第24話 重なるその日々は、ねえ③
地元の駅から特急電車に乗ること二駅。
普段は映画を観る時か、お母さんの買い物に付き合う時くらいしか来ない街に来ていた。
この辺りでは一番賑わっている街なので駅前には大きな建物がたくさん並んでいる。
私は駅を出てすぐの広場にあるベンチに座って、さっき買ったジュースを飲んでいた。
先日ミラとの初えっちで大失敗した私は、自己嫌悪から抜け出せないでいた。
布団にくるまってウンウン唸っていても事態が好転する訳がなく、一人で悩んでいても埒が明かなかったので一念発起して恋愛の先輩方に話を聞いてもらう事にしたのだった。
ラインで狭黒さん、九曜さん、暁さんに事情を伝えたところ、それなら狭黒さんの家に集まって話そうという事になり、ここで待ち合わせをしているのだ。
ミラと直接話をすればいいだけなのに、今はその勇気が出ない。
何となく気持ちを分かってくれるかもしれないと考えてステラ・カントル組の方に連絡を取ってしまうのが私の情けないところであった。
ミラの事をよく分かっているし、こういうのはアルフィルクに相談するのが一番良いと思う。
良いとは思うんだけど、ミラから話が伝わってる可能性を考えると出会い頭にビンタされそうで怖い。
普段だったら「ご褒美です!」って喜ぶところだけど、今は本気で凹んでいるからそんな事されたら泣き出してしまいそうだ。
何もせずに待っていると嫌な事ばかりが頭をよぎってしまうので、スマホを開いて猫動画を見る。
すると ”ミラ” と名付けられたキジトラにゃんこの動画が出てきたので、私はそっとスマホを閉じた。
ミラは今頃なにをしているんだろう?
あんな目にあって、怖くて家に閉じこもってないといいけど。
そんな事を考えていると、私の中の罪悪感がにゅるりとハミ出てきて「お前のせいだ!」と手に持っている槍で突き刺してくる。
いや、私が悪いなんて私が一番分かっとるわ!
だけど今更どうしたらいいか分からんのじゃい!
あの時だって理性くんがもう少し頑張ってくれたらあんな事にはならなかったのに。
罪悪感が、今度は私の中の理性くんを槍でブスブス刺しはじめた。
理性くん「あんな状態のミラちゃんを見せられて何をどう頑張れと?」
わたし「すまん。責任を押し付けちゃいかんよな」
理性くん「そうやで。ワイにだって難しい事はある」
わたし「理性くんも罪悪感くんも悪かったな。もう私の中に戻ってくれてええで」
二人「「ほな」」
はぁ……心の底から自分が嫌になる。
でも本当に嫌になるのは、ミラをあんな目にあわせておきながら、あの時のミラの姿を思い出しては悶々としている私の汚れた心だ。
散々陵辱されて、怯えた子犬のような表情のミラが目に焼き付いて離れない。
ダメだダメだダメだ!
結局、全然反省してないじゃないか!
私は一体ミラをどうしたいんだ!
うわああああああああっ!!
