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第41話 夕まぐれにあたたかい風は小さな微笑み①

一ヶ月お休みを頂きました。

ここからまた連載を続けていきますのでよろしくお願いいたします。


今までは月・水・金の週三回投稿でしたが、今後は月・木の週二回投稿にしたいと思います。

 

 戦いが終わってから数日が経った。


 ミラはこの数日間、オーパ秘密基地に ”入院” しているせいで学校もお休みしていた。

 たった数日彼女の顔を見ていないだけで日常が色を失ったように感じる。

 そんな落ち着かない日々を送っていると、セレーネさんからグループラインに連絡があった。


「ミラの意識が戻ったから迎えに来い」


 その文面を見て飛び上がった私は、授業中、気もそぞろで全くもって集中できず、早く秘密基地に行きたくてウズウズしていた。


 ミラに会える!


 本当はすぐにでもラインを送って連絡を取りたいところだけど、せっかくだから直接会って話したかった。

 ミラと最後に会話をしたのは戦闘中だ。

 つまり戦いに勝てた事を一緒に喜んだり、無茶をさせてしまった事を謝れてもいないのだ。

 ミラと話がしたい。声が聞きたい。

 私は時間が過ぎていく毎に落ち着きを失っていった。



「未明子、何をソワソワしてるの?」


 あまりに落ち着きの無い私を見て、隣の席の鷲羽さんが声をかける。


「久しぶりに鯨多さんに会えるんだ!」

「そう。体調回復したって?」

「まだ学校に来られるかは分からないけど、とりあえず会えるくらいには回復したみたい」

「夏に風邪を引くと長引くって言うし未明子もうつされないように気をつけてね」

「大丈夫だよ! 私、生まれてから一度も風邪引いた事ないし」

「どんだけ丈夫な体なのよ」


 ミラは表向き風邪を引いて欠席している事になっている。

 今までこんなに長く学校を休んだ事が無かったのでクラスでも心配されていた。

 最近ではミラと一番仲が良いと認知されているからか、私にミラの体調を聞いてくる人もいたが、そんなの私だって把握はしていない。

 セレーネさんに連絡しても「回復してるから心配するな」としか返ってこないのだ。 

 お見舞いに行きたかったけど絶対に会わせてはくれないだろうし、セレーネさんからの連絡を一日千秋の思いで待っていたところだ。



 授業後のホームルームが終わると、あらかじめまとめておいた荷物を抱えて全速力で教室から飛び出した。

 気持ち的にはこのまま秘密基地まで走って行きたいが、どう考えてもバスに乗った方が早い。 

 校舎を出ると一直線にバス停を目指した。

 

 本格的に夏が始まったせいでそこら中から蝉の鳴き声が聞こえる。

 街の西側に高尾の山があるからか、風が強く吹くこの土地では夏でも湿度が低く涼しかった。

 ただ今年の夏は異常な暑さだ。

 風が吹いたくらいでは暑さを誤魔化しきれず、日陰をつたって歩いているだけでも汗が垂れてくる。


 そんな容赦のない暑さの中、教室からバス停までを一気に走り抜け、授業後に間に合う最初のバスに飛び乗った。


 バスにはまだ他の学生の姿は無く、乗っている人もまばらだ。

 席は空いているが座って落ち着けるとは思えず、吊り革に捕まって窓の外を流れる風景を眺めた。


 そろそろ夏休みだしミラの体調が良くなったらたくさん遊びに行きたいな。

 そう言えば夏祭りがあるって聞いたし誘ってみようかな。

 ミラは浴衣持ってるのかな。

 家に何着かあるし、もし持ってなかったら私のを貸すから着てくれないかな。 

 ミラの浴衣姿とか綺麗だろうな。



 なんて事を考えて幸せな気分に浸っていると、バスがオーパ近くの停留所に到着した。

 バスを駆け降りるとまたオーパまで走り出す。

 

 そしていつものエレベーターに乗ろうとした所で重要な事に気づいてしまった。


「よく考えたら一人じゃ秘密基地に入れないじゃん!」


 秘密基地は別のユニバースにある。

 いつもはミラと一緒なのでユニバースを移動してから秘密基地に入っているが、今日はそのミラがすでに秘密基地にいるのだ。

 もちろんミラに連絡すれば迎えに来てもらえるけど、私が迎えに来たつもりなのに彼女に迎えに来てもらうのも何か違う気がした。


 セレーネさんにお願いする? いやあの人こそ絶対迎えに来てくれないだろう。

 って言うかあの格好で外に出てきたら不審者だと思われる。 


 建物の前でどうしようか悩んでいると、一階にあるカフェから見慣れた人物が手を振っているのが見えた。


「やっぱり立ち往生してる」


 片手にコーヒーを持ってこちらにやってきたのはアルフィルクだった。

 

