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第37話 甘く香る愛のバレットで⑩

「くそッ! 君はいつの間に現れたんだ!?」

『こそっと近づいて斬っただけだ。止まってる相手なら装甲の隙間を狙うのも簡単だしな!』


 相変わらずこそっと現れるのが得意みたいだ。

 おかげで助かったが、まるで生きた心地がしない。

 完全に死を受け入れた状態だったので、生還した事によって一気に現実感が襲ってくる。

 今更になって心臓がバクバクと騒きだし、全身がカタカタと震え出した。


 ……怖かった。

 どれだけ覚悟を決めても死ぬのは怖い。

 次の瞬間何も感じなくなって、もうそれきり私という存在は無くなるのだ。


 それを簡単に受け入れられるほど私は達観していない。

 ただミラと一緒に死ねるなら、と考える事で覚悟を決めただけだ。

 そのミラもまだ生きている。

 ならば今度は生きる為の覚悟をしなければいけない。


「ミラ、辛いと思うけど動けるようになったら教えて? 九曜さんとツィーさんを手伝いたい」

『うん! 待ってて。頑張って休む!』


 ミラが頑張って休んでくれるみたいなので、今のうちに次の手を打つ為の情報を集めよう。


 さっき狭黒さんに教えてもらったように、ファブリチウスの強化射撃をするなら反動を受け止めてもらう為の手頃な壁が必要になる。

 幸いこのあたりは背の高いビルも多いから、その壁を見つけるのは問題ない。


 それよりも大きな問題は……。

 私はモニターに表示されている情報ににがい顔をするしかなかった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 ギリギリ助けてもらったように、今度は未明子ちゃんをギリギリ助ける事ができた。

 

 だけど自分がさっきどういうダメージを受けたのかは把握しておかなければいけない。

 衝撃を受けた事による全身打撲と意識の昏倒。

 例えるなら、少し高いところから落ちたとか、バイクに跳ねられたとか、即死ではなかったけど満足に動けるような状態では無かった。

 痛くて苦しくて動けないと言うのは簡単だけど、それを我慢できなかったら死ぬだけだ。

 だからアタシは自分に喝を入れて頑張るしかない。


 それよりもツィーだ。

 少し休んで動けるとは言ったものの、その体に受けているダメージはアタシとは比べものにならない。

 左腕のフレームにヒビが入ってるって事は、おそらく骨にヒビが入ってるって事だと思う。

 お腹の部分が真っ赤になってるのは、これもおそらく内出血してるって事だと思う。

 普通の人なら絶対安静。

 こんな状態で動き回ったら多分死ぬ。


 アタシが変わってあげられたらいいのに、悔しいけどそれはできない。

 アタシにできることは、なるべく最小限の動きで敵の攻撃をかわして、なるべく最小限の攻撃で敵にダメージを与える事。

 

