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第29話 甘く香る愛のバレットで②

「突然の来訪失礼する」

 

 いつからいたのか。

 どこから入ってきたのか。

 私達は誰一人気づかずに、見知らぬ者の侵入を許してしまった。


 声をかけてきた女性は片手を胸にあてて、まるで舞台役者のように礼儀正しく礼をする。


「初めまして。僕の名前は斗垣とかき・コスモス・桔梗ききょう。そして彼女は僕のステラ・アルマ、アルフェラッツだ」


 斗垣とかきと名乗った女性は、やや中性的な気の強そうな顔立ちをしていた。

 短くまとめたブロンド髪が一房だけ前に垂れているのが印象的だ。

 顔立ちといい、髪の色といい、名前の通り外国人の血が混ざっているのかもしれない。


 逆にアルフェラッツと紹介されたステラ・アルマは黒髪の落ち着いた女性で、感情を感じさせない冷たい目をしている。

 やたら主張の強い人の隣にいるので、まるで影が寄り添っているように感じた。



「あなた方は何者ですか?」


 私達を守るように、暁さんが前に出てその二人と対峙した。

 普段の穏やかな空気とはかけ離れた力強い空気をまとっている。

 相手が少しでも近づいてくれば、即座に迎え撃つという意志を感じる。


「ここに来られるって事は関係者だと思うけど、チャイムも鳴らさずに入ってくんのはちょっと失礼じゃない?」

 

 暁さんに続いて九曜さんも前に出る。

 いつもの優しい声とは違う、威圧感のある声で警戒している。

 優しく穏やかな人ほど怒らすと怖いと言うが、まさにそれを地で行く二人が率先して前に出て壁になってくれているのがカッコイイ。


「これは申し訳ない。呼び鈴が見つからなかったものでね。そんなに構えないでくれたまえ。今日は話をしに来ただけなんだ」

斗垣とかきさんとおっしゃいましたか? 要件があるならここでお聞きいたします。どうかそれ以上近寄らないで頂けますか?」

「これ以上近寄ると君に噛みつかれてしまいそうだね。では、要件だけお伝えさせて頂こう」


 余裕を見せつけているのか、元々そういう人なのか、喋り方も動き方もどこか胡散臭さを感じる。


「僕達は次の対戦相手だ。先ほど調整が終わって正式に戦いが決定した為、挨拶にやってきた」


 対戦相手と言う事は別の世界の人間だ。

 別の世界からゲートを使ってわざわざこちらの世界にやってきたと言う事なのだろうか?


「それはご丁寧にありがとうございます。ですが、相手の顔など知らぬ方が戦いやすいのではありませんか?」

「そんな事はないよ。敵とは言えお互いに世界を賭けて戦う者同士だ。相手の事を知っておきたいと思うのはおかしい事かな?」

「こんな風にいきなりやって来る人は初めてだからね。何か企んでると思う方が自然じゃない?」


 九曜さんの言葉を受けて、相手は「はっはっはっ」と芝居じみた笑いをする。

 実に勘に触る笑い方だ。


「企みなんてないよ。僕の目的は至極単純だ。君達、降伏して僕達のユニバースに来ないか?」


 ……何だって?

 この人いきなり何を言っているんだ?


「このまま戦っても無駄に犠牲が出るだけだ。戦える者で協力した方が良くないかい? 僕達のユニバースに来て一緒に戦ってくれるなら、君達の生活は保証するし犠牲になる事もないよ」

「何でアタシ達が犠牲になる前提で話が進んでるのか分かんないんだけど? アタシ達は自分達が住んでる世界を残す為に戦ってるんだ。他の世界の事なんて知らない」


 九曜さんの言う通りだ。

 私達は私達の世界を残す為に戦っている。

 知らない世界の為に協力しろなんてふざけている。


「そうか。やはりどこの世界でも断られてしまうね」

「それはそうでしょう。むしろどうして首を縦にふる相手がいると思われているのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「そんなのは僕達が勝つからに決まってるじゃないか」

「は? ますます意味分かんないんだけど? 何で戦ってもいないのにそんな事が分かるの?」

「それが分かるのさ。……アルフェラッツ、教えてあげてくれるかい?」


 そう言われて隣に控えていた黒髪の麗人が一歩前に出た。


 そしてその冷たい瞳で私達を見据える。

 すると瞳の色が、ステラ・アルマ特有の深い青い色から赤黒い色へと変わった。

 その色はまるで皆既月食の時にみられる月のようで、不気味としか言いようがないのに、どこか美しさも感じさせた。

 赤黒い瞳で私達を見たまま、アルフェラッツと呼ばれたステラ・アルマが答えた。


「カシオペヤ座2等星。鯨座2等星。ケフェウス座3等星。……水瓶座3等星。どの機体も恐れるほどのスペックではありません。一番能力が高いのはカシオペヤ座2等星です」

「ではそのカシオペヤ座2等星は僕が相手をしよう。どの子だい?」

「奥にいるブラウスを着た女性です」


 嘘でしょ、こちらの情報が正確に把握されている!?

