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第138話 はじまりのセツナ⑥


「私が……最後の戦いに参加する方法?」


 サダルメリクちゃんの言葉に、私もミラも時が止まった。

 それはもう絶対に無理だからと考えようともしなかったことだからだ。


 ミラは生き返った時に後遺症が残ってしまった。

 体を構成する要素が欠損したせいでロボットの姿に変身できなくなったのだ。


 だから訓練の時も、セプテントリオンとの戦いも、外で見ている事しかできなかった。


 そんなミラがもう一度戦いに加わる方法があると聞かされて、私は嬉しいよりも不安な気持ちが勝った。


 本音を言えばもうミラには戦場に出て欲しくない。

 もしまたミラを失ったら耐えられる自信がない。

 このまま安全なところで見守っていて欲しい。


「教えて。どうすればいいの?」


 でもミラはそうじゃなかった。


 ミラは私のパートナー。

 自分だけ安全な場所で見守っているなんて本当は嫌なんだ。

 一緒に戦いたいに決まっている。


「未明子さん、話しちゃって、いい?」


 そんな私の気持ちを理解してくれているサダルメリクちゃんが問いかけた。


 ミラを戦場に戻していいのか。

 また失うことになるかもしれないぞ、と。


 それでも私の答えは決まっている。

 私はミラの恋人。

 私はミラのパートナー。

 彼女の望みを叶えてあげるのが私の役目だ。


「うん。お願い。教えて」

 

 それはとても重い言葉だった。


 でもこれでいいんだ。

 本当にミラと一緒に戦えるなら、私はもう絶対に負けない。


「分かった。でも、今まで通り、ってわけにはいかない」

「どういうこと?」

「ミラは、ロボットには戻れない。そうするだけの、能力は、もう無い」

「じゃあどうすれば……」

「もしかして私と一緒に鷲羽さんに乗り込むの?」

「ううん。それができたら、ステラ・アルマは自分達だけで戦えてしまう。ステラ・アルマに乗り込めるのは、ステラ・カントルだけ」

「そうなんだ。じゃあミラはどうすれば戦えるの?」

「武器に、なればいい」 

「武器?」 

「そう。ミラは、アルタイルの、武器になる」


 ミラが鷲羽さんの武器になる?

 言われている意味が良く分からない。

 

「ごめんサダルメリクちゃん。分かりやすく説明してもらってもいい?」

「言葉通り、だよ。未明子さん、私がアルデバランになってる時、意識はどうなってるか、分かる?」

「アルデバランさんと入れ替わってる時? 確かアルデバランさんがしている話を一緒に聞けるし、意思表示もできるんだよね?」


 前にアルデバランさんと話していた時、サダルメリクちゃんが帰って寝たいと思っていると言っていた。

 つまり入れ替わっても表に出ていないだけで内面では活動できるという事だ。


「そう。別に私の存在が、消えるわけじゃない」

「前の世界だとアルデバランさんとサダルメリクちゃんは固有武装で合体してたんだよね? その時はどうだったの?」

「あれも今と同じ状態。ステラ・アルマは合体していても、別々に存在はできるんだ。勿論、合体の仕方にもよるけど」

「なるほど。ちょっと分かってきたぞ」

「私はまだ全然分からないよ。もしかして私と鷲羽さんが合体するの?」

「違うよ、ミラ。合体しようにも、ミラはロボットにはなれない。でも、もしかしたら……」

「ファブリチウスにはなれるかもしれない」

「そう。その、通り」


 ロボットになれるだけの構成体が無いのなら。

 ミラの固有武装であるファブリチウスにならなれるかもしれない。

 固有武装だってミラの構成体で創られている。

 メチャクチャな理論じゃないはずだ。


「そ、そんなの無理だよ。私、武器に変身できるイメージなんて無いよ?」

「無理じゃないと思うよ。前にさ、双子の姉妹と戦ったの覚えてる?」

「斗垣さんと一緒にいた桝形(ますかた)姉妹だっけ?」

「妹さんの方のステラ・アルマが剣に変形してたよね」

「あ! そう言えばそうだね」

「あれは多分ロボットの状態から剣の形に変形してたんだと思うけど、あれをイメージするといいんじゃないかな。ステラ・アルマでも武器の姿を取れるって事実が重要だと思うんだ」

