第26話 重なるその日々は、ねえ⑤
今回も少しだけ性的な描写があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
「お……お邪魔します」
「ど……どうぞ」
狭黒さんの家での相談会の後、ミラからラインの返事をもらった私は、家に戻らずそのままミラの家にお邪魔させてもらった。
できるだけ普通に話すように努めているが、流石にお互いギクシャクしてしまう。
部屋に上がらせてもらうと、数日前にあった事が鮮明に思い出される。
自然と前に来た時と同じ場所に座ると、ミラも同じように向かいに座った。
「……」
「……」
話したい事はあるのだが、どう切り出したらいいか分からず会話を探る。
しかしすぐに思いつく筈もなく、無言の時間が続いていた。
何か話の取っ掛かりは無いかと部屋の中を見回すと、ゴミ箱の中に見覚えのある紙袋が捨てられているのに気づいた。
その紙袋はさっき狭黒さん家に行く時に買った、お高いケーキ屋の紙袋だった。
「もしかして、アルフィルクが来てた?」
「うん。アルフィルクから聞いてたの?」
「ううん、知ってるケーキ屋さんの紙袋が捨ててあるからさ」
「?」
ミラが首を傾げる。
そりゃそうだ。ケーキ屋さんの紙袋が捨ててある事と、アルフィルクが来る事の関連性が全く無い。
慌ててフォローを入れる。
「今日狭黒さんの家に行ってきたんだ。その近くにあるケーキ屋さんの紙袋だったから、一緒の場所に住んでるアルフィルクが買ってきたのかなって」
「夜明さんの家に行ってたんだ? 何かお話があったの?」
「うん。ちょっと相談があって」
「そうなんだ。私もアルフィルク達に相談したい事があって来てもらってたの」
「それって、もしかして私の事?」
「……うん」
達ってことはアルフィルクの他にツィーさんとサダルメリクちゃんもいたのかな。
同じタイミングでそれぞれ別のメンバーに相談していたなんて奇遇だ。
「あのね。ミラに聞きたい事があって」
「あ、私も未明子に聞きたい事があるの」
「そうなんだ! じゃあミラからいいよ」
「え!? 未明子からどうぞ」
お互いに謎の譲り合いが発生してしまう。
「……」
「……」
せっかく会話が始まったのにまたお互い黙ってしまった。
このままだと無駄に時間を消費してしまう。
わざわざ来たのに、タイムアップでさようならなんてのはありえない。
「じゃあ、私からいいかな?」
「うん。聞かせて」
「…………ミラ、私のこと、怖くない?」
正直、これを聞くのは告白した時よりも勇気が必要だった。
もし彼女の口から最悪の言葉が発せられた時、果たして私は自分を保てるだろうか。
彼女に嫌われたら世界が終わったも同然だ。
どうか、どうか首を縦に振られませんように……!
目を背けたくなるのを押さえ込んでミラを見ていると、首を振る代わりに怪訝な表情に変わった。
「どうして私が未明子の事を怖がるの?」
「だって、ミラはあんな酷い目にあわされたんだよ?」
「酷い目? 私なにかされたっけ?」
「私、ミラの事を自分勝手に襲っちゃった」
「え!? だってあれは私が襲って欲しくてそうしたのに……」
「……?」
ミラがしまった! と言わんばかりに口を押さえる。
その反応に私の方が驚いてしまった。
ミラの顔をじっと見ると、目を背けられてしまう。
……まさかの本人からの自供が取れてしまった。
どうやら九曜さんの言っていた事は正しかったらしい。
あの流れはミラ自身が意図した流れだったのだ。
私がミラの事を襲いたくなるように、ミラ自身に誘導されていたようだ。
と、同時に私は自分の不甲斐なさを反省しなくてはいけない。
「つまり、私がやるべき時にやらなかったらそうしてくれたんだよね……」
「違うの! 私がそうなるといいなって思ってそうしたの。未明子は悪くないの」
