第43話 夕まぐれにあたたかい風は小さな微笑み③
「ふぐっ……ふぬっふ……ぐぬぬ……」
ミラの声帯兵器とでも言わんばかりの大声の直撃を受け、私は耳を押さえて床を転げ回っていた。
いつも相手に配慮した優しい声で天使のように語りかけるミラから、ここまで大きな声が出るとは思っていなかった。
これだけの大声、余裕で壁も貫通してるだろうからお隣さんもビックリしたに違いない。
うちの彼女がごめんなさい。でもかわいい声でしょ?
「なんでなんでなんで!? 未明子なんでどうしてなんでなんで!?」
ミラが叫びながら私の体をポカポカ殴ってくる。
傍からみたら微笑ましい絵面かもしれないけど、その実一撃一撃が結構重たくて、私の体は相応のダメージを受けていた。
この威力、腕を痛めている怪我人のパワーとは思えない。
「ちょ、落ち着いてミラ! 説明するから。説明するからポカポカやめて!」
涙を流しながら私に気持ちをぶつけてくるミラを嗜める。
ショックで落ち込むかと思ったら、まさかの嫌だ嫌だ攻撃を繰り出されるとは。
「えっとね、ミラのアニマがパンクしそうなんだ」
「私の気持ちはとっくにパンクしてるよ!」
「分かる! それは分かる! でも聞いて? 私のアニマがね、すんごい濃いってさっき分かったの。だから今のミラにアニマを供給するとミラの具合が悪くなっちゃう可能性があるの」
「別にいいもん! キスする!」
うおお! 全然話を聞いてくれねぇ。
どうしてこんな駄々っ子になってしまったんだ。これも私のアニマに酔ってるせいなんだろうか。
仕方ない。こうなったら強行手段に出るまでだ。
私はミラの背後の安全を確認すると、彼女の肩を掴んでそのまま押し倒した。
たいした勢いではなかったが一応彼女の頭の裏に自分の手をあてて頭を打たないようにした。
倒れたミラの上に覆いかぶさる。
キョトンとした彼女の目をしっかりと見て、少し低い声を出した。
「ミラ。私だってキスしたい。久しぶりに会ったんだもん当然だよね。でも、ミラの体の事が本当に心配なんだよ」
私の方をじっと見ているミラの頬を手で撫でる。
「この前の戦いの後、意識がなくなったミラを見てこのまま目を覚まさないんじゃないかって凄い不安になった。もうあんな風にミラに辛い思いをして欲しくないんだ。だから、今は体の事だけを考えて欲しい」
ミラの前髪をそっと分けると、露わになったおでこに優しくキスをした。
「だから今はこれで我慢して?」
……。
……。
……んん。
頑張った!
私、頑張った!
正直、押し倒した段階で理性が飛んでそのままGOしそうになりそうだった!
でも全力で我慢したおかげで何とか止まれた!
成長してる!
私、成長してるよ!
とは言えこれでミラが納得してくれるかは分からない。
一方的なお願いになっている事も承知で、彼女の理性に賭けるしかない。
「……か……」
「……か?」
「カッコイイ!!」
ええ……。
その反応は予想外だった。
別にカッコイイ事はしてないと思うんだけど。
「こ、この女ったらし! そうやって人を手籠めにしていくのね!」
「人聞きの悪い!」
「うぇーん。未明子が悪い女になっていく」
「更に人聞きの悪い! そんなつもり無いよ。私は本当にミラの事を心配して……」
「……分かってるよぉ」
ミラが頬を膨らませながらそっぽを向く。
納得したかどうかは分からないが、どうやら落ち着いてくれたみたいだ。
「未明子のアニマが多い事も分かってる。だって初めてキスした時に凄いたくさん流れこんできたんだもん」
言われてみればそうだった。
