第30話 甘く香る愛のバレットで③
その日セレーネさんは機嫌が悪かった。
自分の預かり知らないところで勝手に別のユニバースから訪問者が来た事に腹を立てていたのだった。
「あっちの世界の管理者は何をやっているんだ。本来はワタシに話を通すのが筋だろう!」
基本的に戦う者同士が顔を合わせる事は好ましい事ではないらしい。
そこで何が起こるか分からないからだ。
もし相手がこちらに危害を加えた結果、負傷者が出てしまったら戦いそのものに大きく影響する。
それを良しとしてしまったら日常生活の保証はできないのと一緒だ。
極論、戦いの前に相手を殺してしまえばいい。
いかに性能のいいステラ・アルマだろうと、いかに強いステラ・カントルだろうと、普段は一人の人間でしかない。
日常生活の中で狙われたら防ぎきるのは難しいだろう。
そうならないようにいくつか制限をかけてはいるみたいだ。
「セレーネさん、どの世界でも管理者は公平では無かったのかい?」
「無論、公平に戦いを進めるように言われておる。しかし自分の管理する世界に愛着のある者がいてもおかしくはない。多少の肩入れくらいはあるだろうな」
「戦いの前に相手と会話する位は許可されているのでしょうか?」
「会話程度であれば、管理者同士の承認があれば認められている。ただルールとして厳しく決まっている訳ではないから、今回の事で相手に罰則を与える事はできん」
そのあたりはやった者勝ちって事か。
今回の場合、危害を加えられた訳ではないがこちらの情報を奪われた影響は大きい。
戦いが始まる前から不利な状況になっている分、何かしらの保証と言うか、マイナス分を取り返すような計らいが無いと割に合わない。
それをセレーネさんに噛み付いたところでどうしようもないのだが。
ただ、それぞれの世界の管理者が機械的に役目を果たしている訳ではないと分かったのは少し嬉しかった。
「こちらの戦力が漏れた代償に相手の戦力情報くらいは教えてもらえないのかい?」
「ワタシもそこを強く言ったが、相手は固有武装の情報を開示している事でペイという裁定が下った」
釣り合いが取れてるんだか取れていないんだか。
向こうは教えても困らない情報を勝手に出して、こちらは知られたくない情報を抜かれているんだから、やっぱり釣り合いは取れていない気がする。
「そこでだ。相手がそういう態度で来るならこちらも相応の態度で返してやる事にした。次の戦闘中、ワタシの能力でそれぞれの操縦席にこの場所に繋がる小さなゲートを開く」
「操縦席にゲートを開くと、何かいい事あるの?」
九曜さんの感じた疑問は全員同じだったらしい。
操縦席にこの秘密基地に繋がる小さなゲートを開いたところで、それを通って戻ってこられる訳じゃないし、そもそも戻ったところで戦力的に不利になるだけだ。
「ゲートを開いておけば、そこを通して全員で会話できる」
「!!」
その事実に全員からどよめきがあがった。
「そんな事をしたら常に全員で情報を共有できてしまうけど大丈夫なのかい? かなり有利になるよ?」
「そんな事は知らん。操縦席にゲートを開いちゃいかんというルールは無い」
戦闘中の通信はある程度の距離が離れるとできなくなってしまう。
しかもステラ・アルマに乗っているとスマホの電波などは届かず、距離が離れた場合の情報共有はどうやってもできない。
その縛りがなくなるというのはかなり大きかった。
もし分断されてしまった場合でも、お互いの状況が分かれば対応を取りやすくなる。
この前の戦闘だって、2等星の固有武装の共有ができていればいくつか対策が取れていた。
「多少の肩入れというレベルでは無い気がいたしますが……」
「こんなもの肩入れじゃない。ワタシがうっかりゲートを開いて、閉じ忘れた事故だ」
それを肩入れと言うのでは?
まあセレーネさん的にもやられっぱなしというのは気がおさまらないんだろう。
私達にとっては大きなアドバンテージになるので断る理由もない。
セレーネさんの好意、いや、うっかりに甘えるとしよう。
「では改めて敵のステラ・アルマの内訳を伝える。ペガスス座の3等星が1体に、同じくペガスス座の2等星が2体。それにアンドロメダ座の2等星が1体。敵から言われた通り、反応的にもペガススの大四辺形の4体で間違いないだろう」
「敵に2等星が3体もいるのはわたくしが参戦してからは初めての大戦力になりますが、お二人ともご経験はありますか?」
「アタシも初めてだね。ざくろっちは?」
「流石に私一人で2等星を3体も相手にするのは無理だねぇ」
今の会話的に、この世界の最初のステラ・カントルは狭黒さんだったようだ。
次に九曜さんが参加して、その次に暁さんが参加したのかな?
