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第45話 夕まぐれにあたたかい風は小さな微笑み⑤


 岩屋から戻ってきた私達は、途中にあるカフェに立ち寄って少し休む事にした。

 民家のようなお店が続く中にお洒落な建物のカフェが混ざっているのは少し不思議な感じがする。

 これが今の江の島なんだろうな。

 

 お店の窓から外を覗くと、陽の暮れ始めた海が茜がかってきていた。


 ミラと他愛もない話をしながらも、さっきの訪問者のことがずっと頭をちらついていた。

 どうしてあんな場所で話しかけてきたのだろう。

 二人きりになりたかったと言っていたし、他の誰かに見られたくなかったんだろうか。


 確かにミラと付き合い始めてから私が一人になる瞬間というのはあまり無い。

 でもそれだったらミラが秘密基地で療養している間に来れば良かったのに。

 あの数日間だったら私は学校と家を死んだように行き来してるだけだったし、チャンスはいくらでもあった筈なのに。

 

 色んな考えが頭をよぎるが正解には辿り着けない。

 そもそも何も考えていないタイプの相手なのかもしれない。

 そんな相手の事よりも今はミラとの時間を大切にしなきゃ。


「未明子、もしかして疲れちゃった?」

「ううん全然。私、疲れた顔してた?」

「なんか心ここにあらずな感じだったから……」

「うーん、ミラと海の親和性について考えてた。波打ち際に立つ美少女が絵になるなあって」

「波に攫われたのは未明子の方だったけどね」


 実は岩屋からこのカフェに来る途中、海岸に降りられる場所を見つけて少し降りてみたのだった。

 波が届くギリギリの所で写真でも撮ろうと思っていたら、潮の影響で波が思ったより強くなっていて、私の足は思いっきり波に飲まれたのだ。


「ミラの靴が守れただけでも十分だよ」

「未明子が私をどかしてくれなかったら二人して靴がグショグショだったもんね」

「そろそろ私の靴も乾いたし、シーキャンドルの方に行ってみる?」


 江の島シーキャンドルは島を象徴する展望灯台だ。

 遠くから江の島を見ると島から出っ張っている建物がシーキャンドルで、上部には展望フロアがある。

 おそらく江の島で一番眺めのいい場所だと思われるその場所で、私はミラに渡したい物があった。


「え? そうだね……。あ! その前に、少し歩いた所に龍恋りゅうれんの鐘って場所があるからそこを見に行かない?」


 およよ? ミラにしては珍しく提案をスルーされた気がするぞ?

 何かよそよそしいし、シーキャンドルには行きたくないのかな。

 もしかしたら高い所が苦手なのかもしれない。


 別にどうしてもシーキャンドルに登りたい訳ではない。今から行く所が良い雰囲気の所だったら、渡したい物はそこで渡せばいいか。

 

「オッケー。行き方わかる?」

「うん。私が案内するね」


 そう言うとミラはいつもの笑顔に戻った。

 少し気にはなったが、大事な内容だったらミラの方から話してくれるだろうと忘れることにした。


 カフェを出て目的の場所に向かう。

 さっきまで歩いていた参道から少しはずれて、山の中に続く階段を登っていく。

 このあたりは木々が茂っているので余計に暗い。


 2〜3分ほど歩くと「龍恋りゅうれんの鐘」と書かれた看板が立っていた。

 そのすぐ奥に、段差のある開けた場所が見える。


「わぁ。フェンスにすごいたくさん鍵がかかってる」

「ここにお互いの名前を書いた鍵をつけるとその二人は固く結ばれるらしいよ」

「いくつか南京錠を置いてるお店があったのはそういう事だったのか」

 

