第39話 甘く香る愛のバレットで⑫
斬られた刀身が、ドシンと重たい音をたてて地面に落ちた。
剣に変形する固有武装。
手なのか足なのかそれとも胴体なのか。
どこが刀身に変形していたのかは分からないが、体を真っ二つにしたのなら破壊するのに十分なダメージを与えた筈だ。
「……やった……!」
思いつきの攻撃が功を成したが、おそらく本体の固有武装の影響を受けている状態で無ければ破壊する事はできなかっただろう。
攻撃を中断された事によって起こった何かしらの不具合。
そのせいで剣に変形していたシェアト自身が極端に脆くなっていたに違いない。
「秋明!!」
「……桔梗様……」
最早、敵がいつ爆発してもおかしくない。
アタシは爆発に巻き込まれないように敵から距離をとった。
「撤退を! まだ間に合う!」
「いえ……シェアトがもう助かりません。ならばどうか一緒に死なせてください」
「君まで逝ってしまうのか……」
剣に変形していたシェアトの体が更に赤く染まっていく。
間もなく限界を迎えるだろう。
「最後まで……お力になれずに申し訳ありません……」
「そんな事はないよ。これまで一緒に戦ってくれてありがとう。菊にもそう伝えてくれ」
「ふふ。姉さんは……私を待っていてくださるでしょうか。案外あの女と先に行ってしまったかも……しれませんね……」
そう言い残すと、剣のステラ・アルマは敵の手の中で爆発を起こした。
同時に地面に落ちていた刀身も爆発して、跡形もなく消滅した。
今まで戦ってきたステラ・アルマは戦闘不能になると大抵が破壊される前に撤退して元の世界に戻っていった。
最後に残った一体が撤退していった事もある。
撤退して世界が消滅するまでの時間を少しでも生きるのがいいのか、戦いの中で死ぬのがいいのかは個人による。
少なくとも桝形姉妹の妹は、最後の瞬間をステラ・アルマと共にする事を選んだようだ。
それとも姉のいない世界に執着が持てなかったのか。
その答えはもう永遠に分からない。
爆発によって発生した硝煙が晴れると、敵は剣を持っていたままの姿勢で立っていた。
爆発に巻き込まれた腕が黒炭のように焼け焦げている。
立て続けに装甲と剣が破壊され、その両方の爆発に巻き込まれた敵の姿は凄惨と言わざるを得なかった。
敵は、何をするでなくじっと自分の手を見続けている。
斬った刀を蹴り上げて威力を上げるのはツィーの部屋で読んだ少年漫画に出てきた技だった。
カッコイイからという理由でイメージトレーニングをしていたが、まさか土壇場での切り札になるとは思っていなかった。
ただし、これでアタシの切り札は完全に使い切った。
さっきナビィの刀身を放った事でもう左手は動かない。
残ったリソースは右手の壊れかけのアイヴァンだけだ。
「五月。さっきのは何だったんだい? 君が完全に消えたように見えた」
「あれはツィーの特技。ツィーは薄皮一枚分だけユニバースを移動する事ができるんだ」
「ユニバースを移動する? という事はあの時、僕の攻撃の前に別のユニバースに移動していたという事か」
「そういう事。でも物理的な接触はできるから無敵って訳ではないんだよね。見えなかっただろうけど、結構ダサい格好で剣を避けてたからね。でも一瞬のスキを作れれば十分」
「なるほどね。まさかそんな特技を最後までとっておくとは恐れ入ったよ」
「アタシだったらヤバいと思ったら使っちゃってたかもね。でもうちのリーダーが指示出すまではとっておけってさ」
ざくろっちの方を見ると、地面に這いつくばったまま手を振っていた。
「そうだったのか。こちらの作戦よりも、そちらの作戦の方が上だったと言う事だね」
「結果的にはね。みんなが頑張った成果だよ」
とは言え、今回はセレーネさんの援護がなかったら状況は全然変わっていた。
セレーネさんが開いてくれたゲートで通信ができなかったら、フラッシュグレネード作戦もうまくいかなかった。
あの作戦が上手くいかなかったら二人が援護に来てくれる事もなくアタシはやられていたし、その後は順番に一人ずつやられていたに違いない。
そういう意味では、この戦いのキーポイントは敵がこちらの世界に殴り込んできたところかもしれない。
