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第15話 カルテットデート④


「探していないと言うのはどういうことですか?」


 隣を歩く暁さんが心配そうに聞いてくる。

 普段は冷静な彼女にも流石に焦りが見えた。

 ミラを探すのを放棄していると思われてしまったようだ。


「ごめんなさい。言い方が悪かったです。探していないと言うより、もう見つけていると言った方が正しいかもしれません」

「見つけているとおっしゃられてもバラ園からずっとまっすぐ歩いているだけですよ?」

「はい。最初からまっすぐミラの方に向かっています」


 暁さんはますます分からないという顔をした。

 余裕のある人が想定外のことで崩れているのを見るのはちょっと愉快だ。

 私も思ったよりSっ気があるのかもしれない。


 私は迷う事なく一箇所を目指して歩く。


 企画した暁さんには悪いけど、そもそもこのかくれんぼ、ミラを探し出すというルールなら私に負けはない。だって私にはミラがどこにいるか分かるんだから。

 学校の敷地の中だって、街の中だって、ミラの居場所が分かるならそこに向かって歩いていけばいいのだ。

 私が培ったストーカー能力を舐めてもらっては困る。

 10分待ってスタートしたなら、ミラがその場所から移動していなければ10分後には追いつける。

 


 ここを曲がれば

 

 ほら、あそこにミラがいる。

 狭黒さんも一緒にいるね。


 私は駆け寄って後ろから声をかけた。


「ジャスト10分! ミラ見つけたッ!!」



 その声に、二人は見てはいけないものを見てしまったかのように驚いた。

 特にミラは今まで見たことの無いほど驚いた顔をしていた。

 普段から大きいクリクリした目がこれでもかと見開いて私を見つめている。

 驚かしたかったわけではないけど、この反応が見られたのは面白い。


「未明子……?」


 私はミラのそばまでいくと「お待たせ!」と言って勢いよく彼女にハグをした。



「ち、ちょっと待ちたまえ! まだスタートから10分しかたっていないよ? ここまで走ってきたのかい?」

「いえ。犬飼さんは急ぐでもなく歩いてきました」

「嘘だろう!? それじゃあ寄り道せずにまっすぐここに向かってきたってことかい!?」


 常識では考えられない巨大ロボットを操縦する二人なのに、私がまっすぐ恋人のもとにやって来られるのは納得いかないみたいだ。


「大事な人のいる場所くらい分かりますよ。ねえ? ミラ」


 私の腕の中でフリーズしているミラは、何か言おうとしているけれどうまい言葉が出てこないらしく、とりあえず私の腕を握り返している。

 

「と言う訳で、かくれんぼは私の勝ちということでよろしいでしょうか?」


 呆気にとられていた暁さんが我に返り「は、はい」と言って他のメンバーに終了のラインを送りはじめた。



「未明子くん、ちよっと整理させてくれたまえ。君は操縦席じゃなくてもこんな広範囲のステラ・アルマを探知できるのかい? いや、違うなそうじゃない。そうであったとしても完全にミラくん個人を判別できるのはおかしいんだ」


 狭黒さんにとっては完全に計算外であったようで珍しく言葉にまとまりがない。

 そんなにたいした事はしていないつもりだけど、いつも飄々としている二人をここまで動揺させただけでもやる価値があったと思う。

 正直楽しい。


「どうして私のいる場所が分かったの?」


 フリーズが解けたミラは、私の腕に囚われたまま小さな子供のような目でこちらを見ている。


「どうしてと言われると困るけど、元々ステラ・カントルになる前からミラの事だけはどこにいるか分かるんだよね。魂に引き寄せられると言うか……なんだろう。愛の力?」


 自分でも何を感知しているのかはよく分かっていない。

 そっちの方にいい予感がするとしか言葉にできないのだ。

 それを毎日毎日続けていたらミラのいる場所が分かるようになった。

 まさか日々ストーカーをしていて身についた能力とは言えまい。


 ミラはその言葉をどう受け取ったのか、急に私の胸に顔を埋めてきた。

 嬉しいけど、こんなに密着されてしまっては心臓が高速稼働しているのがバレてしまう。


「だ、大丈夫? 具合悪い?」

「うん。具合悪くなっちゃった。未明子にあてられた」

「わたしゃお酒かい。むしろあてられてるの私の方なんだけど」

「……心臓の音、すごく早い」


 私とミラの身長差はほとんどないのに、抱きしめていると とても小さく感じた。

 やっぱり私は彼女のことを守りたい。

 彼女に対しては誠実でいたい。

 だから分からないことは聞かなきゃいけない。

 