必死に否定してくれるけど私があの時ヘタレたのは事実だ。
最初に求められた時にちゃんと応えられたら良かったのだ。
「私、ミラの事を傷つけてない?」
「傷ついてないよ。むしろ私の方が未明子に嫌われてないか心配だった」
「私がミラを嫌う理由こそ無いよ」
「だって私がそうなるように仕組んだのに、肝心な場面で泣いちゃって未明子を困らせてしまったのよ?」
「あれって、ミラを怖がらせて傷つけてしまったから泣いちゃったんじゃないの?」
「そんな事ないよ。私、嬉しくて。でも今までの事を思い出したらつい涙が出ちゃったの」
私とミラの付き合いなんてそこまで長くはないのに、あの瞬間にそんなに思い出してもらえる事があったんだ。
「そうだったんだ。ごめんね。勘違いしちゃってた」
「私もごめん。嬉しかったんだから素直に嬉しいって言えば良かった」
私が心配していた事は全部勘違いだったらしい。
怖がらせてもいないし、傷つけてもいない。
それがミラの口から聞けた事によって、心から完全にわだかまりが消えた。
「私、ミラの事が本当に大切なんだ。でも大切に思いすぎて勝手に思い込んじゃう癖があるみたい」
「私もそうなの! 私も未明子に嫌われてしまったんじゃないかって思い込んで、それを聞くのが怖かったの」
「やっぱり私達、お互いにまだまだ不器用なんだね」
「だって恋愛一年生だし」
顔を見合わせて、二人でへへへと笑いあった。
大丈夫。
私達は何も変わっていなかった。
ようやく私の心は元に戻る事が出来た。
もう安心だ。
「そういえばミラの聞きたい事って何だったの?」
「あ、そうだね。えっと……未明子、私の事どう思ってる?」
「どう思ってるって……大好きだし、幸せにしたいって思ってるよ」
「私も同じ。未明子のこと大好きだし、幸せにしたいって思ってる。……じゃあ、私をどうしたいって思ってる?」
「え?」
「私、前から言ってる通り未明子になら何をされても嬉しいの。未明子は私を大事に、丁寧に扱ってくれるけど、もっと未明子のしたいようにしてくれていいんだよ?」
「……」
結局、今回の本当の問題点はここにある。
私が一歩踏み出す勇気が出せないのは、ミラを大事に思うあまり手をこまねいてしまうからだ。
その結果、大事なステップを飛ばして暴走してしまった。
「私をそんなに綺麗だと思わないで。未明子が思ってるより、私もっと欲張りな女だよ?」
鷲羽さんに言われた、私がミラを特別視し過ぎているという事実。
やはり彼女は、自分の事を私が思うように特別だと思っていないし、私に対してもそう思って欲しい訳では無い。
「未明子が欲しくて意地悪もしちゃうし、もっと私を求めてもらいたいとも思ってる。今だって、どうやったら未明子に触れられるか考えてるの」
私だって机を挟んだこのたった1メートルに満たない距離をどうやったら縮められるのか考えていた。
一言、勇気を出して声をかけるだけで済むのに。
「ミラ、そっちに行っていい?」
「うん」
前回ミラが隣に来てくれたように、今度は私が彼女の隣に座った。
「やっぱり正座するんだね」
「正座の家系だからね」
「じゃあ、私は未明子に寄りかかる家系」
「家系ないじゃん」
「いいの。私から始まるの」
そう言ってミラは私に寄りかかってきた。
暖かい。
彼女の優しい体温を感じる。
「未明子が私に触れるのに勇気がいるなら、私が未明子に触れるのはいい?」
「……いいよ」
ミラは私の背中側に回り込むと、両腕を首に絡めて後ろから抱きかかえた。
こういうの何て言うんだっけ。
何か名前がついていた気がしたけど忘れた。
私は彼女に寄りかかるように体をあずけて、彼女の腕の中にスッポリと収まる。
「未明子、暖かいね」
「うん。私、体温高いから」
元々の体温も高い方だけど、こんな状態になったらそりゃあ普段以上に体温も高くなる。