 ここに来るまでに入ったお店で、お土産物に混ざって南京錠を売っていた謎が解けた。

 ここで使うためのアイテムだったんだ。

 お店で事前に買った使い方の分からないアイテムが意外な場所で役に立つのはRPGあるあるだ。

 もっとも今回の場合は、ここで使う事を目的に買うんだろうけど。


 しかし集合体恐怖症と言う程ではないものの、ここまで節操無しに鍵がかかっているのを見ると少し怖くなってしまう。

 一つ、二つだったらロマンチックに思えても、こんなフェンスから生えているみたいにかかっていると異様な雰囲気だ。



「ここに登ると海が見えるみたい」


 ミラに呼ばれて数段の階段を登る。

 そこには透明の板で囲われた鐘が設置されていて、その場所からは相模湾を眺めることができた。 

 鍵の数にはギョッとするけどここからの眺めは悪くない。


「このあたりは恋人の丘って名前がついてるんだって」


 森の中で海が見渡せる高台と、人気ひとけの無さ。確かに恋人と来るなら盛り上がりそうな場所だ。さっきまで賑やかだった場所から突然静かな場所に来ると自然と寄り添いたくなるから良くできたものである。


「せっかくだからこの鐘を鳴らしてみる?」

「これどういう意味があるんだろうね」

「そこに鳴らすものがあったら鳴らさずにいられないのが人の性。ミラはそっちを持ってもらって、一緒に……せーの!」


 二人で鐘の下から出ている紐を揺らす。

 紐に揺られて鐘が鳴るが、振り方が甘かったのか中途半端な音しか出なかった。


「へ、下手くそすぎる!」


 あまりに間抜けな鐘の音に二人して笑ってしまった。


 鈍い鐘の音が空に吸い込まれていくと、再び静寂が戻った。

 海の音も山の中にいる動物の声も聞こえない。

 隣にいるミラの息遣いだけが、耳に響いた。


 ミラはじっと海の方を見ていた。

 その目は映っている風景を見ていると言うよりも、何か遠い日の記憶を辿っているようにも見える。

 さっきも何かを考えていたみたいだし、海に特別な感情があるんだろうか。


「海に思い入れがあるの?」

「……そういう訳じゃないけど、これから未明子と色んな所に行けるんだなと思ったら嬉しくて」

「そっか。色々行こうよ。ここじゃない海とか山とかさ。あ、そうだ。今度近くでお祭りやるみたいだし、一緒に行かない?」

「行きたい! 未明子、浴衣持ってる? 無かったら私の貸すよ?」

「それ、昨日私も同じこと考えてた!」


 ミラと目を見合わせて、再び笑う。

 楽しいな。こんな日がこれからもずっと続けばいいのに。

 私はミラと出会ってからの毎日が本当に楽しかった。

 戦いは起こってしまうけど、それでもミラと一緒にいられるのは幸せだ。 



「あのね、ミラに渡したい物があるんだ」

「渡したい物?」

「うん。ミラは私に小物とかくれるけど、よく考えたら私の方からミラに何かをあげた事なかったなって思って」

 

 私はカバンの中にしまっておいた包みを取り出すと、それを包みのままミラに渡した。

 彼女はキョトンとした顔でその包みを眺める。

 

「いま開けていい?」

「うん。誰かにプレゼントを渡すなんて初めてだから、つまらない物だったらごめんね」

「未明子がくれた物なら何だってつまらなくなんかないよ」


 ミラが包みを丁寧に開いていく。

 包みの中から小さな茶色の箱が出てくると、ミラはその小箱をそっと開いた。


「腕時計?」


 箱の中には小さな腕時計が入っている。

 シックなデザインの大人っぽい腕時計だ。

 文字盤にほのかにピンク色が入っていて、あまり主張はしないが、繊細な可愛さを感じさせる。


「本当はね! ネックレスとかあげたかったんだけど、アクセサリーはセンスの無い奴が一番選んじゃいけないアイテムだって聞いてさ! 腕時計なら子供っぽいデザインにならなかったら使ってもらえるかなって思って! でもミラに似合うようにちょっと可愛いの選んだんだよ!」


 つい早口で捲し立てるように解説を入れてしまう。

 はっきり言ってプレゼントに自信は無い。

 でもミラが付けているのを想像して、一番似合うと思う物を選んだ。

 色んなお店を回って、分からないから店員さんに何度も相談して、ようやくこの時計に決めたのだった。

 

 ミラの反応を見ると、特に何を言うでもなくその腕時計をじっと見つめていた。

 

 やばッ! もしかして失敗した!?

