第23話 重なるその日々は、ねえ②
今回、若干性的描写があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
ミラは2階建ての集合住宅に住んでいた。
2階までしかないので分類で言うとアパートタイプになるのだろうけど、そこらのマンションよりもよっぽど作りが良い。
通路に設置されている電灯や部屋の扉の装飾が豪華で、建物の前に小さな庭のようなスペースまであるので、これをアパートと言っていいのかは疑問だ。
しかも上下2階で1部屋らしく、どう考えても学生が一人で住むような物件ではない。
「す、すごい綺麗なところに住んでるね」
「うん。このあたりを歩き回って、一番かわいいところにしたの」
確かにクリーム色をした小さなお城みたいな雰囲気でかわいい建物だ。
だが入口にはデカデカと ”監視カメラ設置” と書かれているので、ただかわいいだけでは無くセキュリティもしっかりしていそうだった。
「お邪魔します」
玄関に入るとピンク色の傘立てが目に入った。
ミラはピンク色の物が好きみたいで、カバンにもピンクの小物をつけていた。
靴を脱ぐと、それをキッチリと揃えてスリッパに履き替えている。
こういうところでも彼女の育ちの良さがうかがえる。
スリッパもピンクで統一されているのがかわいい。
「未明子も良かったら履いてね」
「ありがとう」
お揃いのスリッパが用意されていたので、私もそれを履かせてもらった。
……ん?
玄関にスリッパが2セットあるのはおかしくないか?
普段はミラしか帰ってこないのに、何で2セット置いてあるんだろう。
あ、今日は私が来る日だって分かってたからか!
出かける時にあらかじめ用意しておいてくれたんだなきっと。
さすがミラは気が効くなぁ、あははははは。
違うなぁ……。
私が今日ここに来たのは突発的だった筈だ。
元々はミラが私の部屋に来たいって言ったのを断ったから、ここに来たって流れだ。
なんで私が来る前提でスリッパが準備してあるの?
(あなたは捕食者の狩りの仕方というものを勉強した方がいいわ)
ふいに鷲羽さんの言葉が頭をよぎる。
ま、まさかミラがそんな事する訳……。
「私、上で着替えてくるね。好きなところで座って待ってて」
「あ、うん」
いやいやいや。
うちの彼女に限ってそんな罠に嵌めるような。
おそらくいつお客さんが来てもいいように並べてあるだけだよ。
もしかしたら昨日アルフィルクが遊びに来てたのかもしれないし。
私は頭に浮かんだ雑念を振り払うと、部屋の中に入らせてもらった。
ミラの部屋は年頃の女の子らしい部屋だった。
ぬいぐるみやかわいい小物がそこかしこに置いてある。
それでいてとても整理されていて、置いてある家具も落ち着いた色で構成されているので居心地がいい。
ああ、女の子の部屋はこうでなくては。
私の部屋なんてお父さんが使っていた家具をそのまま使っているし、小物に対してもそこまで情熱がないのでその辺に適当に置かれている。
しかも部屋の大部分を占めているのはゲームだ。
汚い訳ではないけど、女の部屋かと言われると少々難があるかもしれない。
やっぱり部屋には性格が出る。ミラの部屋はとてもミラらしい。
部屋の中に充満するミラらしさを堪能していると、彼女が着替えを終えて降りてきた。
「おまたせ。飲み物用意するね」
Tシャツに薄手のスカートというラフな格好だ。
ミラの私服を見るのは2回目だけど、やはりどんな服を着ていてもかわいい。
「ミラって何着てもかわいいね」
「えへへ、ありがとう」
あれから私は、かわいいと思ったらすぐに口に出すようにした。
ミラはかわいいと言われるのをとても嬉しがるから言い甲斐がある。
ミラは照れながらさっき買ったジュースとお菓子を用意してくれた。
彼女の部屋に来て、彼女がもてなしてくれるの最高かよ。