ミラはそのアニマを受ける側なんだから、それが多いか少ないかくらいは把握しているだろう。
しかも最初の内はキャパシティが広がってなかったからその量に驚いたんじゃないだろうか。
「アニマの事を話したのはセレーネさん?」
「うん。さっき秘密基地で狭黒さんと一緒に話してくれた。その時に私の供給量も調べてもらったんだ」
「そういうの知らなくて良かったのに。それを知ったらこれから未明子はそういうの気にしちゃうでしょ?」
「う……うん」
数字と言うのは良い側面と悪い側面が分かりやすい。
物事の計算がしやすくなる代わりに、数字に支配される怖さがある。
一度知ってしまったからには、今後私は今のキスでどれくらいアニマを供給したとか、ファブリチウスを撃つ度に今どれくらいアニマを使っただとか、そういう計算が頭をちらついてしまう。
「そういうのは私がちゃんと考えてるから、未明子はそういうの気にしないで私と付き合って欲しかったのに……」
ステラ・アルマは機械では無い。心を持った生命体だ。
全てを数字で判断されたら気持ちがいい訳がないのだ。
そう考えるとアニマの数値が限界を突破しそうだからキスしないなんて、どれだけ心がない判断なのだろうかと思ってしまう。
「そうだよね。ごめんね。私のワガママだよね」
「いいよ。未明子が私を大事にしてくれてるのは分かってるから」
それでも私はミラの体を一番に考えたかった。
気持ちも大事だけど、やっぱり体は何事にも代えがたい。
ミラのぐちゃぐちゃになった腕を思い出して、そこだけはどうしても譲れなかった。
「だからね、私考えたの。アニマを供給するのがダメなんだから、そうならないようなキスならいいんじゃないかって」
「……と、おっしゃいますと?」
「未明子、私の口以外のところにキスして?」
「へぇ!?」
突然何を言い出すんだこのお嬢さんは?
口以外の場所にキスをするってどういう事なんだ?
「今おでこにキスしてくれたけど、そういうキスなら大丈夫みたい。私が未明子にキスすると汗とかでもアニマをもらっちゃいそうだから、未明子の方からして欲しいな」
「た……例えばどこに?」
「うーん。首筋とか?」
そう言うとミラは自分の髪の毛をかきあげて首元を見せてきた。
白い肌が否が応でも目に入る。
いや、そんなところにキスしたら気持ち的に上がっちゃうじゃん。
せっかくさっき理性で自分を止めたのにそれを我慢しながらキスするの?
「あ! それか腋とか? 未明子、女の子の腋が好きなんだよね?」
「何で知ってるの!? わ、わわわわ私そんな事ミラに言ったっけ!?」
「…………あー。前にほら、寝室で私の腋にたくさんキスしてたし」
「死にたい」
いつぞやの事を思い出して死にたくなるほど恥ずかしくなる。
あの時は欲望に支配されて本能の赴くままにやりたい放題してしまった。
その事に関してお互いの気持ちは片付いているけど、自分の消したい過去の一つではあるのだ。
「別に気にしなくていいのに。もしいま立場が逆だったら、私は遠慮なくしてるよ」
私の彼女がさらっと狼発言してきた。
前の時も本当にアニマに酔っていただけなんだろうか。
もともとミラはそういう気質なんじゃないだろうか。
人間、お酒に酔った時だって気質が変わるんじゃなくて本来の気質が露呈するだけみたいだし。
「だから、ね。お願い」
ミラが改めて首筋を見せてくる。
まるで「おいしいよ」とでも言わんばかりに晒された首筋が、私の口を狂おしいほどに引き寄せる。
だけど、そもそもミラがして欲しいって言ってるんだから我慢する必要ないよな?
ミラがして欲しくて、私がしたいんだから問題なんてないよな?
