第139話 ステラムジカ①
3月。
春を間近に控えて寒さも和らいできた。
私の好きな着膨れでモコモコになった女の子達も見納めみたいだ。
そんな中、とうとうこの日がやってきた。
月との決戦。
おそらくこれが最後の戦い。
月の女神を倒して、私達の戦いを終わらせる。
拠点となったオーパ秘密基地には戦いに赴くメンバーが集まっていた。
委員長ちゃんこと木葉さんの世界からは6名。
元気っ娘三つ葉さんの世界からは5名。
ハーフの麗人、音土居さんは単独参加。
おっとりお姉さんの毛房さんの世界からは何と10名が参加していた。
4つの世界を合わせて22名。
パートナーであるステラ・アルマを含めたら44名。
そこに私達の世界のメンバーを入れると50名以上がこの場にいる。
秘密基地の中はそこら中に女の子がいて、軽いお祭り状態になっていた。
「こんなに揃うと壮観ね」
「だろう? 私のプロデュース力に感謝しろよ?」
「さっき聞いたんだけどそれぞれの世界にスカウトに行ったのは部下の子達らしいわね。あなたは木葉さんの世界にちょろっと顔を出しただけなんでしょう?」
「誰だ機密をホイホイ話すのは。ジバか。ジバだな? あのアンポンタンめ!」
「ザウラク以外の全員が言ってたわよ」
「エリダヌスコレギウムにはアンポンタンしかおらんのか!?」
鷲羽さんとアケルナルさんがホールの中央あたりで騒いでいる。
別の世界の代表4人が1等星のステラ・アルマである鷲羽さんに興味津々だったのなら、他の人達だってきっとそうだろう。
また鷲羽さんが囲まれて揉みくちゃにされないようにと、いっそ全員から見える位置にいてもらう事にした。
それが功を成したのか今回は遠巻きに見られているだけに留まっている。
さすが双牛ちゃん。
ホールの中央なら他の人の目が気になって、おいそれと話しにいけないという予想は大当たりだ。
その代わりに密かに注目を集めているのが隅の方でつまらなさそうに座っているフォーマルハウトだった。
せっかく目立たないように隅の方にいたのに、アケルナルさんがフォーマルハウトの紹介をしてしまったので1等星が気になる人達が話しかけようと機を窺っているのだ。
それが相当煩わしいみたいで ”こっちに来るなオーラ” を全開にしている。
こんなに人が多い中で暴れたりはしないと信じたいけど、何かあってもすぐに対応できる場所にはいようと思う。
「アケルナルさん。そろそろいいですか?」
「うむ。では稲見、仕切りを頼む」
「承知しました」
アケルナルさんが双牛ちゃんに進行を託した。
実は前回の作戦会議の後、双牛ちゃんはアケルナルさんと個人的に話していたらしい。
聞ける情報は全て聞いておこうと何時間も話した結果、アケルナルさんに気に入られたみたいだ。
あのタイプは話を聞いてくれる相手が少なそうだから素直な双牛ちゃんを気に入るのは分かる気がするな。
驚いたのは双牛ちゃんの方もアケルナルさんを気に入ったらしい。
共感できる部分が多くて話していて面白いそうだ。
それを聞いた鷲羽さんは本気で双牛ちゃんの心配をしていた。
でも考えてみれば狭黒さんもアケルナルさんは好きそうだし、物事を深く考えるタイプは興味を引かれる存在なのかもしれない。
「それでは皆さん。出発前に最後の確認をさせて下さい」
その場にいた全員が双牛ちゃんに注目する。
双牛ちゃんはこんな大勢に見られていても一切物怖じしていない。
この戦いは私達の世界が中心となっていて、それを指揮するのが双牛ちゃんだ。
つまり彼女は私達の世界のリーダーであり、同時に5つの世界をまとめるリーダーでもある。
そんな大役、私だったらプレッシャーで逃げ出してしまいそうだし、こんなに大勢の女の子に注目されたら恥ずかしくて消えてしまいそうだ。