彼女の腕に包まれて心が落ち着く。
それにいい匂いがする。
どこかで似たような事を感じたなと思ったら、あの操縦席だ。
見た目は無機質だけど、感覚的には彼女に抱きしめている感じなのか。
次に操縦席に座った時の印象が変わりそうだ。
「い、今から私の右手が未明子を触りまーす」
「何その宣言?」
「だって何も言わずに触るのはいやらしいかなと思って。それに口に出せば覚悟もできるでしょ?」
「別に好きに触ってくれていいのに……って、いきなりそこ触るの!?」
ミラは私のシャツに手を突っ込んで、あろう事かお腹を触ってきた。
しかも大胆にまさぐってくるので大変こそばゆい。
「私のお腹なんか触っても楽しくないでしょ?」
「楽しいよー。もっとプニプニかと思ってたのに、割とガッシリしててビックリした」
「最初の戦いで倒れちゃってから鍛えてるからね」
「鍛えるってどんな事をしてるの?」
「腹筋したり、腕立てしたり、あと走ったりかな。毎朝5キロランニングしてるよ」
「凄い! スポーツ選手みたい」
「ミラを守る為にできる努力はしたかったから」
「そんなの惚れてまうやろー」
「あれ!? 私、惚れられてなかった!?」
「ずっと惚れてんで」
「その喋り方は何なの?」
「未明子の喋り方」
ミラはクスクス笑った。
お腹を触ったまま笑うので、余計にくすぐったい。
どこからどう見ても、いま私とミラはイチャイチャしている。
とても幸せな時間だった。
そして今日ステラ・カントル組のメンバーと話をした事によって、彼女がいま何で私のお腹を触っているのか、何を考えているのか、何となく分かるようになっていた。
「さっき狭黒さんの家に暁さんと九曜さんも来ててね」
「あれ、もしかしてそっちもみんなで集まってたの?」
「うん。ミラの事で相談に乗ってもらってたんだ。そこで暁さんに教えてもらったんだけどさ」
「うんうん」
「ミラってドMなんだね」
お腹をさするミラの手が止まった。
後ろで首を傾げているのが伝わってくる。
「そ、そうかな? あんまり自覚がない、かも?」
「暁さんにそう言われて、私もそうかなって思ったんだけど、Mの人ってM過ぎてSっぽい事をしたりするんだって」
「へぇ。そうなんだ」
「暁さんとかその典型らしくて、普段サダルメリクちゃんをいじめるのはM気質が強いからみたいだよ。心の中では後でどんな仕返しされるんだろうって思ってるみたい」
相談会の時、暁さんにサダルメリクちゃんに襲われて怖くないんですか? って聞いたら「むしろ興奮します」って返されて、Mの人って凄いんだなと思った。
「すばるさんはどちらかと言うとSだと思ってたよ。サダルメリクの方がMだと思ってた」
「あの二人の性癖は見た目と逆みたい。面白いよね」
そう言いながら、私はお腹をさすっていたミラの手を上から掴んだ。
「へ? 未明子?」
「本人が隠しもしない真性ドMな暁さんが、ミラも同じくMだって言ってたんだ」
ドMにはドMが分かるらしい。
本人曰く、性癖を当てるのは血液型を当てるより容易いとの事だった。
「さっきからずっと私のお腹を触ってるけど、本当はお腹じゃなくて胸を触りたいんだよね? でも気後れしてなかなか触れないんだよね?」
私は掴んでいた彼女の手を引き上げると、自分の胸にあてがった。
「ええっ!?」
ミラの指を私の指で掴んで強引に下着の中にすべりこませる。
彼女の指が、私の大事なトコロに触れた。
触られたトコロに電気のような刺激が走り、思わず声が漏れてしまいそうになった。
でもここで声を出したらダメだ。
私はいまミラに対して攻めている立場なんだ。
あまりの事に混乱したのか、ミラの反応がなくなってしまった。
でも耳元に聞こえる息遣いはどんどん荒くなっていく。
「何で触ってる方が余裕ないの? もしかして主導権を握ってるつもりが、いつの間にか主導権を奪われてたのが気持ち良かった?」
