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第34話 甘く香る愛のバレットで⑦

《五月くん、例の武器を使用する前にカウントダウンしてくれ。それに合わせて私と未明子くんも攻撃を開始する》

「オッケー。攻撃を避ける事を優先するけど、なるべく接近して使うね」


 ざくろっちが何に気づいたのかは分からない。

 でもアタシは言われた通りにやるしかない。

 このまま戦い続けたとしても万に一つの勝ち目も無い。

 せめて他のみんなが少しでも有利になるように全力を尽くそう。


 斗垣とかき・コスモス・桔梗ききょう

 戦いの前に乗り込んできたり、散々煽り散らしてきたり、はっきり言って好きじゃない。

 アタシ達がやっているのはプライドを賭けた ”試合” じゃなくて、命を懸けた ”殺し合い” だ。

 殺す相手が誰かなんて知る必要は無いし、何を考えているかなんてもっと知る必要がない。

 相手の顔を思い浮かべながら斬るなんて最悪だ。






 10分程前――――。


「さてツィー、それに五月。戦いの前に一つ聞いておかなければいけない事がある」

「アンタさ、何か喋ってないと戦えないの?」 

「そう邪険にしないでくれよ。ただ戦った相手の事をなるべく知っておきたいだけなんだ」

「何でアンタの中では勝ちが決まってるのか本当に分かんない。自分が負ける姿は想像できないタイプ?」

「負けないように色々努力しているからね。君だって絶対に勝つつもりだろう?」

「そりゃそうでしょ。だけどそれと負ける姿を想像しておくのは別の話。負けたら死ぬんだから、常に覚悟はしておかなきゃ」

「そう。それを聞いておきたかったんだ。負けて死ぬのは悲しい事だ。だから死ぬよりは僕達と手を組んだ方がいい。それなのに僕達の誘いを断る理由をちゃんと聞いておきたくてね」

「は? だからアタシ達は自分達が住んでる世界を残す為に戦うって言ったよね?」


 前にこっちの世界にやってきた時もコイツは言っていた。

 自分達の世界に来て一緒に戦ってくれと。

 どうしてその考え方がまかり通ると思うのだろうか。

 もし本気でそう思っているなら、自分達がこっちの世界に来ればいいんだ。


「君達がいる世界も僕達の世界も基本的には同じ世界だ」

「分かってて言ってるの? そっちの世界にはそっちの世界のアタシがいるでしょ? 同じ人間がいる世界でどうやって暮らせって言うのよ?」


 数ある世界はいわば元の世界のコピーだ。

 同じ国があって、同じ街があって、同じ人間が生活している。

 その世界ごとに九曜五月はいるし、斗垣・コスモス・桔梗もいる。


 決められた世界にしかいないのはステラ・アルマだけだ。

 ステラ・アルマだけは、すべての世界の中で一人しか存在しない。


「僕達の世界にいる九曜五月を消せばいいじゃないか」


 とんでもない事をあっさりと言い放った。

 こちらが想像もしないような事をあたり前のように言われて頭が痛くなる。

 本当に、心の底からコイツとは考え方が合わない。

 

「自分を消して成り代われっての!? アンタどっかおかしいんじゃない!?」


 コイツと会話をしていると頭に血がのぼってくる。

 こちらの冷静さを欠くつもりなら効果抜群だ。

 だがコイツはそういうつもりで話していない。

 本気でそう思って話している。

 それが余計にかんに障る。


「どうしてだい? 君達が勝てば、僕達の世界の九曜五月は消える。それと何が違うと言うのかな?」

「それは仕方の無い事でしょ? 仕方の無い事と、アタシが成り代わるのじゃ全然別の話じゃない!」

「五月。それは事実から目を逸らしているだけだよ。地球の裏側で、知らない誰かが死んでも全く胸を痛めないのと同じ事さ」

「じゃあアンタは世界中の人の死に心を痛めてるって言うの?」

「そうだよ。僕は自分の世界だけじゃなく、全ての世界の人の事を考えている」


 コイツはこの戦いの意味が分かっているんだろうか。

 勝者が決まれば敗者の世界は消滅する。

 コイツだって今までどこかの世界を犠牲にして生き延びてきた筈だ。

 そんな奴がすべての世界の人間の事を考えているなんてとんだお笑いぐさだ。


「じゃあアンタこの戦いには向いてないよ」

「そうだよ。全く向いていない。僕はこの戦いに参加しているステラ・カントルの中で一番戦いに向いていない自覚がある。だから僕はこの戦いを終わらせようと考えているのさ」

「戦いを終わらせる?」

「君も分かっているんだろ? この戦いには、戦いを仕組んだ者がいる」


 ……は?