 いまの敵の装甲は未明子ちゃんの砲撃のおかげでボロボロだ。

 さっきまでと違ってちゃんと攻撃が効いている実感がある。

 やはり右胸の壊れかけた装甲を完全に破壊して、本体に大打撃を与えるのが一番だ。

 ようやく攻略の糸口が見えてきた。

 後は敵の攻撃を絶対に食らわない事だ。


「斗垣さんさぁ、何でうちの未明子ちゃんがそんなに欲しいの? こっちの世界に来た時も結構こだわってたじゃん」


 攻撃を避けながら的確に弱点を狙っていく。

 敵のスピードがかなり落ちているので、今のアタシでも何とか避けられる。


「何だろうね。彼女がいてくれたら絶望も何とかなる気がするんだよ」


 敵の大剣が右肩ギリギリを通過する。

 風圧だけでも腕を持っていかれそうだ。


「実際、あの絶望的状況からここまでひっくり返してくれたしね!」


 右胸を狙ってアイヴァンを振り下ろすと、敵は初めて武器を使ってこちらの攻撃をいなした。

 そこに攻撃を受ける事が致命的なダメージになる事を理解しているのだろう。


「うん、そうだね。でもそういう能力的な事では無いんだ。もっと気持ち的な支えと言うか、いてくれたら頼もしいと言えばよいのか」

「幸運の女神的な?」


 敵と三合斬り合い、三度の金属音が響く。

 敵の攻撃を避けるばかりだったのが、斬り結ぶところまでやってきた。


 このまま時間をかければ仕留めるところまでいけるかもしれない。

 でも、モニターの端でツィーのお腹の赤色が広がっていくのが嫌でも目に入ってしまった。

 その時間がツィーにあるかどうかは怪しい。


「彼女がいれば僕達はこれからの戦いも勝ち続けられる気がするんだよ」

「だとすれば、この戦いは未明子ちゃんがいるアタシ達の勝ちだね」


 左腕は使っていないのに攻撃の衝撃だけでヒビが大きくなっている。

 このまま攻撃を続けて、もし左腕が折れたらそちら側の攻撃はいなす事ができない。

 回避の仕方に偏りが出て敵の攻撃を避け切る事ができなくなる。

 生き残る事を前提にするなら、ここが踏みとどまれる最後だ。


 

『五月。あまり無理するな。できることはやった。後は夜明達に任せて撤退も視野に入れろ』

「それツィーが言うの? ツィーが今どんなに痛くて苦しいか全部分かってるんだからね」

『馬鹿者。ステラ・アルマの頑丈さを甘く見るなよ。こんな怪我なんか焼肉食べたら治る』

「じゃあ、打ち上げは焼肉で」

『食べ放題な』

「食べ放題で」


 あーあ。

 ずっとこんなやり取りをしていたいな。

 明日も来年も、死ぬ瞬間も。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






『未明子、もう大丈夫。動けるよ』

「嘘だ! 絶対無理してるでしょ!?」

『未明子だって無理してるでしょ? 私はステラ・アルマだから大丈夫だよ』


 ステラ・アルマが頑丈だって言っても、モニターに表示されているダメージ状況を見たらどう考えても大丈夫な訳がない。

 でもミラにやってもらわないとどうにもならない事も分かっている。


 私は呼吸を整えてミラを立ち上がらせた。

 ゆっくりではあったが何とか立ち上がり、少し離れた場所に落ちていたファブリチウスを拾う。

 これで九曜さんの援護に行く事ができる。

 

 九曜さんが戦っている方に向けて走ろうとすると、視界の先に絶対に見たくない光景が映っていた。

 

 敵が大剣を頭上に掲げている。

 

 つまり再びあの固有武装が来るという事だ。


「ざくろっち! 未明子ちゃん! 逃げて!!」


 九曜さんが必死の声で訴える。

 いま敵の攻撃範囲には、九曜さんを含め全員が入っている。

 このまま撃たれたら全滅は免れなかった。


 だが、残念ながら逃げるという選択肢は無かった。

 まだ狭黒さんが目を覚ましていないのだ。

 私だけが何とか逃げられたとしても、狭黒さんとアルフィルクは確実に死ぬ。

 