私が一線を越えないように、じっと我慢を続けながらキスするという地獄以外は。
一瞬の間にいろいろな考えが頭を巡るが、ここはGOだ未明子。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
あえて割愛するが。
私はその後十分ほど、ミラの首筋を堪能したのだった。
「はぁ〜〜っ。ちょっとスッキリしたよ。ありがとう未明子」
散々首筋にキスをされたミラは何故かとてもツヤツヤしていた。
かく言う私はキスをしながらも下手な行動に出てはいけないと自分に言い聞かせ、心にボティーブローを打ち続けていたのでクタクタになってしまった。
いや、でもミラの首筋は美味しかったから役得だな。
「そう言えばまだお茶も出してなかったね。いま用意するよ」
「い、いいよ! まだ腕に力が入らないんでしょ?」
「うん。でも指にひっかければ何とか」
「危ない危ない! 私がやるからミラは座ってて」
そんな腕に包帯を巻いた人に家事なんてさせられない。
せめて私がいる間くらいは私にやらせて欲しい。
「あ、冷蔵庫にジャスミン茶があるね。これもらって良い?」
「どうぞー」
「ミラも同じ物でいいかな」
「うん」
未開封のジャスミン茶の封を開ける。
あんな腕じゃペットボトルの蓋を開けるのにも苦労するだろうに。
「何かミラの部屋にある物を私が触ってると不思議な感じするね」
「一緒に暮らしてるみたい?」
「そう! ミラが買ってきた物を、勝手にもらうねーみたいな。そういうの良いなぁ」
「じゃあ一緒に住もうよ」
突然の提案に、持っていたグラスを落としそうになった。
激しく動揺しながら何とかこぼさないようにジャスミン茶をグラスに注ぐ。
「わ、私とミラが一緒に住むの?」
「うん。そしたら毎日一緒にいられるし、お互い具合が悪い時でもこうやって助け合えるしさ」
今まで考えた事がない訳ではなかった。
狭黒さんとアルフィルクも、暁さんとサダルメリクちゃんも一緒に住んでいるのを知って心の底から羨ましかった。
朝、目が覚めてからから一日の終わりにおやすみするまでミラと一緒にいられるなんてどれだけ幸せなんだろう。
でも私達はまだ高校生だ。親元を離れて暮らすなんて許されない。
絶対に反対されるし、何よりミラは別としても私には自分の生活を支えるだけの経済力がないからだ。
お茶を注ぎ終わった二人分のグラスをテーブルに置いて、さっきまで座っていた所に戻る。
グラスに滴る雫を指でなぞりながらミラとの生活を想像した。
「いいなぁ。いいなぁ。ミラと一緒に暮らしたいなぁ」
「この部屋だと狭いなら、二人で別のところ探そうよ」
「でもダメだよ。私まだ高校生だしさ」
「すばるさんだって高校生だよ?」
「暁さんは実家な上にお金持ちだもん。私とは境遇が違うよ」
それでも暁さんだって家を離れてサダルメリクちゃんと暮らしたいと言ったら反対されるだろう。
親御さんは暁さんに対して寛容みたいだけど、そういう分別はしっかりしていそうだし。
そもそも暁さん自身も「その立場と資格がないのにすべきではありません」とか言い出しそうだしな。
「そうかぁ。私が面倒見るよって言っても未明子は嫌がるだろうしなぁ」
「普通はそうだよ。好きな人とは対等でいたいもん」
「夜明さんみたいに私に依存してくれていいのに」
「あの人を比較対象に出してはいけない」
別に狭黒さんの生き方を否定する訳ではない。
ただ人間甘え始めると底が無い気がするので、ああなっては駄目だと心が警告している。
「じゃあ大学に入ったらバイトするからさ、それまで待っててもらってもいい?」
「本当に!? 待つ。待つよ!」
「まだ二年くらい先の話だけどね」
「私にとっては二年くらいあっという間だよ」
そう言われてハッとした。
ミラは人間ではなく星の化身だ。
その寿命は人間とは比べるのも馬鹿らしくなるくらいに長い。
ステラ・アルマとして自分がいつから地球に存在しているのかは分からないとしても、自分が星であるという認識はあるはずだ。
その星の目線からすれば人間にとっての二年なんてあっという間どころか、瞬きよりもずっと短い。
そう考えると、ミラにとって私と一緒にいる時間なんて一瞬の陽炎のようなものだろうか。
例えこの先お婆ちゃんになって死ぬまで一緒にいたって星の寿命で割ればたいした時間じゃない。
そんな短い時間一緒に過ごした私の事なんて、彼女の記憶に欠片も残らないんじゃないだろうか。
ミラはいつもと変わらない優しい笑顔で私を見ている。
今は一緒の時間を過ごしているけど、いつか、私の事なんて忘れてしまう時が来るのだろうか。
そう思うと涙が出てきた。
「え!? 未明子なんで泣いてるの!?」
「ごめん。ちょっと妄想が過ぎた」
そうだったとしてもそれは仕方が無い。
宇宙のあり方を変えられないように、それを変える力は私には無い。
だからこそ一緒にいられる時間を少しでも彩りあるように過ごしたい。
私は涙を拭くと、ミラに向き直った。
「大丈夫? どこか痛いの?」
「ううん。そんなんじゃないよ。それよりもミラの腕が治るまでは、何でもするから何でも言ってね!」
さしあたってミラの困りごとを私の力で支えてあげたい。
私がいれば多少の事があってもへっちゃらだと思えるようにしてあげたい。
「ありがとう。じゃあ甘えさせてもらおうかな」
「どんと来い!」
「まずは未明子にお姫様抱っこして欲しくて」
「……うん! ……うん?」
突然のお姫様抱っこ要求。
何を言われたのか理解できなかったが、とりあえず言われたままにミラをお姫様抱っこしてみた。
「わぁ。嬉しいな。初お姫様抱っこ。重くない?」
「全然重くないよ! 羽みたいに軽い」
鍛えてるせいもあるかもしれないけど、全く重さなど感じない。
なんならこのままスクワットぐらいできてしまいそうだ。
で、なんでお姫様抱っこ?