「未明子なんで正座してるの? 足崩していいよ」
「あ、そうか。うち正座の家系だから自然と正座してた」
「正座の家系とかあるんだ?」
「うちの家族、椅子とかに座るときは普通なんだけど、地面に座るときはみんな正座するんだ」
「じゃあリビングでテレビ見るときは全員正座して見てるの?」
「リビングは机があるから椅子座りかな。座敷のお店とか行くとみんな正座してるよ」
別に意識しなくても全員正座をするので店員さんに驚かれた事がある。
そりゃ注文を聞こうと思って部屋に入ったら、全員正座してるんだから「何事だ!?」となるわな。
「面白いね。だから座ってる時はやたら背筋が伸びてるんだ」
「座り方だけは先生にも褒められるからなぁ。思えばゲームしてる時も正座してるわ」
お父さんとゲームをする時も並んで正座しているので、端から見ると罰ゲームを受けているように見えるかもしれない。
小さい頃からずっとそうなので今更気にもしていなかった。
「座り方が綺麗だから、心根もまっすぐなのかな」
「私そんなにまっすぐじゃないよ。割と歪んでる方だと自覚してる」
「そうかな? 私にはいつもまっすぐに映ってるよ」
「そう見えてるなら嬉しいけど」
女の子目的で女子校に入学したり、好きな子にストーカーまがいの事をするのはまっすぐだとは思えない。
今だって努めて平静を装ってるけど、向かいに座る彼女に触れたくて仕方がないのだ。
私の彼女はかわいい。
見た目は世界で一番かわいいと思ってるし、性格も世界で一番いいと思っている。
しかもその彼女はこんな私の事を好きだと言ってくれる天使だ。
そんな天使を私の欲望で汚してはいけない。
これは私がずっと思ってきた事だ。
たとえ私にはその資格があるとしても、私は彼女を傷つけたくない。
世界で一番かわいい彼女を、世界で一番大切にしたいのだ。
ふと会話が途切れて、お互い黙ってしまう。
何を言うでもなくジュースを飲み、お菓子をつまみ、またジュースを飲む。
いかん、何だこの空気は!
私が何か話さなくては。
普段だったら何て事ない会話を永遠としているのに、今日は雰囲気に飲まれてしまっている。
何か話題は無いかと部屋を見回していると
「隣に座ってもいい?」
ミラからその言葉が発せられた。
彼女はうつむいて赤くなっている。
これはつまり、そういう意味での発言だ。
私も子供じゃないからそれくらいは分かる。
「うん。どうぞ」
それがどういう意味かも、これからどういう展開になるかも理解して、そう返事をした。
ミラは隣に座ると、私の肩にコテンと首を預けてきた。
肌が触れ合っているところから彼女の体温が伝わる。
暖かい。
もちろんこちらの体温も伝わってしまっているだろう。
それで私がどういう心境なのかバレてしまっているかもしれない。
私はミラの髪を撫でた。
触り心地の良いふわふわの髪からいい匂いがする。
彼女は気持ち良さそうにされるがままになっていた。
髪を撫でていた手で、今度は頬を撫でた。
初めて触る彼女のほっぺたは反則的な柔らかさだった。
「なんだこのマシュマロは」
「やめてー」
もちろん全然嫌がっているようには見えないので容赦なくプニプニさせてもらった。
しばらくもちもちほっぺで遊んでいると、ミラが私の手を優しく掴む。
そしてそのまま私の手にキスをした。
指、手のひら、そして手首。
自分の手が彼女に好きなようにされるのを黙って眺めていた。
外れてはいけない、心の錠が緩みだしたのを感じる。
ひととおり手にキスをしたミラは
少しだけ私の顔を見た後、今度は口にキスをした。
キス自体は何度もしているけど、いつもと違う熱のこもったキスに私は少し気圧された。
気分が盛り上がっているのか、明らかにいつもより積極的だった。
外でするのと違って、ここならどれだけ長い時間キスしていても誰にも咎められない。
私達は数分間ずっと唇を重ねた。
