第28話 甘く香る愛のバレットで①
「このチョコレートだと攻撃力が1500で防御力が900だね」
「ふんふん。じゃあ、このプリンだと、攻撃力1000?」
「そうそう! 無印の方は読み取るの簡単なんだよ」
「ですので、広いスペースが取れるならやってみると良いですよ」
「へぇー、今度未明子にやってもらおう。うちのリビングだとできるかなぁ」
オーパ秘密基地。
私は珍しくサダルメリクちゃんと二人で話していた。
ミラはすぐ近くで暁さんと話している。
「はいはいはい。あなた達、何やってるの?」
するとそこにアルフィルクが手を叩きながらやってきた。
私達を見ると、露骨に機嫌の悪そうな顔になる。
「何って、サダルメリクちゃんと一緒にバーコードバトラーで遊んでるんだよ」
「バーコードバトラーって何よ。そんなお菓子の箱に穴開けて遊ぶ物なの?」
「これはね、商品のバーコードを切り取ってカードに貼り付けてるの。バーコードでキャラクターを作って戦わせるゲームなんだ」
「未明子さんに、昔のゲーム、教えてもらってる」
机の上にはバーコードの切り取られたお菓子の箱やら包装やらが転がっている。
カードを作るための名刺サイズの紙や、ハサミ、スティックのりなどもあって、机の上は散らかっていた。
「今日はブリーフィングがあるって聞いたから来たんだけど、いつものボードゲーム会だったかしら?」
「私とミラは学校が半休だったから家に帰らずに直接ここに来たんだよ。だからみんなが集まるまでの時間潰し」
「未明子さん、鞄の中にゲーム持ち歩いてるの流石。私は知らないゲーム出来るし、WinWin」
アルフィルクは机の上の惨状を見て頭を痛めているようだった。
バーコードバトラーは面白いんだけど、ついカードを作ることに熱中して机の上が散らかりがちだ。
「後でちゃんと片付けなさいよ。それでそっちの保護者組は何で子供達を放置してるのよ」
えぇ……。
何故か私も子供扱いされている。
「ミラさんから、軽いいじめプレイを教えて欲しいと相談されましたので、僭越ながら指導させて頂いておりました」
「いいいいいいいじめプレイ!?」
「いじめプレイ?」
「何でミラまで驚いてるのよ!? すばるから話を聞いてたんじゃないの!?」
「私はすばるさんが普段サダルメリクとどういう風にイチャイチャしてるか聞いてただけだよ」
「はい。ですのでわたくしが普段メリクとやっている事を説明しておりました。それがいじめプレイです」
「ど、どういう事……?」
暁さんはどっからどう見てもお嬢様なのに、何がどうなって、あの上品なお口からそういう言葉が出てくるんだろう。
いじめプレイとか生きている内に声に出す事あるかな。
「ではもう一度最初から説明いたします。まずミラさんには仰向けに寝転がって頂いて……はい、では実践いたしますので実際に寝転がって下さい」
「うん? うん」
ミラは言われた通りに長椅子に仰向けに寝転がる。
すると暁さんはミラの頭の方に移動した。
「そうしたら未明子さんはミラさんの頭の方から覆い被さって頂いて、このように手首を拘束します。これでもうミラさんは立ち上がれません」
「あ、本当だ」
ミラは頑張って上体を起こそうとするが全く動けていない。
足をバタバタさせるが、拘束から逃れられそうになさそうだ。
「寝転がって腕を持ち上げる力より、上から体重をかけて押さえ込む力の方が遥かに強いからです。こうやって拘束したら、ちょうど顔がミラさんの顔の真上に来ますね。後はもう好きにいじめて下さい。ちなみにこのまま胸やお腹に倒れ込む事もできるので、やはり好きにいじめて下さい」
まるで防犯対策をしているように見えるが、やっているのは変態プレイ講習だ。
そしてこれをじっくり見ている私達も変態になってしまうのだろうか。
「こ、これはなかなかドキドキするね!」
「そうなんです。わたくしも結構好きです」
暁さんの言っている結構好きは、多分やる方じゃなくてやられる方なんだろうな。
普段からサダルメリクちゃんとあんな事をやっているのか。
「未明子、後でこれやってー」
「うん。分かった」
「分かったじゃないわよ!」
黙って話を聞いていたアルフィルクがとうとう我慢できずに話に割り込んできた。
流石にちょっとツッコミ不足だなと思っていたので良いタイミングだ。
「どうしてミラがこんな事を教わるような子になっちゃってるのよ!?」
「いや、元々こうだったみたいだよ」
「違うわよ! もっとおとなしい、清純な子だったじゃない!」
「今だって十分清純だと思うけど……」
「ミラは、ミラはねぇ、こんな場所で誰かに組み敷かれて喜ぶような子じゃなかったのよ!」
それはアルフィルクのフィルターが過ぎると思うけど、ミラ本人が楽しそうだからいいんじゃないかな。
まあ、私だってついこの前までミラは遠くから眺めて崇拝するだけの存在だったから、アルフィルクの言いたい事は良く分かる。
「あなたのせいで! あなたのせいで! ミラがちょっと特殊な性癖になっちゃったじゃない!」
アルフィルクが叫びながら私をバシバシ叩く。
ちょっと前にミラの相手が私で良かったって言ってくれなかったっけ?