 やっぱりもっと可愛い方に寄るか、いっその事ハイブランドの物にすべきだったかな。

 そもそも腕時計チョイスが悪かったかもしれない。

 無難にぬいぐるみとかにしておけば良かったか!?

 でも予算の中で選べる物の中では一番いいと思ったんだけどな。


「腕時計を、くれるんだね……」

「えっ?」


 そう言うとミラは何故かポロポロと泣き出してしまった。 


「わー!! ごごごごごめん! やっぱりセンス無かった! もっと違う物をあげれば良かった!」


 まさか泣かせてしまうなんて思ってもいなかった。

 いつも貰ってばかりだし、少しだけでも何か形になる物をあげられればなんて思った私の失態だ。

 ちゃんと欲しい物を聞いてそれをプレゼントすれば良かった。

 

 私が慌てていると、ミラが私の服を掴む。


「ううん、違うの。嬉しくて」

「え、本当に!?」

「ありがとう。こんな素敵なプレゼントをもらえるなんて、幸せすぎて消えちゃいそう」

「消えないでね!?」


 ミラは涙を拭うと、箱から腕時計を取り出して左手にはめてくれた。

 じっと文字盤を見ていたが、やがて愛おしそうに腕時計を頬にあてる。


「大事にするね」

「うん」


 どうやら気に入ってもらえたみたいだ。

 もし女の子と付き合えたら最初にネックレスをプレゼントしようなんてずっと考えていたから、土壇場で腕時計に変えて良かった。

 でもアクセサリーはアクセサリーでいずれプレゼントしたいからそっちも勉強しておかなきゃ。



「結構暗くなってきちゃったね」


 周りを見ると、陽が落ちてしまったせいで薄暗くなっていた。

 ここは山の中で外灯もないから道が見えている内に参道の方に戻った方が良さそうだ。


 私はミラと手を繋ぐと、さっき歩いて来た道を戻ろうとした。


「あ、あの、未明子! あの、その……」


 ミラが繋いだ手を握り返してその場に立ち止まる。


 何か言いたいことがあるみたいだ。

 私を見ないように顔を伏せて、大きく呼吸をしている。

 ミラが私に何かお願いしたい時によく見せる行動だけど、いつもに増して緊張しているように見えた。


「ミラ?」

「み、未明子に聞いて欲しい事があって……」


 聞いて欲しい事。

 ミラがそんな気を張り詰めてまで私に伝えたい事ってなんだろう?

 何でも気軽に言ってくれていいのに。


「あのね。私ね、未明子の……未明子と……」


 言おう言おうと頑張っているのが分かる。

 そんなに言いづらい事なんだろうか。

 何かだんだん不安になってきた。

 

 ミラが私に言いづらいのって、おそらく私が嫌がるような事だと思うんだけど、いまさら私が嫌がるような事なんて思いつかなかった。

 そんなに言いにくいならミラが言わんとしている事を察してあげて、こちらから話を振ってあげたい。

 

 頭の中のニューロンを総動員して心当たりを探す。

 今こそミラの思考を読むんだ未明子。


 むむむ。

 ふぐぐ。


 ……そして一つの答えを導き出した。

 

 ミラが言い出しにくい事なんて、あれしか思い当たらない。



「もしかしてステラ・アルマのコアの事?」


 この前の戦いの後で聞いたステラ・アルマのコアの話。

 アルフィルクは狭黒さんにずっと言いたかったけど言えなかったみたいだし、ミラもそれを私に伝えようとしているんだと思った。


「……え?」


 それを聞いたミラは、暗い中でも分かるくらいに一気に表情が青冷めた。

 繋いだ手からふっと力が抜けて、体も引き気味になる。

 