どちらともなくキスを終えると、お互い顔を見合う。
ミラの顔は熱っぽく赤く染まって目が請うように潤んでいる。
私もきっと同じ顔をしているんだろう。
私もミラも、もう隠せないほどに呼吸が荒くなっていた。
「未明子、もう我慢できないよ。私、私……」
「私だって同じ気持ちだよ、でも……」
勇気が出ない。
もう絶対そういうフェイズだ。
アルフィルクからそうしなさいと言われて、ミラもそうして欲しいと言っている。
何がどうなっても先に進む時なのだ。
だけど、どうしても最後の一歩が踏み出せなかった。
「やっぱりミラを汚せないよ……」
なんでここでヘタレるんだ私。
ずっとこうなりたいって思っていたのに、いざその場面になったら尻込みするってアホなのか。
ここで進めなかったらミラはガッカリする。
その方が絶対に悲しませるって分かってるのに。
私が葛藤している事に気づいたミラはこちらの反応を待っているようだったが、やがて何かを決意したように立ち上がると、私の手を引いた。
「ごめんね未明子。ちょっと来て」
有無を言わさぬ勢いと力強さで、私は手を引かれるままに2階に連れられた。
2階は寝室になっていた。
ベッドや化粧台などがある完全なプライベートルームだ。
ミラは私を部屋に入れるとこちらを振り返った。
その目はいつもの優しい目ではなかった。
まるで私を獲物のように狙う猛獣の目をしていた。
ミラは私の肩を掴むと部屋の隅まで押しやる。
そこにはクローゼットがあって私はそこにぶつかった。
私をクローゼットに押さえつけたまま、ミラが手をかざすとクローゼットの中が光りだした。
クローゼットの扉を開けると、そこにはユニバース移動のゲートができていた。
何故? どうしていまゲートを開くの?
疑問を口に出す間もなく、私はゲートの中に押し込まれた。
ゲートを抜けた場所もクローゼットの中だ。
暗いクローゼットの中にミラと二人きり。
顔は見えないけど、息遣いがすぐ近くに聞こえる。
「どうしてクローゼットの中に入ったの?」
ようやく思っていた事を口に出すと、ミラが私を無視してクローゼットの扉を開けた。
外は当然同じ寝室だ。
ミラは私の手を引いてクローゼットから出ると、少し乱暴にクローゼットの扉を閉めた。
一連の流れが速すぎて良く分からなかったが、どうやら別の世界のミラの部屋に運びこまれたようだ。
どうしてこんなことをしたのか理解できずに彼女の顔を見る。
ミラは、今まで見せた事の無いような蠱惑的な表情をしていた。
「未明子、閉じ込めちゃった。もう私が出さない限り逃げられないよ」
私の心臓が跳ね上がった。
つまり、私はミラに捕らわれてしまったのだ。
さっきまでは逃げようと思えば逃げる事ができた。
部屋から出れば自分の家に帰れたのだ。
でもここは別の世界。
例え部屋から出られたとしても、私にはユニバースを移動する力がない。
ミラにゲートを開いて貰わなければこの世界から出られないのだ。
籠の中の鳥。
まさに言葉通りの状態になってしまった。
ただし、その籠の中には猛獣が一緒にいる。
ミラはまた私の肩を掴むと、そのままベッドに押し倒した。
抵抗なくベッドに倒れこんだ私に、彼女が覆いかぶさる。
どうしてこんなことになったのか。
いや、ある程度は覚悟していた筈だし、何なら期待もしていた。
でも私が予想していたのとは随分と違った展開になっていた。
「未明子が焦らすから……」
私は別の世界に閉じ込められて、今まさに彼女に襲われそうになっている。
ミラにこんな顔があるなんて知らなかった。
いつも笑顔で、誰にも優しくて、自分よりも他人を大切にする彼女が、こんな行動に出るなんて思っていなかった。
いや、アルフィルクも言っていたじゃないか。ミラはたまに暴走すると。
しかしその暴走を引き起こしたのはおそらく私だ。
私が動くべきところで動かないからミラの限界がきてしまったのだ。