「ミラ、私が他の女の子のことを褒めたりするの嫌?」


 もし本当に嫌だったら、こう聞かれたらガッカリするかもしれない。

 なんでそんな分かりきったことを聞くの? と。

 でも私は恋愛一年生だからいきなり正解は出せない。

 彼女の好きなこと、嫌いなこと、そういうのを全部知っていかなければいけないんだ。

 

「……ちょっとだけ、嫌」


 ミラは少し黙ったあと、控えめな声でそう言った。

 そう言われて、私は心にあった何かが解きほぐれていくのを感じた。


 他人の言うこと、やること、何でも天使の笑顔で許してくれるミラから、初めて嫌という言葉を聞けた。

 初めて私に対しての "こうして欲しい" を貰ってしまったのだ。

 それがたまらなく嬉しかった。

 やっぱり私も、何でもいいよと言われることに寂しさを感じていたみたいだ。

 

「分かった。ミラが嫌ならもう絶対言わないようにする」

「で、でも! 誰かを素直に褒められるのは未明子のいいところだから、絶対言わないのは勿体ない気がするよ! だから……」 

「だから?」

「誰かを褒めたら、すぐに私にもかわいいって言って?」

「そのお願いがすでにかわいすぎるんだけど! 分かった。じゃあそうするね」


 そんなことをずっと考えていたのか。かわいすぎる。

 彼女からのそんなかわいいお願いをもらってニヤけていると、こちらをみていた狭黒さんが


「100回じゃなくていいのかい?」


 と謎の問いかけをしていた。

 なんのこっちゃ。  

 


 そうこうしている内にアルフィルクがやってきて、しばらくすると九曜さんとサダルメリクちゃんも合流した。

 みんなあっという間に決着がついたことに驚いていたけど、私とミラが仲良くベタベタしているのを見て安心したようだった。


「いやー、私達温室でぬくぬくしてただけだったねメリクちゃん」 

「湿度が高くて前髪がペッタリした……でも面白い植物がたくさん見られたね」

「ねー」


 植物園に遊びにきた子供と保護者だなこの二人。

 まあサダルメリクちゃんを連れていたらどうやっても相方は保護者になる。


「凄いわね。焚き付けておいてなんだけど、閉園まで誰も見つけられないと思ってたわ」


 そう言いながらアルフィルクは買っておいてくれたらしいドリンクを渡してくれた。

 さすが気の利く女。


「そうなるとアルフィルクは一人で閉園までうろついてる事になってたけど」

「そうなったら私に対する負い目ができるし、貸し一つにしてたわね」

「もー。貸しなんてなくても大抵のことだったらやるよ?」


「うっ」

「どうしたの、ミラ?」


 突然ミラが申し訳なさそうに苦しみだした。

 大丈夫、気にしないでとグイグイ押される。


「文句なしに犬飼さんの勝利ですね。まさかここまでミラさんとの繋がりが強いとは思っていませんでした」

「それが本人に伝わったみたいだから良かったかな。ペナルティの話が出てきた時はどうしようかと思ったけど」

「ペナルティと言えば、犬飼さんが負けた時の話はしていましたが、勝った時の報酬の話はしていなかったですね」

「別にいいですよ! 楽しかったですし」


 ミラの誤解も解けたし、暁さんと狭黒さんの慌て顔がなによりの報酬でした。

 ……とは言えないな。


「それではフェアではありません。わたくしの提案が発端ですし、わたくしに何かできる事がありましたら申し付けください」

「いやいやそんな悪いですよ! そもそも私が誤解されるような態度をとっていたのが原因ですし」 

「それではわたくしの気持ちがおさまりません。夜明さん、何かありませんか?」


 そこで狭黒さんにふるのは破滅的思考では?