「アルフィルク! どうしてここに?」

「さっきのセレーネさんからの連絡を見て、絶対何にも考えずに一人で行くと思ったから来てあげたのよ」


 アルフィルクの言った通り、ここに来るまでユニバース移動の事なんて何も考えていなかった。

 ミラと一緒だから忘れがちだけど、普通の人間はあそこに入る事はできないのだ。


「ありがとう! めっちゃ助かる!」

「大丈夫よ。私もミラに会いたかったし」


 アルフィルクは手をヒラヒラさせながら気にしないでというジェスチャーをした。

 比較的近い場所に住んでいるとは言え、わざわざ来てくれるなんて嬉しいな。

 

「今日は狭黒さんは?」

「もう上にいるわよ。何かセレーネさんと話したい事があったみたい」

「あの二人って何気なにげに親密だよね」

「まあ私達の中では一番付き合い長いしね」


 そう言えば以前の会話で狭黒さんがこのユニバースで一番最初のステラ・カントルらしい事を言っていた。

 となればセレーネさんとの付き合いも一番長い訳か。

 二人とも難しい話が好きみたいだし、そもそも気が合うのかもしれない。



 エレベーターで七階まであがると、非常階段への扉の前でアルフィルクが手をかざす。

 すると扉の向こう側が光り、隙間から光の粒子が漏れ出てきた。

 これで秘密基地のあるユニバースに移動する事ができる。


「ユニバースを移動するゲートを作る時って扉が必要なの?」

「ステラ・アルマがゲートを開くには扉かそれに近い物が必要になるのよ」

「じゃあ何にもないところにゲートを作れるセレーネさんって凄いんだ?」

「管理人の第一条件が空間操作らしいわよ。好きなところにゲートを開いたり、ユニバースが消滅しないように固定したり、あと任意の対象を好きなように移動させたりね」

「戦闘中の撤退とかがそれに当たるのかな」

「こっちの世界に戻ってくる時にステラ・アルマとステラ・カントルを別々のところに移動させたりするのもその能力の一環ね」


 言われてみれば、戦闘が終わってこちらの世界に戻ってくる時、ステラ・カントル組とステラ・アルマ組は別々の場所に戻ってくる事が多い。ああいうのも全部セレーネさんがうまくやってくれてるのか。



「どうやらアルフィルクとはうまく落ち合えたようだね」


 私達が展望ホールにやってくると、フリースペースに狭黒さんが座っていた。

 隣にはセレーネさんも立っている。


「私 ”とは” ってどういう事よ?」

「その様子だとミラくんとは会えなかったんだろ?」

「え、どういう事ですか!?」

 

 ミラとは会えなかった?

 ミラはここにいるんじゃなかったのだろうか。


「すまんな。ワタシがミラに犬飼が迎えにくる事を伝えたら飛ぶように出て行ってしまった」


 セレーネさんが申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

 どうして? 私が来る事を知って出て行ってしまうなんて、私と顔を合わせたくないんだろうか。

 もしかしたら前の戦いで無茶させてしまった事を怒っているのかもしれない。

 

「そんなに落ち込むな。数日風呂に入ってない姿を犬飼に見せたくないそうだ」


 なんじゃそら!