「そ、そんな事ない……」
「声震えてるよ? こうやって私の胸を触ってるけど、本当は触りたいんじゃなくて触って欲しいんだよね? こうやって私がその気になるのを期待してるんだよね?」
「違う……違う……」
掠れた声を出したミラの方をゆっくり振り返ると、恍惚とした表情をしていた。
隠していた自分の心を暴かれたのが恥ずかしいのか、それも含めて興奮しているのか。
どっちにしろ暁さんが言った事は正解だったみたいだ。
「えっちだね」
そう言うとミラは「うぅ」と唸って顔を伏せてしまった。
今の自分の顔は見られたくないんだろう。
でも隠されたら見たくなってしまう。
私は残った片方の手で彼女の顔を強引に上げる。
目に力が無くて、まるで催眠にでもかかったようにトロンとした顔をしていた。
美人で、頭も良くて、いつも笑顔のミラがこんな顔もするんだと思うと、私だけが見られるこの顔を、もっと乱れさせてしまいたいと思った。
ミラがM気質だと言うなら、間違いなく私はSの素質があるらしい。
「今から私の右手がミラの胸を触りまーす」
「え?」
「何も言わずに触るのもいやらしいかなと思って。いや、言ってもいやらしいか。でも、覚悟はできるでしょ?」
ミラの大きなうるんだ目が、じっと私を見つめる。
その目には期待が溢れているのが分かる。
私はその目を見返すと、一度頭を冷静にした。
ここから先は、私が踏み込まないようにしていた領域だ。
前回はこの境界線を一気に飛び越えてしまったのがいけなかった。
だから今度は一歩ずつ、丁寧に線を超えなければいけない。
その為に必要なのは彼女の気持ちの確認だ。
「もし嫌だったらやめるから言って?」
あの時のミラが私に言ってくれた言葉。
正直、あれだけ気分が盛り上がっていた状態でよくもこの言葉が出たものだ。
私は今日、こういう展開になるなら最初からこう言うつもりだった。
だから今さらりと口から出たけど、あの時のミラはあんな状態でも、自分の気持ちよりも私の気持ちを優先してくれた。
いま自分がその立場になって、ミラがどれだけ私の事を大切に思ってくれていたのか理解する。
「嫌じゃないよ。……触って、欲しい」
すがるような甘えた声が耳に入る。
この言葉を聞けたなら、もう私だけの意思じゃない。
自分本位な侵略じゃない。
私がしたい事を、彼女が認めてくれたのだ。
こんな小さな事が私の中では大事なプロセスだったようだ。
私は自分に、欲望を完全に解放する事を許可した。
「じゃあ、今日は泣いても止めないね」
彼女が頷くのを確認する。
私は自分がさっきされたように、ミラのシャツの下から手を忍び込ませた。
ゆっくり、ゆっくりとお腹を這いずり上がっていって、あの時と同じように彼女の下着に手があたる。
ミラの体がビクンと反応すると、私の胸から手を離しそうになったので、上から押さえ込んで動かないようにする。
「ミラも私のココ、触ったままでいて?」
そう言われた彼女はこくこくと首を上下に動かす。
彼女の手が、再び私の胸を優しく包む。
そして私は、そっと彼女の下着の中に手を滑り込ませた。
指に柔らかいものがあたる。
その柔らかいものを、指で優しく撫でる。
「ッ!!」
ミラが声にならない声をあげながら体を激しく跳ねさせる。
私は跳ねた体を包むように、顔を彼女の耳元に近づけた。
「かわいいよ」
私がそう言うと、ミラの呼吸が全力疾走した後のように激しくなった。
胸を触っている手に振動が伝わるくらい、彼女の鼓動が激しくなっている。
私は酸素を求めるように、ポカンと開いたままの彼女の口にキスをした。
強引に舌を入れて彼女の舌を絡め取る。
最初は合わせて舌を動かしていたミラも、次第にされるがままになった。
目を閉じて、力なくこちらに体を預けている。
私はキスをしたまま、再び彼女の胸の先端を指で撫でた。