それに関して少し気になる事があったが、今は関係の無い事なので黙っておいた。
「事前の打ち合わせ通り、基本は4人固まってのチーム戦を心がけてくれたまえ」
狭黒リーダーが方針を確認する。
今回は敵にどの等級のステラ・アルマがいるのか分かっていたのであらかじめ方針を決めておいたのだ。
誰が誰を相手にしても格上になるので、それならばいっそ4人でまとまって戦った方が勝てる確率が高いという結論だった。
こちらのチームは前衛が二人に、中衛、後衛とバランス良くまとまっている。
それぞれが一番パフォーマンスを発揮できる役割を努めつつ、敵を削っていく作戦だ。
「もし分断されたとしても今回はセレーネさんのうっかりで状況把握もしやすい。やはり通信は密にしていこう。何か質問はあるかい?」
「はいッ!」
ツィーさんが元気よく返事をした。
わざとらしく背筋と手をまっすぐに伸ばしている。
何か言いたくてワクワクしているみたいだが、聞かされる方は不安になる。
「夜明に言われた ”あれ” はいつ使えばいいんだ?」
「私がタイミングを指示するよ。ここぞと言う時の切り札だからね」
「私の相手はあのモスモスとか言う奴らしいからな。あいつに一泡吹かせてやるのが楽しみだ」
あの胡散臭い人、モスモスなんて蛾みたいな名前だったっけ。
別に何でもいいけど。
それよりもツィーさんの切り札というのが気になる。
狭黒さんがそう言うからにはちゃんと効果があるモノなのだろう。
「他に何か言っておきたい人はいるかい?」
「はい!」
何故か再びツィーさんが返事をする。
言いたい事があるなら、最初の一回で全部話しておいて欲しい。
「今回ちょっと試してみたい事がある。それをやる時は掛け声を出すから、それが聞こえたら私に注目するんだぞ」
「それはどんなかけ声で、何をやるのか今言いなさいよ。ツィーが突然変な事を叫んでも誰も何も反応しないわよ」
アルフィルクから正論が飛んだ。
確かに戦闘中にツィーさんが奇声を発したとしても私はスルーする自信がある。
それならこの場で教えておいてくれた方がこちらとしても心構えができる。
「馬鹿もの。何をやるか分からないからやり甲斐があるんだろうが」
「じゃあせめて何を叫ぶかは言っておいてもらえるかしら? それに反応するつもりは無いけど、万が一ツィーに気を取られてる間に敵に攻撃されるの嫌だもの」
「う。それはそうだな……じゃあ、アル・カワキブ・アル・ツィーって叫ぶ事にする」
「私の技の名前パクってんじゃないわよ。何よアル・ツィーって。ややこしいからやめて」
「えぇ……五月、どうする?」
「もう別にやるぞ! とか行くぞ! とかでいいんじゃない?」
「じゃあそれで」
特にこだわりは無かったらしい。
何をやらかすつもりか分からないけど五月さんが関わってるんだからまともな戦術だと信じたい。
一応、私の方でも詰め手は用意したし前回よりは戦いの幅も広がったはずだ。
「まもなく戦闘開始だが、お前ら大丈夫か?」
私達のやりとりを眺めていたセレーネさんが心配そうな顔をしている。
いつも通りと言えばいつも通りだが、これから今まで戦った事のない格上と戦うのにいつも通りなのは我ながら肝が座っているなと思った。
けど前回みたいに真っ青になっているよりかはマシだ。
今日は特に緊張もしていないし100%の力が出せるだろう。
それぞれの準備が終わると、セレーネさんがいつものようにゲートを開いてくれた。
私はいつも通りにミラと手を繋いで、ゲートの中にある光の空間に入った。
そう言えば、戦いの舞台に移動するゲートをくぐった時に通過するこの光の空間はなんなんだろう?