あれが無ければセレーネさんの援護が受けられずに私達の負けだった可能性が高い。
「劇的な逆転、お見舞いしちゃったね」
「はっはっはっ。何を言っているんだい? まだ僕は負けた訳じゃない。劇的な逆転はここからかもしれないよ?」
それが強がりだと言う事は十二分に分かっている。
涼しそうに笑っているが、敵がここまでに負ったダメージは相当なものだ。
それを3体のステラ・アルマの力で耐えてきたのに、すでに2体は破壊された。
残ったアルフェラッツの体も限界なら、操縦者の精神的にも限界を迎えているだろう。
だが限界と言うなら、こっちだってとうに限界を超えている。
ツィーはもういつ変身が解けてもおかしくない。
「お互いのダメージは五分。まだ勝負はどうなるか分からないさ」
「じゃあ、決着つけよっか」
「うむ。そうさせてもらおう」
お互いに攻撃の間合いに近寄る。
改めて見れば、よくもここまで戦ったものだ。
三鷹と吉祥寺の街はほぼ壊滅状態。
建物はほとんど崩壊、もしくは消滅して、そこかしこが燃えて煙が立ち上っている。
ミラちゃんとざくろっちは力を出し尽くして戦闘不能。
敵も二人死んだ。
すばるちゃんの相手がどうなったか分からないけど、この場で立っているのはアタシとコイツだけ。
固有武装も奥の手も全部出して、お互いもう一撃貰えば破壊されるほどのダメージを負っている。
準備も、作戦も、実戦も、やるだけやった。
その締めくくりがいまこの瞬間だ。
「なんだかこの状況、笑いが出てしまうね」
「あら。アンタもそうだった? 初めて共感できたかも」
向かい合ってお互い笑い出す。
少し笑った後、最後の瞬間は
あっけなく訪れた。
体をアイヴァンに貫ぬかれた敵が力なくこちらに寄りかかる。
胸元のど真ん中を刀で貫かれ、夥しい体液が流れている。
これはもう助からない。
「はぁ……やはり君達とは仲間になっておけば良かった」
「だったらもうちょっと態度考えなって。コミュニケーション能力大事だよ?」
「僕はね、大切なものを失いすぎてもうこういう仮面を被って生きる事しかできないんだよ。常に自分を作っていないと保たないのさ」
「そういうのは分かる。だけど相手の事も考えてあげて。アンタ以外だって余裕のある人なんていないんだよ」
「……そうだね」
敵はアイヴァンから体を抜くと、ヨロヨロと離れていった。
そして頼りない足取りで瓦礫の山に登ると、こちらを振り返り、両手を掲げて天を仰いだ。
「見ているか仮の者よ! 聞こえているか仮の者よ! 僕達はお前の、最後までお前の思い通りにはならなかったぞ!」
突然の叫びが空に響く。
誰に対して、何を言っているのか理解できなかった。
敵が言っていた「この戦いを仕組んだ者」が本当に存在するとでも言うのだろうか。
そしてこの戦いを見ていたとでも言うのだろうか。
こちらを誑かす戯言だとばかり思っていたが、今の言葉は真に迫るものを感じた。
「これにて僕達のステージは終幕だ!! ここからは彼女達のステージを楽しみたまえ!!」
最後の最後まで芝居がかった口調で斗垣・コスモス・桔梗は終演、いや終焉の挨拶を行った。
「願わくば、君達が倒すべき敵を倒してくれますように」
こちらを向くと、右手を胸にあて一礼する。
「撫子。菊。秋明。それにセレーネさん。こんなに協力してくれたのに……ごめんね……」
最後の言葉は小さくて聞き取れなかった。
アルフェラッツの機体は、まさに舞台の最後を飾るような姿のまま崩壊を始めた。
その体が風に流されるように粒子に変わっていき、やがて完全に消滅した。
あたりに静寂が訪れる。
遠くの方に、火がくすぶっている音と、空気が渦巻く音が聞こえる以外は何にも聞こえない。
長く、苦しい一つの戦いが終わったのだ。
「勝ったね……」
「五月くん。よく頑張ってくれた。すばるくんの方も勝利したみたいだ。今こちらに向かっているそうだ」
「良かったぁ! じゃあ全員生き残り?」
「私も元気だし、未明子くんも、まあ大丈夫だろう。それよりもツィーくんの方が……」
ざくろっちの言葉が最後まで発せられる前に、ツィーがその場に倒れこんだ。
