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第17話 二つの綺羅星①

「さて諸君。今回の相手だが、ステラ・アルマが6体だ」


 集合早々セレーネさんから伝えられた衝撃の真実に全身から汗が吹き出した。

 

 ……敵が6人!?


 こちらは4人で、しかも私は実戦経験の無いビギナーだ。

 雑に考えると倍近い戦力を相手にしなければならない。

 負けるつもりなど無いが、厳しい戦いになることは間違いないだろう。


 気を抜くと恐怖で震えてしまいそうだったが、きつく手を握り込んで自分をごまかした。


 アルフィルクはステラ・アルマはそうそう同じユニバースに集まらないと言っていたけど、今回の敵は6人も集まっている。

 そうそうでは無いことが起こったユニバースが相手と言うことなんだろう。

 ビビっていても仕方がない。腹を括らなければ。


 周りを見ると、みんな私とは対照的に涼しそうな顔をしていた。

 別に絶望して開き直っている感じでもなさそうだ。 

 サダルメリクちゃんですら全く焦っていない。

 実戦経験のあるなしで、ここまで差が出るものなのか。


「未明子くん顔が真っ青だよ。なに、まだそんなに気負わなくても大丈夫だ。セレーネさん、敵の内訳うちわけは?」

「うむ。4等星が2体。3等星が3体。2等星が1体。2等星の反応はおひつじ座のハマルだな」

玉石混淆ぎょくせきこんこうだねえ。2等星が1体なら何とかなりそうだ」

「作戦はいかがいたしますか?」

「いつも通り、すばるくんと五月くんに最前で戦ってもらって、私は中衛で指示と遊撃かな。未明子くん! 君は後衛からの攻撃要員だ。援護ではなく狙える相手からどんどん撃ち抜いていってくれ」

「あ……はい」


 自分の名前を呼ばれたのに浮ついた返事しかできなかった。

 やばい、精神的に気遅れしている。このまま戦いに出て思ったように動けるのか? 前の時みたいな痛み分けは無い。やるかやられるかだ。私がうまく動かなかったらミラが怪我をする。みんなにも迷惑がかかってしまう。それはダメだ。私が、私が!



「よーしよしよし! 未明子ちゃん。アタシ達に任せとけって!」


 嫌な考えが頭を支配しそうになった時、私はとても柔らかいものに包まれた。

 柔らかくて、いい匂いがして、心地よくて、安心する。


「緊張するのも分かるけど、みんないるから何とかなるっしょ!」


 耳のすぐ近くから優しい声がする。

 その優しい声が頭の中に滑り込んでいって、頭の中に充満していた不安や焦りをさっぱりと洗い流してくれるようだった。

 


 私は九曜さんに抱きしめられていた。



「九曜さん!?」

「はーい! 五月お姉さんだよ。落ち着いた?」


 私は慌てて九曜さんの胸の中から脱出する。

 

「す、すいません! ちょっと混乱してました。もう大丈夫です」

「オッケー。未明子ちゃんだけが気負う必要ないからね」

「その通りだよ未明子くん。まあ大船に乗ったつもりでいたまえ」

「夜明の船なんか乗りたくないぞ」

「沈みはいたしませんが、明後日の方向に舵を切られかねませんからね」


 みんながいつもの調子で空気を和ませてくれる。

 おかげで少し心が楽になった。

 

 でもこんな直前で弱気になるなんて恥ずかしい!