「九曜さん、狭黒さんとアルフィルクを置いて逃げられないです」

『なに言ってるのよ! そんな事言ってたらあなたまで死ぬでしょ!? 私達の事は諦めて逃げなさい!』

「やだ」

『こんな時に聞き分けのない事を言わないで!』

「諦める前に一か八かに賭けるよ」


 ヤケクソになっている訳では無い。

 私なりに勝算はあるのだ。


「ファブリチウスの砲撃、まだフルパワーでは撃ってないんです。さっきのは七割くらいに抑えました」

「えっ!?」

「フルパワーで撃てば、あの固有武装に立ち向かえるかもしれない」

『あのバカみたいな攻撃と相殺を狙ってるの!? 無理に決まってるじゃない!!』

「うん。真っ向勝負しても絶対に勝てない。だから九曜さん、手伝ってくれませんか?」

「アタシ!?」



 内部通信で、私が考えている事をみんなに話した。

 たいした作戦ではないが、今できるのはこれくらいしかない。



「……分かった。何とかやってみる!」

「お願いします。うまくいけば全員助かります」

『そんなリスクを負わなくても私達を見捨てればいいのに……! 夜明だってそう言うわよ……」

「じゃあもしうまくいったら、アルフィルクに何か奢ってもらおう。ね、ミラ」

『うん。楽しみにしてるね』

『馬鹿……』


 そんな事をやっている間に敵のチャージはもう終わりそうだった。

 あの時と同じように、掲げられた剣には禍々しいエネルギーが集まっている。

 敵が立っている場所が振動して、周囲のビルが崩れる寸前の悲鳴をあげていた。


 汗が蒸発していきそうな程の殺気を向けられて、すでに生きた心地がしない。


 私は近くにあったビルに背中を預けた。

 七割の射撃で転倒したのだ、もしかしたらこんなビルでは緩衝材にならないかも知れない。

 でも他に方法も思いつかなかった。


 敵に向けてファブリチウスを構える。

 ファブリチウスの直線上で、敵が大剣を掲げてこちらを見据えていた。


「最期まで抵抗するのは立派だが、逃げた方がいいんじゃないかな?」

「あんなに攻撃範囲が広かったらどっちみち巻き込まれるから無理です! それに両親から仲間を置いて逃げるくらいなら死ねと教え込まれているので」

「過激な両親だ。どのみち君を逃がす気はないがね。最後にもう一回だけ聞いておこう。降伏する気はないかい?」

「何でそこまで降伏を迫るんですか? そんなに私達が仲間にならないと困りますか? こんなに殺さないように気を使って戦われるなんて思ってなかったですよ!」

「……流石に気づかれていたか」


 当然だ。

 もっと冷酷に戦われていたらあっという間に全滅だった。

 とどのつまり、敵は最初からこちらを本気で殺すつもりはなかったのだ。


 固有武装を威嚇に使ったのも、ツィーさんのトドメを刺さなかったのも、私を斬らなかったのも、こちらを追い詰めて追い詰めて、最後には根をあげさせるのが目的だったのだ。

 それくらい戦っていれば嫌でも気付く。


「これからの絶望に立ち向かう為だよ。僕達だけの力では、このさき生き残る事はできない。戦う力はいくらでも必要なんだ」

「そういう人は自分の世界で探して下さいよ! 他の世界の人間が、自分の世界を諦めて戦う訳がないでしょ!?」

「そんな事はないよ。僕がそうだからね」

「え?」


「元々僕の世界には撫子しかいなかった。あ、撫子って言うのはいま君の仲間と戦っているアルゲニブのステラ・カントルだよ。その撫子と一緒に、桝形姉妹の世界に移ったんだ」

「ど、どうして……」

「君達と同じだよ。二人に自分の世界は捨てられないって言われたからね。だから僕と撫子は自分の世界を諦めた。どうしても仲間が必要だったんだ」

「そんな……」

「交換条件さ。二人に仲間になってもらうにはそれしかなかった」


 狭黒さんの読み通り、やはり今の斗垣さんの仲間は別の世界の人間だった。

 ただ違っていたのは、斗垣さん自身が自分の世界を諦めた側だったのだ。

 

「撫子さんはそれで納得したんですか?」

「撫子は身寄りも無かったからね。僕の意見を尊重してくれたよ」

「じ、じゃあ今度はみんなでこっちの世界に来ればいいじゃないですか……」


 自分でも馬鹿な事を口に出したなと思った。

 そうじゃないだろ。

 交換条件って言ってたじゃないか。


「桝形姉妹が仲間になる条件は、自分の世界を守って戦う事。僕には二人の世界を守る約束がある」


 そういう事だ。

 何のかんの言っているがこの人は一番最初に覚悟を決めた人だった。

 本気で仲間を集めていて、その為にまず自分の大事なものを犠牲にしたんだ。

 ならば交渉のための斗垣さんの手札は尽きている。

 これ以上仲間を増やすなら、もう戦いで相手を服従させるしかない。


「さて。僕の身の上話を聞いてもらった上で、改めてもう一度聞こう。こちらの世界に来て一緒に戦ってはくれないか? 僕達にはまだ仲間がたくさん必要なんだ。本当に倒すべき相手と戦う為に」


 本当に倒すべき相手と言うのがどういう意味かは分からないが、相手にどんな事情があろうと私達には私達の事情がある。

 例え死ぬ事になってもこの世界を諦めるのは嫌だ。

 私はこの世界でミラと一緒に暮らしていくんだ!