 誰がどの星座のステラ・アルマとかだけじゃなくて、ツィーさんが一番強いって事までバレている。

 なんだあの能力!?


「これがアルフェラッツの固有武装。あれ、固有武装だったっけ? ただの特技だったかな?」

「固有武装です」

「そう。固有武装の ”シラー” だ。姿を見れば、相手の機体性能を把握できるという優れものさ。どういう戦闘スタイルかも含めて把握できるから、あとでしっかり作戦を立てさせてもらうよ」


 こちらの情報を奪う固有武装。

 固有武装ってそういうのもあるんだ。

 戦闘に使用する武器だけだと思っていた。

 敵に一方的にこちらの戦力を把握されるのは言うまでもなく不利になる。

 厄介すぎる武器だ。

 

「相手の情報を盗むために挨拶にやってきたのですか?」

「いいや。僕の目的はさっきも言った通り降伏勧告さ。アルフェラッツの固有武装を見せたのはあくまで君達が降伏を判断する為の材料としてだよ」

「そんな事でアタシ達がまいったって言う訳ないでしょ。用事が済んだならさっさと帰ったら?」

「その反応が返ってくるのもどこの世界でも一緒だね。じゃあもう一つだけ教えておいてあげよう。僕達は君達と同じ4人のチームで、ここにいるアルフェラッツはアンドロメダ座の2等星だ」


 こちらの戦力を把握した上で全く動じないからそうかなと思っていたけど、やっぱりこの人も2等星のステラ・アルマだった。

 だけどそれがどうだと言うんだろう。

 こちらにだって2等星はいるのに。


「アンドロメダ座の2等星を含めた4人のチーム? ……まさか」

 

 アルフィルクが何かに気づいたように声をあげた。

 その声には彼女らしくない焦りが混ざっているようだ。 


「君が想像した通りさ。僕達は ”ペガススの大四辺形” だ」


 ペガススの大四辺形?

 ペガススと言えばペガスス座の事だろう。

 私はずっとペガススを ”ぺガサス” と言っていたので何となく覚えている。

 でもさっきこの人、自分のステラ・アルマはアンドロメダ座って言ってなかった?


「アルフィルク、ペガススの大四辺形って?」

「秋の夜空で見られる4つの星、ペガスス座のマルカブ、シェアト、アルゲニブ。それにアンドロメダ座のアルフェラッツを結んでできる四辺形の事よ」

「なんでペガスス座なのにアンドロメダ座が入ってるの? あの人仲間外れじゃん」

 

 私の言葉に斗垣という人はオーバーアクションでずっこけた。

 こちらは純粋な好奇心のつもりだったが、相手は驚いたらしい。


「ははははは! 君、面白いね! 名前は?」

「私ですか? 犬飼未明子です」

「なんであなた普通に答えてるのよ」

「未明子。アルフェラッツはアンドロメダ座に属しているが、以前はペガスス座にも属していたからだよ。その所以でペガススの大四辺形と呼ばれたんだね。今はアンドロメダ座のみに属する事になっているんだ。後で調べてごらん」