「そしたらそのまま二階の寝室まで運んでもらって」
「う、うん」
ミラをお姫様抱っこしたまま二階まで上がる。
私の腕の中でゆらゆらと揺れているミラはすこぶる楽しそうだ。
二階に到着すると、ミラの脚を支えている方の手で何とか寝室の扉を開けて中に入る。
寝室はすでに冷房が効いていて快適な状態になっていた。
「そしたら一旦降ろしてもらって」
「うん」
「そこの棚に寝巻が入ってるから、それに着替えさせてもらっていい?」
「うん。……え!? なんで!?」
「だって腕が使えないんだもん。自分じゃ着替えられないよ」
聞きたいのはそこじゃないんだよなぁ。
何でこのタイミングで寝巻に着替えるかなんだけど、でも何でもするって言ったしな。
頭の中の疑問はとりあえず置いておいて、指定された棚を探る。
「えっと……これかな。あれ、同じのが二着あるね」
「それ未明子の分だよ」
「うん。……え!? なんで!?」
「未明子もそれに着替えてね」
全然意味が分からないけど、とりあえず言われた通りに着替えるしかない。
私はパパッと制服を脱ぐと用意された寝巻に着替えた。
「わぁ! やっぱり良く似合ってる。かわいい!」
「ねえ、何で私は寝巻に着替えたの?」
「じゃあ私も着替えさせて?」
やだもうこの娘。また暴走してない?
着替えさせるという事は着ている服を脱がすという事で……。
あまり深く考えるといやらしい気分になってくるのでささっと済ませよう。
包帯を巻いた腕に触れないように、慎重にシャツを脱がす。
下に着ていたピンクのキャミソールが眩しいけどジロジロ見ないように素早く寝巻きを着せた。
「下も」
「下も!?」
「だって腕が使えないよ」
く……腕が使えないよの一言を免罪符のように使われている。
いきなり履いているスカートを脱がす訳にはいかない。
それは非常にまずい構図になる。
一旦スカートの下から寝巻を履いてもらって、寝巻きを腰までたくしあげた後にスカートを降ろした。
何とかお着替え完了だ。
「じゃあ、もう一回お姫様抱っこしてもらって」
「うん」
「で、このままお布団にゴー」
「うん」
「で、私を寝かせて」
「うん」
「未明子もお布団に入る、と」
「うん。……え!? なんで!?」
あまりの事にさっきから同じリアクションしかできていない。
言われるままに行動していたらいつの間にか同衾状態だよ。
おかしいな。さっきまで向かい合ってお茶飲んでなかった?