そもそもこれ私のせいなのかな?
……私のせいか。
「うーん。でも学校ではこういうの全く見せないし、みんなの前だから安心してるんじゃない?」
「そういう事が言いたいんじゃなくて……!」
アルフィルクの悲痛な声が響く。
このまま泣き出してしまいそうで少し可哀想になってきた。
「まあまあ。とりあえずポッキーでも食べて落ち着いて?」
「これあなた達が遊んだ残り物じゃない!」
「そんな、遊ぶだけじゃなくてちゃんと後で食べるつもりだったよ! ねぇ、サダルメリクちゃん」
「私が、お菓子を残す訳、ない」
そう言うサダルメリクちゃんはすでに机の上のお菓子を半分くらい平らげていた。
「分かった。もういいわ。覚えてなさいよ、絶対あなたをもっと女の子らしく更生してやるんだから」
「ちょちょちょ! 何で私が指導対象みたいになってるの!?」
「ミラに悪い影響を与えたからよ。このド変態!」
ド、ド変態!?
……美人さんに変態呼ばわりされるのちょっとご褒美だな。
口に出したら間違いなく殴られるから黙っておこう。
「ところでアルフィルクさん、本日は夜明さんとはご一緒ではないのですか?」
「大学の課題が終わらないらしくて直前でお休みするって。世界が消えちゃったら大学どころじゃないのに分かってるのかしら?」
「そうはおっしゃいますが、この世界で生きる為に必要な事ですから、おざなりにもできませんしね」
「今日集まる事は決まってたんだから間に合うように調整すればいいのに。こうなったら勉強のスケジュールも組んであげようかしら」
生活の大半を仕切られていて、その上学業まで管理されたらあの人自分で何にもやらなくなるんじゃないかな。
アルフィルクはそういうの全部仕切りたいみたいだし、狭黒さんが依存体質になりそうで将来がちょっと心配だ。
「おつかれーっす!」
元気のいい声が展望ホールに響く。
今度は九曜さんとツィーさんがやってきたようだ。
見ると、九曜さんの後を眠たそうに歩くツィーさんが珍しい服装をしていた。
いつもはダボっとしたパーカーとかシャツなのに、今日はフリルのついたブラウスを着ている。
しかも下はロングスカートだ。
パンツルックしか見た事が無かったので、女の子らしい服に身を包んでいるツィーさんは新鮮だった。
「ツィーさんが女の子みたいな格好してる!」
「馬鹿もの。私は女の子だ」
「今日は買い物してたからねー。ちょっとオシャレさせちゃった」
「朝から連れ回されてグッタリだ。しかもあれだけ見て回ったのに、ほとんど買い物せずにスコーン食べただけだからな」
「もちろんお土産買ってきたよー。KODAMAのスコーン、美味しいよ」
九曜さんが手に持っているのはやたらオシャレな包みに入ったスコーンだった。
差し入れスイーツでスコーンをチョイスするなんてセンスあるなぁ。
私だったらドーナツとかプリンとかを持ってきてしまう。
今日なんてコンビニで買ったお菓子だもんな。
サダルメリクちゃんがスコーンの袋を見てしきりにバーコードを探していたので「こういうのにはついてないよ」と教えてあげた。
「今日は作戦会議って聞いてたけど、ざくろっちはお休みの巻?」
「お休みの巻よ。課題が片付かなかったんだって。五月は計画的に勉強できてて偉いわね」
「やる事やっておかないとツィーがうるさいからねー」
「生きる上において取り組まなければいけない課題はたくさんあるからな。そういうのを怠ける奴は自分の思い通りの人生は送れん」
ツィーさんの正論に全身から脂汗が出た。
万年長期休みの宿題を遅れて提出する私は、食べようとしたお菓子をそっと置いて姿勢を正した。
サダルメリクちゃんが何やってるの? という顔をしているがお姉さんはこういう話に弱いんだよ。