世界と世界が重なり合っているのならゲートを通ったすぐ先が別のユニバースの筈だ。
現にミラと一緒にユニバースを移動する時はこんな光の空間は通らない。
戦いの時だけ必ずこの光の空間を通る。
今までは何やかんやで頭がいっぱいだったからこの差に気づいていなかった。
無事戻ってこられたらセレーネさんに聞いてみよう。
そんな事を考えている内に光の空間を抜けた。
またどこかの街に飛ばされたようだ。
山奥とかじゃなくて、街中が多いのは何か意味があるのだろうか?
以前戦った練馬に比べると背の高いビルが多く、飲食店などもたくさんある。
銀行の看板もいくつか見えるので、駅前だろうか。
前回同様、交差点の真ん中に飛ばされたので初期配置はどこかの街の交差点になるようだ。
「うーん。さすがに毎度場所が特定できる訳ではないか。すばるくん、見覚えある場所かい?」
「わたくしも分かりかねます。何か目印になる建物があれば良いのですが」
「あ! あそこにアトレって書いてあるよ。あれ駅ビルじゃない?」
「違うぞ五月、あれはアトレじゃなくてアトレヴィだな」
「アトレとアトレヴィって何が違うん?」
「確か規模の違いだったと思います。アトレヴィはアトレよりも小規模の施設ですね」
いつも思うけどみんな本当にそういうの詳しいなぁ。
私はアトレ自体知らなかった。
桜ヶ丘民はオーパさえ知っていれば十分なのだ。
そうだよね? と、同じく桜ヶ丘民のミラを見ると、キョロキョロと周りを見回していた。
「ミラ、どうしたの?」
「ここ多分三鷹だよ。この前友達と買い物に来たから覚えてる」
えええええッ!!
同じ土地の民だからミラも全然詳しくないと思ってたのに!!
しかも友達と買い物に来た場所って。
……そうだよなぁ。
ミラは私以外にもたくさん付き合いがあるもんな。
私の知らない場所もたくさん知ってるよね。
何だか寂しい気分になってしまった。
「この前、未明子にあげたヘアバンドはここで買ったんだよ」
「そうだったんだ! ミラがプレゼントしてくれたヘアバンドはここで買ってくれたんだ!」
私の買い物の為に来てくれた場所と聞いて、一転して三鷹がいい場所に思えてきた。
よく見れば地元と似て落ち着いた良い街じゃないか。
いいよ三鷹。三鷹ラブ。
「となると、あのアトレヴィがあるのが三鷹駅って事ね。で、あっちの方に壁が見えるって事は」
「こちらが三鷹、敵が吉祥寺あたりに配置されたようですね」
「このあたりは細かい建物がたくさん建っていたイメージがあるね。広い場所だと井の頭公園があったかな?」
「でもあそこも林とおっきな池があるから、足を取られて戦い辛いかもね」
戦いについての勉強はしていたけど、場所についての勉強は全くしていなかった。
実際にある街が戦場になっているんだから、どんな街があるのか調べておけばいざという時に利用できるかもしれない。
狭黒さん曰く東京の西側が選ばれる事が多いらしいし、次は調べておこう。
さて。それはそれとして私はソワソワしていた。
今日もみんなのキスシーンを見られると思うと楽しみでたまらない。
いやーここに立ち会えるだけでも命をかけて戦う価値がありますぜ。
ガン見してるとアルフィルクに怒られそうなので、横目でさりげなく見させてもらう事にしよう。
「こら。また他の人を見てる!」
なんて企んでいたら、ミラが怒りながら私の前にやってきた。
まさかの彼女チェックが入ってしまったのだった。
ミラは両手で私の頬を挟むと、強引に自分の方を向けさせる。
「未明子は私の事だけ見てて!」
ひゃー何てかわいいお説教。
そのかわいい怒り顔に見惚れていたら、ミラの方からキスをしてくれた。
……いや、キスしてくれるのは本当に嬉しい。
嬉しいけど、いまの私ひょっとこみたいな顔になってるけど大丈夫?
こんな顔にキスするの嫌じゃない?