「作戦の詳細はお渡しした資料通りなので割愛します。もし質問がある場合はここでお願いします」
前回の会議で決めた内容を、更に細かく詰めた資料を事前に全ての世界に配っていた。
不測の事態のhow toも書かれているとても分かりやすい資料だ。
その資料はフェルカドさんが作ってくれたそうだ。
さすがアルフィルクの会社を一人で立て直した実績を持つ事務力。
「よろしいでしょうか?」
委員長ちゃんが手を上げた。
「木葉さん、どうぞ」
「ありがとうございます。作戦に関しては頭に叩き込んでいるので問題はありません。ただ一点、宇宙での戦闘についてお話を聞きたいと思っています」
そう。
今度の戦いは月へ攻め込む戦い。
その舞台は地上ではなく宇宙になる。
ここにいる全員が初めて経験する宇宙での戦闘に不安を抱くのは当然のことだった。
「私達は宇宙空間での戦いは初めてです。特別な知識もなく、訓練も受けていない状態でどの程度戦えるのでしょうか?」
双牛ちゃんは宇宙空間での戦闘についてはあえて資料に記載をしなかった。
文章で書かれても伝わり切らないと判断したからだ。
だから経験者に直接口で語ってもらう事になっていた。
「それに関してはアルタイルさんから説明して頂きたいと思います。アルタイルさん。よろしくお願いします」
「は、はい……えーと……」
双牛ちゃんと委員長ちゃんのやり取りは、お堅い雰囲気の学会みたいだった。
宇宙での戦闘について質問されるのは分かっていたのでここで鷲羽さんが喋るのは予定通りなのだが、そのお堅い雰囲気と大勢の人に注目されて焦ってしまったらしい。
「アルタイルでしゅ……」
噛んだ。
出撃前の緊張感のあるここ一番で、致命的な嚙み方をしてしまった。
「ドワハハハハハハハ!!」
それがツボに入った三つ葉さんがこれまた信じられないくらい面白い笑い方をしたので、それにつられてみんな笑い始めてしまった。
委員長ちゃんまで顔を真っ赤にして、口を抑えながらそっぽを向いている。
鷲羽さんも同じように真っ赤な顔で双牛ちゃんの肩に顔を埋めて、苦笑いされながら慰められていた。
「さすがわし座1等星のアルタイル。アイスブレイクにも長けておったか」
「わざとじゃないわよ! こんな大勢の前で話すのなんて初めてなの!」
「いえ、アルタイルさん。おかげで緊張が解れたので良かったと思います」
「稲見。フォローありがとうね……」
鷲羽さんには悪いけど、確かに双牛ちゃんが言ったように全体の空気が軽くなった。
周囲から「かわいい」「和む」などと言われながら、改めて鷲羽さんが全員に向かって話し始めた。
「……いきなりボケをかましてごめんなさい。アルタイルです。宇宙での戦闘について私からお話させてもらいます」
胸に手をあてて深呼吸しながら何とか話を続ける。
「結論から言うと心配はありません。私達ステラ・アルマは星の化身。地上ではなく宇宙で活動するのが本来の姿です。だから操縦に関してもむしろ宇宙の方が簡単だと思います」
その言葉に周囲がざわめいた。
簡単と言われても何しろ宇宙だ。
重力の無い空間、姿勢制御だって大変だろう。
上も下もない世界で果たしてそんなに上手く操縦できるものなのだろうか。
「地上では重力を加味した操縦が求められました。跳躍するにしても落下するにしてもそれを計算に入れる必要があります。でも宇宙では自分がイメージした通りに動くことが可能なんです。姿勢制御も、移動も、イメージすれば私達がその通りに動きます。そこに難しい知識は必要ありません」
鷲羽さんはそう言いながら体を揺らしたり、小さくジャンプしていた。
意識しての動きではないんだろうけど、無意識にこういう仕草が出るのが可愛いんだよな。
