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第19話 二つの綺羅星③

 現在の戦況を整理する。


 狭黒さんが(おそらく)4等星のステラ・アルマ二人と交戦。

 五月さんと暁さんが(おそらく)3等星のステラ・アルマ三人と交戦。

 現状はどちらの戦場もこちら側が優位に戦いを進めている。


 そして私がここで2等星のステラ・アルマと一対一の戦闘中だ。


 正直、同格同士でやり合っても勝てるかは分からない。

 このまま攻めたり引いたりして時間を稼げば、どこかの戦いに決着がついて援護に来てもらえるだろう。


 ただ、今までの経験からするとそういう弱気な動きをするとたいてい負けていた。

 たとえ勝てなかったとしても、勝つつもりで戦わないと思わぬ結果に泣くことになるのだ。

 たかがゲームの経験だが。 

 でもそれはゲームであろうと、勉強であろうと、人間関係であろうと同じことだ。

 能動的に動かなければ何も得られない。動かなければ時間が何かを奪っていく。

 

 だから私は、目の前のステラ・アルマを倒すつもりで戦うのだ。


「ミラ。ファブリチウスって、出力を変えることはできるの?」

『そんなに大きくは変えられないけど多少なら強くできるよ。でも代わりに放射時間が短くなっちゃう。エネルギーを威力につぎこむから、その分、弾の幅と長さが減っちゃうの』

「なるほどね。逆に弱くすることもできる?」

『できるけど、弱くしちゃっていいの?』

「うん。今はそっちの方が有効かもしれない」


 いくらファブリチウスの威力が高いと言っても、あたらなければ意味が無い。

 それならば戦術を変えるまでだ。


 敵のステラ・アルマが再び円盤のついている右手を突き出してきた。

 円盤が回転を始めたと同時に、今度はこちらが先にファブリチウスを撃ち込む。


 敵がさっきと同じようにギリギリでかわすのを見届けると、こちらはすぐに移動を開始する。

 思った通り。

 威力を低くしているから弾は今までより小さいけど、その分撃ってから動けるまでのクールタイムが短くなっている。

 これなら撃つ→移動するを大きなスキを作ることなくできるはずだ。


 私の移動に合わせて敵の右手もこちらを追ってくる。

 だが移動している分、照準を合わすのに時間がかかる筈だ。

 チャンスは次に相手が攻撃してきた瞬間。

 相手の攻撃のスキに本体を撃ち抜く!


 回り込むように移動しながら敵の攻撃を待つ。

 すでに照準は合わされている筈だからいつ攻撃されてもおかしくない。

 その攻撃にこちらの攻撃を合わせる準備もできている。

 さあ、撃ってこい!


 ……と、思って走り続けるが、いつまでたっても攻撃が来ない。

 それどころか、構えていた右手を下ろしてしまった。

 

「あれ、諦めた?」


 私が移動をやめて立ち止まると、それを見た相手は今度は左手を前に突き出してくる。

 左手にはブレードが収納されているけど、あの距離からブレードで攻撃するのは無理がある。


 今度はどんな攻撃が来るのかとその左手を警戒していると、突然相手が地面に沈みこんでいった。


「は?」


 視界からあっという間に敵が消えて、完全に地面に沈みこんでしまった。ように見えた。

 地盤沈下でも起こったのかと足元をみると、それが勘違いだったことに気づく。


 相手が沈みこんでるんじゃない、私が浮いているんだ!


 風船でもつけられたように、体がふわふわと上空へと浮かんでいく。

 手足を動かしても抵抗できない。

 どんどん空へ空へと登っていってしまう。


「これ、まさかと思うけどミラが飛んでる訳じゃないよね!?」

『私、飛べないよぉ!』


 と言う事は、これは敵の攻撃だ。

 相手の固有武装はメタルブレードじゃなかったのか!?

 それとも別の固有武装を持っていたって事!?


 ファブリチウスで地上の敵に狙いをつけようにも、上手くバランスが取れなくて銃口が明後日の方向を向いてしまう。

 そうやって姿勢を変えようとバタバタしている間も体は容赦なく浮かんでいく。

 50メートル、60メートル……あっという間に100メートルくらいの高さまで浮いてきてしまった。



 巨大ロボに乗っているとは言えかなりの高さだ。

 ここからだと練馬の街が遠くまで見える。

 少し離れた場所に、戦っている狭黒さん達が見えたが、この距離だと通信も届かないらしい。


 敵は相変わらず左手を私に向けている。

 そんな手をかざしただけで相手をこんな高くまで飛ばせるのずるくない?