「ねぇ、未明子……もし未明子が嫌だったら、やめるから……」
消え入りそうな声で、私に最後の選択肢をくれる。
暴走しても基本的な優しさは変わっていないみたいだ。
私が行動しないからミラが行動してくれたのに、やめて欲しいなんて言える訳がない。
「ううん。ミラの好きにしていいよ。でも私も我慢できなくなって襲っちゃったらごめんね」
こんな状況になってしまって私だっていつ暴走するか分からないのだ。
大好きな人を目の前に冷静でいられる訳がない。
ミラを汚さないようにと思ってはいるけど、それがいつまで保てるかは分からない。
そうなった時に自分で自分をコントロールできる自信はない。
「うん。それでもいいよ。私、どっちも好きだから」
どっちも好き。
襲うのも、襲われるのも好きという意味だ。
私の彼女はかわいい。
でも思っていたよりも、えっちな女の子だった。
私にいやらしく跨る彼女の顔を見て、私の理性は崩壊を始めていた。
ミラがまたキスをする。
でも今度のキスは今までよりも深いキスだった。
彼女の舌が私の口の中を侵略してきて、丁寧にねぶる。
初めての感覚に全身が燃えるように熱くなった。
彼女の舌と私の舌が絡み合うと、神経に焼ゴテをあてられたような刺激が走る。
その度に、彼女を守りたいという気持ちと、心のままに汚したいという気持ちがせめぎ合う。
キスをしたままミラが私の肩に触れた。
制服ごしに肩を優しく撫でられる。
こんな風に触られるのも初めてだ。
彼女の指の動きに、優しさよりも欲望を感じる。
私は頭で何かを考える前に同じように右手で彼女の肩を撫でた。
制服の私と違ってミラはシャツ一枚。
ベッドで動き回っている間に袖が捲れてしまっていたので、直接肌に手が触れてしまった。
彼女の体がビクンと反応する。
その反応がかわいくて、私はそのまま服の中に手を滑り込ませた。
「んん……」
いつか聞いたような艶っぽい声が耳を撫でる。
肩を経由して背中の奥深くまで手を入れる。
ミラのサラサラな肌が指に吸い付くようで、私の手の動きが段々と乱暴になっていく。
残った左手でミラの腰を抱えるとその細さに驚いた。
いつも見ていた制服の下はこんなに細かったんだ。
腰から這わすように背中まで手を入れこんでいくと自分の右手にぶつかった。
ちょうど服の中で彼女を抱きしめる形になり、なおもキスを続ける。
ミラの舌の動きがだんだん緩やかになってきたので、今度は私の方が彼女の口内を侵略する。
反射的に彼女の体が逃げようとしたので、両手でがっちりと抑え込んで動けなくした。
ふぅふぅと漏れる声が心地良い。
気がつくと私は責められる側から攻める側に変わっていた。
しばらくしてキスをやめると、私と彼女の唇の間に唾液の糸が形成されていた。
漫画の濡れ場でよく見るやつだ。
ミラは慌てて口を拭くと、恥ずかしそうに目を閉じてしまった。
「ミラ、かわいいよ」
初めて見るその顔が本当にかわいくて、愛おしくて、暴力的に私の理性を壊そうとする。
最早、何か一つのキッカケで限界を迎えるのは分かっていた。
やめるなら、ここが分水嶺だと直感した。
ミラが目を開けてこちらを見る。
その目にはすでに力がなく、ちゃんとこちらを見えているのかも怪しかった。
背中を抱えていた手に力を込めて、自分の方に引き寄せる。
ミラの体が私の体の上に重なる。
全体重がかかってもほとんど重さを感じない。
どれだけ華奢な体なんだろう。
ミラは息があがっていて、私の体の上で大きく呼吸をしている。
体の上下に合わせて抱きしめている私の腕も上下する。
ここまでだ。
今日はここまでで十分だ。
お互いの体温を感じられるほど密着できて、こんなに深いキスができたんだ。
一歩どころか数歩進めたんじゃないだろうか。
私の心は満足感を感じていた。
……いや嘘だ。
本当はもっと欲しいと思っている。