あ、やっぱり委員長ちゃんが悶えてる。
「自由に動けるが故に、逆に出力を上げ過ぎるのに気をつけなければいけません。重力はありませんが慣性は存在します。あまりに速く動くとその分Gをモロに受けてしまい、最悪それで体が潰れてしまう可能性もあるのでそれだけは気をつけて下さい」
慣性に関しては地上と同じだ。
鷲羽さんやセプテントリオンの機体が高速移動できるのは慣性の打ち消しにもアニマを消費しているからだ。
それが無ければ人の体なんて簡単に壊れてしまう。
「もう一つ気をつけなくてはいけないのが月の引力です。地球程では無いにしろ月にも引力があります。恐らく敵の防衛網が展開される場所は月からそれほど離れておらず、引力を受ける位置だと思われます」
「ではそれを計算に入れる必要があるのですね?」
「そうなります。ただステラ・アルマの出力があれば引力に引かれて月に落下する、みたいな事はありません。射撃攻撃が引力の影響でずれる可能性はあるので、そこは慣れてもらうしかありません」
撃った弾は制御できないから引力の影響を受けるのは仕方がない。
実弾兵器じゃなくてビームなんかも影響を受けるんだろうか。
もしそうなら都度修正していくしかないか。
「最後に一番気をつけなければいけないのが、戦闘中にダメージを受けすぎたりアニマが切れて変身が解けた場合です」
それに関してはここにいる全員が一番気になりつつも何となくは分かっていた。
「宇宙空間に生身で放り出された場合、ステラ・アルマもステラ・カントルも死にます。体が凍りついたり、破裂したりなんて事はなく、ただただ窒息死します。ステラ・アルマも人間の身体を持っている以上変わりません。等しく数十秒で窒息し、その後死に至ります」
聞くまでもなく想像通りだった。
宇宙で戦うと分かった時からそれは覚悟しなければいけない事実だ。
今までみたいに地上に投げ出されてセーフなんてことにはならない。
「それに関してはいい点もあります。宇宙空間ではロボットに変身していてもアニマを消費しません。むしろ時間での回復が地上よりも大きいです。なのでもしアニマ切れを起こしそうになったら、一度戦闘エリアの外に逃げて下さい。そうすれば変身解除で宇宙に投げ出されるなんて起こりません」
それはありがたい情報だ。
やばいと思ったら離れてアニマを回復すればいい。
大きなダメージは無理でも、アニマ切れで変身が解けるのを回避できるのは大きい。
「なら、アニマが切れても休めばまた戦えるんですね?」
その質問は音土居さんからだった。
周囲が再びざわついた。
今までの戦いではアニマが切れたらそれ以上戦闘に参加はできなかった。
アニマ切れ=戦闘不能のイメージだったが、音土居さんはそうなってもまだ戦えるのかと質問したのだ。
そんな状態でもまだ戦いたいのかと周囲がざわつくのも無理はない。
「アニマの回復量はステラ・アルマによるので何とも言えませんが、戦線復帰も可能だと思います」
「じゃあどんどんアニマを使ってもいいって事ですね! これは興味深い」
考え方が完全に戦闘民族だった。
敵を倒すか自分が倒されるまで戦い続けようとする姿勢はソラさんに近い物を感じる。
「宇宙での戦闘に関しては以上です。他に質問はありますか?」
鷲羽さんが全員を見渡すも特に質問は出なかった。
ふぅと安心したように小さくため息をつき、自分の役目は終えたとばかりに席に座った。
「アルタイルさん。ありがとうございます」
再び稲見ちゃんが進行を務める。
「宇宙での戦闘以外に何か確認しておきたい事はありますか?」
少し待ってみても誰からも挙手は無かった。
これ以上ここで確認する事はない、と言うよりも結局行ってみなければ分からないのだ。