 しかもこんな高さまで浮かせるなんて……


 そう思った時、敵が私に向けていた左手を下ろした。

 それと同時に私を襲っていた浮遊感が消失し、地球の重力を全身に感じる。

 そしてその重力に抗うことができなかった私は


 そのまま100メートルの高さから落下した。



「あ、これ死ぬくない?」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 言葉通り、まさに舞うように戦う機体を眺めながら、何て洗練された動きだろうと見惚れてしまう。

 別にメリクが壁にならなくても、これだけの強さがあればこの美しいステラ・アルマは単独で敵を全滅させてしまうことだろう。


 ツィーさんは強い。

 まともに戦ったら自分達の中で一番強いのは間違いない。

 夜明さんのように策を使わなくとも単純な戦闘能力が頭一つ抜けている。

 2等星と言うのは伊達ではない。


 それに加えて五月さんの身体能力だ。

 ステラ・アルマの操縦は直接体を動かすわけではない。だけどその動きがイメージと直結している以上、本人の身体能力が大きく影響する。

 普段から体を動かしている人が、普段以上に駆動できる体を得ると、ああも恐ろしい動きをするのか。

 

 今も三体の敵を容赦なく攻め立てている。

 敵にしてみれば悪夢でしかない。

 メリクの呪いのせいでターゲットを変えられない上に、逃げ出すこともできない。

 じわじわと真綿で首を絞められるように敗北に近づいていく。


 だから今回も注意すべきは2等星。

 メリクの呪いから逃れられないということはこちらに2等星はいない。

 そうすると夜明さんと犬飼さんの方にその2等星がいることは間違いない。


 心配なのは、夜明さんが犬飼さんに過剰な期待をかけているように感じる事だ。

 2等星の敵を犬飼さん一人に任せると言い出しかねない。


 夜明さんとの戦いを見る限り、犬飼さんの素質は素晴らしい。

 しっかり考えた上で行動しているので無駄な動きがない。

 いざという時の度胸もあって信頼感を感じる。

 

 だけど、戦闘経験そのものが少ないのだ。

 人間誰しも知らないことは知らないし、想像できる範囲にも限界がある。

 2等星のステラ・アルマが想像を上回る固有武装を有している事を知らないのだ。

 だからまだ一人で戦わせるのは早いのではないか。



 ……おっと。

 戦いの中で思考にふけってしまうのは悪い癖です。気を引き締めなければ。

 ですが、いま戦っている相手なら警戒レベルは通常で十分。

 守りを固めながら、向こうの戦況を確認いたしましょう。


 夜明さんと敵二体が交戦中。

 敵は戦闘に慣れている様子ではないので夜明さん一人でも相手できるでしょう。

 そして問題の犬飼さんは……。


 はて?

 もう一体の敵と犬飼さんはどちらにいらっしゃるのでしょうか。

 

 あたりを見回すと、敵の方はすぐに見つかりました。

 あちらとこちらの中間あたりで立ち止まって、何やら手を上空に掲げています。

 何をしているのでしょうか。


 犬飼さんは……

 あぁ、上空におられますね。


 上空ですか。

 高いですね。

 あの高さから落下したらステラ・アルマといえども危険ですね。



 ピンチです!!



「五月さん。戦闘中に申し訳ございません。わたくし犬飼さんの援護に行ってもよろしいでしょうか?」

「え!? 未明子ちゃんヤバそう?」

「ヤバそうでございます。至急参りますので、こちらの戦場をお任せできればと」

「オッケー! じゃあチャチャッとこいつら倒してアタシもすぐ行くね!」

『3分あれば片付くから待ってろ』

「よろしくお願いいたします。メリク、飛ばしますよ」

『うん』


 敵の攻撃を盾で大きくはじくのと同時に後方に移動。

 ようやくメリクの呪いから逃れる事ができた敵は、ツィーさんに狙いを変えた。

 そのスキに犬飼さんの方に急いで向かう。


 メリクの機動力は脚の無限軌道。

 通常のステラ・アルマが両の脚で走るのに対して、メリクは戦車のように移動することができます。

 こういう市街地でしたら走るよりも早く移動できますが、犬飼さんまでのこの距離、間に合うでしょうか。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 今まで100メートルの高さから落ちた経験はない。

 いや、これからも無い筈だった。

 その高さから落ちたら、生身だったら間違いなく死ぬだろうし、乗り物に乗っていても多分死ぬ。


 私はいま恋人の体の中で、恋人と一緒に自由落下するという貴重な経験をしているが、この経験を経験として蓄積できるかの自信は全くない。

 このまま地面に激突して生き残れるかどうか分からないからだ。


「うわわわわわわわわわ!」


 地面との激突まではおそらく数秒。

 その間に何かしないと、多分死ぬ。

 死なないまでもきっと酷いことになる。

 私はいいけどミラをそんな目に合わす訳にはいかない!