「へぇー。勉強になります」

「だから何で普通に会話してるのよ!」


 アルフィルクは私の態度に怒っているが、私の中ではこの人達の挑戦的な態度と自分の好奇心は別物なので会話する事に特に抵抗はなかったのだった。


「だけどペガススの大四辺形だから何だって言うの? 別にそれで私達がビビる要素なくない?」

「未明子には言ってなかったけど、秋の四辺形とか、夏の大三角形とかに属する星のステラ・アルマは他に比べて性能が高いのよ」

「ふーん」

「リアクション小さいわね!」


 そういうものだと言われれば、そういう事なのだろう。

 だけどそれが脅しになっているとはどうしても思えなかった。


「と言う訳だ。君達が僕達に勝てる可能性はとても低い。だからもし降伏したいと思っているなら今からでも遅くないよ」


 この人はまだそんな事を言ってるのか。

 散々、暁さんと九曜さんがもういいから帰れって言ってるのにいつまでこのやり取りを続ける気なんだ。


「えっと、斗垣・コスモさんでしたっけ?」

「斗垣・コスモスだよ。ファーストネームの桔梗で呼んでくれてもいい」

「斗垣さん。わざわざ忠告してくれるのは有難いんですが、降伏とか絶対しないんでもう帰ってもらっていいですか?」

「いいのかい? 僕達のステラ・アルマは君達のステラ・アルマよりも圧倒的に強いよ」

「でもそういうのを覆すのがステラ・カントルなんですよね? 多分斗垣さんより、ここにいる九曜さんや暁さんの方が全然強いですよ」


 そんな返しがくるとは思っていなかったのか、しきりに降伏を迫ってくる胡散臭い人は目を見開いて驚いた。

 そして隣にいる麗人は表情こそ変えていないものの、明らかに機嫌を悪くしたようだった。


「それに性能が上なのと強いのは直結しないって言うか、アルフェラッツさんよりツィーさんの方が絶対強いし」


 そこで何故かツィーさんが噴き出した。

 そして「言ったれ変態ヘタレワンコ!」という応援が聞こえてきた。


 ……いや、待って。

 何か呼び名にヘタレが増えてない!?

 

「なのでご心配頂かなくても大丈夫です。私も斗垣さんみたいな人だったら躊躇なく撃てると思うので事前にお話ができて良かったです」


 前に戦った2等星の女の子達は、撃たなくて済むなら撃ちたくはなかった。

 仕方のない戦いとは言え人を撃つのは軽い事ではない。

 私は永遠にあの二人の気持ちを背負って生きていかなければならないだろう。


 でもこの人みたいに覚悟が決まっている人なら、私は自分の覚悟でもって打ち倒す事ができる。

 恨み言も言われなさそうだし、後腐れなく消し飛ばせるだろう。



 私の言葉を聞いた斗垣さんはしばらく驚いた表情をしていたが、

 次第に笑顔に変わっていった。

 