「そう言われるとできる気がしてくるよ」

「あとは鷲羽さんに協力してもらおう」

「どうやって?」

「鷲羽さんの固有武装の枠を1つ残してある。ステラ・アルマを武器として装備できるっていう固有武装にすればいいんだ。サダルメリクちゃん、そうだよね?」

「そう言う、こと」


 鷲羽さんの固有武装の力でミラをファブリチウスとして合体させる。


 その言葉だけなら笑ってしまいそうな考えだけど、これまで見てきた様々な固有武装の能力と照らし合わせてみたら全然不可能じゃない。


 むしろ、この能力を完成させるために今までの戦いがあったと思えるくらいだ。


「だからミラは、アルタイルと心を近づける必要が、あった。何たって一つになるんだから、ね」

「鷲羽さんと私が一つに……」

「ミラ。できそう?」


 できそうなんて聞いたけど、私は別に不安には思っていなかった。

 だってこれはミラにとっては簡単なことだからだ。


 誰かを拒絶したり、傷つけたりするのは苦手でも、手を取り合うのは何より得意なんだから。


 私が好きになったミラはそういう女の子だ。


 ミラは少し考えた後、私とサダルメリクちゃんを見て言った。 


「やります」







 サダルメリクちゃんとの話が終わって、私はミラと一緒に暁邸のゲストルームに来ていた。


 ちょっと広めだけど落ち着いた雰囲気の部屋だ。

 大きな出窓から景色も眺められて、寛ぐという点においては満点の場所だった。


 サダルメリクちゃんは私達をここに案内してくれた後どこかに行ってしまった。

 さすがに暁さんの部屋では無いだろうけど、私がミラと二人きりになれるように気を使ってくれたんだと思う。


「ねえ未明子。怒ってる?」

「どうしたの突然? 怒ってないよ」

「だって未明子は私に戦って欲しくないんだよね?」

「私そんなこと言ったっけ?」

「ううん。でも分かるよ。なるべく戦いには近づけたくないんだろうなって」

  

 口に出したり、そういう空気も出さないようにしていたのにミラにはしっかりバレていたらしい。


 ステラ・アルマは戦いのための存在。

 それなのに戦いから遠ざけられたらいい気分はしないだろう。


 私がやっているのは例えるなら高価な腕時計をずっと棚にしまっているのと同じだ。

 腕時計は使われるために作られたのに、使わずにしまっておくなんて腕時計の存在意義を侮辱している。


「ミラが戦いに参加して、また何かあるのが怖いんだ」

「そうだよね。未明子のトラウマになっちゃったもんね、私」

「ごめん。そんな意味じゃなかったんだけど……」

「私がやられたのは私が弱かったから。あの時……フォーマルハウトに殺された時、私に鷲羽さんくらい力があったら未明子に悲しい思いをさせずに済んだのに」

「それは違うよ。ステラ・アルマの力を引き出すのはステラ・カントルの役目。ミラの力を引き出せなかったのは私の力不足だったんだ」

「あの時さ、私が一人で死んじゃったの怒ってる?」

「……」

「こっちは否定しないんだね」

「怒るよりも、何でって思ったよ。一緒に戦うなら一緒に死ぬんだと思ってた。私だけが残されて、この先もずっと一人で生きていくんだって毎日思わされて、本当に地獄だった」

「ごめんね。それでも私は未明子に生きていて欲しかったんだよ」

「どうしてって聞いてもいい?」

「私、他のステラ・アルマとは少し考え方が違うみたいなんだ」


 それは初めて聞いたミラの言葉だった。

 今まで色んな話をしてきて、自分が他のステラ・アルマと違うなんて言い出したことなどなかった。

 

「考え方が違うって、どんな風に?」

「ステラ・アルマはパートナーと共に生き、共に死ぬ。いかなる時も共にあるべきだってのが基本的な考え方なの。多分ツィーもサダルメリクもそこは変わらないと思う。鷲羽さんは1等星で記憶を継続させてるから、もしかしたら違うのかもしれないけどね」