「未明子くん、こんな所でヘッドバンギングをしてどうしたんだい?」
「ロックフェスでも行くん?」
広場の隅っこで、頭を壁に打ち付けんばかりに振り回していたらしい私を心配して、狭黒さんと九曜さんが声をかけてくれた。
私は二人を見ると、深いお辞儀をした。
「お二人様。この度はご足労ありがとうございます」
「ご足労なのはどちらかと言うと未明子くんの方なのだがね」
「どうせミラちゃんのことで頭がいっぱいなんでしょ?」
そうです。
いつだって彼女の事でいっぱいいっぱいの私の頭は、だからバグって大変な事になっているのです。
「助けてください。助けてぇ……」
「わぉ! 日常でそんなセリフが聞けるなんて思わなかった! よーしよしよし。お姉さんがたくさんお話聞いてあげるから安心してね」
「五月くん、あまり甘やかすと調子に乗るからほどほどにね」
九曜お姉さん大好き。
狭黒さん嫌い。
「これはこれは。犬飼さんが五月さんの胸で性欲を満たしております。いけませんよ、彼女の胸に甘えられなかったからと言って他の女の胸を頼りにするなど」
開口一番毒舌で挨拶をかましてくる暁さんがやって来た。
歯に衣着せぬ物言いで、弱った心に塩を塗りたくってくるお手前は流石と言うほかない。
「暁さん、来てくださってありがとうございます」
「わたくしでお役に立てるかは分かりませんが、声をかけて頂けて嬉しいです」
ステラ・カントルとして先輩の三人だけど、恋愛相談のできる先輩でもある。
そもそも周りに女の子と付き合っている女の子の知り合いなど心当たりがない。
話ができるのもこの三人以外にあり得ないのだ。
私は三人に改めて感謝を伝え、狭黒邸への道すがら感謝の印代わりのお高いケーキを買っていった。
狭黒さんの家は駅から10分ほど歩いたところにあった。
まさかの一戸建てである。
持ち家ではなく賃貸らしいが、築浅っぽい匂いを残した綺麗な家だった。
「はぇー、いい所に住んでますね」
「最初はもうちょっと地味な所に住んでいたんだけどね。アルフィルクと一緒に住むと決まった時に彼女に選んでもらったのさ」
「そう言えば今日はアルフィルクは?」
「何か大事な用事があると言って出かけているよ」
良かった。
ミラを傷つけた事で、せっかく得たアルフィルクの信頼も失墜しているかもしれない。
とりあえず私が立ち直るまでは会わない方がいいだろう。
「何気に私達もざくろっちの家にお呼ばれするの初めてだよね?」
「はい。大概は我が家に集まっておりましたからね」
暁さんの家なら例のファッションショーかな。
いいなあ、私も参加したい。
ミラに色んな服を着せてみたい。
何を着せても絶対似合うんだろうなぁ。
部屋で着てたようなあんなラフな服でも似合うんだから。
瞬間、私の頭にシャツを捲りあげられ下着を晒しているミラの姿がよぎった。
「こ、この野郎!」
「どうしたんだい未明子くん、何か私の家に恨みでもあるのかい!?」
狭黒さんの家は2LDKのとても広い家だった。
二階にリビングがある少し変わった間取りで、リビングは20畳もあるそうだ。
バルコニーも広くて、窓からは陽の光がよく入り、風通しもいい快適な部屋だ。
一階には仕事部屋と寝室があり、仕事部屋ですら10畳あるらしい。
普段は二人とも仕事部屋で作業をして、眠たくなったら各々寝室に移動して寝ているそうだ。
「ミラの部屋も凄かったけど、狭黒さんの家も凄いですね」
「アルフィルクが予算内で悩みに悩んだからね。私も一戸建てと聞いた時は驚いたよ。でもウチでびっくりしていたら、すばる君の家を見たら腰を抜かすんじゃないかな」
そう言えば暁邸は豪邸だと言っていた。
ここ以上に豪華ってどんなお城なんだ。
「犬飼さんにお越しいただくのを楽しみにしております」
「腰を鍛えておきます!」
この家で二人が生活しているのを想像する。
四六時中一緒にいて、どんな話をしてるんだろう。
夕飯は交代で作ってるのかな。
洗濯とか掃除とかどんなルールを決めているんだろう。
私は初めて見る女の子同士が暮らす部屋に興味津々で、落ち着かなく周りを見ていた。
「私とアルフィルクの生活が気になるかい?」
「はい。一緒に暮らすってどんな感じですか?」
「まあ私達の場合、一緒に暮らすと言うよりは私がアルフィルクに飼われている感じだからね」
「ペットでしたか」
狭黒さんらしいと言えば狭黒さんらしい。
この人、誰かの世話を焼くタイプじゃないもんな。
「好きにやらせてもらっているよ。炊事洗濯、部屋の掃除、全部アルフィルクがやってくれるからね。私はそのへんでゴロゴロしているだけさ」
言葉のあやとかじゃなくて本当に飼われとるんかい。
それはもう人じゃなくて猫と同じなのでは?