「断ります!!」

「ああ、そうだろう。……ならばせめて君達に安らかな死を」



「アルファラスッ!!」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 

 敵の放った蹴りが左肩に命中する。

 やはり盾が一つでは敵の素早い攻撃には対処しきれない。

 肉弾攻撃とは言え、何十発も食らえばダメージも甚大なものになる。

 モニターに映るダメージレポートは真っ赤に染まっていて、メリクはすでに戦闘継続不能の段階に入ろうとしていた。


「あのさぁ、もう諦めなよ。ここから勝ち目なくない?」

「そうでしょうか? 強がっておられますがそちらのダメージも深刻なのでは?」


 盾の直撃を受けてタダで済む訳はない。

 敵も重量級だったから助かっただけで、本来であれば体が潰されるほどの衝撃があった筈だ。

 

「そうだとしても、もう破壊寸前の奴なんてどうとでもなるよ」


 敵の固有武装はすでに捨てられていた。

 盾一つで弾切れまで耐え切ったのだ。

 あの武器一つで何体ものステラ・アルマと戦えるほどの装弾数があるのに、それをたった一体に弾切れまで追い込まれたのは計算外だったであろう。


 代わりにこちらは満足な動きができなくなるほどのダメージを受け、そこからは一方的に殴る蹴るの暴力に晒されているのだった。



『…………』


 いま一番恐れているのはこのままやられてしまう事ではない。

 メリクの怒りが限界を越えてしまわないかだ。


 ここまで追い込まれた事によってメリクはすでにかなりの怒りを溜め込んでいた。

 このままだと、例え勝利したとしても家に帰った後の自分への報復が凄惨なものになるのは免れないだろう。

 ある程度は許容できるが、度を越えた場合は身の保証ができない。



 敵はこちらの盾による攻撃を警戒して一撃離脱を徹底している。

 このまま攻撃を食らわずに削っていけば勝てると踏んでいるのだ。

 だがそこに付け入るスキがある。


「これ以上やられると本当に負けてしまいますね。そろそろ反撃させて頂こうと思います」

「それは少し遅かったんじゃないかな? 何で今まで反撃してこなかったの?」

「もちろん、あなたの攻撃を見極める為ですよ」

「どういう事?」


 ただ殴られ続けた訳ではない。

 攻撃されながらも反撃に転じる為の準備を整えていたのだ。


 最後に仕掛ける為の一番適切な場所も確保できた。

 この場所ならこちらの狙いもうまくいくだろう。


 敵がこちらの言葉を警戒して間合いを取るのを確認すると、持っている盾を地面にそっと置いた。


「盾を捨てた? 降参って事?」

「まさか。これで動きやすくなりました。ここからはあなたの攻撃を全て捌いてみせましょう」


 置いた盾から少し離れると、両手を前に構えて腰を落とした。

 ここからは敵と同じ土俵にあがって格闘で対抗する。

 メリクで格闘戦をするのは久しぶりだった。


「お嬢様が武道の真似事かな?」

「真似事なんて立派なものではありませんよ。ただの嗜みです」

「あのー、皮肉ってるのを華麗にかわさないで頂けます?」


 敵が一足飛びからの前蹴りを仕掛けてくる。

 

 少しだけ体を引いて軸をずらし、相手の蹴りを流れるように左手で捌く。

 すかさず浮いている敵の腹部に右手の掌を叩き込んだ。


「ぐうっ!」


 敵は打撃をもろに食らって吹き飛ぶが、すぐに体勢を立て直して殴りかかってきた。


 これがフェイントなのは読めている。

 こちらの防御が上がったところに、また蹴りを繰り出してくるつもりだ。

 故にここは焦らず一歩下がる。

 そして、こちらが先に蹴りを放つ。


 敵はフェイントを読まれた事に気づいて攻撃を中断するが、距離を詰めていた為にこちらの蹴りを避けられなかった。

 重い蹴りが命中する。

 敵は両手で蹴りを防御するも衝撃でしばし硬直せざるを得なかった。


 その硬直のタイミングを逃さず左腕でもう一度掌打をお見舞いする。

 敵はその掌打も防御するが、二連続の攻撃によって大きくバランスを崩した。


 バランスを崩した相手にすかさず右腕の掌打を打ち込むと、その掌打は見事に敵の体にめり込んだ。


 