アタシはツィーが倒れこんだ瞬間、操縦席から投げ出された。
とうとうツィーの変身が解けてしまったのだ。
ツィーが倒れこんでいたから地面までの距離が近くて何とか着地できたものの、危うく顔面から落ちるところだった。
せっかく戦いに勝ったのに下手したらここで死んでいたかもしれない。
いや、今は自分の事よりもツィーの事だ。
変身が解けるのはステラ・アルマが瀕死の証拠。
早くセレーネさんのところに戻って手当てしないと危険だ。
街と言うか、街だったところに投げ出されたアタシはツィーを探す。
周囲を見渡すと、すっかり瓦礫になってしまった建物の上にツィーが横たわっているのが見えた。
アタシは急いでそこに向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
《セレーネさん! 急いでみんなを回収してくれないか! 全員かなり負傷している。特にツィーくんが緊急を要する!!》
真っ暗になった操縦席で、セレーネさんが開いてくれたゲートから狭黒さんの怒号のような声が聞こえる。
どうやら戦いは終わったようで全員生き残る事ができたみたいだ。
でもツィーさんがやばいらしい。
こういう時はどうしたらいいんだろう。
いつも戦いの後は自分の方が負傷していて介抱される立場だったけど、今回にいたってはツィーさんもミラも意識がなくなる程のダメージを受けている。
元の世界に戻ったら救急車を呼んだりするんだろうか。
こんな事になるんだったら応急処置の仕方とか勉強しておけば良かった。
すると、操縦席の中が光に包まれる。
この光はセレーネさんがゲートを開いて、元の世界に移動させてくれているという事だ。
あっという間に光が周囲を埋め尽くし、光の空間に飲み込まれる。
目を開くと、そこはオーパの前の道路だった。
いつもは秘密基地の中に転送されるのに今日は道のド真ん中に呼び戻された。
緊急だったからうまく調整できなかったんだろうか。
すぐ横に誰かが倒れているのに気付く。
一番近くにいるならミラに違いない。
私がそちらを向くと、そこには顔を真っ青にしたミラが倒れていた。
まるで死人のように血の気の無い顔でぐったりとしている。
その姿からは生命力そのものが失われているように感じた。
あれだけの威力の砲撃を放ったのだから命を削っていても不思議では無い。
呼吸も浅く、危険な状態だと言うのはすぐに分かった。
着ている服もボロボロになっていて体に負った傷も酷い。
だがそれ以上に、両腕の状態が最悪だった。
紫色に変色した肌がパンパンに腫れて膨れ上がり、一部皮膚が爛れて肉がはみ出している。
腕のダメージが酷い事は分かっていた。
敵が投げた大剣をとっさに腕で防御したからだ。
ふっとばされた後でダメージレポートを見て腕の状態は分かっていたのに、それでもあの砲撃を撃つしかなかった。
あの馬鹿みたいな反動をすべてその腕で支えたのだから、こうなって当然だ。
ミラの綺麗な腕をこんなグシャグシャにしてしまった事実に私自身の血の気が引いたが、今はダウンしている場合では無い。
自分の着ている服を脱いで、ミラの腕に巻きつけようとする。
「気持ちは分かるが触るんじゃない!!」
すぐ近くから怒鳴り声が聞こえてきて、ひぃっと小さな悲鳴をあげてしまった。
怒鳴り声のした方を見ると、声の主は狭黒さんだった。
どうやら私に対して怒鳴った訳ではなさそうだ。
そこには狭黒さんの他に、同じくボロボロになったアルフィルクと五月さんが座り込んでいた。
体を動かしてそちらを覗きこむと、三人に囲われるようにしてツィーさんが横たわっているのが見えた。
ツィーさんの状態はもっと悪かった。
着ていた服は見る影もなく、ほぼ全裸になっていて、体に少しだけ布が残っているだけだった。
だからこそ、どれだけ体の怪我が酷いのか分かってしまう。
ミラと同じように両腕が紫色に腫れていて、特に左手はあらぬ方向に曲がっているので確実に骨折している。
酷いのはお腹で、お腹の右半分が人の肌とは思えぬくらいにドス黒く変色していた。
おそらく内臓を痛めた事による内出血が起こっている。
あれだけ出血しているのなら、どこかの臓器が損傷したのかもしれない。