 別に私はそんな事気にしないのに。

 でも、私の事を嫌になったとかじゃなくて良かった。


「じゃあ私、すぐに追いかけます!」

「まあ待ちたまえ。さっき出て行ったばっかりだから身嗜みを整える時間くらいあげたらいいんじゃないかい?」


 走り出そうとした私を狭黒さんがたしなめる。


「好いた相手の前ではできるだけ綺麗な格好でいたいという気持ちは理解できるだろう?」

「それは分かります」

「未明子くんが一刻も早くミラくんに会いたい気持ちも分かるが、彼女からすると君をがっかりさせる様な部分は極力見せたくないんだろう」

「そんな。別に私はがっかりなんて……」

「そういうのは本人が良くても相手が気にしたりするからね。付き合いの難しいところだよ」


 確かに私が気にならなくてもミラが気にするのなら気持ちを汲んであげた方が良い。

 今日会えるのは間違いないんだから私も一度落ち着こう。


「分かりました。ちょっとここで時間を潰してから向かいます」

「それがいい。ところでアルフィルク、私のコーヒーは?」

「何で夜明の分まで買ってこなきゃいけないの? 必要だったらそう言いなさいよ」

「ね? これだけ一緒にいても通じ合えない事もあるんだ。付き合いは難しいよね」


 それは狭黒さんが悪いと思う。

 欲しいんだったら欲しいってひとこと言えばいいのに。


「アルフィルク、一口もらってもいい?」

「何よ未明子まで。そんなだったら全員分買ってくれば良かったわ。一口だけよ!」


 私はこういう時は遠慮なく言うタイプなのだ。

 あいかわらずアルフィルクは私に甘いなー。

 アルフィルクからコーヒーを受け取ると、冷たいコーヒーを目一杯すすった。


「ちょっと! 一口って言ったでしょ!」

「一口です〜」

「それは一口って言わないのよ! 新しいの買ってこさせるわよ!?」


 二人でキャイキャイしていると狭黒さんがやれやれと肩をすくめる。

 

「まあコーヒーは帰りに買っていくとして、先に話を終わらせておこうか」


 狭黒さんがそう言うとセレーネさんが向かいのイスに座った。

 私とアルフィルクも合わせて空いているイスに腰を下ろす。


「聞きたかったのはあのラピスとか言う薬の事だね。私達が戦い始めて結構たつが、あんな薬があるなんて知らなかったよ」


 ラピスと言うのは戦いの後に衰弱したミラに私が口移しで飲ませた薬だ。

 確かアニマ? とか言うものの結晶だって言っていた気がする。


「あれは本当に緊急の時にしか出さない。非常に貴重な物だからな」

「でもあんな物があるなら、あれを前提にした作戦だって立てられたよ?」

「勘違いさせてしまったなら申し訳ないが、ラピスは本来ステラ・アルマを回復させる為のものではない。あくまで副次効果としてアニマを回復させる事ができるだけだ。死に瀕しているステラ・アルマに対してラピスを使うかどうかは管理人に委ねられている」

「本来の用途って何さ?」

「それは機密事項で言えないな」


 セレーネさんはスンとした態度でさらりと言った。

 何でも聞けと言っていたけど、何でも教えてくれる訳ではないのか。

 管理人にも色々制約があるんだろうな。


「分かったよ。この前のはあくまでセレーネさんのサービスだったと受け取っておくね。ちなみに回復量はどれくらいなんだい?」

「数値で言うと15,000だ」

「15,000!?」


 セレーネさんの言葉に驚いた狭黒さんが席を立ちあがる。

 数値だけ言われても全くピンとこないが、隣に座っているアルフィルクも口に手を当てて絶句しているからそうとう大きな数値なのだろう。


「そんな大量のアニマを固めた物だったのか。それは貴重なアイテムだ。おいそれと使用する訳にはいかないね」

「あのー。私、アニマに対する知見がないので話に置いて行かれております」


 私を除く三人が顔を見合わせると、そう言えばそうだったと言わんばかりに狭黒さんが説明をしてくれた。


「アニマと言うのはステラ・アルマの生命力みたいな物でね。厳密に言うと違うんだが、未明子くんに分かりやすく言うとRPGゲームのHPみたいなものさ」

「それは分かりやすい!」

「ステラ・アルマはロボット形態になっている時は常にそのアニマを消費していてね。激しい動きやダメージを受けるとアニマが減少していくんだ。特にエネルギー系の武器を使用すると消費が激しい」

「エネルギー系って、ミラのファブリチウスとかですか?」

「然り。エネルギー系の武器はレアなんだ。今まで未明子くんが会ったステラ・アルマでエネルギー系の武器を持っていたのを見た事あるかい?」


 言われてみるとだいたいみんな物理的な武器を使っていた気がする。

 銃にしたって実弾ばっかりで、ミラみたいにビームを撃ってる機体は見た事がない。


「例外とすればモスモスくんの固有武装だね。あれはエネルギーの塊を飛ばしていた。ただあれは三体分のステラ・アルマが合体して使っていた技だから使用するアニマも三体からそれぞれ消費していたんだろう」