 戦いを仕組んだ者?

 そんな奴がいるなんて話は聞いた事が無い。


 突然告げられた事実に驚いて、戦闘体勢を解いてしまう。


「……アンタ……何の話をしているの……?」

「僕の質問に答えてくれたんだ。こちらも質問には答えておこう。いいかい? ステラ・アルマは等級によって知らされている真実が違う。等級が高いステラ・アルマほどより多くの真実を知っているんだ」


 聞いた事の無い話が次々に出てきて頭が混乱してきた。

 この戦いについて私達の知らない事実がある?

 

「ペガススの大四辺形、アンドロメダ座2等星のアルフェラッツが知っている真実は、この戦いには戦いを仕掛けた者がいるという事。各世界の管理者はそいつに派遣された者達だ。君も不審に思った事はないかい? 世界の消滅を賭けた突発的な戦いが整備されたルールで行われている事を」


 勿論ある。

 アタシもざくろっちもすばるちゃんも、最近仲間になってくれた未明子ちゃんですら同じ事を思っていた。

 戦いに際してのスケジュール調整。

 戦いの為のフィールドの準備。

 勝利者への報酬と、その報酬によるステラ・アルマの強化。


 この戦いは管理されている事が多すぎるのだ。

 まるで何かのゲームみたいに。


「数々のルールはそいつが決めた事だ」

「……マジで?」

「僕はこの戦いを操っているヤツを倒したい。そしてこの戦いを終わらせたい。だから一緒に戦ってくれる仲間を集めているんだ。君達が一緒に戦ってくれると約束してくれるなら、僕達の知っている事をすべて話そう」


 だとしたら、アタシ達はソイツの手の平の上で遊ばれている事になる。

 命を懸けて別の世界を犠牲にするこの戦いが、ソイツの決めたゲームのようなモノだとしたらアタシ達は何の為に戦っているのか分からない。

 今まで殺してきた相手も、消滅させてしまった世界も、本当は必要の無い犠牲だったとしたら……。


 これまでの目を背けたくなるような戦いの事を思い出して吐き出しそうになった。


 考える事が多すぎて頭がパンクしそうだ。

 どこから、いや何から処理していけばいいのか整理がつかない。

 一人では抱えきれない事実を知らされて発狂してしまいそうだった。



『五月。落ち着け』


 聞き馴染みのある、安心する声が聞こえる。


「……ツィー、ステラ・アルマが等級によって知ってる事実が違うって本当?」

『正直知らんかった。たまにサダルメリクとアルフィルクと話が合わない事があるなとは思っていた』

「じゃあそれは本当なんだ」

『分からん。そうなのかもしれんし、そうじゃないのかもしれん。それよりもアイツの話を鵜呑みにするな』

「……え?」

『今の段階ではアイツの言ってる事が正しいか判断する事はできん。こちらを惑わす為に適当な事を言っている可能性はある』

「で、でも嘘を言ってるようには思えないよ!」

『じゃあ仮に本当の事を言っているとして、戦いをやめてアイツの仲間になるか?』


 それはつまり、私達の世界を諦めると言う事だ。

 その選択肢はありえない。


『とりあえずアイツをぶっ倒して知ってる事を聞き出せばいいんだ。悩むのはそれからでいい』

「う……うん。そうだね」

『まぁ内容が内容だけにいきなり切り替えができないのは仕方ない。私もちょっと動揺して右手の小指がピクピク痙攣している』

「え? ツィーって動揺するとそんな面白い挙動すんの?」

『面白い挙動とか言うな! 結構気にしてるんだ』

「へぇー。……後で見せてね?」

『断る。もう絶対誰にも言わん』


 こんな時にツィーの新しい秘密を一つ知ってしまった。

 いつものやり取りをした事によって少しだけ気持ちが晴れた。


 ツィーの言う通りだ。

 今はアイツの言っている事が本当かどうかは分からない。

 悩んでも詮無きことだ。

 そろよりも、アイツの正体を探る為に色々仕掛けてみるのがざくろっちから頼まれた私の仕事だ。

 

