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第151話 ステラムジカ⑬

 それは萩里にとってあまりに理解できない出来事だった。

 

 仲間が仲間を殺す。

 

 何故そうなってしまったのか。

 そうせざるを得ない理由があったのか。


 一方的に聞かされた話だけでは正しい判断はできない。

 しかし桔梗が明確な意思を持って撫子を殺したのは間違いないだろう。


 ならば桔梗はセプテントリオンから出た裏切り者だ。

 規律を守る者として看過できない存在だ。

 

 セプテントリオンを束ねるリーダーを任された萩里にとって桔梗の暴走を止めるのは当然の役目だった。


 すでに自分は敗北した身。

 地球との戦いでは役に立てない。

 だが桔梗の暴走を止める手立てならある。


「ドゥーべ、すまない。もう少しだけ私に力を貸してくれ」

 

 萩里は半身を失ったドゥーべにアニマによる応急処置を施し、桔梗の元へと向かった。






 目の前でメグレズが破壊されるのを見た尾花は、アルデバランに仲間が殺された時の記憶がフラッシュバックした。


 激しい頭痛と吐き気に襲われるもそれを強い意思で押し戻し、すぐに自分のやるべき事を考える。


 至った答えは萩里とほぼ同じ。

 セプテントリオンのサブリーダーとして桔梗の暴走は見逃せない。

 

 桔梗が地球の部隊と戦っている以上、敵に回るわけにはいかない。

 しかし真意を問い正す必要はある。

 

 それに尾花には予感があった。

 予感と言うより確信に近かった。


 自分が何とかしなければ、桔梗の暴走はさらに大きくなっていくと。

 

「桔梗。応答して。話を聞かせて」


 やはり桔梗からの返事はなかった。

 ならば話を聞くためにも桔梗の目を覚まさせなければいけない。


「……もう私しか動けないんだ。私がしっかりしなきゃ」


 尾花は意思を固め、メラクを地球の部隊へ向かわせた。






 衝撃波の影響で稲見は少しの時間気を失っていた。


 アウルムの放ったヴァニタスは射程距離内にいた機体にダメージを与え、更に操縦席にまでその効果を及ぼしていた。

 乃杏と椿を庇ったせいで防御が疎かになった稲見は、自身も強く影響を受けてしまったのだ。


 幸い軽い症状で済んだようで、意識を取り戻すとすぐに現状を把握しようとした。


「全機、被害状況を教えて下さい!」

 

 目視できる限りでは、こだてとこころの機体は現存。


 遠くに見える赤い機体はおそらくシャウラ。

 しかし一緒にいたそれ以外の機体は所在不明だった。


 反対側に見えるアルセフィナは転覆したように横向きになっている。


「木葉こだて、無事です。戦闘も継続可能です」

「同じく毛房こころ、機体は何とか助かりましたが偵察に向かわせていた猫ちゃん達が全滅したかもです。泣きそう……」

「こちら志帆です。アルセフィナ、かなり壊されちゃいましたけど動けます!」

「音土居です! 私は無事ですけど一緒にいた人達が吹き飛ばされてしまいました! 一応連絡を受けまして全員生きてはいるみたいですが何人かは戦闘継続は難しいそうです!」

「い、石之腰乃杏。稲見ちゃんに護ってもらって元気です」

「池亀椿、同じく元気です……」

 

 ダイアの部隊は連絡が取れているようだがアルセフィナに乗った射撃部隊からの連絡がない。

 その理由を何となく察した稲見はあえて射撃部隊へ連絡を取らなかった。


「了解しました」


 今の攻撃でかなりの被害が出たのは理解している。

 何せ後方に控えていた自分ですら行動不能になる程のダメージを受けたのだ。

 アウルムの近くにいた他のメンバーが五体満足でいられる訳がない。

 