 一瞬でシナプスが焼き切れるほど思考した脳が思いついたのは、ファブリチウスを地面に撃って反動で落下速度を殺すことだった。


「ミラ! 出力全開で撃つよ!!」

『分かった!』


 落下しながらファブリチウスを構える。

 幸いうつ伏せの姿勢で落下していたので銃口を地面に向けるのは難しくなかった。

 あとはなるべく砲身を固定して、真下に撃つのみ!!



 エネルギーを威力に振り切ったファブリチウスを発射すると、強い反動が返ってきた。

 落下していたところに下からのGを受けて座っていた椅子に叩きつけられた。


「ぐぇ! ちょっとどころじゃなく威力が強くなってる」 


 予想に反して高威力だった為、反動で2、3秒ほど体を浮かせることができた。

 しかし落下の速度を殺し切るほどではなく体は再び地面に向かって落ちていく。


 多少落下スピードは遅くなった気がするけど、もうどうしようもない。

 せめて衝撃に耐えられるように、ファブリチウスを捨てて両腕を使って頭と胴体を防御した。


「私のことは気にしなくていいから、なるべくミラが痛くないように着地して!」


 覚悟を決めて地面を見据えると、落下する先に巨大な黒い塊が見えた。

 なんだあれ!? 

 あんな物さっきまであったっけ!?


 するとその黒い塊から勢いよく布のようなものが飛び出してくる。

 その布を避けようにも、落ちる位置を変えられない私はそのまま布に向かって突っ込んだ。


 ガシィンッ! という重い音が響く。

 

 落下の衝撃で体を固定しているベルトに引き裂かれそうになったが、何とかシートから飛び出さなくて済んだ。

 だけど全身に鈍い痛みを感じ、同時に吐き気に襲われて視点が定まらない。

 地獄だった。


 ただ、あんな高さから落下したのにこの程度で済むのはおかしい。

 本来だったら衝撃でグチャグチャになっていた筈だ。

 ぶつかる寸前に見えた謎の布のおかげだろうか?


「犬飼さん、大丈夫ですか?」

「え!? 暁さん!?」

「良かった。間に合いましたね」


 ファブリチウスの砲撃が巻き起こした砂煙が晴れると、自分がどうして助かったのか理解できた。

 落ちてきた私を、暁さんが受け止めてくれていたのだ。


「ありがとうございます! 助かりました! でもあの布みたいなのは……」

「あれはメリクの肩部に装備している衝撃吸収用のバルーンです。ミラさんくらいの重量なら衝撃をかなり和らげてくれます」


 じゃあ私はそのバルーンの上に落ちたのか。通りで衝撃が少ないと思った。

 いや、私が大丈夫でもミラは!?


「ミラ! 大丈夫!? 怪我ない!?」

『び、びっくりしたぁ。とりあえず大丈夫だよ』


 良かった、声の感じからして深刻なダメージは無さそうだ。

 なんなら私の方がダメージが大きいかもしれない。

 うぇ、吐きそう……。


『ミ、ミラ。軽すぎるよ……もうちょっと食べた方が、いい』

『ありがとうサダルメリク。でもこれくらいの体型を維持したいの』


 死ぬ寸前だった筈なのに、ミラとサダルメリクちゃんの平和な会話を聞いて少し安心した。


「地面への砲撃は最良の判断でした。あれがなかったら間に合わなかったと思います」

「ギリギリで思いついて良かったです。それよりもあっちの戦いは終わったんですか?」

「あちらは五月さんとツィーさんに任せてきました。おそらく問題ないかと」


 一対三でも問題ないなんて凄いな。

 こっちは一対一でもキツイのに。


「ここからはわたくしも加わりますので二人で戦いましょう」

「助かります!」


 助かるとは言ってもまだ敵の攻撃を一度しのいだだけだ。

 もう一度同じ事をされたら、次は無事ではすまないかもしれない。


 落ちていたファブリチウスを拾って敵を見ると、さっきいた場所から移動している。

 この間に攻撃してくる訳じゃなくポジションを変えただけ?