 やっぱりこの話はステラ・アルマにとってはとてもデリケートな話なんだ。

 ならばなおさら私はそんなの気にしていないと伝えなくてはいけない。


「その話……誰から……聞いたの?」

「前回の戦いの後でサダルメリクちゃんが教えてくれたんだ」

「サダルメリクが……そう……話しちゃったんだね」


 ミラはさっきまでの熱の入った表情から、今度は一切の熱が奪われたような表情になっていた。

 肩を落として、両腕で自分の体を抱きしめるように隠す。


「……そんな訳の分からない物体が本体なんて気持ち悪いでしょ……?」


 ええ……。

 嘘だろ? ステラ・アルマってみんな自分のコアについてそういう認識なの? 

 ミラに限らず、アルフィルクだってサダルメリクちゃんだってツィーさんだって気持ち悪いなんて思う訳がない。


「気持ち悪くなんてないよ」

「未明子はこの体の私を好きになってくれたのに、本体はこの体の中に別にあるのよ?」 


 その言葉は、まさかの私の地雷を踏み抜いた。


 ミラが言うことに苛立ちを感じる時がくるとは思わなかった。

 私の心はザワついて、どうしても言わずにはいられなかった。

 

 私はミラの方に近寄ると、両腕でミラの肩を掴んだ。

 優しく抱きかかえようと思ったのに思わず力が入ってしまう。

 そしてグイと自分の方に引き寄せた。


「ミラ。そんな言い方は私が許さないよ。まるで自分が汚れた存在のように言わないで」

「でも私は人間じゃないんだよ? 私の本体はこの胸の中にある星。この体はその星が動かしているだけの人形ひとがたにすぎないんだよ」

「それでもミラはミラでしょ? 正体がなんだろうと別に構わない。体がどうとか関係ない。いま私の目の前で悲しい顔をしているのが私の大好きなミラだよ。それ以外に大事なことは無い」

「でも未明子だっていつか嫌になるよ。普通の人間の女の子の方がいいって思う時が来るよ!」

「そんな時は永遠に来ない。私が好きなのはこの先もずっとミラだけだよ」

「でも……」

「でも、でも、でも? 次は何を言って自分を貶めたい? 何でも言ってごらんよ。全部私が否定してあげる。ミラが自分を否定すればするほど、私がそれ以上に強くミラを肯定するから」

「そ、そんな……」

「ミラ、ちょっと私を舐めてない? 私がどれだけミラのことを好きだと思ってるの? 私がどれだけミラのことを見続けたと思ってるの? 私がいまどれだけ幸せな時間を過ごしてると思ってるの? それが伝わっていないようだったら、ミラが嫌っているそのコアの中心まで全部私が侵略しようか?」


 自分でも言いすぎだと思うけど止められない。

 私の好きなミラを否定するのは、たとえミラ本人だとしても許せなかった。

 ミラにとっては隠しておきたい重大な事なのかもしれないけど、それを知った上で私にとっては取るに足らない事だと言い切れてしまう。


「私はミラの本体が何だろうと関係ない。例えミラがそれをどう思っていても、私にとってはミラへの気持ちを変える理由にはならない」


 私はミラの右手を自分の方に引き寄せると、その細い手首に軽く噛り付いた。


 少し赤くなった彼女の右手を自分の頬にあてる。 


「絶対に逃がさないから」




 そう言い切ったところで、ハッと冷静になった。

 

 私は何をしているんだ!?