「大変申し訳ありません。フェルカドが戦闘不能になりました。以降、敵の砲撃を跳ね返す事ができません」


 稲見は正直に自分の状況を伝えた。


 敵の砲撃を無効化できていたのは味方にとって大きな心の支えだっただろう。

 それが失われたとなればパニックになる者もでるかもしれない。

 しかし伝えなければ砲撃に対する心構えすらできないのだ。


 乃杏と椿を守ったのも苦渋の決断だった。

 二人を気にせず自分の防御に専念すれば行動不能になるほどのダメージは受けなかったかもしれない。

 しかし万が一それで二人の能力が消えてしまえば、恐らくまだ戦闘中の未明子の戦力が下がってしまう。


 この戦いの目的はセレーネを倒す事。

 そのためには月の外で戦う部隊よりも未明子を優先しなければいけないのは当然だ。


 敵の砲撃を封じるのと未明子の勝利の可能性を天秤にかけ、未明子を選択した稲見の判断は間違ってはいない。


 しかしその判断によってアウルムとの戦闘がより過酷になるのは火を見るより明らかだった。


「まだ動ける方々、アウルムの背後のバリア発生装置を狙って下さい。次の攻撃がくる前にお願いします!」


 フェルカドが行動不能に陥ったのは敵にも把握されている。

 今の攻撃のクールタイムが終わったら、あの金色の機体は嬉々としてビームキャノンで攻撃してくるに違いない。


 大口径の砲門が数えるのも嫌になるくらい大量に装備されているのだ。

 あんな物を一斉に撃たれたら今度こそ多くの仲間が撃墜される。


 そうなる前にバリアを無効化し、こちらの攻撃が有効な状態まで持っていかなければならない。


「木葉さん、こころさん。私の護衛はもう不要なので発生装置の破壊に向かって下さい」

「しかしそれだと双牛さんが狙い撃ちにされますよ?」

「はい。もう私にできるのは的くらいです。私が動けずに漂っていれば敵は必ず私を狙ってきます。逆に言えば姿が隠れている石之腰さんと池亀さんは狙われないという事です」

「自らを囮として二人を守るのですか?」

「そうです。動けない機体の仕事としては悪くありません」

「稲見ちゃん、まさか死ぬ気なの?」

「いえ。そうは言いつつも次の攻撃までにみなさんが何とかしてくれると信じています」

「それは……買い被りすぎですよ」


 こだてもこころも稲見が本気で何とかしてくれると思っていないのは分かっていた。

 今のは自分達を行かせるための方便に過ぎない。


 言われた通りにすべきなのか、それともここにとどまって稲見を守るべきなのか、それを判断できる材料は現状ない。

 結果のみがその答えとなる。


 しかし動けなくなったフェルカドを見て、二人は決断できなくなっていた。

 

「いやー、そう言われたら頑張るしかないかな!」


 答えが出せず悩んでいた二人の元に、やたらと元気な声が割り込んできた。


「話はだいたい分かったよ。あのデッカい奴の裏側に回ってバリアを出してる機械を壊せばいいんだね!」


 声の主はいつの間にか合流していた五月だった。


「五月さん!」

「遅れてごめんね。報告した通り他のセプテントリオンは倒したよ。後はあの大きいのと、もう一人いるんでしょ?」

「その一人は、あの巨大な機体に破壊されました」

「え、何で? 味方じゃなかったの?」

「味方のはずです。ですが先ほどの攻撃に巻き込まれた後、バリアに挟まれて撃墜されました」

「私が気を失っている間にそんな事が……」


 気を失っていた稲見はその事実を知らなかった。


 少しだけ話をしたメグレズの操縦者が金色の機体の操縦者に苦言を呈していたのは覚えているが、まさか殺し合いに発展するほど不仲だとは思いもよらない。


「じゃあ、あのデッカいのは仲間を裏切ったって事?」

「分かりません。もしかしたらもう一人の方が裏切ったのかもしれません」

「だからって味方を殺していい理由にはならないよね……思ったより陰湿な奴なのかな」


 他のセプテントリオンのメンバーが思ったよりも話の通じる相手が多かったのもあり、五月はその行動に嫌悪を感じていた。

 

「五月さん。二人を連れて発生装置の破壊をお願いします。バリアを解除できたら音土居さんと協力して本体を破壊して下さい。シャウラさんの機械毒が通用するのは検証できています」

「了解。あいつが容赦しなくていい相手だってのも分かったよ。こだてちゃん、こころちゃん、一緒に行こう!」

「双牛さんは……その、大丈夫なんですか?」

「ここにアタシ達が残ってても状況は良くならないよ。本当に守りたかったら攻めるべきだね」

「それは……そうですね」


 そう言われたこだてはようやく覚悟を決められた。

 こころもそれに同意する。


「じゃあ稲見ちゃん、アタシ達行くから指揮だけでもよろしく!」

「了解です。新しい情報があればすぐに共有します」


 必要最低限の会話だけ済ませ、五月・こだて・こころの3人はアウルムの背後にあるバリア発生装置の破壊に向かった。



「すいません。私達を守ったばかりに……」


 稲見の背後、何もない空間から乃杏の声が聞こえる。

 フェルカドが壁になったおかげでイザールの固有武装(シュトルーベ)は解除されず、乃杏と椿の姿は隠れたままになっていた。


「お二人を守るのが一番勝率が高いと判断しただけです。それよりもこの後はフォローに入れる人がいません。何とかお二人だけで生き延びて下さい」

「そこは努力します。シュトルーベで稲見さんも隠せれば良かったんですけど流石に3体はハミ出ちゃうと思うので……」

「問題ありませんよ。それに急に私が消えたら怪しまれます。お二人が隠れているのが仕事なように、ここで漂っているのが私の仕事です。もし敵の攻撃が始まりそうになったら私から離れて下さいね」

「……はい」


 乃杏は不服そうだった。

 彼女の性格的に稲見を犠牲にするのは許容できないからだ。


 しかしここで稲見を守れば庇ってもらった意味が無くなる。

 稲見の思いに報いるなら気配を殺して隠れ続けるのが一番だと理解はしていた。


「後はもう、みなさんに任せるしかありませんね……」


 稲見は覚悟を決めた。


 次の攻撃までにバリア発生装置を破壊するのはできたとしても、敵そのものを破壊するのはほぼ不可能だろうと計算していたのだ。


 あのビームキャノンが自分を狙ってきたら大人しく諦めよう。

 覚悟さえしていれば恐怖することはあっても後悔することは無い。


 しかし稲見は生きるのを諦めたわけではなかった。

 戦場では何が起こるか分からない。

 何らかの理由で砲撃が外れる可能性だってある。

 