「ちなみにファブリチウスを一発撃つとどれくらいアニマを消費するんですか?」

「セレーネさん、答えられるかい?」

「うむ。ファブリチウスは出力を調整できるから正確な数値は分からないが、おそらく一撃ごとに2,000くらいのアニマを消費している。ステラ・アルマがロボット形態を維持するのに消費するアニマが1秒につき1と定義しているから、かなりのアニマを消費しているな」

「2,000……」


 ロボット形態を1秒維持するのに必要なアニマが1なら、一発撃つごとに2,000秒。およそ33分変身していられるアニマを消費するって事か。

 ファブリチウスは本来あんなにバカスカ撃つような武器じゃないんだ。しかも前回の戦いでは全力の砲撃をあんなに長い時間照射し続けたんだから、アニマが切れるのも当然だ。


「しかしそれだとミラくんはあっという間にガス欠にならないかい? 2等星の平均アニマって確か20,000から25,000だろ? ファブリチウスを十発も撃ったらもう危険域じゃないか」

「そうなのだ。だから今回ミラの治療のついでにアニマのキャパシティを測ったところ、今のミラは40,000程度のアニマを溜め込む事が出来るようだ」

「40,000って! アルフィルクが前に計測した時は15,000程だったから、三倍近いキャパシティがあるって事かい!?」

「ミラが特別なのか、エネルギー系の武器を持っているステラ・アルマの特徴なのかデータが少なくて良く分からん。ただ前回の戦いで相手の固有武装をしのげたのはその馬鹿みたいに多いアニマの内蔵量ゆえだろうな」


 セレーネさんと狭黒さんが数字の話をしているけど私にはピンとこなかった。

 ただミラが凄いって褒められている事だけは分かったのでニヤニヤしていたら、隣にいるアルフィルクが肘で小突いてきた。


「ミラがそれだけアニマを溜められるなら、あなたがしっかり供給してあげなきゃダメよ?」

「何の話?」

「あ、そうか。その話もしてあげなきゃいけないのね。いい? アニマは体を休める事によって回復する事ができるけど、まる一日休んだところでたいして回復しないのよ」

「じゃあどうすればいいの? ご飯をたくさん食べるとか?」

「まあそういう方法で回復を早める事もできるみたいね。ツィーはお肉を食べると調子が良くなるみたいだし。私はやらないけど」


 そう言えばツィーさん植物園に行った時も一人でお弁当を食べ尽くしていた気がする。

 あんなほっそい体なのに腹ペコキャラなのはそのせいもあるのか。


「食べる以外だとどうすればいいの?」

「ステラ・カントルからの供給よ。ステラ・カントルはステラ・アルマにアニマを供給する事ができるの。具体的にはキスとかセックスでね」

「アルフィルクまたセックスって言った!」

「セックスはセックスよ。別に言い淀む事でもないでしょ?」

「と、年頃の女の子がセックスとか軽々しく口にしちゃダメだよ!」

「別に悪い事じゃないからいいじゃない。愛を形にした行為でしょ? 言葉に気を使う方がおかしいわ」


 うぐ。アルフィルクにそこまでハッキリ言われるとそんな気がしてきた。

 確かに普段口に出さないから言い慣れないだけでこの言葉に罪も悪意もない。

 家族とか学校のコミュニティの中で極力言わないような雰囲気があるからはばかれるけど、意味としてはキスとかと変わらないもんな。


「で、でも私はまだ言い慣れないっす……」

「じゃあ慣れなさいな。はい、セックス」

「せっくす……」

「声出しなさいよ! セックス!」

「せっくす」

「セックス!」

「せっくす」

「セックス!」

「せ…くっす……」


 私は何をやっているんだろう。

 ミラを迎えに来たはずなのに、友達にセックスを連呼させられる怪しい午後になっている。

 逆にこの状況でミラがいなくて良かった。


「えーと、君達は何を楽しそうな事をしているんだい?」


 流石に狭黒さんからツッコミが入った。

 そりゃ一緒にいた人間がいきなりセックスセックス叫び始めたら誰だって止める。


「未明子がいつまでたってもお子ちゃまだから情操教育してるのよ」

「セックスを連呼するのが情操教育なんて言い出したら定義した人達が泣いてしまうよ。アニマの供給の話じゃなかったのかい?」

「アルフィルクの脳がピンク色なんで、もう狭黒さんが説明してください」

「ふーん。あなた、覚えてなさいよ」


 アルフィルクが怖いけどここは話し上手な狭黒さんに説明をお願いしたいところ。

 私からアニマの供給ができるなら、今後のミラとの付き合い方でも大切になってくる話だ。しっかりと理解したい。


「承知した。でも今アルフィルクが言っていた通りなんだ。私達とステラ・アルマが触れ合う事によってアニマを供給する事ができる。ステラ・アルマがロボットに変身する前にキスをするだろう? あれはアニマを供給する意味合いもあるんだ」


 なるほど!