「うわあッ!」


 完璧に攻撃がヒットして敵は再び吹き飛ばされた。


 こちらが両手を構え直すと、ヨロヨロと立ちがり距離を取る。


「流石にあれだけ攻撃を打たれれば、これくらいのお返しは可能です」

「嗜みなんてレベルじゃないね。何か格闘技をやってるの?」

「母が昔、合気道の有段者だったそうです。それで少し鍛えてもらいました」

「合気道って、こう、もっとふわっとした感じじゃ無かったっけ?」

「武道にふわっとしたものはありませんよ。打たれる痛みと、地面の硬さを知るだけです」

「こ、怖っ……」


 このまま敵の攻撃を受け流して削っていけば、いずれは倒す事も可能。

 しかしメリクの機嫌の問題もあるので次の攻撃で片をつけさせてもらう事にした。

 こちらが盾を捨てた事で、この場面での敵の次の攻撃は完全に読めている。


「私もこんな自己流じゃなくて、ちゃんとした格闘技を習いたかったな」

「今からでも習えば良いのではありませんか?」

「もう自分の形で固まっちゃったもん。いまさら上書きするのは面倒だよ」

「それは分かります。好きなように体を動かすのが一番ですよね」

「そう言う事!」


 敵が走って距離を詰めてくる。

 そう。

 いま自分で言っていた通り、この敵は戦いの流れではなく自分の型で攻撃をしてくるタイプなのだ。



 だから最初に右足の蹴りが来る事も分かっている。

 これは避けずに左腕で防御する。


 そして次に左、右の順で突きを繰り出してくる。

 これは動きを最小限にして避ける。


 すると、最後に全体重を乗せた左回し蹴りが飛んでくる。

 

 思った通り。

 この戦いの一番最初に敵が使ってきた連携だ。

 おそらく一番自信のある攻撃なのだろう。

 こちらが盾を捨てて、通常の攻めが通用しなくなったら必ずこの連携が来ると読んでいた。


 回し蹴りをかわして、敵の蹴り足を両手で掴む。

 片足を掴まれてバランスの悪くなっていた右足を刈り取り、敵を宙に浮かせた。

 これで敵は何もできない。


 宙に浮いた敵を、掴んだ左足を軸にして投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた敵は宙で一回転して、頭から地面に叩きつけられた。


 居合の力を利用した真空投げだ。



 例え相手の重量が自分を上回っていようが有効な難易度の高い技だが、相手が何をしてくるのか読めていれば決めるのは容易い。

 地面に叩きつけられた敵は、声も出さずに悶絶している。


 だが、試したかったのはこの技ではない。

 これはその技を決める為の予備動作だ。



 倒れた敵から離れると、先ほど捨てた、いや、窪みに置いた盾に向かってメリクを走らせる。


 盾は窪みに斜めに置かれていて、さながらレールのようになっている。

 無限軌道の走力を全開にして盾の上を走り、レールに沿って今度はこちらが宙に浮いた。

 そのまま倒れている敵めがけて落下する、メリクの全体重をかけたボディプレスである。



 敵の目にはさぞ恐ろしいモノが見えていただろう。

 今まで目の前にいた巨大が空から自分に向かって降ってくるのだから。


 潰されたら一巻の終わりどころではない。

 機体は操縦席ごとペシャンコである。


「く、くそっ!!」


 踏み潰される寸前、敵は光に包まれるとその場から消えた。

 どうやら撤退したようだ。 

 

 何もなくなった場所にメリクが落下して、地響きと共に地面が陥没した。

 見事に周囲が凹み、まるで地中貫通爆弾バンカーバスターが落ちたようだった。


 良かった。

 敵に負けを認めさせるには絶好の技だが、実際に踏み潰すのはあまり気分が進まない。

 グシャグシャになったステラ・アルマなど見たいものでは無いから諦めて撤退してくれたのはこちらとしても有り難かった。


 何はともあれ決着である。




 勝つには勝ったがギリギリの勝利となってしまった。

 敵の固有武装との相性の悪さが際立ち、装備次第では敗北も十分ありえた。

 同じ等級にここまで追い込まれるとは特別な3等星とはよく言ったものだ。


「メリク、大丈夫ですか?」

『……』

「かなりお怒りみたいですね」

『……すばる。今夜も一緒に寝るからね』

「はい。お手柔らかに」


 ……。

 自分にとっての本当の戦いはこれからかもしれない。


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