 最期の瞬間までやれる事は全てやろうと、操縦桿からは手を離さず目の前に広がる宇宙の状況を注視した。






「え……嘘だよね……?」


 志帆はアルセフィナに乗る射撃部隊の安否を確認した時に初めてそれを聞かされた。

 

 彼女の親友であり幼馴染の麗佳(れいか)がすでに戦死していたのだ。


 麗佳は志帆の世界で最近戦いに加わったばかりのメンバーで、志帆の一つ年上の姉のような存在だった。

 

 志帆は麗佳が戦いに参加するのをずっと(こば)んでいた。

 しかし麗佳は幼馴染がそんな危険な戦いをしているならと、志帆が引き止めるのも聞かずに参加したのだ。

 

 その麗佳はアウルムの右腕に潰されて死んだ。

 志帆はその頃、稲見達と左腕の攻略をしていた為にその事実を知らず、他の仲間も志帆がショックを受けないように黙っていたのだ。


 志帆は愕然とした。

 彼女の天真爛漫な性格は面倒見のよい麗佳あってのものだった。


 姉のように慕っていた人物が自分の見ていないところで命を落としていたと知った志帆は、自分が何をすればいいのか分からなくなってしまった。


「そんな……麗佳ちゃん……麗佳ちゃんが……」


 操縦席の中で全身を震わせ、うわごとのように幼馴染の名前を繰り返す志帆は稲見からの通信も耳に入っていなかった。

 

 アルセフィナ自体の航行能力は失われていない。

 射撃要員も被害は大きいがまだ動けはする。

 ダメージ状況だけを考えれば戦闘可能ではあるが、肝心の志帆がすでに戦える状態では無かった。


「志帆、どうした? 何故双牛さんに応答しない?」


 応答のない志帆へこだてからの通信が入る。


 何も変わらない、いつも通りの声色に志帆は苛立ちを覚えた。

 大切な姉を失ったばかりで悲しみに暮れていると言うのにどうして応答ができようか。


「うるさいな! ちょっと待っててよ!」

 

 今ばかりはその冷静な態度が気に入らず、志帆はこだてに食ってかかった。


 まるでお前が悪いとでも言わんばかりに罵声を浴びせられても、こだては一切動揺せずに返答した。


「どうした?」

「どうしたじゃないよ! こっちは大切な人が死んでるんだよ!?」

「……そうか」

「……そうか? そうかって何? こだてちゃんには関係のない話なの!?」

「そうは言っていない」

「言ってなくてもそういう事じゃん! 私の友達が死んだってこだてちゃんには関係ないんでしょ!?」

「志帆、落ち着きなさい」

「だから落ち着いていられないって言ってんの!」

「私の仲間もセプテントリオンにやられて死んだ」

「……え?」

「私だけじゃない。こころの仲間もだ。私の世界は一人、こころの世界はすでに二人戦死した」

「そんな……」

「しかもこころの世界の一人は機体ごと爆散したのではない。月に叩きつけられて負傷し、苦しんで先程息を引き取ったところだ」

「……」

「みんな同じだ。同じように大切な人を失っている。そしてこの後の私達の動き次第で双牛さんの死が決まる」

「稲見ちゃんが、死ぬ……?」

「そうだ。私達が悲しみに潰れていたら動けない双牛さんは確実に死ぬ。いま悲しむという選択をするなら双牛さんの命がそのコストだ」


 それは事実であり、こだてが自分に言い聞かせている言葉でもあった。


 迷う。悲しむ。

 そうやって時間を浪費している内に敵の準備が整ったら稲見は死ぬ。 

 

 こだてが自分の選択が正しかったのかと迷うのも同じ。

 悩んだ時間だけ稲見が命を落とす確率が高くなるのだ。


「それでも悲しみたいなら好きにするといい。アルセフィナにはまだ私の仲間もこころの仲間も乗っている。その命を危険に晒さないならそれは志帆の自由だ」


 こだての言葉は決して優しくはなかった。

 傷心の相手に正論を叩きつけたところで納得できるわけが無い。

 それでも今こだてが示せるのは志帆に選択肢を与えることだけだった。


「私とこころは九曜さんと一緒にアウルムの背後にあるバリア発生装置の破壊に向かっている。動ける者はそこに向かえというのが双牛さんからの指示だ」

「……こだてちゃんはいつだって論理的で偉いね」

「そうでもない。私だってこれ以上仲間を失うなら、申し訳ないが自爆特攻をかける」

「え? 自爆!?」

「腹の虫が収まらない。我慢の限界だ。これ以上私を追い詰めるならあの金色の機体の操縦者に思い知らせてやる。私を敵に回した愚かさをな」


 冗談のようなその言葉に茶化しは一切感じられなかった。

 聞いていた全員が本気で言っていると思わせられる説得力があった。


 真面目な人間ほど爆発する時には容赦がない。

 それを実感させられる言葉だった。


「自爆って……」


 志帆は何故かその言葉に救われた気がした。

 それはこだても同じように追い詰められていたと分かった安心感だったのか、それとも死ねば全てどうでもよくなるという解放感だったのか。


 答えはそのどちらでもなかった。

 