宇宙空間でどういう感じで動けるのかも、それによって何を意識しなければいけないのかも体験しないことには分からない。
とにかくまずは宇宙に出てみようという意思が周囲から伝わってきた。
「ではこれで最終確認を終わりたいと思います。今回の戦いの目的はセレーネを打倒し女神の座を奪いとること。それを念頭に作戦を展開していきたいと思います。敵の殲滅が目的ではありません。先程アルタイルさんも言っていましたが、危なくなったら各自の判断で戦線離脱も考えてください」
双牛ちゃんの隣でアケルナルさんが頷いていた。
更にその隣で鷲羽さんが「あんたは戦わないくせに」とでも言いたそうに冷たい目線を送っていた。
「勝って生き残りましょう。私達は生きるために戦うんです。未来を勝ち取るために戦うんです。そのためにみなさんの力を貸してください!」
強い意志の宿った目でそう言った双牛ちゃんに、みんなが拍手を送った。
あの気弱だった双牛ちゃんがこんなに多くの人をまとめる存在になるなんて。
本当に彼女が私達の世界に来てくれて良かった。
……やろう。
セレーネを倒してこの戦いのルールを変えるんだ。
私はイーハトーブのみんなと顔を合わせて、力強く頷いた。
シャケトバさんが移動のためのゲートを開いてくれると、まず双牛ちゃんが先陣を切って入って行った。
続いて各世界の協力者達も続々と入って行く。
この大人数だと一度には入れずに順番になってしまうので、私達は最後まで待つことにした。
シャケトバさんは管理人の服を脱いでウサ耳少女の姿でいる。
この戦いには管理人としてではなく、シャケトバ・セレーネとして参加しているという意思表示なんだろう。
私達の番がくるまで時間もあるし、少し話をさせてもらおうと思ってシャケトバさんに近づいた。
接近に気づかれていつも通りに睨まれてしまったけど、気にせず話しかけることにした。
「まさかシャケトバさんの目的がセレーネを女神の座から引きずり下ろす事だとは思いませんでした」
「要約すればそういう事になるが、ワタシはセレーネ様に休んで頂くのが本来の目的だからな」
「え!? 何か思ってたのと違った!」
「アケルナルのせいでワタシがまるでセレーネ様に恨みがあるみたいなニュアンスで伝わっているだろう? そんな馬鹿な話があるか。他のファミリアは知らんが少なくともワタシはセレーネ様に恩がある」
「そうなんですか!? ちょっとビックリしました。休んでもらうってどういう事なんです?」
「セレーネ様はもう何千年と月を管理してきた。途中地球に降りた事もあったが、気が遠くなるほどの時間を月の為に費やしている。そろそろ月から解放されてもいい頃だ」
「何か私達がセレーネに対して抱いている印象と大きく乖離していますね。やっぱりファミリアにとっては大事な人なんですか?」
「そこはお前と同じだよ。セレーネ様は好きも嫌いもハッキリしている。地球の人間やファミリアに対しては慈悲深く、反抗する者やステラ・アルマに対しては冷酷なだけだ。それを悪と感じるかどうかは立場による」
「私は地球をオモチャにしている悪だと思っています」
「そう思うのも個人の自由だ。おそらくセレーネ様はそう思われても構わないと思っている。そのあたりは短い時間しか生きられない人間の価値観とは違うんだ」
そう言われて初めてシャケトバさんやセレーネが私達とは違う生物なんだと感じた。
私達と月の住人では生きる時間も場所も環境も全てが違う。
価値観が違っていて当然だ。
ステラ・アルマの介入を利用して地球で遊ぶセレーネを悪だと思うのは私達の価値観。
それをそういうゲームだと楽しんでいるのはセレーネの価値観。
シャケトバさんが言ったように、私が ”大切な人を命をかけて大事にしたい” のと "興味のない人がどうなっても構わない" と切り分けているのとさして変わらない。