「そんで未明子を抱き枕にします」
「わー! 待って。おかしいおかしい。どうして一緒に寝る事になってるの!?」
「だって腕が使えないし」
「腕が使えないのと、この状況は関係なくない!?」
「わぁ。今日はなんだかツッコミが冴えてるね。じゃあおやすみなさい。クゥ……」
「クゥ……じゃないよかわいいな! ちょっと、ちょっと待ってミラ。フリースタイルが過ぎる」
確かに何でもするとは言ったけど、ものの数分で抱き枕にされるとは思ってもみなかった。
「あ〜未明子抱き枕なんて夢みたい」
「私もミラと同じ布団で寝てるのは夢みたいだけど、色々と聞きたい」
「んー? ふふっ、何でも聞いていいよぉ」
「すっかり心地よくなっていらっしゃる。突然どうしたの?」
「未明子が何でもしてくれるって言うから甘えさせてもらったの」
「いつの間に寝巻なんて用意してたの?」
「いつか着てもらおうと思ってずっと置いてあるよー。実は前に未明子が来た時からあったの」
「私と寝る準備万端じゃん」
幸せそうに私を抱きしめているミラの顔を見たら、まぁこれくらいならいいかと思えてきた。
私も力を抜いてベッドに体を預ける。
ミラに抱きかかえられ、フカフカのベッドに体が沈み込んでいく。
何とも心地よくてこのままだと本当に眠りこけてしまいそうだ。
ただ、その前に一つだけハッキリしておかなくてはいけない事がある。
「ミラさ、どうやって一人でお風呂に入ったの?」
「シャワー浴びただけだよ。蛇口を両指で引っ掛けて回したの」
「包帯は?」
「口をうまく使って何とか巻いたよー」
「もひとつ質問いいかな。あの未開封のジャスミン茶、いつ買った?」
「……未明子のような勘のいい女の子は嫌いだよ」
どこぞの少年漫画のようなやり取りに付き合ってくれたミラは、パチっと目を開けると、ニッコリと私を見た。
「あのジャスミン茶、さっき秘密基地から戻ってきた時に買ってきたんでしょ? 他に飲み物もなかったし私が来るって分かってて買ってきてくれたんだよね。どうして腕が使えないのにあんな重たい物を持てたの?」
「口をうまく使って持ってきたんだよ」
「それは無理があるでしょ! 女子高生がジャスミン茶の入った袋を口で持って歩いてたらホラーだよ!」
「ふふっ……どうして気づいたの?」
「ジャスミン茶の事もあったけど、よく考えたらあんな酷い怪我をしてたツィーさんがもう治ってるのに、ミラの腕だけ治ってないのはおかしいなって」
「何だ、それも聞いてたんだ」
「あと普通にポカポカが痛かった」
ミラは口を尖らせながら私を抱えていた腕を離すと、巻いていた包帯をスルスルと外した。
包帯の下から傷跡一つない綺麗な腕が現れる。
「ちぇー。腕をダシにして未明子にたくさんやってもらおうと思ったのに」
「参考までに他にどんな事を考えてたの?」
「ちょっと寝た後、一緒にお風呂に入って体を洗ってもらおうと思ってた」
「気付いて良かったぁ……」
「えー! 私とお風呂入りたくない?」
「そうじゃなくて、今日私はミラに手が出せないんだよ。一緒に裸でお風呂に入ったら我慢できる自信ないよ」
「もう。未明子がその気になってくれてもアニマの方が問題になってくるなんて思ってなかったよ」
それに関しては私だって残念なのだ。
一緒に寝るところまで行ったのに何もできないなんて生殺し以外の何モノでも無い。
「腕をダシにしなくてもミラのお願いなら何だって聞くのに」
「そう言うけど未明子ってば奥手なんだもん。私から攻めた方が早いって気づいたよ」
「そ、それを言われると辛い」
「一緒にお昼寝したり、一緒にお風呂に入って洗いっこしたいよぉ」
ミラが考えている事はいつも私の想定よりも一個か二個高度な気がする。
一緒に寝るのはともかく、普通の女子高生カップルは一緒にお風呂に入って互いの体を洗ったりするのだろうか。
「善処。善処します」
「うむ。私は期待して待っておりますぞ」
「代わりと言っては何だけどさ、ミラの体調が良くなったらデートに行きたかったんだ」
「デート!?」
「うん。前にみんなで行ったけど今回は二人きりで」
「行く行く!」
ミラと会えなかったこの数日の間、二人で行きたい場所を色々と考えていた。
腕が治ってないならもうちょっと待とうかと思っていたけど、仮病だったなら外を出歩く位は問題ないだろう。
「ね、いつ行くの?」
「ちょうど明日お休みだし、明日行こっか」
「やった! 二人でデートなんて本当楽しみだよ!」
「私もだよ」
どうやら喜んでもらえたみたいで良かった。
これでデートまでお預けされたらやりきれないところだった。
「じゃあ、未明子は今日うちにお泊まりと言う事で」
「それはダメ。お泊まりはもうちょっとアニマが落ち着いたらね」
「えーーーッ!? あ、腕が、腕が痛くなってきた」
「じゃあデートも延期かな」
「治った」
そんな風に布団の中でイチャイチャしながら、私達は明日のデートプランを話し合ったのだった。