 敵に対する怒り。 

 悲しみに隠れて忘れていたその感情をこだての言葉で思い出したからだった。


 志帆は怒っていた。

 仲間を殺されて、自分の大切な人を粉々に潰されて、体中に怒りが満ちていた。


 それを自覚できた事に救われたのだ。


「ああ、そっか。簡単だった。あいつをぶっ殺せばいいんだ」


 こだての言う通りだった。

 思い知らせてやればいいのだ。

 この怒りを。悲しみを。

 同じ目に合わせてやればいいのだ。

 

「射撃部隊のみなさんへ……アルセフィナはすぐに動きます。もしもう戦えないって人がいたら、ここで降りてください」


 転覆したアルセフィナを立て直しながら志帆は残った射撃部隊にそう伝えた。


 自分と同じように悲しみに潰れそうな人にこれ以上戦えと言うのは酷だ。

 ここで降りれば少なくとも悲しむだけの時間は得られる。 


 しかしその後アルセフィナが動き出すまで、アルセフィナから降りた機体はいなかった。 



 



 五月達はアウルムからの攻撃を警戒して大きく回り込んでいた。

 正面から向かって万が一攻撃が始まった場合、稲見達を巻き込んでしまう可能性があるからだ。


 自分達の方に攻撃が向いてくれるなら回避するなり防御するなり取れる手段はある。

 動けない稲見が攻撃されるよりは遥かにいい。


「ダイア、そっちで他に動けそうな者はいるか?」

「もう少し回復すれば2~3人はいけるみたいです」

「承知した。もうすぐこちらも合流できる。私達が行くまで勝手に攻撃するんじゃないぞ」

「おっと! 今まさに突っ込むところでした。危ない危ない」

「……その無謀さを勇気としてみんなに分けてくれ」


 現在戦闘可能なのは12名。

 

 五月、こだて、こころ、ダイア。

 志帆と射撃部隊の4名。

 稲見の背後に控えている乃杏と椿。

 梅雨空を宇宙ステーションに送り届けているすばるだ。


 そのうち乃杏と椿は非戦闘員で除外。

 射撃部隊は半壊した機体やすでに自力では動けず固定砲台と化している機体もある。

 すばるも梅雨空を送り届けた後にアウルムまで来るのにはかなりの時間を要するだろう。

 

 それを考慮すると今まともに動けるのは5体だった。

 後はダイアと一緒に衝撃波に吹き飛ばされたメンバーが復帰できた分が残存戦力となる。


(かなめ)はやはりダイアのアル・シャウラだな」


 こだては全員で発生装置を攻撃するのは難しいと分析していた。


 こちらが発生装置を狙っているのはすぐに敵にもバレるだろう。

 そうなると接近を妨害してくるはずだ。


 その場合、とにかくダイアを優先で接近させてアル・シャウラの毒を流し込むのが妥当な戦法だと考えたのだ。 

  

「ここでも私の出番なのは嬉しいですが発生装置そのものに攻撃できますかね?」

「前面に4つ、背面に1つ配置されている発生装置は一部がバリアの外に出ている。そこを狙うんだ」

「でもそれってバリアのすぐ近くを攻撃するって事だよね? もし勢い余ってバリアに触れたら……」

「下手をするとあのセプテントリオンのように爆散だな」

「ひぃー怖い」

「だからなるべく遠距離から攻撃したい。ダイア、シャウラは槍以外の武器を持っているのか?」

「いーえ。ウチは生来この1本でやって来てるんで」

「どうしてちょっと訛るんだ……了解した。九曜さんの機体はどうですか?」

「うーん……あるにはあるけどそこまで火力は高くないかな。やっぱり接近して斬るのが一番強いと思う」

「分かりました。ではまず私とこころが射撃で様子を見ます。それが効かなかった場合は九曜さんとダイアで近接攻撃をしてください。その際はバリアに触れないように慎重にお願いします」 

「了解! 任せといて」


 五月達3人がアウルムの背後に辿り着くと、いつでも突進できるように槍を構えた姿勢のシャウラがいた。

 どうやら通信中も今か今かと待ちわびていたようだ。


 しかし、シャウラ以外の機体の姿は見えなかった。


「やはり他のメンバーはまだ復帰できないか」

「月にぶつかった人達は難しいみたいです。私の隣にいた人達は単純に遠くに飛ばされただけなので、その人達は戻ってこられると思います」

「その中に射撃武器を持った機体は?」

「ふふん。私がそれを覚えているとお思いか?」

「すまない。聞いた私が馬鹿だった」


 いつ敵の攻撃が始まるかも分からない状況だ。

 吹き飛ばされたメンバーを待っている余裕はない。

 