親指と人差し指でその先端をつまむ度に、ミラの口から熱い息が漏れる。
以前のように、このままシャツを捲り上げてしまおうかと思った矢先、突然ミラが「ゔゔっ」と鳴き声のような声を出して、勢いよく私の腕に顔を埋めた。
「……え!? 大丈夫!?」
突然すぎて何が起こったのか分からなかった。
凄い勢いで私の腕に顔を寄せたので流石に心配になった。
しばらくすると、ミラはプルプルと震え始めた。
これはただ事では無いと思い、もう一度「大丈夫?」と声をかけると
「ご、ごべん未明子。は、鼻血が……」
という消え入りそうな声が聞こえてきた。
……どうやらミラは興奮しすぎて鼻血を出したらしい。
「ふぐッ!」
私は必死で笑うのを堪えたが、我慢できずに盛大に声が漏れた。
「ひどいよぉ……。ディッジュとっでくだざい」
ミラが自分の手の甲で鼻を押さえている。
私もさっき同じ理由で鼻血を出したばっかりだった。
アルフィルクが私達は相性がいいと言っていたけど、こんな所まで似てしまうものなのか。
手を伸ばして部屋に転がっていたティッシュ箱をミラに渡す。
それを受け取ると、ミラは洗面所の方に駆けていってしまった。
よく見ると彼女の顔が乗っていた私の腕にも派手に血がついていた。
「いや結構出たね!?」
私も後を追って洗面所に向かうと、鼻にティッシュをつめたミラが顔についた血を洗っていた。
「ちょ、こんな酷い顔見ないで!」
「鼻にティッシュ詰めててもかわいいとかどんだけ天使なんだ」
「いやぁ。こんな顔を褒められても嬉しくないぃ」
流しで腕についた血を洗わせてもらうと「しばらく向こうに行ってて!」と追い出されてしまった。
とりあえずさっきまで座っていたところに戻って、ぼーっと天井を見つめる。
指に残った感触を思い出しながら、何もない空間を何度もこねくる。
……ミラのおっぱい触っちゃった。
自分が何をしたのか実感が持てないまま、ミラが帰ってくるまで放心していた。
しばらくして、顔やら手やらについた血を落としたミラが部屋に戻ってきた。
ティッシュはまだ外せないらしく、鼻を手で隠している。
「ごめんなさい。また私がヘタレました」
「こればっかりは生理現象だから仕方なくない?」
流石に鼻血をダラダラ流した女の子を相手に、あれ以上、コトを進める訳にはいかない。
一度ならず二度までも失敗するなんて、暗に神様に ”お主らにはまだ早い” と言われている気になってくる。
だが私的には、前回よりもワンステップ進んだ自覚があった。
ミラはまだ血が止まらないみたいだったので、台所にある冷凍庫から氷をもらって氷嚢を作った。
それを渡して、鼻の頭を冷やしてもらう。
「鼻血が出た時は上を向いたり寝転がったりせずに、出し切っちゃった方がいいみたいだよ」
「うむぅ……未明子が鼻血の対処に慣れている」
「私もほんの数時間前に出しちゃったからね」
「なんで!?」
「分からない。今日はそういう日だったのかも」
それを聞いたミラが呆れて笑い出したので、私も釣られて笑った。
彼女も笑ってるみたいだし、今日はこれでいいかな。
「今度さ、ミラの家に泊まりに来てもいい?」
「お泊まり!? うん、来て来て!!」
「その時にさ、続きをしよ?」
「……続きって事は、その、最後まで?」
「うん。最後まで」
ミラはひゃあ、と鳴き声をあげて氷嚢で顔を隠しながらコクコク頷いた。
私も自分で言った事を反芻して血圧が上がってしまった。
また鼻血を吹いたらかっこ悪いから、冷静に冷静に。
「約束ね。指切り」
ミラが小指を出す。
私はその小指に自分の小指を絡めると、指切りをする。
ミラが嬉しそうな声で「やった」と言ったのが聞こえた。
今日も私の彼女がかわいい。
私は自分の小指を見つめて思った。
……この約束の日が、早くやって来ますように。