かわいい彼女にキスされる時は、こちらもなるべくかわいい顔でいたかったな。
キスを済ませると、ミラが今度は両手を私の肩に回してじっと顔を見てきた。
「ど……どうしたの?」
「へへへ」
そう悪戯っぽく笑ったかと思うと、何故かもう一度キスをしてくれた。
突然のミラの甘えスキルが発動したので一体どうしたんだろうと思っていたら
そのまま舌を入れられた。
「うんん!?」
まさかのみんながいる前でベロチューである。
別にみんなに見られている訳じゃないからいいけど、この前の一件でミラのタガが外れたのだろうか。
私も別に嫌ではないので、しばらくそのまま唇を預ける事にした。
「ぷはっ……。ど、どうしたの? 今日は激しいね」
「アルフィルクから聞いたよ。毎晩夜明さんと通話してるって」
そう言えば戦術講習を受けているのをミラには言ってなかった。
何気なく始まったので、そのまま言うのを忘れてしまっていたのだ。
「毎晩じゃないよ。たまに戦いについて教えてもらってるだけだよ」
「私とは寝る前の通話なんてしてくれないのに」
「えぇーそんなかわいい嫉妬ある?」
「もしこの戦いに勝ったら、今晩は私と通話してね?」
いや本気でかわいいな!
おっしゃあ! 俄然やる気が出てきたぞ!
今晩お話するのが楽しみだ!
さっさとこんな戦いは終わらせて夜に備えよう!
私の気力が一気に上がった。
ステラ・アルマの4人が変身の為に私達から距離を取る。
「「「「マグナ・アストラ」」」」
掛け声と共に4人は光に包まれて、巨大ロボットに変身する。
ミラ、ツィーさん、アルフィルクの姿が現れ、その隣にサダルメリクちゃんが……。
ゴゴォオオオオオンッ!!!
突然の轟音と共に、駅前のビルが何件か崩れていく。
大きな音に驚いてとっさに耳を塞いだが、間に合わずに耳がキーンとする。
一体何があったのかと周囲を見回すと、サダルメリクちゃんがビルとビルの間に挟まっていた。
どうやら変身位置をミスったらしく、建物の方にハミ出してしまったらしい。
『ふぇえ……』
一際大きなロボットから、かわいらしい鳴き声が聞こえる。
声はかわいらしいが、三鷹の駅前はサダルメリクちゃんのせいで大地震の後のように崩壊していた。
『だ、大丈夫?』
『いきなり街を壊すとはやる気マンマンだな!』
『私達も少し移動しましょ。このままだと夜明達が乗り込めないわ』
みんなが思っていたより建物が密集しているようだ。
練馬のように隠れるところが少なくても困りものだが、あまり建物が多くても移動し辛い。
特にサダルメリクちゃんのようにサイズが大きいと、移動するのにも大きな道路を選ばなくてはいけないから大変だ。
「メリクくんにとっては微妙に相性の悪い街だねぇ」
「とりあえず、付近を確認する為にも搭乗いたしましょう」
いつも通りにミラの手に乗せてもらい操縦席に乗り込んだ。
他のみんなも無事に乗り込めたようだ。
ベルトで体を固定して、モニターを点灯させる。
モニター越しに街を見ても、駅前は視界が塞がるような建物が多い。
しかも道が入り組んでいるのでまるでダンジョンのようだ。
「面倒だからアタシは建物の上を進むわ!」
「わたくしは中央線の線路上を移動していきます」
「了解した。では私達は遅れないようについて行くよ」
「私も建物の上を歩いていこうかな。ミラ、行けそう?」
『うん。私の重量なら問題なさそうだよ』
ミラと同じくらいの高さの建物を選んでジャンプで上に登ると、遠くに吉祥寺の街が見えた。
吉祥寺の方も高い建物が多そうだが、見た感じあっちの方が道幅が広そうだ。
サダルメリクちゃんの事を考えると、このあたりで戦うよりも向こうのエリアで戦った方が良さそうではある。
「境界の壁が消え次第、吉祥寺方面に進行しよう!」
「「「了解!」」」
壁が消えるまでに進めるだけ進んでも良さそうだが、向こうの出方が分からない以上、ある程度の距離を保っておいた方がいい。
アルフェラッツさんの固有武装のせいでこちらに長距離攻撃できるステラ・アルマがいる事はバレているだろうから、敵は近づいてくる筈だ。
こちらの準備が完了してからしばらく経ったが、まだ境界の壁は消えなかった。
壁が消えないという事は相手がまだ全員搭乗しきっていないと言う事だ。
搭乗するだけでそんなに時間がかかるものなのか?