「こころ、発生装置はどこだ?」

「えっとね。結構上の方だったよ。あ、あそこ!」


 アウルムの背後、人間で言うと背骨の中央あたりに8角形の突起が出ていた。

 カバーを被せたようにその突起部分だけ色が変わっている。

 

「バリアの発生装置って言っても結構大きいね」

「機体のサイズからして巨大ですからね。まずはあそこに近づきましょう」


 こだてが先導し残りの3人がそれに続く。

 なるべく見つからないようにアウルムの足元でダイアと合流した為、背中の発生装置まではそれなりに距離があるのだ。


 4人がバリアの発生装置に向かって進み始めた時、背後から1体のステラ・アルマが接近していた。

 周囲の索敵を担当していたこころがそれに気づく。


「みんな! 敵だよ!」


 こころの警告で全員が振り返り戦闘態勢を取った。

 やって来たのは、脚部の異様に膨れた銀色の機体だった。


「ちがいまーす。敵じゃないでーす」


 警戒する4人の操縦席に間の抜けた通信が届く。

 

「あれぇ尾花じゃん!? 何でここにいるの? すばるちゃんに負けたんじゃなかったの?」

「その声は五月だね。そうだよ。すばるちゃんに負けた尾花だよ」

「何をしに来たんですか? まだ戦う気ですか?」

「待って待って。違うんだ。私は戦いに来たんじゃなくて桔梗の暴走を止めに来たんだ」

「……桔梗?」

「暴走とはどういう事ですか?」

「なんかね。突然私達の仲間を攻撃しだしたんだ」

「仲間割れですか?」

「そうなのかな? 私もそれが分からなくて。こっちから話しかけても無視されるんだ。だからちゃんと話がしたくて」

「それで何をする気なんですか?」

「五月。その子さっきから質問攻めで怖いんだけど」

「まあ、一応尾花は敵だからね。警戒するのは許してあげて。それで尾花はどうしたいの?」

「バリアの発生装置をぶっ壊しにきた」

「ええ!?」


 流石にその解答には全員が驚きの声を上げた。

 敵であるセプテントリオンが同じセプテントリオンの邪魔をしようとしているのだ。


「ちょ、ちょっと尾花。この大きいのは味方じゃないの?」

「味方だよ。でも多分操縦者が暴走してる。ルミナスもアンブラも壊しちゃうし、撫子も……殺しちゃうし……」


 尾花が口ごもる。

 その反応であの仲間割れがセプテントリオンにとっても異常事態だったのを全員が悟った。


「絶対に自分は安全だって思い込んでるから強気になってるんだと思う。だからバリアを壊して冷静にさせるんだ。そしたら呼びかけにも応えてくれるはず」

「それはこちらにとっても好都合ですが……いいんですか? それをキッカケにあの機体を攻略されるかもしれないですよ?」

「大丈夫だと思う。だって大きいし。バリアなんてなくても桔梗は負けないよ」

「えーっと……敵の立場は貫くけど味方の目を覚まさせる為にこっちに協力するって事なのかな?」

「そうだよ。決着がつくまでは私は敵だ。あれ、君の機体なんか猫みたいだね。かわいい」

「今はそんなのはどうでもいい! とにかくバリア発生装置の破壊には手を貸すんだな?」

「うん。それは誓おう」


 こだてはその誓いを全く信用していなかった。


 例えばあの巨大な敵が月に反旗を翻したので協力して倒したい、なら理解はできる。

 しかし尾花の協力はバリアを壊すところまでで、後はこっちに負けてくれと言っているのだ。

 どう考えても信用できるわけがない。


 ただしバリアさえ破壊できれば後はシャウラの能力で何とかなる可能性は高い。

 尾花の思惑にシャウラの毒が入っていないと考えれば協力させるのもやぶさかではなかった。


「九曜さん。この人を信じても大丈夫でしょうか?」

「うーん、どうなんだろう。尾花、これはセプテントリオンの決定? それとも個人的な行動?」

「その二つなら個人的な行動だと思う。私が勝手にやってるだけだし」

「裏切ったら酷いよ?」

「裏切らないよー」

「裏切らないって」

「それで信じるの危なくない!?」

「ふむ。とは言えこちらにもバリアが手に入るのは頼もしい。九曜さんを守ってもらえば直接発生装置に攻撃もできるだろう」

「私は五月を守ればいいんだね」

「ね。尾花のバリアってどれくらいまで広げられるの?」

「メラクの防御壁はステラ・アルマ3体分くらいまでは余裕で入るよ」

「じゃあダイアちゃんも入れてもらって近接攻撃組と遠距離攻撃組で別れればいいんじゃない?」


 五月が提案したのは、尾花の防御壁に五月とダイアを入れてもらい3人で発生装置に接近。

 敵のバリアに触れないように直接攻撃を加える。

 そして敵のバリアから離れた位置から、こだてとこころが射撃攻撃を加えるというものだった。


「ではそれで行きましょう。ダイア、九曜さんの指示に従うんだぞ?」

「分かりました!」

「本当に分かっているんだろうな……? こころ、私達は弾丸を惜しまずに撃ち込むぞ」

「あいあいさー」


 全員が作戦が理解したところで改めてバリアの発生装置に向かった。


 尾花の協力を得られたのはいいが時間を消費したのも事実。

 より迅速な行動が要求されていた。






 五月達がアウルムの背後に移動したのを桔梗はしっかりと確認していた。


 アウルムは現状どの兵器もチャージタイムに入っており使用はできない。

 背後の発生装置を狙われても迎撃できる武器が無いのだ。


 そして何より計算外なのが尾花が敵サイドにいる事だ。

 