 どんな提案されるか分かったもんじゃないぞ。


「すばる君の家、たいがいの物はあるんだから何かあげたらいいんじゃないかい? 未明子くんの好きな物とか」


 狭黒さんにしてはまともな提案だった。

 もっと精神的な屈辱を与えるような提案をされるかと思った。

 

 好きなものかぁ。

 あるにはあるけどそれをタダで貰うというのもな。


「犬飼さん、ご趣味とかありますか?」

「そうですね……家だとゲームとかやってます」

「それは僥倖ぎょうこう! 我が家、ゲームならたくさん取り揃えております。親が開発に関わっている者ですので」

「マジですか!?」

 

 暁さんからゲームの話が出てくるとは思っていなかった。

 暁家はもっとお堅い家柄だと思っていたのに。

 このかくれんぼの提案にノリノリだったのもそういうことなのか。


「テレビゲームからボードゲームまで、多種多様なゲームがありますよ」

「わ、わたしもゲーム大好き!」


 珍しくサダルメリクちゃんが話に割り込んできた。

 初めて聞く大きな声で、はいはいと手を上げている。

 

「メリクはボードゲームとかTRPGが好きですからね」

GMジーエム、キーパーできる、よ!」


 目をキラキラさせながら私のスカートを掴んでくる。

 凄い熱量だった。サダルメリクちゃんにこんな一面があったのか。


「未明子さん、ど、どんなゲームやってるの?」

「え? ファミコンとか。最近はスーパーファミコンもやったりしてるよ」



 ……。

 ……。

 ……。

 

 何故か暁さんとサダルメリクちゃんが固まってしまった。

 ん? なんだこの空気?


「あの……申し訳ありません。ファミコンとは何ですか?」


 ええ!?

 ファミコンはファミコンだよ!

 え!? ファミリーコンピューター。任天堂の代表ハードだよ!?


「うーん、残念だが未明子くん。今の女子高生はファミコンなんて知らないと思うよ」

「え!? ファミコンですよ!? どこの家にも一台はあるものじゃないんですか!?」

「あー、少なくともうちには無いかな……」


 九曜さんが申し訳なさそうに手でバツを作った。

 隣にいたミラも「ファミコン? なんかのアプリ?」と言っている。 


 嘘でしょ……確かに発売はかなり前だけど、うちでは現役バリバリだし、お父さんもどこの家庭にもあるって言ってたのに。

 私だけ別の世界の住人なのか?

 これがアナザユニバースか?


「承知しました。まさか我が家に存在しないゲームがあるなんて思いもよりませんでした。ですが少しお時間をいただければ、そのファミコンを入手してまいります」

「い、いえ! 大丈夫です! じゃあ、暁さんの家でみんなでゲーム大会させてください!」


 そんな難しい顔をされてしまったら気がひける。

 知らなかった……。

 ファミコン、スーパーファミコンはゲームをやる人なら履修済みだと思い込んでいた。

 おとなしく誰でも知ってるNINTENDO64とか言っておけば良かったかな。

 私は遊んだことないけど。



「さて、あとはツィーが戻ってないみたいだけど、あの子どこ行ったん?」


 これだけ待っても現れないので、九曜さんがツィーさんを探しはじめた。

 確かにこの場にいないのはツィーさんだけなのだが……。 


 ふーむ。

 あの感じ、私を騙そうとしている訳ではなさそうだな。

 と言うことは九曜さんは関係ないのかな。

 なんかミラと狭黒さんがソワソワしている気がするし、私が言っちゃった方がよさそうだな。


「あの、九曜さん。ちょっといいですか? 多分なんですけど……」


 私は自分が立っている場所のすぐ後ろ、何もない場所をさわさわ触ってみた。


「あ」


 何もないはずの場所から声が聞こえる。


「見えないんですけど、このあたりにツィーさんいません?」

「いやだから何で君には分かるんだい!?」


 狭黒さんがもはや絶叫している。

 どうやら正解したらしい。


「さすがにミラみたいにはっきりとは分からないんですけど、何となくいるなってのは分かるみたいです。ぶっちゃけスタート地点からずっと私のそばにいませんでした?」


 バラ園からスタートする段階で、誰かしらステラ・アルマがそばにいる気はしていた。

 どうしても姿が見えなかったので気のせいかとも思ったんだけど、そういえば初めて会った時に、いつの間にか私の隣に現れた人がいたなと言うのを思い出していた。

 普通の人間が姿を消せるか? とは思ったけど、そもそもロボットに変身できる時点で普通の人間じゃないもんな。


「あれ、ツィーってば姿消してたの? あ、本当だいるわこれ」


 九曜さんがこちらにやってきて同じように何もない空間を触っている。

 私はそこにいることは分かっても触っている感触はない。けれど九曜さんは見えないけど触れるらしい。


「すごいね未明子くん。ご明察。ツィーは面白い特技を持っていてね。ユニバースを薄皮一枚だけ移動することができるんだ。前に模擬戦をやった時に他の4人が観戦するためにユニバースを移動しただろう? あれは戦闘の影響を避け、かつこちらを見ることのできる極近いユニバースに移動したんだ」