「それはステラ・アルマだけじゃなくて私も同じだよ。ミラが死ぬなら私も一緒に死にたかった」

「世界がね、たくさんあるのがいけないんだと思う」

「え?」

「世界がたくさんあるからそう考えるんだと思うんだ。この世界には未明子がいて、別の世界にも未明子がいる。未明子という存在がたくさんあるから、一人くらい自分と運命を共にしてもいいんじゃないかって考えてしまうんだと思う」

「ツィーさんが九曜さんと一緒に死んでもいいと思えるのは、別の世界にも九曜さんがいるからってこと?」

「そう。でもその五月さんはこの世界の五月さんとは違う。この世界でツィーが出会った五月さんはこの世界にしか存在しないのに」

「……」


 私はミラが何を言いたいのかを察した。


 ミラが死んだあと、アルフィルクからスペアキーを貰ってミラの部屋に入れるようになった。


 そこで見つけたミラの日記。

 日記に書かれていた内容で衝撃を受けた事実が二つあった。


 一つはミラが前の世界でも私と付き合っていて、私にフラれてこの世界に来た事。


 そしてもう一つは、前の世界でもアルフィルクは狭黒さんとパートナーで、そしてその狭黒さんは病気で亡くなってしまった事。


 ミラが私にフラれた後に狭黒さんは亡くなってしまった。

 そしてミラとアルフィルクは前の世界に未練がなくなってこの世界にやって来た。


 だから私は、私の罪を暴かれた日。

 暁さんのマンションに別の世界の自分を集めていたのがバレた時。 

 こんな事をしてもミラは喜ばないとアルフィルクに殴られて、何も言い返せなかった。


 死んだ人間は生き返らない。

 死んだらそれで終わり。

 何をやってももう戻ってこないと言われ、何も言い返せなかった。


 だってアルフィルクはそれを経験していたんだから。

 

 だから今ミラが何を言いたいのか分かる。


 犬飼未明子は一人しかいない。

 別の世界にいる犬飼未明子など関係ない。

 いま目の前にいる犬飼未明子はこの宇宙でたった一人。


 何があっても生きていて欲しかった。

 たった一人しかいない私に、生きていて欲しかった。


 そう言いたいんだ。


「未明子は一人しかいないんだよ。その大切な未明子が生きていてくれるなら恨まれたっていい。人を好きになるって、大事に思うって、そういう事だと思う」


 私達はいつだって軽率で愚かだ。


 いま目の前で起こっている現実。

 自分の感情。


 それらをその時々でしか処理できない。

 だから刹那的な考え方になってしまう。


 一緒に死ぬなんて、本当は何もいい事なんかじゃないんだ。


「大事な人と一緒に死んでくれる覚悟があるのなら、大事な人のために生き続けて欲しい」


 きっとミラはずっと悲しかったんだと思う。


 私はミラと一緒なら死んでもいいよ。

 死ぬときは私も一緒に死ぬからね。


 そんな風に言われて本気で喜んでいたわけじゃない。

 そんな時が来たら、自分を犠牲にしてでも私に生きて欲しいと思っていたんだ。


 私はいつも大切な事を勘違いしてしまう。

 ミラはいつでも私を想ってくれていたのに、私は私の事しか考えていなかった。


「……なんか恥ずかしいよ」

「どうして?」

「私って本当子供だなって。ミラが私を好きって言ってくれた想いを全然理解できていなかった」

「そうかな。それだったら私だって未明子の想いを全部理解できてるのか怪しいよ」

「気持ちって何でこんなに伝わらないんだろうね。言葉はこんなに発達してるのに、想いを完全に言葉に置き換えるのはとても難しい」

「だから時間があるんじゃないかな」

「時間?」

「関係って言ってもいいのかな。お互い寄り添って少しずつ理解していく関係。出会った瞬間に全てを分かりあえる存在なんて無いんだよ。時間をかけて、関係を深めて、それで少しずつ分かっていくんだと思う」