 メラクのバリアは桔梗にとっても厄介だった。

 その防御力もさることながら、バリア同士が干渉した場合はどうなるか予想がつかないからだ。

 

「まったく。サブリーダーまで僕の邪魔をするとはね。これはやっぱりセプテントリオンそのものを潰さなくてはダメかな?」


 すでに桔梗は敵と味方の区別が曖昧になっていた。

 地球と月のどちらに属するかなど関係なく自分に害がありそうだと判断した者を敵と認識しているのだ。

 その観点で言うと敵と行動を共にしている尾花は排除対象だった。

  

 いま5体の敵が背後のバリア発生装置を狙っている。

 使える兵器が無いこのタイミングは敵にとっては千載一遇のチャンスだろう。

 

 しかし誰もが勘違いしている事が一つだけあった。


「まさかこれでアウルムを攻略したなんて思っていないよね?」


 桔梗は操縦桿を握り直すと、背後の敵を目で追った。






 バリア発生装置に向かう五月は尾花を見て不思議な感覚になっていた。


 かつて自分ではない自分と共に戦った者が隣にいる。


 それが何故かしっくりくるような気がしていたのだ。

 まるで自分があるべき場所に正しく収まっているような、そんな感覚だった。

 

「またこうして五月と一緒に戦うなんて面白いね」


 尾花の声は五月の耳に心地良く聞こえた。

 普段友達が五月の声で癒されると言ってくれるように、五月も尾花の声で癒されるようだった。


 真面目で堅物の萩里と掴みどころのない癒しキャラの尾花。

 その凸凹さ加減を面白いと感じた五月は、別の世界の自分がこの二人と仲が良かったのが理解できる気がした。

  

「ねえ尾花。萩里はどうしたの?」

「アルデバランにかなりやられちゃったからね。安全な所に置いてきたよ」

「置いてきた? 大丈夫なの?」

「月の基地に帰還するくらいはできると思うから心配ないよ」

「ならいいけど」

「敵なのに心配してくれるんだ?」

「そりゃ心配くらいするでしょ。敵だって死ななくて済むなら死んで欲しくないよ」

「五月は相変わらずだね。桃もそうやって見逃してくれたんだよね」

「桃ちゃん負けを認めてたしね。それにソラちゃんが殺したくないって言ってたし」

「そっか。良かった」


 尾花は心底嬉しそうだった。


 セプテントリオンの他のメンバーに比べて尾花は戦いへの意欲が薄い。

 それこそ話し合いで解決できるならそれで終わらせたいタイプだった。

 セレーネに戦いの管理を任されているから任務に忠実なだけで、誰かと争う事がそもそも好きではないのだ。


 五月は尾花のそんな気質を肌で感じていた。

 だから共闘するにあたって裏切られるなど微塵も思っていない。

 今だけは一緒に戦う仲間だと信じて背中を預けられた。


「みなさん離れてください!」


 突然のこだてからの警告だった。

 それが何かと問う前に全員が事態に気づいてその場から離れる。


 今までほぼ棒立ちだったアウルムが体を動かし始めたのだ。

 

 300メートルもある巨人。

 当然その動きは緩慢だと誰もが思い込んでいた。

 だが実際は想像していた以上に素早く動けるようだった。


 その巨体に見合わぬ速さでアウルムが振り返る。

 バリア発生装置までもう少しと言うところで、目的の場所は遥か遠ざかってしまったのだった。

  