「さあ、君の答えを聞かせてくれ。九曜五月」

「あ。待っててくれたのはありがとうね。だけどやっぱりアンタの誘いには乗れないわ」

「ここまで話してもダメなのか」

「うん。まあ理由は色々あるけど、一番はアンタの事が好きになれないって事だね」

「そうかそうか。僕はモテないな」

「だからごめんね。アタシは戦うわ!」

「構わないよ。こうなったら僕も君を倒す事を躊躇しない。全力で叩き潰す事にしよう!」


 そう言って軽く笑った敵の空気が一瞬で変わった。

 それまで纏っていたどこか胡散臭い空気ではなく、有無を言わせぬ威圧感をまとった空気になった。

 敵からの刺すようなプレッシャーを感じてズシリと体が重くなる。

 そのプレッシャーを跳ね返すように、アタシは全力で斬りかかった。



 そこから何度も斬りかかっては弾かれ、敵の攻撃をいなしてはダメージを受け、

 たった十数分の間に、こちらの勝ちの目は全て削がれてしまった。






《じゃあ行くね! ……5!》

 

 ざくろっちに言われた ”アレ” と言うのは、改造したハンドグレネードだ。

 武器を改造できる事が分かると、ハンドグレネードの汎用性の高さを知っていたざくろっちはセレーネさんに色んな改造を提案した。

 アイデア自体を却下された物も多かったけど、その中でもこのハンドグレネードはギリギリ改造が許された物だった。

 使いようによっては高い効果を発揮するけど、相手によっては全く効果を発揮しない癖の強い武器だ。

 ざくろっちは何故か癖の強いアイテムを好む傾向がある。

 この武器もその癖の強さ故、結局一度も使ってこなかったのだ。


 私はナビィを指で握って、手の平で腰のホルスターから改造ハンドグレネードを取り出すと、敵から見え辛いように素早く握り込んだ。

 ここまでの攻撃を全部受けている相手だ、ハンドグレネードだろうと避けないかもしれないが、このハンドグレネードはある条件になると意味が無くなる。

 その条件を作らない為にも、直前まで隠しておいた方が都合がいい。



 今までと同じように剣で攻撃するかのように突撃する。

 まっすぐ向かうこちらに対して、敵が大剣を振り下ろしてくる。


 相変わらず凄まじいスピードだ。

 それを何とかギリギリで回避すると、アイヴァンで斬りかかるフリをして相手の頭上に近づく。

 敵は今度も避けようとせずにあの硬い装甲で守りきるつもりだ。


 そこへ握り込んでいたハンドグレネードを投げ込む。

 そして私は目を腕で覆った。


「……ゼロ!」


 そのハンドグレネードは爆発を起こす代わりに、まばゆい閃光を撒き散らした。

 ガスグレネードが黒煙を撒き散らすなら光を発生させるこの爆弾はフラッシュグレネードだ。

 

「何だと!?」


 目の前で閃光をくらった敵がおののく。 

 腕で目を覆っているこちらですら、貫通してくる光でまぶしいくらいだ。

 これを目の前でくらった敵はしばらく視力を失うだろう。

 そこを攻撃するのがこのハンドグレネードの持っている戦術だ。


 ただし今回に限っては敵の視力が効かなくなったトコロでこちらの攻撃は効かない。

 ほんの一瞬、相手の目をくらましただけだ。

 

 爆弾から発せられた光がおさまったので距離をとって様子を伺う。

 敵の視力が戻っておらずいわゆるスタン状態だが、それでも攻撃する意味がない。

 それどころか敵がこちらの動きを嫌って考えなしに大剣を振り回したら、それに当たってしまう恐れもある。  

 今は様子を見る以上の事はできない。 


 ざくろっちは逆転の一手と言っていたが、果たして効果はあったのだろうか。


「くっ……こんなカスタムグレネードがあったとはね。してやられたよ。これを使うという事は、こちらの意図に気づいていたのかい?」


 特に状況が変わった訳でもないのに、敵の声には悔しさが滲んでいた。

 

「いや、別の誰かの指示か……しかしこんな全員でタイミングを合わせてくるなんて。この距離では内部通信はできない筈なのに……」


 ブツブツ一人言を言っているが要領を得ない。

 だが、こちらが思っている以上に効果があったようだ。


「手加減して撤退させるつもりだったが、こうなったら仕方がない。破壊されても文句を言わないでくれよ?」


 視力が回復したらしい敵は、初めてこちらに攻め込んできた。

 今まで自らは動かずにこちらの攻撃をいなすだけだったのだ。

 何か攻めなければいけない理由ができたらしい。

 