さっき想像していた、交代で夕飯を作るとか、掃除のルールとか、そもそも存在すらしていなかった。
「そ、それでいいんですか?」
「アルフィルクがそうしたいと言うから甘えさせてもらっているだけだよ。それに彼女が仕事で遅くなる時は私が夕飯を用意したりするよ。マックとか」
生活力皆無の人だった。
もしアルフィルクが調子悪くて寝込んだら何もできないのではなかろうか。
いや、寝込まなくてもアルフィルクがミラの家にお泊まりとかしたら、一人で食事やお風呂に入ったりできなくて、着の身着のまま「お腹がすいたよぉ」とベッドで泣いている姿しか想像できない。
とは言え、それで二人が満足しているなら他人がとやかく言う事では無いか。
この綺麗な部屋を見れば、アルフィルクが二人で暮らす為にいかに努力をしているかが伝わってくる。
「さあさあ。私の家のことはもういいじゃないか。それより君の話を聞かせてくれたまえよ!」
「じゃあ、アタシ飲み物入れるわ!」
「わたくしは茶菓子を用意いたします」
「ありがとう。カップはそこの棚の中、皿やスプーンはそっちの引き出しの中だよ」
テキパキと準備をする九曜さんと暁さん。
いや家主がやらんのかい!
何でお客さんが率先して準備してるんだ。
私が呆れていると、あっという間に机の上が彩られていった。
あの日あった事を一通り話し終えた。
隠したりぼかしたりしても意味がないので、起こった事を包み隠さず全て話した。
みんな目を閉じてウーンと唸っている。
狭黒さんはもしかしたら笑い出すかもと思っていたけど、しっかり何を言うべきか考えてくれている。
「これは、犬飼さんを責めるべき所はありませんね」
口火を切ったのは暁さんだった。
「でもミラの事を泣かせちゃったんですよ?」
「泣いたと言っても彼女がワンワン泣き喚いた訳じゃないんだろ?」
「それはそうですけど……」
「実際、感極まると涙が出ちゃう事もあるから、それでミラちゃんが傷ついたって事はないんじゃない?」
そうなのだろうか。
確かに感極まって泣く事はあるけど、あんな風に襲われたら怖くて泣いてしまうんじゃないだろうか。
「それにね未明子くん、客観的に見るとミラくんの方がやらかしちゃってる気はするよ」
「ミラが!?」
ミラがあの時やらかした事なんてあるだろうか。
あの時は私が一方的にミラに好き放題したのだ。
信じていた恋人に酷い事をされて、悲しい思いをしたに違いない。
「まぁ落ち着きたまえ。君は自分がミラくんを襲ったと言っているが、彼女は君を別のユニバースに閉じ込めているからね。襲われたという意味では君の方が襲われていると表現できるよ。それに比べれば、君がミラくんの自由を奪った事など些細な事だ」
「わたくしもそれに同意です。ミラさんの事を悪く言うつもりはありませんが、自分の部屋というテリトリーに誘い込んでおきながら更に逃げ場のない場所に連れ込むのは、未明子さんの意思を奪っているように思います」
「でも私がミラの部屋に行きたいって言い出したんだし、そもそもあの場面で私が自分で動けば、ミラはそんな行動に出なかったと思うんです」
もし私が同じ能力を持っていたら、やはり同じことをした気がする。
逃げ場がなくなれば覚悟を決めてくれると考える筈だ。
実際逃げ場がなくなったことで、私は一歩踏み出すことができた。
それは間違った一歩だったけど。
「オッケー。未明子ちゃんの言いたい事は分かった。こういう時はね、問題を整理して考えよっか?」
九曜さんが焦る私を諌めるように優しく諭してくれる。
その優しい声を聞くと、肩の力がふっと抜けて気持ちが落ち着いた。
相変わらずこの人の癒しボイスの効果は凄い。
「未明子ちゃんが一番問題だと思っているのはどんな事?」
自分の中で問題が多すぎるけど、言われた通りに一番問題だと思っている事を考える。
頭の中でこんがらがっている事の中から取捨選択した。
「……ミラを傷つけて、嫌われてしまったかもしれないのが一番の問題だと思います」
「うん。未明子ちゃんとミラちゃんの仲が壊れるのが一番嫌だもんね」
九曜さんは私の意見をまず肯定してくれた。
これだけでも少し心が楽になる。