「こいつ、速い!?」


 こだてが動きの速さに驚いた時には、アウルムの右腕が振りかぶられていた。


「わぁーみんな回避回避!」


 こころにそう言われるまでもなく全員が回避行動を取っていた。


 5人が散開するや否や、アウルムが右腕で突きを繰り出してきた。


 宇宙空間を削り取るように放たれた巨大な右腕は、5人がいた場所を通過していった。

 逃げ遅れていたら間違いなく全員粉々になっていただろう。


「嘘でしょ!? あの図体で格闘もできるの!?」

「やばいやばいやばい! 次が来るよ!」


 右腕の突きに続き、アウルムはすでに左脚で蹴りを放とうとするモーションを取っていた。


 もしアウルムがステラ・アルマと同じサイズだったらさしたる事のない速度ではある。

 しかしあまりにも巨大ゆえ、五月達が避けるには膨大な距離を移動しなければいかなかった。


「尾花! こだてちゃんとこころちゃんを抱えて逃げて! アタシとダイアちゃんは速いから何とかなる!」

「どの子とどの子?」

「怖い子と猫の子!」

「分かった!」

「怖い……子?」

「猫の子でーす」


 メラクがアスピディスケとアルマクを両脇に抱えた。


「ちょっとGがかかるから耐えてねー」


 メラクが脚部ブースターを使って高速で離脱する。

 こだてとこころが悲鳴を上げる間も無く、あっという間に安全圏まで離れて行った。


「ダイアちゃん! アタシ達は自分で何とかするよ!」

「当たったら即死の回避ゲーム! 何とも興味深いですね!」


 アウルムが左脚で蹴りを放つ。

 大気の無い宇宙がそれでも震えるような、圧倒的な質量が二人に迫ってきた。


「こわこわこわこわ!」

「凄いですね。まるで大地が動いているようです」

「いいから逃げて!」


 ツィーとシャウラは他のステラ・アルマに比べて移動速度が速い。

 アウルムの広範囲の攻撃も、持ち前のスピードで何とか回避する事ができた。

 

「あっぶなー。走馬灯見えたわ」

「もし地上だったら走っても間に合いませんでしたね」

「いや本当。宇宙じゃなかったら絶対避けらんないよあんなの」


 蹴りを放ったアウルムは脚を元の位置に戻すと、全身を稼働させて空手のような構えを取った。


 構えてはいるがアウルムを操縦する桔梗に武道の経験は無い。

 もし桔梗がすばるや撫子のように武道に精通していたなら五月もダイアも避けきれずに蹴り飛ばされていただろう。



「五月、大丈夫だった?」


 尾花がこだてとこころを抱えたまま五月の元に戻ってきた。


 こだては抱えられているのが不服だったらしくメラクの脇から強引に離れた。

 対してこころはこのままずっと運んでもらうのを期待して抱えられたままでいようとしたので、こだてが無理矢理引き剥がしていた。


「こっちは何とか。でも参ったね。あんな感じで攻撃されたら背後に回り込むのは難しそう」

「私もあんなに速く動けるなんて知らなかったよ」

「こうなったら背後は諦めて正面の発生装置を狙ってみるのも面白いかもしれませんね」

「正面のを1つ破壊しても意味がない。壊すなら4つ全部破壊しなくてはいけない」

「うえーどちらにせよあの攻撃をかわしながらは結構キツイね……」


 現状、サイズの差が致命的だった。

 アウルムが少し移動するだけで五月達はかなりの距離を移動しなくてはいけない。

 体の向きを変えられるだけでも発生装置までの距離が途方もなく伸びるのだ。

 動き回られたら一生追いつけない可能性すらあった。


「……」

「こだてちゃん、どうして黙ってるの?」

「……いや」

「作戦があるんだよね? 分かってるよ。多分私も同じ事を考えてる」

「こころ……」

「みなさん聞いて下さい。私とこだてちゃんから提案があります!」






 セレーネからの任務で撫子と組まされる機会が多かった桔梗は、自分が担当する敵を殲滅した後は撫子の戦いを見て暇を潰す事が多かった。


 撫子の乗るメグレズは格闘機体。

 殴ったり蹴ったりが基本の攻撃だったので、どういう風に体を動かすのかを観察していた。

 それを見よう見まねでやってみたのが今の動きだ。

 

 本家のように鋭くは動けなかったがそれでも敵は必死に回避していた。

 その慌てぶりがあまりに面白く、桔梗は上機嫌になっていた。


「ふふふ。これは別に武器とかいらないね。僕が適当に手足を振り回しているだけで誰も手出しできないじゃないか。尾花が加わったら面倒かと思っていたが存外気にしなくても良さそうだね」


 目の前には5体の敵。

 こちらの攻撃に怯えてしまったのか完全に動きを止めている。


 それも仕方ないだろう。

 打ち込まれる度に全力で逃げなくては命はない。

 少しでも遅れれば痛みを感じる間もなく粉々にされるのだ。


「こっちは攻撃されても無敵のバリア。あちらは一瞬の判断ミスで死。こうまで差があると悲劇を超えて喜劇だね」


 3度に及ぶ範囲攻撃でも残った敵だ。

 せっかくだから1体ずつ順番に潰していくのも楽しそうだと考えた桔梗は、最初に誰を狙うか品定めを始めた。

 

