったら今度こそじっくり体を観察してやろう。
「未明子、そんなにツィーの裸を見てたんだ?」
「ひっ」
「それだけじゃないぞミラ。こいつはその後サダルメリクの裸も見てたらしい」
「それは! どこの! 誰情報だぁッ!?」
吠えたところで恋人からの罰から逃れられる訳はなく、私はミラにほっぺをつねられた。
うーん。ミラの指が柔らかくて気持ち良い。
「セレーネさん、今回戦う相手の内訳を教えて頂けますか?」
新リーダーとして暁さんが戦力分析を始めた。
何とも凛々しい姿である。引っ張られすぎて大福ほっぺになっている私とは大違いだ。
昨日から暁さんとの差が激しすぎて泣く。
「うむ。今回の敵は2等星が1体。この反応は、うしかい座のイザールだな」
「3等星以下は?」
「3等星が10体。合計で11体いるな」
11体。
狭黒さんが戦えなくてただでさえ頭数が少ないのに、敵はこちらの4倍近くの戦力だ。
今までだったら震えていたかもしれない。
でも不思議と、全然何とかなる気がした。
暁さんを見ると思った通り微塵も動揺していない。
サダルメリクちゃんはいつも通りにお菓子を食べているし、九曜さんなんてツィーさんと何体倒せるかみたいな話で盛り上がっている。
もちろん、私のパートナーであるミラも余裕の表情をしていた。
こんなに頼もしい仲間がいれば、怖い物なんてあるもんか。
「いっちょやったりますか!」
私はフンと鼻を鳴らすと、みんなの顔を見回してニヤリと笑った。