「こんなに時間がかかるのはおかしいね。敵の作戦かな?」
この時間を使って、向こうのエリアに罠を仕掛けているのかもしれない。
前回の敵もそうやって仕掛けをしていた。
そうなると、おいそれと向こうのエリアに近づくのは危ない気がする。
「狭黒さん、やっぱりこっちのエリアで戦いますか?」
「いや、ここだと全員の機動性に問題が出る。せめて井の頭公園付近までは近づこう」
少し離れた所に林だか森だかが見える。
おそらくあそこが井の頭公園だろう。
歩くとそれなりに距離があるが、ロボットに乗っていればすぐに着ける距離だ。
「壁が消えるよ!」
このあたりで一番高い建物の上に登っていた九曜さんからの通信が入る。
完全に壁が消えるまでに、前回だったらすでに戦闘が始まっているくらいの時間が経過していた。
「では進軍と行こう!」
リーダーの掛け声で一斉に吉祥寺方面を目指す。
駅前を過ぎればそこまで高い建物はなくなったが、いかんせん建物の数自体が多い。
やはりこの辺りだと戦い辛そうだ。
中央線の線路を走っていくサダルメリクちゃんも、移動するだけだったら線路上を走っていればいいが、いざ戦闘になると線路から降りて戦わなければいけない。
このまま接敵せずに井の頭公園まで行ければいいけど。
「前方線路上、敵の姿が見えます」
今度は暁さんからの通信が入る。
目を凝らしてみると、敵は線路の上でこちらを待っていた。
4人全員並んでいる。
先制で攻撃してくる様子もないので、近づきながら敵を観察した。
一番左の機体は細身で装甲も最低限しか装備していない、全身黄色の目立つ機体だった。
今まで見たステラ・アルマは、基本色にプラスしていくつかの箇所が色分けされていたが、この機体は全体が一色で構成されていた。
目の部分は他のステラ・アルマと同じで青いからそれも含めると二色と言えない事もない。
変身前が女の子だから例えたくないけど、見た目バッタっぽいフォルムだ。
手に大きめのバズーカらしき銃を持っているので遠距離攻撃タイプだろうか。
その隣にはサダルメリクちゃん程ではないものの、他よりもサイズの大きい機体が何やら面白い形をした銃を持っていた。
持ち手こそ普通の銃だが、銃口が異様に膨れている。
ピストルの銃口を両手でバンと叩き潰して平べったくしたみたいだ。
機体色は青と言うよりは紫に近い群青色で、関節や装甲の一部に黒が入っている。
左肩の装甲が盾のようになっているので、役目的にもサダルメリクちゃんに近いのかもしれない。
右端には、左側の黄色い機体と似たような細い機体が立っている。
やはり装甲は最低限しか無く、腰に短い銃を2丁装備しているのが見える。
左の機体と同じように色はオレンジ一色だが、こちらは全体的にロボットらしいゴテゴテとしたフォルムをしていた。
左側の機体もそうだが、何かデザインに違和感を感じる。
ツィーさんのように素早く敵陣に飛び込むタイプが細身なのは分かるのだが、見えている範囲で射撃タイプなのに無駄に細いのがそう思わせるのだろうか。
そしてその3機に守られるように中央に仁王立ちしている機体がおそらくリーダー機。
デザインの派手さからいっても斗垣さんが乗っているに違いないだろう。
全身をアメフトで装備するようなボディアーマーに守られ、自分の身長程の巨大な剣を地面に刺している。
くすんだ赤色の本体に、アーマーはコントラストの強い緑と白。
剣は柄が青と紫で、刀身が赤黒い。
多彩な色が使われていてカラフルだが、何と言うか配色に一貫性が無い。
何も考えずに絵の具をこぼしたようなカラーリングだった。
アルフェラッツさんは黒髪の静かな女性だったが、ロボットになるとあんなに派手になるのか。
こちらもサダルメリクちゃんがいるからギャップという意味では他人事では無いが。
「待っていたよ諸君!」
外部通信で喋っているこの声は斗垣さんだ。
中央の機体から声が聞こえるので、予想通りあれがアルフェラッツさんなのだろう。
待っていたよと言うが、どちらかと言と待たされたのはこちらだ。
その中央の機体が、地面に刺さしていた巨大な剣を引き抜くと剣先をこちらに向けた。
「では、まず君達には一つの選択をしてもらおう!」