 すると5体の内、水色の美しいフォルムを持った機体と、細長い体をした猫の耳をつけたような珍妙な機体が前に出てきた。


「アウルムの操縦者。聞こえるか?」


 それはこだてからの通信だった。


「おやおや。まさか降参でもするつもりなのかな?」


 勿論降参など受け入れるつもりは無いが最後にどんな命乞いをするのか興味のあった桔梗は、相手の通信に返答する事にした。


「ごきげんよう。挨拶するのは2度目かな? 斗稲・コスモス・桔梗だよ」

「私は木葉こだて、そしてこっちのふざけた機体に乗っているのが」

「毛房こころでーす」

「こだてにこころか。いい名前だね。それでその二人が僕に何の用かな?」

「少し聞きたい事があってな。アウルムという名前、確かラテン語で黄金という意味だったと記憶している」

「そうだよ。物知りだね」

「その名前は誰がつけたんだ?」

「僕だよ。この黄金の機体にふさわしい名前だろう?」

「やはりそうだったか。通りでセンスを感じないワケだ」

「……ん?」

「黄金の機体に黄金という名前をつけるのはいささかセンスに欠けるんじゃないか? 赤い車にレッドという名前がついていたら残念な気持ちになるだろう?」

「はて。何が言いたいのかな?」

「セプテントリオン最後の敵がこんなにダサい奴だと思わなかったな。落胆した」

「ほう。僕を挑発しているのかな? 小さき者よ」

「いやそんなつもりは無い。最後にどんな相手だったのか知りたかっただけだ」

「そりゃあどれだけ頑張ってもこのあと君が死ぬのは免れないからね。最後に皮肉の一つでも言いたくなるのは分かるよ。じゃあもう殺しちゃっていいかな?」

「はいはーい。私も聞きたい事があります」

「君は何を聞きたいんだい?」

「その鼻につく喋り方って素なんですか?」

「……鼻につく、ねえ。僕は舞台出身でね。どうしてもセリフが舞台がかってしまうんだ。人生はステージ。常に人の前に立つ者はこういう喋り方になってしまうんだよ」

「それにしては品が無いですよねぇ」

「……なんだって?」

「私の友達にも舞台出身の子はいますよ。でもその子は一つ一つの言葉を大事にしています。話し方や人との接し方にも品性を感じさせるし語彙力もあります。でも富樫(とがし)さんって基本的に相手を見下した喋り方しかできないし、安い言葉のオンパレードだなーと思ってたんですよね」

「……僕は富樫(とがし)じゃなくて斗垣(とがき)だよ。毛房こころ」

「あ、ごめんなさい。変な名前だから間違えました」


 こだてとこころ得意の煽りだった。

 相手の神経を逆立てる言葉による攻撃。


 煽りが有効的な状況は二つ。

 相手が精神的に追い詰められている時と、逆に完全優位に立っている時だ。


 前者はただでさえ余裕が無い時のシンプルな追い打ちとして効果を発揮する。

 後者の場合は自分よりも不利にいる立場の者から正論で諭された時に大きく効果を発揮する。


 いま現在桔梗は二人に対して圧倒的優位だった。

 だからこそ、そんな見下した相手から身も蓋もない言葉を浴びせられると苛立ってしまうのだ。


 普段の桔梗なら苛立ちながらも笑って流せていたのかもしれない。

 しかし今の桔梗は自我の肥大化により自分を神のように感じていた。


 これから潰されて死ぬだけの小者が神に対して暴言を吐くとは何様のつもりだ。


 そんな思考に流されてしまったのだった。

  

「いいだろう。君達は一瞬で殺してあげよう。撫子のように痛ぶって殺してやろうとも思ったが、死んだ事にも気づけないような理不尽な死をくれてあげるよ」

「それだ。今のこころの話を聞いていなかったのか? そういう物言いが品性に欠けると言っているんだ」

「……他に言い残したい事はあるかい?」

「ありますあります! さっきからずっと思ってたんですけど結局あなたの強さってその機体依存ですよね? ただ大きいから強いだけであなた自身が強いわけじゃない。あの爪のセプテントリオンの方がよっぽど強いと思いましたよ」

「……僕が撫子に劣ると言いたいのかな?」

「その通りでーす。だよね? こだてちゃん」

「そうだな。そんな圧倒的な力を持ちながら撃墜された仲間も少ないしな。言ってやれこころ」

「この、ざーこ」


 我慢の限界だった。

 

 桔梗は構えた右腕で二人に向かって突きを放った。

 この次点で動き出していないならもう絶対に逃げられない。

 ほんの一瞬後には粉々になって宇宙空間に散っていくだろう。


 ざまあみろ。

 尊厳も何もなく存在を消滅させるがいい。

 人を怒らせるからそうなるんだ。

 

 アウルムの巨大な拳が二人を押し潰すその瞬間。

 桔梗は一瞬だけ冷静になった。


 そう言えば何故この二人は突然自分を煽り出したのだろう。

 観念したにしてもわざわざ怒りを買う意味はあるのだろうか。

 こういう場合は何か他に意図があると考えるのが妥当ではないだろうか。


 その考えに至った時、5体いたはずの敵の姿が減っているのに気づいた。

 尾花を含めた3体の姿が見えないのだ。

 

「……しまった!」


 残りの3体はアウルムの背後、バリア発生装置のすぐそばにいた。

 メラクに抱えられたツィーとシャウラがまさに発生装置に攻撃を加えんとしていたのだ。


「二人ともグッジョブ!」


 アウルムの右腕がこだてとこころを潰したと同時。

 ツィーとシャウラの攻撃によって、バリア発生装置から大きな爆発が起こった。


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