「ざくろっちいないなら司会進行どうしよっか? 決めとかないとまたおしゃべり会になるっしょ?」
「そうね。そうじゃなくても今日は変な雰囲気だし?」
アルフィルクさんがこちらをジロリとご覧になられた。
いやーまだご機嫌ななめみたいだ。
後でミラに、えっち系のお話はアルフィルクのいない所でしようねと伝えておかねば。
「じゃあ、司会を、ゲームで決めよう」
「ちょっと待ちなさい。一度遊びだしたら最後まで遊んじゃうでしょ? そう言うならサダルメリクがやりなさいよ」
「わ、私が仕切るのは、ボードゲームの時、だけ。大丈夫。すぐ終わる」
こういう時アルフィルクが率先してやりそうだけど、サダルメリクちゃんに振るあたり基本的にはやりたくないみたいだ。
まあ、みんなの意見をまとめなきゃいけないし面倒そうではある。
こういう時に頼まれなくても勝手にやってくれる狭黒さんは実は貴重な人材だったんだな……。
サダルメリクちゃんが机の上に散らばっていたお菓子を集めて、丁寧に並べ始めた。
「ここに、未明子さんが買ってきたお菓子があります。みんな、この中から好きなお菓子を一つ選んで取ります。そしたら、未明子さんが六面体ダイスを1個振る」
「ダイスってサイコロの事だっけ? 私サイコロなんて持ってないよ?」
それを聞いたサダルメリクちゃんは、得意気な顔をして自分の着ている服の袖をテーブルの上にちょこんと乗せた。
袖口から手を完全に出さない、いわゆる萌え袖というやつだ。
「よいしょ」
ザラザラザラーという音と共に、その袖から大量のサイコロが出てきて机の上に散らばる。
「えぇ!? なんでそんなところから出てくるの!?」
「ふふん。ボードゲーマーは、体がダイスで、できている」
サダルメリクちゃんの袖から出てきたサイコロは、見慣れた白い六面体の物や、赤色や青色の二十面体の物、さらには球形になっていて目が100個ついている物もあった。
どこにそんなに大量のサイコロを隠していたんだろうか。
と言うか、1個使うだけならこんなに出さなくても良かったのでは?
「それで、私がこのサイコロ……ダイスだっけ? を振ってどうすればいいの?」
「それぞれが選んだお菓子で、金額がそのダイス目と同じ物を選んだ人が、司会進行をやる」
「どういう事?」
「例えば、未明子さんがダイスを振って3を出したとする。そしたら、上から数えて3番目に高いお菓子を持っていた人が当たり」
当たりと言ってもみんなやりたくないんだから実質ハズレじゃないのかな。
ともあれサダルメリクちゃんのやろうとしているゲームは分かった。
つまりお菓子を値段の高い順に並べて、ダイスで出た目で上から数えて一致した人がハズレって事らしい。
買い物した時のレシートが残っているからお菓子の値段は正確に分かる。
「未明子がダイスを振るって事は、未明子が司会になる事はないの?」
ここまでずっと話を聞いているだけだったミラが質問する。
待って、その言い方は私にやらせようとしてる言い方だな?
ミラちゃんさぁ、今だけは敵に回るのもやぶさかでは無いぞ。
「ダイスの目が6個で、ここにあるお菓子は、五月さんが買ってきてくれた物を合わせると7個ある。ダイスの目に該当するお菓子が無かったら、未明子さんが当たりになる」
「えーと……例えばダイスで4が出て、4番目に高いお菓子を誰も選んでなかったら未明子が当たりって事ね!」
「そういう、こと」
なるほど。そうするとダイスを振る私も含めて全員該当する可能性がある訳か。
しかしアルフィルクの今の言い方も、私にやらせようとしてるみたいに聞こえるな。
何だ何だ? 敵ばっかりか今日は?