ただの価値観の違いだ。
それを私達の価値観に無理やり落とし込もうとするのは、それこそ身勝手だ。
「やはり面白いな犬飼は。そう言われて納得できる人間は少ないぞ?」
「え。私そんな納得したような顔をしてました?」
「特に不快感も表わさずにそういうものかと思えるのは、もしかしたらお前はワタシ達の価値観に近いのかもしれんな」
「そういうものですかね」
褒められているのか、お前は地球人よりも月の民に近いぞと煽られているのか分からなくなる。
「でもそんな価値観の違いよりも大事な事があるんです」
「何だ大事な事って」
「シャケトバさんって自分の目的があったから私達に甘かったんですか?」
「ふむ。どう思う?」
「私達が好きだったんだと思います」
「そういうのもハッキリしとるなお前は」
「やっぱりそうですよね。良かったぁ」
「いや否定も肯定もしとらんぞ」
「顔を見れば分かりますって。これでスッキリして戦いに行けます」
「そうか。まあ好きに取ればいい。それも価値観だ」
「そうします。じゃあ行ってきますね!」
私は礼をして、ミラと鷲羽さんと一緒にゲートに向かった。
シャケトバさんは私達がゲートをくぐるまでこっちを見ていた。
その目は私達を心配しつつも、暖かく見守っているように見えた。
今回用意された光の道はとにかく長かった。
先を進んでいる人の姿が見えなければ、進む道を間違えてしまったんじゃないかと思う程に長かった。
どういう縮尺になっているのか分からないけど、この道は月の近くまで届いているらしい。
だから長いのは当然なのかもしれない。
あまりに長すぎるせいで、歩くのが早い私達は前を歩いていた二人組に追いついてしまった。
「あら犬飼さん。ごきげんよう」
前を歩いていたのはおっとりお姉さんの毛房さんだった。
なら隣にいる背の高いお姉さんはアンドロメダ座2等星のアルクマ……いや、アルマクさんだ。
確かにアルクマさんの方が覚えやすいな。
「さっきは人が多すぎて挨拶できませんでしたね。前にお話しした私のパートナーのアルマクです」
「初めましてアルマクです。あなたが犬飼未明子さん、そしてパートナーのミラさんとアルタイルさんですね」
アルマクさんは今まで見たステラ・アルマの中では一番背が高い。
そして細い。
細すぎて何だか心配になるくらいの細さだった。
ミラが自分の腕とアルマクさんの腕を見比べて目をパチパチさせている。
「ふむ。こころの言った通りですね。1等星アルタイル、確かにただ者ではない」
アルマクさんの目が急に険しくなった。
ツカツカと鷲羽さんの前までやって来て顔を覗き込む。
「な、なに?」
鷲羽さんは睨めつけられるように見られて及び腰になっていた。
アルマクさんは何を思ったのか、突然鷲羽さんの頬を両手で掴んだ。
「ほほう。マシュマロのように柔らかい。これはただ者ではありませんね」
「あにょ、やめひぇいひゃひゃけると……」
「これは失礼。あまりにも可愛らしかったのでつい」
「アルマクいきなりは失礼だよ。せめて触りますって宣言してからにしてね」
鷲羽さんはほっぺを弄ばれていた。
魅惑のほっぺに惹きつけられる気持ちは分かるけどいきなり触るのはやめてあげてほしい。
いや、宣言してからだとしてもやめてほしい。
アルマクさんはクールなお姉さんかと思ったら、中身は毛房さんと同じマイペースの人みたいだ。
「毛房さんの仲間の人達は先に行っちゃったんですか?」
「うん。私達を置いてズンズン進んじゃった。みんな遠足気分でテンション高いんだよね」
「大所帯でしたもんね。よくあんなに仲間を増やせましたね」
「うん。例のステラ・アルマを呼び寄せやすい体質の子のおかげでどんどん集まっちゃって」