ここまで来たんだから最後まで進んでしまいたいと思っている。
おぞましいほど邪な心が、彼女を全部奪ってしまえと言っている。
ダメだ。
本当はもっとミラの好きなようにさせてあげるつもりだったのに、ここまで自分の欲望が出るなんて思っていなかった。
ここで止まらないと、私は本当にミラを汚す。傷つける。
二つの心のせめぎ合いが止まらない。
自分を落ち着けるように深く息を吐く。
それでもまだ熱が抜けない。
逆にミラは私の上で大分落ち着いてきたようだった。
私がミラに声をかけようと思った時、彼女の右足が鈍く動き出した。
正確には右膝が動いた。
その右膝が何度も上下に動く。
彼女の右膝は私の両足の間にあった。
つまりそこで彼女の右膝が動くと、私の大事なところを刺激する訳で……。
その刺激が体を走った時、とうとう私の理性が完全に崩壊した。
頭の中が真っ白になって何も考えられなくなった。
自分の事、ミラの事、守るとか汚さないとか、どうでもよくなってしまった。
欲望のままに目の前の女の子を犯せ
心の中にとどめておいた透明な液体がどんどん抜けていき、代わりにドス黒い粘ついた液体で満たされる。
私は自分に跨っていたミラの両肩を抱きかかえて逆にベッドに押し倒した。
さっきまでと真逆の構図になり、今度は私が彼女に覆いかぶさった。
寝転がされたミラを見ると、驚いたような目で私を見返す。
その視線が余計に私の心を刺激した。
「やっぱり耐えられなかった」
恐ろしいほど軽い口調でそれだけ言うと、私は勢いよくミラの首筋に噛み付いた。
もちろん歯を立てて噛んだ訳ではない。
首筋にしゃぶりついたという方が正確だろう。
そのまま首筋に舌を這わせ、耳元までを一気に舐めた。
ミラの体が大きく跳ねる。
「あ……あの、それは……」
ミラが何かを言いたそうにしていたが私は無視した。
そんな事よりもいま私の口のすぐそばには彼女の耳がある。
小さくて柔らかそうな耳だ。
とても美味しそう。
食べてもいいかな?
いいよね。
私は味見でもするかのように彼女の耳を舐めた。
「ひゃうっ!」
まさかそんなことをされると思っていなかったのかミラは悲鳴をあげた。
そんな声を出されたら、こっちは更に興奮してしまう。
私は耳をひとしきり舐めると、次に彼女の頬を舐めた。
さきほど指で触れていた頬に舌を這わせ、あご、首、そして鎖骨のあたりまでを舐める。
彼女の美しい肌に私の唾液が道を作っている。
そんな事が私の満足感を満たす。
するとミラが自分の顔を隠すように両手をあげたので、すかさずその両手を左手で掴んで、彼女の頭の上に押し付けた。
両手を縛り上げられたような体勢になったミラが何とかして動こうとしているが、私の力には到底敵いそうになかった。
両手が使えなくなったミラは、これから私が何をしても抵抗できない。
私は残った右手で彼女のお腹に手をすべりこませて、Tシャツを胸元まで捲り上げた。
当然胸が露出する事になり、私の目には彼女の下着が映った。
ピンク色のフリルがついたかわいいブラジャーだ。
下着までピンクだなんて本当にかわいい。
それとも私にこうされる事が分かってて、かわいいのを選んでくれたのかな。
腕が交差しているのでシャツを脱がす事はできなかったが、腕をシャツで拘束されているように見えて、それが余計に私の心を興奮させる。
いま眼前には、縛り付けられて胸と腋を晒さしているミラが羞恥にまみれた顔を向けている。
「嫌……こんな……恥ずかしいよ……」
「恥かしくないよ。綺麗だよ。それに嫌って言われても、もう止まらないよ」
私は露わになっている彼女の腋にキスをした。
すこし汗をかいていたが、それも舐めとるように何度もキスをする。
彼女はその度に大きく体を跳ねさせたが、私は力で押さえつけた。
彼女の艶やかな腋に何度もキスをして、何度も舐めた。
両方の腋を満足いくまで舐めきった頃には、すでにミラはグッタリと動かなくなってしまった。