 ミラが自分のことを気持ち悪いとか言い出すからそれを否定しようと思っただけなのに。

 いつの間にか自分の心の底を吐き出していた。

 これじゃあ私の方が気持ち悪すぎる。


 あかん。どうして私はいつも変なタイミングで変なスイッチが入ってしまうんだ。

 ミラを怯えさせてしまったかもしれない。


 何か言われる前に謝ろうと思っていると、


「ぱ……ぱふゅう……」


 謎の言葉とともに、ミラはその場にへたりこんでしまった。


「わー! ごめんミラ! 私また変なことを言ったかもしれない!」 


 へたりこんでしまったミラを抱きかかえようとすると、ミラが私の手を強く握り返してきた。


「も、もう一回。いまのセリフもう一回言って?」

「へぇ?」

「もう一回私の手首をかじって? それでもう一回いまのセリフを、いまのセリフを聞かせて?」


 ミラは顔を真っ赤にしながら、ぐるぐるした目で私に詰め寄ってきた。


「ど、どうしたのミラ? 何かおかしくなってるよ!?」

「おかしいのは未明子だよ! そんなに私の心を弄んでどうする気なの?」

「も、弄ぶ!? そんなつもりないよ。私はミラに真剣に気持ちを伝えたかっただけで」

「女の子にあんなことを言ったらどうなるかぐらい分かるよね?」

「分からないよ!」


 ミラは掴んだ私の手を、そのまま自分の頬にあてて頬ずりを始めた。

 謎の甘えモードに入っている。


「はー〜〜。やっぱり未明子は狼みたいになる瞬間があってカッコイイなぁ。心臓のドキドキが止まらないよぉ」

「大丈夫? 顔真っ赤だよ? ちょっとそこの椅子に座って休む?」

「今日もキスできなくて残念。もしキスできたらこのまま押し倒して全身にキスしてたのに」

「なんか私のミラが過激なことを言い出した」

「それくらいドキドキさせられたんだよ。あーあ、まさかあんなに未明子に好かれてるなんて」


 良かった。

 なんか変なテンションになってるけど肝心なところはちゃんと伝わったみたいだ。


「ありがとう。やっぱり私、未明子のこと大好き」

「私もミラのこと大好きだよ」

「これからも一緒にいてね」

「こちらこそ」


 ミラは上機嫌で私と手を繋ぐと、今度は私を引っ張るように歩き出した。



「ところでシーキャンドルには行ってみる?」

「んー。クリスマスシーズンになるとイルミネーションが始まるから、その時に行こっか」

「ミラ詳しいね!?」


 渡したい物は渡せたし、シーキャンドルに特にこだわる必要もない。

 それにさりげなく冬になったらまた遊びに来る約束もできてしまった。

 

「それよりも、今日もちょっとだけ私の家に寄って行かない?」

「キスするのはダメだからね」

「あらやーだ未明子、何えっちなこと考えてるの?」

「えっちなことは考えてないよ。ミラの体のことを考えてるの!」

「私の体のこと? やっぱりえっちなことじゃん」

「ど、どうしちゃったのミラさん……」

「仕方ないなぁ。帰ったら好きなだけ私の体を見せてあげるね」

「こらこらこらこら。生殺しになるからダメだよ。それよりも私はミラのコアを見てみたいな」

「駄目! 絶対駄目! 恥ずかしい!」

「裸は見せてもいいのにそこは恥ずかしがるんだ」

「って言うか見せる方法ないし!! ダメー!!」

「ミラがかわいい抵抗をしている。じゃあ帰ったら浴衣姿を見せてよ」

「それならお安い御用だよ。未明子にも着せてあげるね」

「ミラの浴衣着られるかなぁ……私胸ないし」

「私が大っきくしようか?」

「やだこの娘ったらえっち!」


 私達は手を繋ぎ、他愛も無い話をしながら駅に向かった。


 夕暮れの海。頬を撫でる風。好きな人と触れ合いながら歩いた風景は私の記憶に強く残った。

 途中で変な横槍が入ったけれど、二人だけで出かけたデートは成功だったと思う。

 またここにも来られるといいなと海の向こうに浮かぶ島を眺めながら、私は江の島を後にした。


 ミラの本当に伝えたかった事を、勘違いしたまま。

 

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