「やっぱり未明子は面白いね。どうだろう? 君だけでもこちらに来ないかい? 戦いは担当しなくて構わないよ。いてくれるだけでいい」

「嫌です。私にはミラがいるので。彼女とこっちの世界で一緒に暮らします」


 こらえきれなくなった斗垣さんは「あっはははははは」とやはり芝居がかった笑いを飛ばした。

 ひとしきり笑った後、アルフェラッツさんに手で何かを指示をする。


「いや、僕の方こそ挨拶に来た甲斐があったと言うものだよ。未明子と話ができて良かった。僕達の勝利は揺るぎないが、最後の瞬間まで君を誘わせてもらうよ」

「だから結構です。死ぬ時はミラと一緒に死にますから」


 アルフェラッツさんがユニバース移動のゲートを開く。

 さっきのはゲートを開いて欲しいと言う指示だったみたいだ。


 機嫌悪そうにしていたアルフェラッツさんは、こちらに一礼してさっさとゲートに入っていった。

 それを見届けた斗垣さんが、フロアに響くように声をあげる。


「では諸君、次の戦いで会おう! 君達が最期を迎えた時の言葉を楽しみにしているよ!」


 来た時と同じように自分の胸に手をあてて深く礼をすると、ゲートの中に消えていった。

 最後までうるさくて胡散臭い人だ。 


 ゲートが閉じると、嵐が過ぎ去った後のように静寂が起こった。



「よし! じゃあ作戦会議に戻ろっか。ミラ、司会お願いね」 

「あなたアッサリしてるわね!?」

「訳わかんない人達に真面目に付き合っても疲れるだけだよアルフィルク。ああいう戦闘前のイベントムービーだったと思えばいいんじゃない?」

「戦闘前にしてはいささか緊張感に欠けるイベントムービーでしたね。でも犬飼さんのおかげでスッキリいたしました」

「未明子ちゃんやるじゃん! スコーン好きなの食べていいよ!」

「やった! じゃあ、ほうじ茶くるみ黒蜜のやつもらっていいですか?」

「ワンコは怖い奴だな。平然と撃ち殺してやるとか普通は言えないぞ」

「そんな物騒な事言ってないですよ! って言うかさっき私の名前が長くなってませんでした?」

「み、未明子さん、主人公ロールの才能、ある。やはりTRPGやるべき」


 変な人達を追い払ってにわかにワイワイムードになってしまった。

 何か私が追い払ったみたいになっているけど、暁さんと九曜さんが睨みを利かせていたのが一番効果があったと思う。

 ごちゃごちゃ会話する前に、さっさと暁さんに投げ飛ばしてもらえば良かった。


「未明子、カッコ良かったよ!」

「いや、私帰れとしか言ってないよ」

「それでも未明子の活躍だよ! あとさっきのアレ、もう一回言って欲しいな」

「え、何の事?」

「最後に言ってた死ぬ時も……ってやつ」

「あれを? あんなの別に気取ったセリフじゃないけどいいの?」

「いいの! できれば耳元で言って欲しい」

「えぇ……。ミラがそう言うなら言うけど」


 私は軽く咳払いをして、ミラの耳元に顔を寄せた。


「……死ぬ時はミラと一緒に死ぬからね」

「きゅう」


 彼女からハムスターみたいな鳴き声が聞こえた。

 真っ赤になった頬をおさえて照れているのがかわいい。

 でもそんなに聞きたいセリフかなこれ。

 

「ではでは! 今から作戦会議を始めまーす! みんなお菓子をもって机に集合してください!」


 顔を真っ赤にしたミラがいつか以来のテンションの高さで場を仕切り始めた。

 テンションが上がった時のミラの声もかわいいな!


 みんなでゾロゾロと机の方に向かいながら、私はさっき見せられたアルフェラッツさんの固有武装の事を思い出していた。

 

 ……後で狭黒さんに相談してみよう。







《私がいない間にそんな楽しそうな事があったのかい?》


 スマホの画面に映った狭黒さんは興味深そうに私の話を聞いていた。

 お風呂あがりのこの時間、狭黒さんとのオンライン通話が恒例となっていた。


 模擬戦の後、狭黒さんから戦いに関する指南を受ける事になったのだが、高校生の私が自由になる時間と大学生の狭黒さんの自由になる時間が微妙に合わず、やむなく通話でやりとりをする事になったのだ。


 この前狭黒さんの家に遊びに行って分かったのだが、いつも画面に映っていたのが例の仕事部屋だったようだ。

 狭黒さんは家で作業している時もキチンと着込んでいる。

 生活の全てをアルフィルクにお任せしているとは言え、やはり根本の育ちは良いようだ。


 対する私はお風呂あがりにスキンケアをしたままの姿だった。

 いつもラフな部屋着で、日によっては頭にタオルを巻いたままの日もある。

 女の子の前に出るなら少しでもめかし込みたい気持ちはあるのだが、狭黒さん相手だと不思議とそういう気持ちにはならないから気が楽だ。


「全然楽しくなかったですよ。狭黒さんがいてくれたらレスバトルが面白かったかもしれないですけど」

《いや、相手は本当に格上だからね。私だったらどうにかして相手の弱点を探れないかと、そんな豪気な対応はできなかったかもね》

「やっぱりアルフィルクが言っていた通り、強い相手なんですか?」

《私達も戦った事はないからねぇ。でもセレーネさん曰く ”春の大三角”、”春の大曲線”、”夏の大三角”、”秋の四辺形”、”冬の大三角”に属する星は、他の星に比べてレベルが高いらしい。ああ、あと ”冬のダイヤモンド” ってのもあるね》

「そんな偶然に ”秋の四辺形” に属する4人が同じユニバースに揃う事があるんですね」

《それこそ、その斗垣・コスモス・桔梗とかいう人が色んなユニバースから集めてきたんじゃないかい?》


 そうか。今日みたいな勧誘で一人一人仲間にしていった可能性もあるのか。

 けど、自分の世界を諦めて知らない世界で戦うってどういう気持ちなんだろう。

 自分の世界以上に守りたい世界なんてあるんだろうか。


「失礼な質問をしてもいいですか?」

《お構いなく》

「狭黒さんだったら、負ける事が確定した時に敵に取り入ってでも助かりたいと思いますか?」

《……ふむ。それについては今まで考えた事はあるよ。私の結論は ”アルフィルクと一緒にいられるなら何事にも優先する” だね》

「アルフィルクと一緒にいられるなら……」

《それは私の中で一番大切な事なんだ。例えこの世界が消えてしまう事になったとしても、アルフィルクと一緒に生きていられるなら、それが別の世界、例え別の星だったとしても私は構わないよ》