顔も苦痛で歪んでいて、呼吸が荒く、鼻血を垂らしながら口から血の泡を吹いている。
そばに寄り添う五月さんはポロポロ大粒の涙を流して何かをしようとしているが、それを狭黒さんに止められているようだ。
……あの負傷ではツィーさんは助からないかもしれない。
そんな嫌な予感が頭を巡る。
ミラの怪我、ツィーさんの怪我、色んな事が頭を巡りパニックになる。
私も涙が出てきてしまった。
泣いていても何も好転しないのに涙が止まらない。
私は泣きながら、自分の服でミラの腕を固定した。
「待たせた! ちょっとそこを空けてくれ!」
その声はセレーネさんのものだった。
セレーネさんはツィーさんを囲っている三人をどかせると、持っていた箱から懐中電灯のような物を取り出した。
その懐中電灯のような物をツィーさんのお腹の上に掲げると、そこから青い光が出てツィーさんの体を照らした。
しばらくそれを当てていると、ツィーさんの荒かった呼吸が少し落ち着いたように見えた。
「九曜。これはお前が使え。このまましばらく腹部を照らし続けろ。狭黒、お前はそこに入ってる布でコイツの腕を固定しろ」
セレーネさんがテキパキと指示を飛ばすと二人は言われた通りに動く。
すると今度はこちらに向かってきた。
「犬飼。よく頑張ったな」
「セレーネさん、あの……!」
「分かっておる。少し腕の固定を外すぞ」
セレーネさんは私が巻き付けた服を解くと、ミラの腕の状態を観察した。
「ミラの腕も酷いな。犬飼、動けるか?」
「あ、はい!」
「ワタシがいま持ってきた箱に、懐中電灯のような物と紫色の布がある。それを持ってこい」
「分かりました!」
私は涙を拭いて、言われるままに箱からその二つのアイテムを取りに行く。
治療? を受けているツィーさんを見ると、さっきよりも大分表情が楽になっているようだった。
「その懐中電灯でミラの腕を照らせ。その間に私がこの布を巻く」
「はい!」
何がなんだか分からなかったが、持ってきた懐中電灯のような物をミラの腕に向けスイッチを入れた。
懐中電灯から青色の光が出てミラの腕を照らす。
その腕に、セレーネさんが慎重に紫色の布を巻いていく。
「これはステラ・アルマの肉体を回復させる光を照射するランプだ。戦闘での負傷が酷い場合のみ使用を許可されている」
「酷い時だけなんですか?」
「そうだ。放っておくと死亡、もしくは二度と戦えなくなると判断した時のみだ」
死亡。
もしくは二度と戦えない場合。
いまツィーさんとミラがその治療を受けているという事は、二人ともそれに該当しているという事だ。
涙ではなく、今度は冷や汗が止まらなくなってきた。
「あの、二人は助かるんですか?」
「このランプの効果では、最悪の事態を避けられるだけだ。その後は本人達の頑張り次第だな」
ランプを持つ手が震える。
この治療でも元通りになるかは分からないのだ。
もしミラがこのまま目を覚まさなかったらと考えると怖くてたまらない。
セレーネさんが布を巻き終える。
すると胸のポケットから飴が入っているような缶の入れ物を取り出した。
その入れ物を開けると、中にはカプセルのような物がいくつか入っていた。
「犬飼。これは冗談でも何でも無いから落ち着いて聞け。このままだとミラは死ぬ」
「え……?」
「エネルギーを使い果たしている。どうやっても自然回復が間に合わん」
「……ミラ、死ぬんですか?」
「だからそうならんように聞くんだ! 呆然とするな!」
知りたくなかった事実に危うく意識が飛びそうになるが、セレーネさんの声で何とか意識を繋ぎとめた。
セレーネさんは持っていたカプセルを私の手に握らせる。
「これはラピスと言う名の薬だ。ステラ・アルマの生命力となるアニマを固めたものだ」
「……へぇ」
「へぇ、じゃない! 知らない言葉がたくさん出てきてオーバーヒートしてる場合じゃないぞ。これをミラに飲ませるんだ」
「飲ませればミラは助かるんですか?」
「ああ、助かる」
「じゃあ飲ませます! ……え、でも気を失ってるのにどうやって飲ませたらいいんですか?」
「そんなもん、お前が口移しで飲ませろ」
口移し!