 何か違和感があるな。


 疑問に思うも束の間、敵はまた左手をこちらに突き出してきた。

 やはり先程と同じように体が浮きだす。


「うわわわわ! ヤバい!」


 このままだとまた同じことの繰り返しだ。

 しかも今度はサダルメリクちゃんまで浮かされてしまって、もう誰も助けに入れない。

 それは困るとバタバタと手足を動かしていると、浮いていく体をサダルメリクちゃんに両腕でガシッと掴まれた。


 少し浮いてしまったけど、掴まれているおかげで上空に飛ばされることはなさそうだ。

 どうやら浮いているのは私だけで、サダルメリクちゃんは地面に根が生えたかのように不動だった。


「この攻撃、サダルメリクちゃんには効いてないんですか?」

「いえ、少し浮遊感はあります。ですがこちらの重量の方が勝っているようです」

「飛ばせる限界があるってことか。でも手をかざしただけで相手を浮かすって、やっぱり2等星の固有武装は強いな」

「相手をあんな高くまで飛ばすのに手をかざすだけと言う事はないと思います。何か発動条件がある筈です」


 発動条件がある?

 そう言われてここまでの戦いの中で思いつくのはメタルブレードだ。

 あれを食らうと体が浮いてしまうのだろうか?

 でも私はあれを避けたし、暁さんは食らうどころか見てもいないのに発動している。

 という事は何か他に条件があるに違いない。


「未明さん、私の後ろに隠れて下さい!」


 急に暁さんからの指示が来たので、私は慌ててサダルメリクちゃんの背中に隠れた。

 サイズが大きいのでミラの体ならすっぽり隠れてしまう。

 サダルメリクちゃんは肩にマウントされている二枚の盾を持って、前方に構えた。

 

 この盾、後ろから見るとサダルメリクちゃんの体をスッポリ隠してなお余裕がある。

 詰めればもう一人くらい隠れられそうだ。

 もはや盾というより簡易的な塹壕のようだった。

 

 関心していると、何かの発射音が鳴りサダルメリクちゃんの盾越しに複数の爆発音が聞こえた。


「敵が共通装備のマイクロミサイルで攻撃しています。一発一発の威力はたいした事はないですが、五月雨に弾が降り注ぎます」

「めっちゃ撃たれてますけど大丈夫ですか?」

「はい。この程度の攻撃なら一年くらい受け続けても盾に傷一つ付きません」


 一年って! それは堅すぎやしないか。

 岩だって水の流れを一年も受ければ形が変わるのに。

 何とも頼もしい盾だ。


「装甲的には問題ないのですが、メリクが持ちませんね」

「サダルメリクちゃんが?」

「メリクは3等星にしてはオーバースペックなのですが、その分エネルギーのコスパが悪くすぐに消耗してしまうのです」

「やっぱりデメリットがあったんですね」

「なので普段からずっとお菓子を与えています」


 あれサダルメリクちゃんが食いしん坊だった訳じゃないのか!!

 そうじゃなくても暁さんが甘えさせてるんだと思ってた。

 ちゃんと理由があったんだなぁ。


「まぁ半分以上はメリクの食べる姿がかわいいからですが」


 関心したところで、いつもの暁さんだった。


『す、すばる。馬鹿な事言ってないで、敵を見て』

「馬鹿とはなんですか。メリクのかわいいところアピールは大事なことですよ」

『敵が攻撃しながら移動してる』

「本当ですね。さっきも移動していましたし、位置取りに何か意味があるのでしょうか?」


 盾の後ろに隠れているから全く見えないが、敵はまた移動しているようだ。

 同じ場所にいると狙われやすいので常に移動するのは分かるが、無闇に移動をするのも良くは無い。

 移動をするなら何か理由がある筈だ。


「未明子さん、メリクの盾の上部に隙間があるのが見えますか?」


言われて上を見上げると、二枚の盾の合わせ目が少し凹んでいた。


「メリクの背中に足をかけられるので、相手の攻撃がやんだらその隙間からスナイパーライフルを構えて下さい」


 サダルメリクちゃんの背中部分を見ると、武器をマウントする取っ手みたいなものがついている。

 ここに乗れば、盾の合わせ目の凹みが銃を構えるのにちょうどいい位置になりそうだ。

 無敵の盾の後ろから狙撃できるとか居心地が良すぎる。もう私ここに住むわ。


「ある程度の角度は調整しますので、微調整はお願いします」

「分かりました。ただ相手がスピード特化みたいなので、仕留めるのに時間がかかると思います」

「それは厄介ですね。メリクはパワーはありますが、精密動作は苦手なので相性は悪いです」

「大丈夫です。攻略法はすでに思いつきました」

 