「じゃあまずはそこを考えよっか。ミラちゃんを傷つけちゃったと思ったのはどうしてだと思う?」
「泣くほど怖い思いをさせてしまいました。私だったら、信じている人に裏切られたら悲しいです」
「未明子ちゃんに裏切られたとは思ってないんじゃないかな。だってミラちゃんの方がそうなるように仕向けたんでしょ?」
「そう……なんでしょうか?」
「わざわざ別のユニバースに誘い込んで逃げ場を塞いで、未明子ちゃんを挑発するようにベロチューしてきたり、体に触れたりしてきたんなら、むしろそうなって欲しかったんじゃないのかな」
べ、ベロチュー……。
確かにそこまでの流れはミラが主体だった。
私はミラの好きにしてもらえばいいと思っていたけど、挑発されていたと言われればそうなのかもしれない。
「未明子ちゃんが襲ってくれないから、襲ってくれるように頑張ったんじゃないのかな」
「確かにミラにあそこまでされなかったら、私はそういう気にならなかったかもしれません」
「だったら裏切ったんじゃなくて、誘いに乗ってあげたんだからむしろミラちゃん的には嬉しかったと思うよ」
自分的にそうだったら良いなと思いたい気持ちもあるので、そう言われると納得できてしまう。
そうか。むしろあれだけされて、なおヘタレてたらそっちの方が裏切りだった可能性もあるのか。
「でも怖い思いをさせちゃったと思います」
「じゃあ逆に未明子ちゃんに聞くけど、ミラちゃんに別のユニバースに閉じ込められた時どう思った?」
「え? どうって……このままじゃ帰れないなって」
「そういう理性的なのじゃなくって、もっと生理的なの」
「生理的……。あの時はびっくりしたのも大きくて」
「じゃあ、今になってそのシチュエーションどう思う?」
「……」
「正直に」
「……こ、興奮します」
「でしょ!」
九曜さんにはしっかり見透かされていた。
そうなのだ。私は正直、あの時興奮していたのだ。
あのミラにあんな事をされて「これからどうなってしまうの!?」という気持ちに快楽を感じていたのだった。
「ミラちゃんも同じだったんじゃないのかな。未明子ちゃんに襲われて、私これからどうなっちゃうんだろうって期待で興奮してたと思うんだよね」
「く……九曜さん、凄い抉りこんで来ますね」
「まあ、アタシも伊達に経験つんでないしね!」
もし九曜さんの言う通りなら、私が一番の問題だと思っている ”怖がらせて傷つけたかもしれない” は、ただの勘違いということになる。
「勿論、本人に聞いてみないと答え合わせはできないけど、私はそんなに間違ってないと思うよ」
「……ありがとうございます。ずいぶん心が楽になりました」
こんがらがっていた頭が整理できて考える余裕ができた。
自分でそう思いたい気持ちは置いておいて、すっきりした頭で考えると九曜さんが言った通りの可能性も高い気がしてきた。
ミラの答えを聞くまでは一方的にネガティブになる必要はないのかもしれない。
「他に問題だと思う事はある?」
「えっと、そうですね」
一番大きな心のしこりは解消できた。
なので今日どうしてもしたかった話はできている。
だけど滅多にない本音トークができた事で私の中に欲が出てきてしまった。
どうせ私の株なんてとっくに底値だし、冷たい目で睨まれるのを覚悟で、思い切って聞きたかった事を聞いてみよう。
「問題じゃ無いんですけど、聞きたい事でもいいですか?」
「何でもオッケーだよ」
「みなさん、彼女とのえっちってどんな感じなんですか?」
場が固まる
外は晴天。
過ごしやすい気候で、外からは鳥の鳴き声が聞こえる爽やかな午後だ。
そんな休日の昼下がりに、年頃の女子が集まってする話では無いなとは自分でも思った。
よし。殴られるか! と頭を差し出そうと思ったが、流石このメンバーである。
臆することもなく、じゃあ語ってあげますかと言わんばかりにお茶を飲んで喉を潤しだした。
「いやぁ、未明子くんこそ抉りこんでくるねぇ。私達も様々な話しをしてきたけど、自分たちの行為について語ったことはなかったよ」
「ですが良い機会です。未明子さんの為にもなるならお話しいたしましょう」
「おお? 誰が一番ラブラブしてるか大会開催って感じかな?」
全然そんな意図はなかった。