 もうすぐにでも戦いが始まるというのに。




「ミラ。ああいうの五月にとられちゃっていいの?」

「いいのよアルフィルク。私を守ろうとしてくれているのに、私が声をかけたらもっと追い詰めてしまう」

「なるほどね。まあ土壇場であなたを連れて逃げ出さないだけ偉いか」

「それはそれでちょっと憧れちゃうけど」

「そう言われて ”世界より私が大事なのね” みたいな発想になるの、流石よね」

「えへへ」




 私は深呼吸をして心を落ち着けた。


 根本的な解決はしていないのに、さっきより随分と気が楽になっている。

 九曜さんの癒しボイスの効果は凄い。

 いや、柔らかいお胸のおかげかな。


 私が気持ちを整えている間に、セレーネさんがユニバースを移動するためのゲートを作ってくれた。

 あそこをくぐれば、その先は生存か消滅のどちらかしかない。


 「大丈夫」


 ミラがいつも口に出すように、私も小さくそう呟いた。



「ではそろそろ移動だ。無理するなとは言えないが、頑張ってこいよ」


 セレーネさんの激励を受けて、暁さんとサダルメリクちゃんがゲートに入っていく。

 そして九曜さんが散歩にでも行くように軽やかに入っていくのを見送ると、ツィーさんが私の前にやってきた。

 

「安心しろ変態ワンコ。仮にお前が活躍できなかったとしても、私がいれば結果は変わらん」


 それだけ言うと、九曜さんと同じように軽やかにゲートに入っていった。

 名前が変態ワンコにアップグレードされているのは気になったけど、そう言ってもらえると更に肩の力が抜けた気がする。


 このまま最後まで残っているとまた弱気になってしまう気がしたので、狭黒さんとアルフィルクがゲートに入るよりも先に、ミラの手を引いてゲートに入った。

 

 光の中で感じるミラの手の温かさ。

 この温かさを守るためにも私が頑張らなくちゃ。





 光を抜けると、知らない町に立っていた。

 背の高い建物は少なくて、どこか懐かしさを感じる雰囲気の町並みだ。 

 周りをみると電車の線路が見えるので山奥とかでは無いと思う。


「あれは西武線ですね。奥にアイススケート場が見えるので、練馬の東伏見だと思われます」

「練馬だったら五月くん家のご近所かい?」

「うち大泉学園だから近所って言えば近所かな。でもこっちの方は来たことないや」

「相変わらず東京の西側が選ばれることが多いねぇ」

「高い建物が少ないから暴れやすいんじゃないのか?」

「遮蔽物があった方が戦いやすいわよ。まぁツィーには関係ないかもしれないけど」


 みんな何となく土地勘はあるらしい。

 私は生活エリア外なので完全に見知らぬ地だ。

 と言っても、自分が住んでいる町からあまり外に出たことはないんだけど。


「あの、敵ってどこに現れるんですか?」

「えーと……あっちの方に紫色の壁が見えるかい?」


 狭黒さんが指し示す方に巨大な紫色の壁が見えた。

 壁といっても向こうが透けて見えている。

 ゲームによく出てくるバリアみたいな感じだ。


「あの壁がこちらとあちらを分ける境界線みたいなものだ。相手はあの境界線の向こう側に現れるようになっている。敵味方が同じ場所に出現していきなり混戦にならないようになっているんだね。双方全員がステラ・アルマに搭乗すると、あの壁が消えて戦闘開始という訳だ」


 聞いているとますます競技感が増していく。

 ここまでルールが設定されていると、それこそゲームをやっているような感覚になる。



「ここに突っ立っててもしょうがないし、さっさと準備しちゃいましょ」 


 アルフィルクがそう言うと狭黒さんの方にツカツカと歩いていく。

 

 そうだった! 

 忘れていたけどステラ・アルマが変身するには相手とキスする必要があるんだった。

 またあの二人の濃厚なキスを見られるのか。いや待てよ。

 今回は全員が戦うってことは、残りの4人のキスも見られるってことか!


 それに気づいた私はそっと九曜さんとツィーさんの方を見る。

 二人は仲の良い友達が朝の挨拶でも交わすかのように、足取り軽くキスをした。


 なにあれ素敵!

 狭黒さんとアルフィルクみたいな濃厚なキスもいいけど、ああいう通じあってるっぽいキスも良い!

 それにツィーさんみたいなタイプがキスしてるのを見るのはちょっと興奮する!

 

 興奮したまま、今度は暁さんとサダルメリクちゃんの方を振り返る。

 一瞬この二人のキスを見てもいいものかと罪悪感を感じたけど、ええい構うまい!