 私の頭の中にある状況を実現できれば、あの超反応のステラ・アルマにもファブリチウスを撃ち込むことができる筈だ。

 ただやはり、あの浮かされる攻撃だけは警戒しないとヤバい。


「敵の攻撃がやみました!」


 それを聞いた私は、サッと取手の上に飛び乗り、盾の隙間からファブリチウスを構えた。

 サイズの大きいサダルメリクちゃんに背負ってもらっているので、それなりの高さから敵を視認できる。

 距離も悪くない。これならファブリチウスで効果的に砲撃できる。


 敵も狙われている事が分かっているのか、腰を落としている。

 だが敵は回避行動を取るでもなく、再度左手を構えてきた。


「暁さん! またあの攻撃です!」

「はい。機体をしっかりと抑えておきます」


 すかさずサダルメリクちゃんが両手で体を支えてくれる。

 これなら浮かばずに、しかも固定されているから敵に狙いをつけられる。



 ……はずだった。


 

 私の体は浮いてしまった。

 どうして?

 サダルメリクちゃんにしっかり掴んでもらっている筈なのに。


 どういう事かと下を見るとその理由が分かった。

 何とサダルメリクちゃんも一緒に浮いてしまっていたのだ。

 

「な……わたくしごと!?」

 

 暁さんが驚くのも無理はない。

 さっきは効かなかった攻撃だ。

 何故か今回は効果を発揮して、二人して浮いてしまっている。


 おかしい。絶対に理由がある。

 考えるんだ。相手はこの時間で何をした?

 私は浮かびながら敵を観察した。


 そして気付いた。


 敵の腰についていた、あの宝石があしらわれた板。

 さっきは6枚あったのに今は2枚しかない。

 4枚なくなっている!

 

 周りを見ると、一番最初に敵と戦っていたあたりにその板が一枚落ちているのを見つけた。

 さらに別の場所に一つ、反対側を見るともう一つ、そしていま敵がいる場所にも一つ落ちている。

 そしてその板についている全ての宝石が光を放っていた。


 その板が落ちている場所を線で結ぶと、ちょうど四角形になっていて、私達はその四角形のエリアの中に入っていた。


「そういうことか!」


 さっき一対一で戦っている時は気づかなかったけど、あの時に板を一枚置かれていたんだ。

 おそらく相手がスタートした場所にも板が二枚か三枚置かれていて、その板でできた面の中に誘導されていた。

 つまり敵の固有武装は、あの板で作った面に入った敵を強制的に上空へ飛ばす武器なんだ!


 さっきサダルメリクちゃんに効果がなかったのは、面の面積が広くなると効果が低くなるからだろう。

 最初私が浮かされた面より、いま二人で浮かされている面の方が面積が狭い。


「暁さん! 敵の固有武装の謎が解けました!」

「どういうことですか!?」

「説明している時間がないので、このまま私を地面に向けて下さい!」


 掴まれたまま一緒に浮いてきたので、サダルメリクちゃんに体を固定してもらう。

 自分ではうまく動けなくても、サダルメリクちゃんに振り回してもらうことくらいはできる。


 敵はこちらに手をかざしたまま動いていない。

 ならこのまま狙わせてもらう!

 私はこの現象の発生装置であろう板を狙ってファブリチウスを発射した。


 赤いビーム状のエネルギーが発生装置をとらえ、その威力によって蒸発する。

 と同時に、体にかかっていた浮遊感が消えて私達は落下を始めた。


「思った通りだ!」


 この高さなら落下したとしても死ぬ事はないだろう。 

 そう判断したので、落下する前にもう一つの発生装置にもファブリチウスを撃ち込んでそれも破壊した。

 これで面は作れない筈だ。

 


 先にサダルメリクちゃんの巨体が落下した事によって、すさまじい衝撃が起こり練馬の街が崩壊していく。

 直前まで射撃をしていた私は、何とか体をひねってうまく着地を決めた。

 

 ……かったが、そんなに何でもかんでもうまくいく訳はなく、着地の勢いを抑えきれず、そのまま倒れこんでゴロゴロと地面を転がるハメになった。

 当然操縦席の中もえらいことになっているが、死ぬよりはマシだなと諦めてされるがままに身を任せた。


 そのまま建物をいくつか薙ぎ倒して、ようやく止まることができた。


「未明子さん! 大丈夫ですか!?」


 うまく着地できたらしい暁さんが駆け寄ってくれる。

 大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば大丈夫ではない。

 全身痛いし、転がったので気持ちも悪い。



 でもこれで敵の固有武装は封じる事ができた。

 となればここからは反撃だ。


「やつら…ゆるさん。派手に出迎えてやるぜ!!」


 私は垂れてきた鼻血をぬぐうと、最近ハマっているゲームのセリフで気分を高めたのだった。


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