ただ私がミラに対してやった事が、やりすぎなのか、そうなる事もある範疇なのかを探りたかっただけなのだ。
でもそういうノリならそれはそれで興味があるので、私はわーいと拍手をした。
「じゃあ、家主の狭黒さんから聞かせて下さい!」
「こう言う時って家主が一番最後になるんじゃないのかい? まあいいか。私とアルフィルクの行為についてか……そうだねぇ。特に特殊な事はしていないが、お互いの服装をお互いが決めているね」
「服装を決めるってどういう事ですか?」
「人の尊厳は着ている服にあると思っていてね。それを脱がす時が一番相手を支配している気持ちになれるんだ。だからまずは自分好みに相手を着飾って、それを剥ぎ取ると言うのが私の趣味だね」
うわぁ……初っ端からディープなのが出てきたぁ。
確かに服を脱がすのは背徳感があって興奮するけど、その服を自分で選ぶところにフェチを感じる。
さすが先輩、私の嗜好のはるか上をいっていた。
「私はあまり羞恥がないので面白くないと言われるが、アルフィルクは脱がされる時に少し悔しそうな顔をするのがかわいいね」
「ぶぶっ!」
思わず噴いてしまった。
想像して鼻血が出そうになる。
アルフィルクがあの綺麗な顔を真っ赤にしながら、悔しそうに服を脱がされているのはえっちすぎる。
強気でガードが固そうなのに、狭黒さんには簡単に攻略されちゃうのが素晴らしい!
「素敵ですね。えっちです」
身体が火照って息苦しくなってきたので、手で顔を扇ぎながらお茶を一気飲みした。
こ、これは思った以上に聞きたかった話かもしれない。
ワクワクとドキドキが止まらない。
「あと未明子くんに私の出した結論を一つ伝えておこう」
「結論ですか?」
「うむ、それはね」
「ステラ・アルマは性欲が強いッ!」
ステラ・アルマは性欲が強い!?
ど、どういうことなんですか教授!?
「実はアルフィルクと暮らし始めてから行為の回数が激増したんだ。別々に暮らしていた時はせいぜい月に一回くらいだったのが、今ではほぼ毎週末に行為に及んでいる」
「それは一緒に暮らすようになって気持ちが強まったからじゃないんですか?」
「うむ。私もそう思っていたんだが、あまりにも懇願されるので直接彼女に聞いてみたんだ。すると返ってきた答えが ”許されるなら毎晩でもやりたい!” だったのさ」
ええーーーー!
確かに好きな相手と一緒に住んでいればいつでも好きな時にできるけど、そんなお盛んになるものなの?
しかも毎晩って……。
「そ、それはアルフィルクが特別そうであってステラ・アルマ全員がそうと言う訳では……」
ミラの普段の清楚なイメージと性欲が強いというイメージが合致しなくて焦ってしまう。
「ではここで、わたくしとメリクのお話しをいたしましょう」
暁さんがスッと手をあげる。
こういう話には奥手そうな見た目なのに、こういう話が好きなのが暁さんの素敵なギャップだ。
でも流石にあのサダルメリクちゃんの性欲が強いと言うのは無理がある気がする。
何ならえっちの途中でも疲れて寝ちゃいそうだ。
「メリクが性に対しての欲求が強いか否かと言われれば、強いと断言いたします」
おぉ……。
断言されてしまった。
「夜明さんは毎週末とおっしゃられておりましたが、わたくしとメリクは三日に一度のペースで行為に至っております」
「み、三日に一度!? それ体力持つんですか?」
「わたくしは鍛えておりますので何とか。メリクに関してはむしろ行為後の方が元気です」
まてまてまてまて。
どんどんサダルメリクちゃんの印象が変わっていく。
もはや最初のイメージから逆転し始めたぞ。
「しかも戦いのあった日は興奮するのか、以前のように凶暴性が増します」
そう言いながら、暁さんは突然着ているシャツのボタンをはずし始めた。
目をそらさなければと思ったが、目は意思と関係なくその露わになった首元を注視してしまう。
シャツを肩まで脱いだ暁さんの首元には、小さなアザがたくさんできていた。
「もしかしてキスマークですかそれ!? そんなにたくさん!?」
「はい。凶暴性の増したメリクはわたくしの着ている衣服を引き裂いて、気の済むまで体を蹂躙いたします」
それはもう強姦では!?