 狭黒さんらしい論理的な結論だと思った。

 何を優先し、その為に何が必要かをドライに割り切れる。

 それは最初に会った時に抱いた印象から変わっていない。


《でも逆に言うと、アルフィルクが死ぬ事を選んだなら私も死ぬ事に何の躊躇もない》

「え?」

《おや、意外だったかい? 私はそんなに薄情な奴に見えていたのかな》

「そういう訳じゃないですけど、そうなったら別の優先すべき事を考えるのかと思っていました」

《アルフィルク以外に優先すべき事なんてないからね》

「そのセリフを聞ける事の方が意外ですよ。本人に言ってあげればいいのに」

《ちゃんと毎晩のように言っているよ。私は愛はしっかり伝えるタイプなんだ》


 狭黒さんから惚気を聞かされるのは珍しい。

 いつもだったら私とミラの事をからかってくるのに。

 もしかして課題で寝られていないからナチュラルハイになっているのかもしれない。

 心なしか目の下のクマがいつもより濃い気がする。


《ところで未明子くんが敵と話した感じ、何か突破口になりそうな事はあったかい?》

「そうでした! 実はその事で気になっている事があるんです」

《ほう。聞かせてもらえるかな》

「敵の固有武装についてです。相手の情報を把握できるのは確かに強いんですが、何でわざわざそれをこちらに話したのかなって」

《こちらを降伏させる為の材料として話していたんじゃないのかい?》

「でも ”あとでしっかり作戦を立てさせてもらう” って言ってたんですよ。それって変じゃないですか?」

《その場で降伏させるつもりなのに、あとでというのは確かに違和感があるね。最初からこちらが降伏しない事を分かっているみたいだ》

「そうなんです。こちらの降伏を前提にした言い方じゃないのかなって。だから本当の狙いは別にあるのかもしれないなって」

《例えばどんな事が考えられるんだい?》

「まだ全然わからないんですけど、例えば会話をする事自体が目的だったとか」

《こちらと会話をする事自体が目的、ねぇ……》


 正直雲をつかむような話だった。

 ただの勘違いの可能性も高い。

 本当にこちらに脅威を与えるつもりだけだったのかもしれない。

 でも、相手が反発する事が分かりきっている降伏勧告の為だけに、わざわざこちらの世界に来たとは思えなかったのだ。


《その固有武装の説明、彼女が言った通りに覚えているかい?》

「え? ちょっと待ってくださいね。えーと確か……相手を見れば機体性能が分かるってのと、どういう戦闘スタイルか分かる、だったかな」

《機体性能と戦闘スタイルか。ならば効果があるかは分からないが、いくつか策を練っておくか》

「そうだ! 策を練ると言えば、今日のブリーフィングでミラの強化案を決めました」

《ほう。結局どう強化する事にしたんだい?》



「……という感じです」

《ふむ。また思い切ったね》

「この前みんなの戦い方を見てたら、それが一番いいかなって」

《切り札を用意しておくのは大切だからね。いいんじゃないかな》


《ちょっと夜明! いつまで起きてんのよ! あんた全然寝てないんだからそろそろ寝なさい!》


 画面の向こうからアルフィルクの声が聞こえる。

 言ってる事は完全にお母さんだった。


《おお。怖いお姉さんが脅してくるからそろそろ休むとするよ。じきにセレーネさんからコンチェルターレの連絡がくると思うから、君も休める時にしっかり休んでおきたまえよ》

「はい。この後すぐに寝ます」

《では、おやすみ》

「おやすみなさい」



 通話を終了すると、スマホを持ったままベッドに寝転がる。

 狭黒さんが言っていた言葉が耳に残っていた。


「アルフィルクと一緒にいられるなら、他はどうでも構わない」


 私はそうなった時にどうするんだろう。

 ミラが死ぬと言いだしたら、もちろん私も一緒に死ぬつもりだけど、他に二人で生きていける選択肢があった時はそれを選ぶんだろうか。

 

 ……いや、それを考えるのはそうなった時にしよう。

 何よりも負けない事の方が大事だ。



 ミラにラインで「おやすみ」と送ると、すぐに返信が返ってきた。


(私もそろそろ寝るよ)

(おやすみ)

(いい夢見てね)

 

 連続で返信が届くと、最後に「LOVE!」というスタンプが送られてきた。


 その返信が可愛すぎてニヤニヤしてしまう。

 私も同じスタンプを返してスマホを枕元に放ると、部屋の電気を消して眠りについたのだった。


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