 敵との距離を取ろうと思うもすでに遅く、予想以上の素早さで接近されてしまった。

 ここに至って油断していた。

 こちらのスピードについてこられるくらいなのだ、移動速度だって早いに決まっている。


 今まで以上にキレのある剣の振り下ろしが襲ってくる。

 だがこの攻撃はフェイクだ。

 敵の重心がすでに蹴りを放つ為の重心に変わっている。

 大剣をギリギリでかわした所を蹴り飛ばす気だ。

 さっきまでの戦い方と打って変って、とにかく相手を倒す事に傾倒した戦い方だった。

 

 蹴りが来ても届かない範囲まで大きく回避する。

 敵はこちらが振り下ろしをフェイクと判断した事に気づいたらしく、蹴りの代わりに一歩大きく踏み込んで来た。

 そこから大剣を横薙ぎに振るう。


 リーチが長すぎて後方にステップしたのではかわし切れない。

 かと言ってジャンプで上に逃げたら着地を狙われる。

 残ったのは下だ。

 素早く判断し、剣閃よりも下に体をかがめて横薙ぎを回避した。

  

 真上を轟音とともに大剣が通り過ぎていく。 

 風圧だけで飛ばされそうになるが、剣が振り切られたのを見て後方に距離を取った。



「相変わらずいい動きをするね。だがいつまでかわせるかな?」


 回避に専念しているのにも関わらずギリギリの綱渡りだった。

 何か一つ判断を見誤れば大ダメージを受けるか、真っ二つに切り捨てられる。

 こちらの攻撃は効かないのに、相手の攻撃をくらえば終わりという理不尽な戦いが続く。


「かわせなかったら私達の負けだね」

「君は達観してるね。それが負けを覚悟するというやつかな?」


 この期に及んでしっかり煽ってくる嫌な奴だ。

 だがすでに勝ち目のないこちらにとっては暖簾に腕押しだった。

 煽られたところで回避しかできないんだから。


「ツィー、ごめんね。私の力不足だ」

『何を言っている。コイツが規格外だっただけだ。五月はよくやってくれているぞ』


 死ぬとしてもツィーと一緒だからいいか。

 恋人に包まれて一緒に死ねるなんて、それはそれでロマンがある気がする。

 今まで自分が倒していった相手の気持ちが少し分かった。


 敵が大剣を再び構える。

 今度は剣を右肩に乗せて、大きく袈裟斬りを仕掛けてくる気だ。

 

 また選択肢だ。

 右に逃げたら斬られて死ぬ。

 後に逃げたら踏み込んでリーチを伸ばされて斬られて死ぬ。

 下に逃げ場がない以上、左に避けるしかない。


 でも左に逃げたらさっきみたいに横一文字に切り返してきて、同じようにかがんで回避したら、今度は振り下ろしで追撃してくるんだろうな。

 その時の体勢によっては追撃を回避できずにやっぱり斬られて死ぬ。

 生き残る道があるとすれば……。


 こちらが活路を模索するのも構わず、敵の大剣が振り下ろされる。


 アタシは後に逃げる事を選択した。

 こちらが距離を取った事に反応して敵が一歩踏み込んでくる。

 逃げた分を踏み込みで帳消しにされたが、振り下ろされてくる大剣をアイヴァンとナヴィを使ってガードした。

 

 ガキィン! という金属音が響き、敵の大剣を受け止める。


 まるで戦車でも降ってきたかのような重圧を刀でいなそうとするが、敵のパワーはこちらを遥かに凌駕している。

 いなす間も無く、そのまま地面に叩きつけられてしまった。


「……!」


 あまりの衝撃に声を出す事もできない。


 地面に叩きつけられた反動で体が宙に浮くと、敵は浮いた体に蹴りを放ってきた。

 回避も防御もできずその蹴りをまともに喰らうしかないアタシは、さらなる衝撃と共に吹っ飛ばされたのだった。

 

 ビルにぶつかるが勢いが止まらず、いくつものビルを破壊しながら吹き飛ばされて行く。

 障害物にぶつかる度にここで止まって欲しいと願いながらもまったく勢いが落ちない。

 気が遠くなるほどの距離を飛ばされて、感覚が麻痺しはじめた頃、電車の車庫のような所にぶつかってようやく止まる事ができた。 


 体中が悲鳴をあげている。

 痛いと感じられるので少なくとも生きてはいるらしい。 

 空を仰ぐような仰向けの姿勢のまま動く事ができず、とりあえず自分の状況を確認した。


 かろうじて体は繋がっているが装甲は全部破壊された。

 本体へのダメージが酷くモニターのダメージレポートがアラートだらけになっている。

 ナビィの刃はまた粉砕されて、アイヴァンにもヒビが入っている。

 ツィーの体はいまだかつてないほど壊されて、アタシ自身も色んな所にぶつかってアザとコブと血だらけだ。

 