私のした事がかわいく見えるくらいに乱暴だ。
ベッドに押し付けられる暁さんと、小さな体で暁さんの上にまたがるサダルメリクちゃん。
暁さんの着ている服の胸元を引き裂いて散々キスマークをつけたかと思うと、着ている服も下着も全部破り捨てて獣のように襲いかかる。
こ、これはいけない!
想像しただけでも過激だ!
まさかあの仲良し歳の差カップルの夜の事情がこんなに爛れていたなんて!
立て続けに想像を越える話を聞かされたせいで血圧があがりすぎたのか、私の鼻から暖かいものが垂れてくる。
まごうかたなき鼻血だった。
……えっちな事を考えすぎると鼻血が出るって本当だったんだな。
血がこぼれないように鼻を拭いながら首の後ろをトントン叩いていると、九曜さんがティッシュを差し出してくれた。
私はお礼を言って鼻にティッシュをつめる。
ミラにはとても見せられない顔になったが、栄養分の高い話を聞いたおかげで肌がツヤツヤになってきた。
「ふむ。やはりステラ・アルマの性欲が強いと言うのは間違ってなさそうだ。ミラくんも未明子くんとしたかったのをずっと我慢していたんだろうね」
ミラは私と一緒にいる時、そういう気持ちを抑えて付き合ってくれていたんだろうか。
私だってそういう気持ちはあったけど、ミラは私以上に我慢して一緒にいてくれたのかもしれない。
思い返すと隠しきれていないところがたくさんあった気がするけど、綺麗に忘れておこう。
「く、九曜さんはどうですか?」
狭黒さんと暁さんの話があまりに濃厚だったので、これは九曜さんからもディープな話が聞けそうだと期待に胸を膨らませていると、九曜さんはアハハと軽く笑った。
「いやー、アタシ達はそんな激しくないよ。お互い気分が盛り上がった時にするくらいで、何なら部屋で一緒にいる時も別々の事してるしね」
意外だった。
このカップルこそ普段からベッタリしているイメージがあったのに。
ツィーさんなんか自分の部屋にいたら、家事全般を九曜さんに依存して猫みたいにゴロゴロして生きているのかと思っていた。
あ、これ狭黒さんと同じだな。
相変わらずこの二人のイメージが重なる事が多い。
「ステラ・アルマがそんなに性欲強いなんて知らなかったけど、アタシから誘わない限りはそういう空気にもならないし、ツィーはそういうの上手くコントロールしてくれてたんだね」
大人だああああああッ!!
ツィーさん仕事も介護だし、付き合いも相手のペースに合わせられるとか、あんなチャランポランに見えて実は一番大人なんじゃなかろうか。
目の前で見る本人と、他人から聞かされる実像が違いすぎて脳がバグる。
「ツィーくんはいつもギャップを感じさせるね」
やはりみんなツィーさんに抱く感想は同じらしい。
そして目の前で見ても人から聞いてもだいたい同じ印象になるのがいま喋っている狭黒さんだ。
「どうだい未明子くん。他人の情事を聞いて参考になったかい?」
「はい。思った以上の話が聞けて満足しました。特にステラ・アルマが性欲が強いっていうのは、これからの付き合いで意識した方がいいなと思いました」
「そうですね。相手への理解が深まると、相手の行動にも納得がいきますよ」
暁さんの言う通りだ。
あの時ミラがとった行動も、だんだん理解ができてきた。
「じゃあさ、早速ミラちゃんと会ってちゃんと話しをした方がいいんじゃない?」
「そうだね。君が落ち込んでいるように、ミラくんも落ち込んでいるかもしれないしね」
九曜さんも言っていたけど、あの時の答え合わせはミラとしかできない。
やっぱり怖がらせたり嫌な思いをさせてしまっていたなら謝りたいし、もしそれが勘違いだったなら、次はどうすればいいかの話もしたい。
今ならミラとまっすぐ話す勇気もある。
本当にみんなに打ち上けて良かった。
私はスマホを取り出して、ミラにラインを打った。
(今日の夜、会いに言ってもいい?)