 変身するのになんで突然キスをするのかと思ったらあそこでアニマを供給していたんだ。

 

「ん? でもステラ・カントルがアニマを供給するって事は、私達の生命力をあげてるって事なんですか?」

「大別するとそういう事になるのかもしれないが、別に私達の命を削っている訳ではないんだよ。……うむ。キスで変身というロマンチックな雰囲気から逸脱してしまうが、身も蓋もない言い方をすると私達の体液がステラ・アルマには極上のアニマになるんだ」

「た、体液って言うと……」

「キスで言うなら唾液だね」


 oh……!!

 つまりキスをする事によって唾液が相手の体に入って、それがアニマに変換されているって事か。

 メカニズムをそうやって解説されると本当に身も蓋もない気がする。


「更に性行為に及べばもっと濃厚な接触をする訳だから、キスよりもたくさんのアニマを供給する事ができるって訳さ」

「は、はい。それは、そういう事ですよね……」


 ステラ・アルマが性欲が強いっていうのも何だか具体的に理解できてきた気がする。

 もちろん好意もあるんだろうけど、生命力を得られる行為ならそりゃ好きだよね。

 私達だって遊んだり、ご飯を食べたり、ぐっすり寝たり、元気になる事は積極的にしたいもんな。


「難しく考えずにイチャイチャするほど相手が元気になってくれると思えば良いよ」

「その考え方は最高ですね」

「その供給にしても、個人差がある訳なんだが……」


 狭黒さんがそう言いかけた時、隣から「バターン!!」という大きな音がした。

 突然鳴り響いた大きな音に驚いて音のした方を見ると、アルフィルクが地面にうつぶせに倒れ込んでいた。


「アルフィルク!? どうしたの!?」


 アルフィルクは倒れ込んだままピクリとも動かない。

 心配になって駆け寄ると狭黒さんとセレーネさんも駆け寄ってきた。

 みんなでアルフィルクを囲う。


「アルフィルク! どうしたんだい? しっかりしたまえ!」


 狭黒さんの呼びかけにも何の反応も示さない。

 アルフィルクの顔を見ると真っ赤になっていて、苦しそうに短く息を吐いている。


「……待てよ。この症状、もしかして」


 セレーネさんが何かに気づいたようで、奥の部屋に駆け込んで行った。

 とりあえず狭黒さんと私でアルフィルクの体を持ち上げると、長椅子に寝転ばせる。

 

 変わらず苦しそうな顔で、少し汗をかき始めた。

 様子だけ見ていると突然発熱したみたいに見える。

 そうだとしても何故このタイミングで?


「アルフィルク調子悪かったんですか?」

「いやさっきまで元気だったよ。突然こんなに具合が悪くなる筈がない」


 狭黒さんにも思い当たる事がないらしく心配そうな顔をしていた。

 洗面所でハンカチを濡らしてきて額にあてたが、一向に良くなる気配がない。

 

 しばらくするとセレーネさんが奥の部屋から戻ってきた。

 手に先端が丸くなった棒の様な物を持っている。

 体温計だろうか?


「犬飼、ちょっと口を開けろ!」

「え、私!?」


 言うや否やセレーネさんは持っていた棒を私の口の中に突っ込むと、口の中を乱暴に掻き回した。


「だ、だにぼぼぼ」

「ちょっと黙ってろ。舌噛むぞ」


 されるがままに口の中を荒らされ、気を失いそうになる頃にようやくその棒を口から抜いてもらえた。


 アルフィルクの体調を調べるのに何で私の口の中に謎の棒を突っ込む必要があったのか全然分からない。


「……これはヤバいな。夜明、見てみろ」

「……はぁ!? 嘘だろ!?」


 何故か二人がその棒を見ながら騒ぎ始めた。

 涙目になりながらヒリヒリと痛む口を撫でていると、セレーネさんがずいと私に近づいてくる。


「犬飼、犯人はお前だ」


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