このシチュエーション、まるで毒リンゴを食べたお姫さまを助ける王子のようだ。
口移しだろうがなんだろうが、ミラが助かるというなら何だってやってやる。
「ただしこのラピスは必要以上にステラ・アルマの生命力を回復してしまう。だからまずは……」
「分かりました! 説明は後で聞きます!」
「あ、待て! 大事な事なんだから聞け!」
ミラが死ぬかもしれないこんな大事な時に詳しい話なんて聞いていられない。
一刻も早くこのカプセルを飲ませなければ。
私はそのラピスを口に含むとミラにキスをした。
口移しなんて初めてだったけど、ミラはちゃんとラピスを飲み込んでくれた。
「これで大丈夫なんですよね!?」
「やってしまった……まあ、とりあえず命は大丈夫だ。でもお前ちゃんと責任とるんだぞ?」
「責任って何の話ですか?」
「全く。人の話を最後まで聞けと言ったのに……。まあ楽しみにしているが良い」
それだけ言うと、セレーネさんはツィーさんの様子を見に行ってしまった。
詳しい話を聞きたかったのに。
どんな責任を取るのか分からないけどミラの命には変えられなかった。
ラピスと謎の懐中電灯のおかげもあってか大分ミラの顔色が良くなってきた気がする。
ツィーさんの方を見ると、九曜さんがセレーネさんに抱きついていた。
ツィーさんもどうやら一命は取り留められたらしい。
「良かったぁ……」
安心したらどっと疲れが出てきてしまった。
ただでさえ勝つか負けるか分からないギリギリの戦いだったのに、勝った後にこんなに大変な事になるなんて思わなかった。
寝転がるミラの頬を撫でながら、ようやく今日も生き残れたんだという実感が湧いてきた。
あれ?
そう言えば暁さんとサダルメリクちゃんはどこに行ったんだ?
戦いが終わってから二人の姿を見ていない。
セレーネさんが全員回収しているんだから、二人ともこっちの世界に戻っている筈だ。
周囲を見渡すと、ツィーさんが寝ている先にある、オーパへの歩道橋の上に二人の姿が見えた。
……あらぁー。
歩道橋の上にいるサダルメリクちゃんは、ツィーさんと同じくほぼ全裸になっていた。
サダルメリクちゃんも服が無くなるくらいのダメージを食らったみたいだ。
大事なところを全く隠す事なく隣にいる暁さんに食ってかかっている。
結構怪我をしているように見えるのに、暁さんの服を凄い勢いで掴んでいた。
確か戦闘の後は気性が荒くなるって言ってたもんな。
あんな怖い顔に豹変するんだ……。
何を話しているかは聞こえないので、ここから様子を見守る事しかできない。
でもまぁ二人とも元気そうで良かった。
そう思っていると、突然サダルメリクちゃんが暁さんをその場に押し倒して、あろう事か暁さんの着ている服を破り始めた。
「な、なんでぇ!?」
あの幼女のどこにそんな力があるのか分からないが、とにかくどんどん暁さんの服を破いていく。
いや、暁さんも嬉しそうな顔してないで抵抗してよ!!
「ステイ!! ステイ、サダルメリクちゃん!! せめて家まで我慢して!!」
私は、サダルメリクちゃんを止めるべく歩道橋に向かって走り出した。