「パッと見だとアタシの買ってきたスコーンが一番高そうに見えるけど」
「そう。同じように、このチロルチョコとか多分一番安い。ある程度の情報が提示されてるから、戦略性がある」
「なるほど。面白いですね。結局ダイス次第ではありますが、お菓子の値段を予想する事によって、何を選ぶかを考える事ができるのですね」
「え? でもお菓子を選んだところで、ダイスなんてどの目が出るかの確率は同じなんじゃないの?」
「ど、どの目が出るかは完全に同じ確率。でもダイスの目には期待値というのがある。詳しい計算は省くけど、六面体ダイスの期待値は3.5。つまり統計的には3か4が出る事が、多い」
「確率は同じなのに3か4が出る事が多い? どういう事?」
「未明子さんには、今度ちゃんと教えてあげる、ね」
この世の難しいことなんて何にも分からないの……。という雰囲気を持ったサダルメリクちゃんだが、ことゲームに関する時はやたらインテリジェンスが高く見える。
逆にダイスの出目に関する知識も無い私はおバカみたいだった。
「要はこのお菓子の中から3番目か4番目に高いと思う物を選ばなきゃいいのよ」
「なんて思っていると1や6が出たりするから、ダイスは面白い。私のダイスは、鍛えられてるから、面白い目を出すよ?」
「出た! TRPGジャンキーのダイスを鍛える理論。何度使おうが、ダイスの出目に影響なんかないぞ」
「でも私、サダルメリクのダイスを使って1を連続で3回出した事あるよ?」
「ミラさんは奇跡のファンブラーです」
「えへへ」
「ミラ、言っとくけどあなた褒められてないからね?」
ダイスの出目についてはよく分からないままだけど、お菓子選びの段階から勝負が始まっているという事は分かった。
九曜さんが買ってきたスコーンが一番高いのは間違いないし、何となくどのお菓子がいくらだったかも覚えているので、みんながどういう駆け引きをするのか楽しみだ。
「ちなみにお菓子を選ぶ順番はどうすんの? 年功序列?」
九曜さんが明らかに自分有利な条件を出してきた。
お菓子の値段が予測できるなら最初に決められる方が選択肢が広い。
でも選ぶ順番までゲームで決めていたら、どんどん時間がかかっていってしまうな。
こういう時はどうするんだろう。
「じゃあ、未明子さんに決めてもらおう。未明子さん、何か一つお題を出してもらえる? 今日朝ごはん食べてない人、とか。そのお題に適した人から、時計回りの順番に、しよう」
それなら確かに簡単に決まる。
凝った内容だと誰も該当しないから、ありきたりなのを思い浮かべて……。
「じゃあ、今朝パンを食べた人!」
「「はい!」」
ミラとアルフィルクが同時に返事をする。
アルフィルクも朝はパン派だったか。
ならば更に条件を追加して振り落とそう。
「そのパンに、イチゴジャムを塗った人!」
「はい!」
今度はミラだけが返事をした。
「ちょっとちよっと! 物言いよ。あなたミラが今朝パンにジャムを塗って食べたの知ってたんじゃないの?」
「流石にそこまでは知らないよ。アルフィルクだって狭黒さんが朝何を食べたかなんて知らないでしょ?」
「夜明は朝はヨーグルトしか食べないわよ」
そういえば二人は同棲してるんだった。
当然朝食も彼女が用意してるんだから知ってて当然の情報だった。
「まぁいいわ。早い順番だからって有利な訳じゃないんだから」
アルフィルクの言う通り、早いから絶対に有利とは限らない。
残り物には何とやらと言う言葉もある。
結局はダイスの目がどう出るかだ。
ちなみにミラが朝食にパンを食べる事と、イチゴジャムを塗って食べるのが好きなのを私が知っていたのも実はアルフィルクの言った通りだ。
ミラの好みくらい把握している。
まあ、本人から直接聞いた訳では無いんだけど。
「じゃあ、ミラから選んでいい、よ?」
「えーと……どうしようかな?」
ミラは迷ったあげく、私が最初に買い物カゴに入れた「食べっこどうぶつメロンミルク味」を手に取った。
うん。多分それが上から3番目か4番目に高いお菓子だね。
あれだけ悩んだのに初手でそれを選んじゃうのかわいいな。
機嫌の悪そうだったアルフィルクもそれを満面の笑顔で見守っていた。
ミラに続いて、ツィーさん、九曜さん、アルフィルク、サダルメリクちゃん、暁さんがそれぞれお菓子を選んだ。
「みんな決めたね? じゃあダイスを振るよ!」
私は握り込んだダイスを勢いよく机に転がした。
出た目は……4!