 おかげでテンションあがってきたし!

 


 しかしその二人のキスを見た私は、自分の中で新しい扉が開くのを感じた。



 身長差を合わせるために腰をおろした暁さんの両手を拘束するように、ネットリと恋人繋ぎをしたサダルメリクちゃんが、暁さんを押し倒さんばかりに激しいキスをしていたのだ。 


 えーーーーーーーーーッ!!

 ふ、二人はそういう感じなの!?

 いつもは攻め攻めな暁さんが、こういう時は攻められる側なの!?

 サダルメリクちゃん普段はあんな子犬みたいなのに、こういう時は狼になるの!?

 キャーーーーーーー!!

 イヤーーーーーーー!!

 お姉さん目が離せないッ!!



 4人のキスを見て、身も心もポカポカになってしまった私は、ほてった顔に両手をあててこの素晴らしい光景が見られたことに感謝した。ここが天国ヘブンだったのか。



「もう未明子! 他の子に見とれてないで私達も早くしようよ!」


 隣にいる天使からかわいい催促をもらってしまった。

 そうだ、ハァハァしている場合じゃない。

 私も彼女とキスをしていいんだった。


「ごめんねミラ! じゃあ、いただきます!」

「え、それなんかちょっと怖い……ん……」


 興奮していた私は、彼女が言い終わる前にその唇に自分の唇を重ねた。

 雰囲気に押されて強引すぎたかなと思ったけど、薄く目を開けて見たミラは幸せそうな顔をしていた。

 うん、勢いって大事だよね。



 それぞれがキスを終えると、ステラ・アルマ組は私達から距離をとった。

 その場で変身すると踏み潰されちゃうもんな。

 気になったのは、サダルメリクちゃんだけがやたら離れていることだった。



「マグナ・アストラ」

「マグナァ・アストラァアアアッ!!」

「マグナ・アストラ!!」

「マ、マグナ・アストラー!」



 明らかにツィーさんだけ気合の入ったかけ声だった。

 何で一人だけそんな必殺技を出すみたいな勢いなの?



 ポーズをとった4人が光に包まれていく。

 あの光の中でみんながどうやってロボットになっていくのかとても気になる。

 気になるけど、それよりも衝撃に備えないと。


 暁さんも狭黒さんも衝撃にそなえて身構える中、九曜さんだけは腕を組んで仁王立ちしていた。

 あんな立ち方で大丈夫なのか? と心配した瞬間、すさまじい轟音と衝撃が起こる。


 前回の比ではなく、鼓膜が破れるかと思うくらい響く大きな音に、目を開けていられなかった。

 さすが4人分ともなると衝撃もすさまじく、大地震が起こったかのごとく地面が揺れた。



 衝撃と揺れが収まり、恐る恐る目を開くと、舞い上げられた埃が煙を作っていた。

 ゲホゲホと咳払いしてまわりを見ると、先ほど仁王立ちしていた九曜さんがそのままのポーズで立っている。あれだけの衝撃があったのに凄いなこの人。

 

 煙が晴れてくるとミラとアルフィルクの姿が見えた。

 ということは、二人の間にいるロボットがツィーさんか。


 全身のカラーリングは白をベースに、腕や足、装甲などが赤く塗られている。

 ところどころに青が入っているのでいわゆるトリコロールカラーの機体だ。

 全身がギュッと絞ったように細く、ミラやアルフィルクと同じサイズなのに一回り小さく感じる。

 顔の造形や装甲のイメージはどことなく忍者っぽくて、両手にはそれぞれ刀のような剣が握られていた。右手に持っている刀は長く、左手の刀はやや短い。

 ツィーさんが落ち着いている時に醸し出しているクールな印象を、そのままロボットにしたようなデザインだ。


「かっこいい……」


 人の時もそうだけど、黙っていれば上玉なのだ。


 ミラが銃撃タイプなら、ツィーさんは剣撃タイプということだろう。

 遠距離タイプに対しての近距離タイプなら、火力としてはバランスが良いと思った。



 そして気になるサダルメリクちゃんは……

 サダルメリクちゃんは


 え……?