 視線の先にある空は青々としていて大きな夏雲がゆっくりと流れている。

 穏やかで美しい空だった。

 アタシ達が吹っ飛んできた事で逃げた鳥達が、高い所を飛んでいるのが見えた。

 人はいなくなっても、鳥はまだいるんだな……。



「負けたね!」

『負けたな!』


 言い訳できないほどにやられてしまったので、かえって気分が晴れていた。

 でもやれる事はやった。

 残ったみんなには悪いけど、何とか頑張って欲しい。



 遠くからこちらに近づいてくる敵の足音が聞こえる。

 目を閉じてそれを穏やかな気持ちで待った。


「もう動く事はできないだろう? 撤退したらどうだい?」


 目を開けると、アタシの嫌いな奴がこちらを覗き込んでいた。

 もう死にかけてる奴なんて放っておいて他の援護に行ってもいいのに、トドメを刺しに来てくれるのは律儀だなと思った。


「いいよ。ここでツィーと二人で死ぬ」

「この後、劇的な逆転があるかもしれないよ?」

「そうだとしたらなおさら撤退できないじゃん。ここで見届けなきゃ」

「君は潔くていいね。だが、残念だけどお別れだ」


 敵は大剣を操縦席の真上にあてがった。

 二人で死ぬなら、このまま一緒に貫いてやるという配慮なのだろう。


 結局ざくろっちに託された切り札を使う事なくリタイアになってしまった。

 ツィーと試したかった事もできなかったし、無念と言えば無念かな。

 最後に思い浮かべるのが、友達でも家族でもなくてツィーの顔なのが少し嬉しかった。


 

 ごめんねみんな。じゃあね



 胸の上の大剣が持ち上がると、一瞬ののちに勢い良く突き刺さった。






 ……地面に。

 


 あれ。もしかして剣が外れた?

 この至近距離で外すなんて事あるのかな。

 何にせよまだ死んではいない。


「やれやれ。やはり間に合わなかったか」


 何が起こったのか分からないでいると、見上げる先に赤いビームが通過していった。

 ……2本。……3本。

 アタシが倒れているすぐ真上を、景気良くビームが通過していく。

 

 この赤いビームは、ミラちゃんのファブリチウスの砲撃だ。

 つまり


《九曜さん!! 大丈夫ですか!?》


 未明子ちゃんが援護に来てくれたのだ。

 

《ここまで来るのに少し時間がかかっちゃいました……って、あーーーーッ!!》


 セレーネさんが開いてくれたゲート越しに大きな声が響く。

 あまりに大きな声なので耳がキーンとして、思わず笑ってしまった。

 他の人にもこの大声は聞こえてるんだよ?


「めちゃくちゃにやられてる!!」


 どうやら通常の通信ができる範囲まで来てくれたらしい。

 ……もしかしてアタシ達、助かっちゃうかも。



「頑張ったね五月くん! 君が頑張ってくれたおかげで助けに来られたよ!」


 この声はざくろっち!?

 あれ、敵は? もう倒したの?



「斗垣さん、九曜さんから離れてください! さもないと撃ちますよ!」

「君もう散々撃ってきたじゃないか」

「え? あ、そうだった。じゃあ撃ちます!」

「分かった分かった。離れるから一度仕切り直そうか」


 すぐ隣にいた敵が離れていく足音がする。

 それと対に、近寄ってくる足跡が二つ。


 次に覗き混んできたのはミラちゃんとアルフィルクだった。


『わーん! 五月さんもツィーも、間にあって良かったよ!』

『あなた達、悪運強いわねぇ』


 どうやら一旦、死なずには済んだらしい。


 安心したと同時に肉体的なダメージと精神的なストレスが体を襲ってきた。 

 気を失ってしまいそうだったが、せっかく生き延びられたのだから目を開けていたい。


『すまん。負けた』

「いや、ツィーくん。勝てなくて当然だ。モスモスくんはズルをしていたからね」

「ズルとは人聞きの悪い! 勝つための努力と言って欲しいな!」


 ざくろっちが言っていた仮説が証明できたのだろうか。

 それなら頑張った甲斐があったと言うものだ。

 顔だけを何とか動かすと、ざくろっちが堂々と敵と対峙しているのが見えた。



「さあ! それではモスモスくんの強さの答え合わせをさせてもらおうか!」



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