おお、本当に4が出た。
4って出やすい数字なんだ。
ただ、本番はここからだ。
上から数えて4番目に高いお菓子を選んだ人がハズレになる。
お菓子を買った時のレシートを取り出して、値段を確認していく。
「九曜さん、スコーンっていくらでした?」
「確か1個350円だったかな」
「じゃあやっぱり一番高いです。そうなると、4番目に高いのは……」
みんなが固唾を飲んで私の発表を待つ。
何度もレシートを見返して値段を確認する。
ああ、間違いなくこれが4番目に高いな……。
「食べっ子どうぶつメロンミルク味でした!」
オヨヨ……と崩れ落ちるミラ。
他のみんなは手を叩いて喜んでいた。
「こういう時、絶対私が引くんだよね……」
「ミラはこういうの本当に弱いな! まっさきにハズレを引けるとか才能あるぞ!」
「正直ミラちゃんが選んだ段階でアタシの負けはないと思ってた!」
「信頼と実績ですね。素晴らしいです」
「期待を、裏切らない、女」
散々な言われようである。
可哀想だけど、決まってしまったものは仕方ない。
ミラは私にやらせようとしてたみたいだけど、私もミラが話を仕切っているのを見てみたかった。
「……あれ。ちょっと待って?」
アルフィルクが声をあげる。
何だ何だ。またアルフィルクの物言いか?
「サダルメリク、あなたやったわね。あなたが選んだチロルチョコ、一番安いんだから絶対選ばれないじゃない」
絶対選ばれない?
そう言われてようやく気づいた。
確かに7個のお菓子に対してダイスの目は6個しか無いのだから、7番目になる一番安いお菓子は絶対に選ばれる事はない。
それを取っておけば無敵だ。
「だから説明の時にわざわざチロルチョコが一番安いって話を出したのね。そのせいでそのチョコは6だと思い込んでたわ」
それも言われた通りだった。
私も一番安いチロルチョコは6だと思っていた。
「勝負は、ルール説明の段階から、始まっているのだ」
サダルメリクちゃんのドヤ顔ダブルピースが決まった。
この幼女、こんな顔して大した策士である。
「私の番が来るまでに、チロルチョコがとられる可能性もあったから、不正じゃない。誰も気づかなかったのが、悪い」
「わたくしは気づいていましたけどね」
「だから、お菓子を選ぶ順番が時計周りって決まった瞬間、すばるの右隣をキープ。すばるから始まらなければ、私の方が先にお菓子を選べる」
げげ、そこまで計算してたのか!
すぐにこういうゲームを思いつけたり、ルールの抜け穴を利用したりできるのは流石ボードゲーマー。
同じゲーマーとして勝ちへの執念が強いのは見習いたい。
「では本日の司会進行はミラで決定! よろしくお願いします!」
「未明子、絶対楽しんでるでしょ」
「私はミラと一緒ならいつでも楽しいよ」
「そっか。それは嬉しいな。えへへ」
私の彼女が今日もちょろ……かわいい。
司会が決まったので、みんなで机の上を片付け始めた。
今日はミラの強化をどうするかって話だったし、自分の強化の話を自分で進行する姿は面白そうだ。
私がそれを想像してニヤニヤしていると、突然拍手の音が聞こえた。
誰がこのタイミングで拍手をするんだろう?
また暁さんが柏手でも打っているのかなとそちらを見る。
するとそこには、見た事のない女性が二人立っていた。
「君達は仲が良くて素敵だね! 僕もその輪に入れてもらっても良いかな?」