「人間って何でも急ぎ過ぎなのかな?」

「私達星に比べれば、そうかもしれないね」


 ミラはふふ、と笑った。

 それは私の知っているミラの笑い方だった。

 私の大好きな、優しい笑顔だった。


「ミラ」

「うん?」

「私、ミラが大好き」

「うん。私も未明子が大好き」


 この世界でミラと出会えて良かった。

 私は本当に幸せ者だ。

 それだけは自信を持って言える、私の誇りだ。


「最後の戦い、絶対に勝って生きようね」

「うん。私が一緒に戦うから誰も死なせないよ」


 ミラが小指を出す。

 私はその小指に自分の小指を絡めた。

 いつかミラの部屋でしたみいに、私達は指切りをした。

 

 この約束が、果たされますように。






 ゲストルームで話し込んでしまい、時計はすでに22時を回っていた。

 さすがにそろそろお暇させてもらう時間だ。 

 

 シンと静まり返った廊下を歩いて、暁さんの部屋に向かう。


「あの二人、流石にもう終わってるよね?」

「私は鷲羽さんもすばるさんもどれくらい頑張るのか知りませんし。そういうのは未明子さんの方が詳しいんではなくて?」

「あらーそんな棘のある返答をもらうとは思わなんだ。私だって暁さんには詳しくないよ」

「鷲羽さんには詳しいんだ!」

「そりゃ、まあ」

「未明子ってそういうところドライだよね。エッチもコミュニケーションの一つって割り切ってる感じ。アルフィルクと同じだよ」

「最初はそんなでも無かったはずなんだけどな。その辺りもだんだん壊れてきちゃったのかも」

「私ともしてくれるようになったから別にいいんだけどさ。前の奥手の未明子も良かったな」

「あの時はもっとオープンになってみたいに言われてたのに……難しいなぁ」


 隣で頬を膨らませるミラと一緒に廊下を歩いていると、暁さんの部屋の前にサダルメリクちゃんがいるのに気づいた。


 サダルメリクちゃんも私達に気づいて小さく手を振る。


「サダルメリクちゃんもいま来たんだ?」

「そろそろ、いいかな、と思って」

「すばるさんのパートナーのサダルメリクがそう言うなら、ベストタイミングだったんじゃないかな!」

「何で、ミラが怒ってる、の?」

「ごめんね。こっちの話」


 サダルメリクちゃんが首をかしげていた。

 説明すると更にミラが怒りそうなのでここはスルーさせてもらおう。

 

 扉の前で立っていても仕方がないので、代表して私が部屋の扉をノックした。


「暁さん。入ってもいいですか?」


 ……。


 しかし返事はない。

 

「およよ?」

「もしかして二人とも疲れて寝ちゃった?」

「うちのすばるに限って、それは無いと、思うけど」


 そうなのだろうか。

 私とした時は……ああ、それも口に出すのはやめておこう。

  

 扉に耳をあてて聞き耳を立てる。

 すると部屋の中で何やら言い争っているのが聞こえた。


「何かケンカしてるかも」

「ええ? 何で?」

「もう、いっか。入っちゃえ入っちゃえ」 

 

 考えるのが面倒くさくなったのか、サダルメリクちゃんが部屋の扉を開けてしまった。


 扉に寄りかかっていた私は急に扉が開いたのでそのまま部屋の中に倒れ込んでしまう。


「ぐぇっ」

「大丈夫!?」


 ミラが駆け寄って手を差し出してくれたので、手を借りて立ち上がった。


 薄暗い部屋の中には、さっき二人が着ていた服が床に脱ぎ散らかされているのが見える。


 肝心の二人はと言うと、ベッドの中で何かを言い合っていた。

    

「これは私の勝ちでいいわよね!?」

「そうでしょうか。達した数ならアルタイルの方が多いと思いますが?」

「あなた情けない声でヒィヒィ鳴いてたじゃない!」

「アルタイルこそよがり声が響いていましたよ。とてもかわいかったと思います」


 何のことはなかった。

 大感想大会が開かれていただけだった。


 わざわざ私達を追い出したのに、これを聞かれているのが一番恥ずかしいんじゃないだろうか。


「二人とも、どおどお。そんなに、気持ち良かったの?」


 サダルメリクちゃんが当然の権利のように突撃して行った。

 いや、よくその空気の中に入って行けるな。

 