呼吸だけは荒いままで、胸が上下に揺れている。
その揺れている胸に自分の顔を乗せた。
彼女の肌の匂いと、下着に使われている柔軟剤のいい匂いが鼻腔を満たす。
私はその匂いをひとしきり堪能すると、彼女の背中に手を回した。
ブラのホックを探し当てると器用にホックを外す。
いざという時の為に練習していたのもあって、こういうところだけは手際がいい。
さて、ホックを外してしまったのでもう簡単に剥ぎ取る事が可能になってしまったブラジャーは、彼女の胸の上に乗っているだけだ。
私はそれを掴むと、強引に引き上げた。
たいした抵抗もなくミラの胸が暴かれる。
そんなに大きい訳ではないけれど、形の美しい胸が私の目に飛び込んだ。
これが私が憧れ続けた彼女の胸だ。
興奮と共に、ある種の達成感を感じる。
私は彼女の胸を細部までじっくり眺めた。
自分の呼吸がすでに人ではなく獣のそれになっている。
私はこれから、この胸を獣のように蹂躙する。
「ミラ、いいよね?」
彼女の答えを待つ事もなく
私は上下に揺れる、ピンク色の先端に口を近づけた。
その時だった。
視界の端に、涙を流しているミラの顔が目に入ってしまった。
私は動きをとめ、恐る恐る彼女の顔をのぞき見る。
間違いなく、彼女の頬を一筋の涙が伝っていた。
泣かせてしまった
私は一気に冷静になり、全身から血の気が引いた。
抑えていた彼女の両手を離し、覆いかぶさっていた体も引き離した。
そして私に襲われて憔悴しきったミラの姿を見て、ようやく自分が何をしてしまったかを認識した。
なんてことをしてしまったんだ!
ミラに酷い事をして、彼女を泣かせてしまった。
守るなんて言っておきながら、彼女を傷つけた。
自分の欲望が抑えきれなくて、暴走してしまった。
最低最悪だ。
なんでセーブできなかったんだ。
行為に至ったことは同意だったからいい。
でも彼女が嫌がる事をしちゃダメだろ。
いくらでもやり方はあった。
もっと優しくできた筈なんだ。
ミラへの罪悪感と自分への失望で死にたくなった。
彼女になんて謝ればいいんだ。
せっかく勇気を出してくれたのに。
私がそれを踏みにじったんだ。
ベッドに突っ伏して自分のしてしまった事を後悔していると、ミラが優しく声をかけてくれた。
「ごめんね。違うの。これは、その、嫌だったとかじゃなくて、ビックリしちゃって。悲しいとかじゃないの、だから落ち込んだりしないで」
それは今の私の心には十分すぎるほど甘い言葉に聞こえた。
でもいくらミラがそう言ってくれても泣かせたことは事実だ。
私は自分が恥ずかしくてその言葉に返答できなかった。
「ごめんね。ごめんね」
彼女が何度も謝る。
謝る必要なんてない、いま謝らなきゃいけないのは私の方なんだ。
私は何とか体を起き上がらせると、そのままベッドに倒れこんだ。
そして隣にいるミラを抱きしめる。
彼女の頭を抱えるように強く抱きしめると、渦巻く複雑な感情を全部叩き伏せて「ごめん」と一言だけ絞り出した。
ミラは何度も首を振っていたけど、私はそれ以上何も言えなかった。
私に恋人の資格があるのか?
泣かせて、傷つけて。
何が彼女の事を幸せにしたいだ。
自分の事しか考えられないクセに。
頭の中で何度も自分への批判が繰り返される。
そんな事をしているうちに、色々と限界を迎えていた私は睡魔に襲われた。
全身に疲労を感じ、抗えない程の眠気が襲ってきた。
まるで処理が追いつかなくなったゲーム機のように意識がブラックアウトしていく。
ああ、まだミラにちゃんと謝れていないのに。
許してもらえてないのに……。
目が覚めたら全部自分の妄想でしたなんて都合のいい事にならないかな、などと考えながら
私はミラを抱きかかえたまま、眠ってしまった。
こうして私とミラの初めてのえっちは、うまくいかずに終わったのだった。