「ここまで戦ってきたから分かりますけど、それ大当たりの能力ですよね」
「今はそう思うよ。最初は人数が多いからまとまりが悪くて大変だったんだよ? 少しずつまとめて行って、こだてちゃんの世界と同盟を結んでからはよりまとまったよ」
「本当、木葉さんと仲良しですよね」
「そうなの。仲良しなの。だからこそ、この戦いにはどうしても参加したかったんだ」
毛房さんが意味深に言う。
委員長ちゃんと仲がいいのと、月との戦いに参加する事のどこに関連があるんだろうか。
「管理人に教えてもらったんだけど、戦う世界って数字のグループで決まってるんでしょ? 私達の世界とこだてちゃん達の世界はどうやら近い数字みたいなの」
「もしかしたら木葉さんの世界と戦う可能性があった?」
「そう。20戦くらいすればセプテントリオンと戦うなんてルール知らなかったから、いずれ私達は戦わなければいけないと思っていたの。こだてちゃんとも相談して、そうなったら恨みっこなしで全力で戦おうねって約束してて……」
「だから月との戦いに参加してルールを変えちゃえば、木葉さんと戦わなくて済むと考えたんですね」
「アケルナルさんから誘われてチャンスだと思ったわ。正直月の戦力を聞いた時には絶対無理だと思った。それでもこだてちゃん達と戦うよりは全然いいと思ったの」
そういう事情があったのか。
私達だって、もしかしたら今回協力してくれた世界の人達と戦うパターンもあり得たんだよな。
逆を言えば今まで戦った世界の人達とも協力できるパターンもあったのかもしれない。
そう考えると斗垣さん達とも力を合わせるチャンスはあったんじゃないかと思えてくる。
「だから私達はこの戦いに本気だよ。こだてちゃん達と戦うくらいなら月の女神様はぶっとばさせてもらうからね!」
「こころ。言葉使いが汚いですよ」
「合点。お倒させて頂くんだからね」
「そうです。美しい日本語を心がけましょう」
お倒させて頂くは全然間違った日本語だけどね。
ははーん。さてはアルマクさん、こう見えてポンコツだな。
「あ、未明子見て。出口が見えて来たよ!」
ミラに言われて先を見ると光の道の出口が見えた。
結局20分くらい歩いていたんじゃないだろうか。
毛房さん達と一緒に光の出口から出ると、そこは広大なスペースになっていた。
天井がやたら高くて、奥行きもかなりある。
見た感じは巨大な倉庫みたいな場所で両側の壁がシャッターになっていた。
「鷲羽さん。ここがもう宇宙なの?」
「私もこうやって戦うのは初めてだから分からないわ」
ここは重力があるみたいだし、どこなんだろう。
みんなどうすればいいのか戸惑っているみたいだ。
とりあえずロボットに変身してもらって乗り込めばいいのかな。
ここにいる全員が変身できるくらいのスペースは十分にありそうだ。
「ようやく全員揃ったようだな」
倉庫の中にシャケトバさんの声が響いた。
どうやら館内放送みたいなので喋っているみたいだ。
「ここは月のすぐそばにある宇宙ステーションだ。ここで準備を整えてもらい出撃となる」
なるほど。ここはいわゆるゲームで言うところのスポーン地点らしい。
そういう施設が無いといきなり宇宙空間に放り出されても困るもんな。
勿論、私達はやられたらリスポーンなど無いけど。
シャケトバさんの放送と共に両方の壁に設置されていたシャッターが開き始めた。
「いま開いているシャッターの向こう側が、今回の目的地……」
シャッターが完全に開くと、そこは灰色で埋まっていた。
その灰色は巨大な球体だった。
想像していたよりも大きな。
遥かに大きな星。
地球の空でいつも見ていた怪しく光る星。
「月だ」
私達の眼前に、月が姿を現した。