「サダルメリク!? あなたいつからそこにいたの!?」

「さっきから、いたよ。ねえ、気持ち良かったの?」

「犬飼さんとミラさんも!? あの、申し訳ありません。はしたないところを!」

「いえいえ。暁さんが焦ってるの新鮮でいいですね」

「ちょっと鯨多未来! そんなところに立ってないで出て行って!」

「何で? もう終わってるんだから問題ないよね」

「私達まだ裸なの! 服を着るから出て行って!」

「私達のことなんか気にせず抱き合ってればいいじゃない。ね、未明子。仲が良くて良きだよね」

「そうだね。思ったより激しかったみたいで何よりだよ」

 

 鷲羽さんと暁さんは想像以上に乱れていた。

 お互い首にも胸元にも凄い数の跡をつけているし、ベッドの上はメチャクチャだ。


 余程相性が良かったと見える。


「み、ミラさん! 見ての通りアルタイルと抱き合いました。これで許して頂けますよね?」

「はい。すばるさん。これでもうお互いにわだかまりは無しにしましょう」

「良かったです……」

「ねえ、すばる。だから、気持ち良かったのかって、聞いてるじゃん?」

「メリク、後で話しますから今は勘弁してください。一度仕切り直しさせてください」

「私を、交えて、もう一戦しない?」

「あなた何言ってるの!? 今どれだけ頑張ったと思ってるのよ!?」

「それが、分からないから、聞いてるのに。こんなエッチな匂いを漂わせて、けしからん」

「メリク、落ち着いてください。犬飼さん、ミラさん、メリクを少し遠ざけて頂けませんか?」


 暁さんが相当焦っていて面白い。

 そう言えば私と寝た後で鷲羽さんに見つかった時も顔を真っ赤にしてたっけ。

 暁さんはエッチの後だといつもの鉄壁令嬢が崩れるらしい。


「犬飼さん? 何をニヤニヤしておられるのですか? あの、メリクを……ひゃあ!」


 焦る姿に続いて聞いた事のない叫び声を聞いてしまった。

 暁さん、ひゃあとか言うんだ。


 どうやらサダルメリクちゃんがベッドの中に潜り込んで行ったようだ。


 これはもう止められないな。

 下手に止めるとアルデバランさんが出てくるかもしれない。


「ちょっとサダルメリク! あなたいい加減にしなさいって言って……あんッ!」

「メリク、いけません! まだわたくし達熱が残っておりまして……!」


 これは本当に2回戦が始まってしまうようだ。

 鷲羽さんにはせっかくだからもうちょっと楽しんでもらおう。


 私とミラは置いていた荷物を回収して、部屋を出る事にした。


「じゃあ私達帰りますので、ごゆるりとお楽しみください」

「ちょっと待って未明子! 置いていかないで!」

「鷲羽さん。まだ発情期も終わってないしさ、せっかくだから朝まで楽しみなよ」

「鯨多未来ぃ! あなた覚えてなさいよ!」

「もう忘れたよ。おやすみなさい」


 ミラが静かに扉を閉めた。


 扉の向こうから三人の声が漏れ聞こえる。

 それは悲鳴にも歓喜の叫びにも聞こえた。

 

 ミラと手を繋いで部屋から離れるごとに声は小さくなり、やがて聞こえなくなった。 


 鷲羽さんが助けを求めていた気はするけど、まあ声が本気で嫌がってなかったから良いかな。


「そう言えばさ、未明子って女の子のボロボロな姿が好きって言ってたよね?」

「そ、そうだね。あんまり大きい声で言わないでね」

「今の鷲羽さんとかすばるさんの乱れた姿とかどうだった?」

「……正直、ちょっと良いなって思った」

「じゃあ発情してる?」

「言い方!」

「ねえ、発情してる?」

「…………まあ、ちょっと」

「やった! 作戦成功だね」

「さっきのやつ本気だったの!?」

「そりゃあそうだよ。利用できるものは利用しなきゃ」

「ミラってさ、本当エッチだよね」

「そうだよ。それは最初から変わってないよ?」


 そうだった。

 付き合った当初から、ミラはそういう事には積極的だったんだ。


「家に着いてからが楽しだよ。ね、未明子?」


 ミラは満面の笑顔を浮かべた。

 これも昔から変わらない私の大好きなミラの笑顔だ。


 私はこの笑顔に一生勝てないと思う。


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