 

 ユニバースってそういう移動もできるんだ。

 なんか悪いことができそうな特技だな。ツィーさんにその特技を持たせておいていいのだろうか。


「普通は管理人クラスにしかできないことなんだけどね。うちのツィーだけは似た様なことができるみたい。で、アタシはそのツィーに触れることができるの」

 

 九曜さんが何もない空間に腕を乗せている。多分そこにツィーさんの肩があるんだろう。

 

「私がツィーにお願いしたの。未明子の側にいて、しばらくしたら出てきてほしいって」

「ミラが? なんでそんなことをお願いしたの?」

「……未明子に負けてほしくて」

「えぇー、もしかして着せ替えしたかったの!?」

「違うの、えっと……」

「ミラくんは君に負い目を作らせて、言うことを聞かせたかったみたいだよ?」


 それさっきアルフィルクが言ってなかった?


「夜明さん! なんで言っちゃうの!」

「ツィーのことがバレた段階で逃げ場はないと思うよ?」

「そうだけど……」

「言うことを聞かせるってさっきの?」

「本当はもっとシンプルにかわいいって言って欲しいんだってさ」

「夜明さん!」


 確かにミラに対して、心の中でかわいいは百万回言ってる気がするけど、直接口に出したことってなかったかも。一度心の叫びが出ちゃったくらいか。

 なるほど。これがミラが暁さんの提案に乗った理由か。


「もう! 未明子に重い女って思われたくないのに!」

「愛なんて重い方がいいんだよ。ねぇ、アルフィルク」

「知らないわよ。なんでこっちにふるのよ」


 こんなにかわいい彼女なんだから、もっと普段から口に出せば良かったのに、無意識で避けてたのは私の方こそ重い女だって思われたくなかったのかも。

 でもこれからはなるべく伝えていこう。

 かわいいも、好きも、綺麗も、全部受け取ってもらおう。


「ミラ。そんなミラがかわいいよ」

「……ありがとう」


 ミラの顔が真っ赤になっていく。

 いつもは私の方が真っ赤になっているのでこの状況は新鮮だ。

 暁さんと狭黒さんにも一泡ふかせられたし、今日の私ってもしかして強い?


「いやー今日は思ったより面白いデートになったね。企画した甲斐があったというものだよ」

「夜明はなんにもしてないからね。ライングループの名前変えただけでしょ」

「いやいや。今日の私はなかなかナイスアシストだったよ。そうだ未明子くん、ついでにもう一個教えてあげよう。この場所で咲いている植物が分かるかな?」

「えっと、ブーゲンビリアって書いてありますね」

「ブーゲンビリアの花言葉を調べてごらん」


 花言葉?

 言われるままにスマホでブーゲンビリアの花言葉を調べてみた。

 情熱、熱心、魅力、……あ。

 

 ”あなたしか見えない”

 

 その言葉をみつけてミラの方をみたら、顔を伏せてプルプル震えていた。


 神様。

 今日も私の彼女がかわいいです。



「では、そろそろツィーも出てきたまえよ。今ならこちらを見ている人もいないだろう」

「それがさぁ、何かこの子も小刻みに震えてるんだよね」

「どっかで面白いものでも見つけて笑ってるんじゃないの?」


 ミラにお願いされたとは言え、こんなに長い時間ツィーさんも大変だったろうな。

 いつもの感じなら話に混ざって色々と掻き乱したかったろうに。


 そうこうしているうちに、ボヤボヤーとツィーさんの姿が現れてきた。

 何かこう見るとユニバースを移動していたと言うより、透明になってたみたいだ。

 

 完全に姿を現したツィーさんは両腕を前で組んで、何故か涙目になっていた。


「ちょっとツィー、どしたん?」


 九曜さんが心配するのも無理はない。

 てっきり笑っているのかと思ったら泣きそうになっていたのだ。

 ツィーさんがあんな顔になるなんて一体何があったんだろう。


「さわられた……」

「なんて?」


「ワンコにおちちさわられたあッ!!」




 ……知らんがな。




 こうして私とミラの初デートは、ミラや他のみんなとの距離を縮め、

 ツィーさんからの不審者認定で幕を閉じた。

 


 ”カルテットデート” の名前がついていたライングループが ”イーハトーブ連絡用” という名前に戻り

 そこに「戦闘発生」という連絡が来たのは、それから数日後のことだった。


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