 ツィーさんの横には、他の3人を足したほどの幅がある重量級のロボットが立っていた。


「あれサダルメリクちゃん!?」


 全身のカラーリングは黒。

 ところどころに赤が入っているものの、ほぼ黒で統一されている。

 一番目に入るのは、両肩についている巨大な盾。

 本体を覆い隠すほどのサイズがあって、盾にオプションで体がついているみたいな印象だった。

 体もいたるところが装甲で守られていて、関節以外はほぼカバーされている。

 だが、細かいディティールよりもとにかく大きいのが目立つ。

 あの小柄なサダルメリクちゃんが変身しているとは思えないほどのデカさだった。

 足に戦車のような無限軌道は見えるけど、あの大きさで動けるのだろうか。


「どうですか? 私のメリクはかわいいでしょう?」


 暁さんがドヤ顔で話しかけてくる。

 全体的に丸みがあるのでアルマジロみたいでかわいいと言えばかわいいけど、なによりギャップが凄まじくて、うまく感想が出てこなかった。

 さっきのキスの仕方といい、今日はサダルメリクちゃんに驚かされる日だ。


『へ、へっくし!』


 巨大ロボットのくしゃみで地面が少し揺れる。

 うーん。デカイけどやっぱりサダルメリクちゃんの声だ。



『どうだ変態ワンコ。私はカッコイイだろう!』


 あんなに格好いいロボットなのに、両手をあげてはしゃいでいるので台無しだった。

 こっちはいつも通りすぎて驚きゃしない。


 さっき狭黒さんが暁さんと九曜さんを前衛にと言っていた理由が分かった。

 確かにこの二人なら、前で戦った方がパフォーマンスを発揮できる。



「では乗り込むとするかね!」


 狭黒さんがそう言うと、4人のロボットが手を差し出して私達を迎えてくれた。

 その手に飛び乗りそれぞれの操縦席へ入っていく。



 2度目のミラの操縦席。

 相変わらず彼女の匂いがして安心する。

 私は操縦桿を握ってモニターで周囲を確認した。


 まだ境界線の壁は消えていないので、相手の準備が整っていないのだろう。

 操縦席からまわりを見ると、この位置から見ても高い建物がそれほど見当たらない。

 ギリギリ体を隠せそうな建物もあるので場所を記憶しておく。


 視界に入ったサダルメリクちゃんのサイズ感がやはり他と一線を画している。

 何なら建物に隠れるよりも、サダルメリクちゃんの後ろにいた方が隠れられるんじゃないだろうか。


  

「あーあー。こちらリーダー。みんな通信は聞こえるかな?」


 操縦席の中に狭黒さんの声が聞こえてきた。

 前回のやり取りでリーダーってことは分かっていたけど、改めて言われるとリーダーって呼ぶの抵抗を感じるな。


「ここで会話できるんですね」

「近くにいるなら味方同士は会話できるようになっているよ。状況に応じて私が指示を出していくから各自通信を切らないようにしてくれたまえ」

「オッケー!」

「承知しました」


 操縦席の中にいるのにみんなの声が聞こえるのは安心する。

 ミラとは会話できるけど、判断に困った時に客観的な視点から指示をもらえるのは大きなアドバンテージだ。

 

「では今回も安全第一で。危なくなったらセレーネさんに撤退を申し出るように」

「その場合は一度わたくしの後ろに退避してください。撤退するのに少し時間がかかりますので」

「了解です!」

「あいよー!」


 最初は不安に押しつぶされそうだったけど、だんだん何とかなるような気がしてきた。

 敵の姿をまだ見ていないのにそう思ってしまうのは少し傲慢だろうか。

 いや、それだけみんなが頼りになるんだ。


 大丈夫。

 

 今度はさっきみたいに自分を奮い立たせる言葉じゃない。

 心からそう思える言葉だ。



 私の覚悟が決まった時、境界線の壁が消えたのが見えた。



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