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第137話 はじまりのセツナ⑤

 

 作戦会議はそれほど時間がかからずに終了した。


 すでに双牛ちゃんが内容を固めていて、それを他の世界の人達に伝えるだけで済んだからだ。

 

 作戦自体はシンプルでそこに双牛ちゃんらしい悪巧みが盛り込まれていた。


 他の世界の人達からも特に反対意見は出なかったのでそのまま採用となり、細かい部分はそれぞれで練り込んで来るという話でまとまった。

 

 作戦内容で意外だったのはフォーマルハウトのゲートを利用しない事だった。


 今回の戦いはセレーネの元に辿り着くのが一番の目的だ。

 ゲートで一気に月基地の内部に侵入すれば、戦闘が激化する前に終わらせられるかもしれないのに。

 

 でもそれは双牛ちゃんに言わせると悪手みたいだ。

 敵もそれを読んで何らかの対策を取っているだろうからリスクが高いそうだ。


 一度フォーマルハウトに侵入されて基地を破壊されている敵側としては、絶対に看過できない侵入経路だから当然と言えば当然か。

 

 全員で基地内部に侵入して、一斉にロボットに変身したらそれで勝てるじゃんとか言わなくて良かった。


 何はともあれ作戦会議は滞りなく終了し、5つの世界で月に攻め込む算段が立ったのだった。




 会議が終わったあと、他の世界の人達が帰るのを見送っている時に委員長ちゃんと毛房さんが鷲羽さんと話していた。


 個人的に気になる事もあったので私もそこに立ち会わせてもらうと、どうやら委員長ちゃんが鷲羽さんに言いたい事があるみたいだった。


 しきりに何か言おうとしては、言い出せずにやめてを繰り返している。 


 その様子を見かねた鷲羽さんが委員長ちゃんに優しく声をかけた。

   

「言いたい事があるならゆっくりで大丈夫よ?」

「あ、その……申し訳ありません……」


 さっきまでの毅然とした態度はどこへやら、妙にしどろもどろになっている。

 

 顔を赤くして、目を合わせようとしても合わせられなくて、まさに挙動不審だった。


 鷲羽さんは委員長ちゃんの様子を不思議そうに眺めていたけど、私には彼女がどんな心境なのか分かってしまった。


「あ……アルタイルさん。その、お願いがありまして……」

「何かしら?」

「あ、握手を。握手をして、いただけませんか?」

「え?」


 委員長ちゃんが何とか捻りだした言葉に鷲羽さんは驚いていた。

 あれだけ時間をかけてやっと出てきた言葉が握手の要求だったのだ。


 きっと鷲羽さんは、ただ握手をするのにここまで苦労した理由は分かっていないだろう。


「握手くらいならお安い御用よ」

「あ、ありがとうございますッ!」


 差し出された右手を丁寧に両手で握り返しながら「やった! やった!」と小声で喜んでいる姿がとても可愛らしかった。

 

 そうだよね。

 そうなるよね。

 分かる。

 私も同じ立場だったら同じ反応をしてたと思うな。


 こんな姿を見せられたらつい応援したくなってしまう。

 余計なお世話とは思いつつも、鷲羽さんに耳打ちしてある事を伝えた。

 

「え? いいの?」

「うん。きっと喜んでくれると思うよ」

「未明子がそう言うなら私は構わないけど……」


 私に背中を押された鷲羽さんが委員長ちゃんに近づいて、恐る恐るハグをした。


「ふへぇっ!?」


 突然抱き着かれた委員長ちゃんは体をピンと伸ばしたまま固まってしまう。


「ご、ごめんなさい。嫌だった?」

「そ、そんな事は、ああああああありません!」

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「いえ、あの、その、はい……」

「私達に協力してくれてありがとう。あなた達にとっては巻き込まれたも同然だけど、その分しっかりお返しできるように頑張るわ」

「ま、巻き込まれただなんて! 私達は私達の意思で決めたんです!」

「それでもありがとう。こんなに仲間がいてくれるなんて心強いわ。これなら絶対負けない」

「アルタイルさん……」


 鷲羽さんが委員長ちゃんを強く抱きしめると、委員長ちゃんもそっと抱き返していた。

 

「良かったねえ。こだてちゃん」

「うん」

「あれぇ。まさかの素直なお返事」

「ちょっとこころは黙ってて」

「はーい」

 

 余計な事を言う毛房さんは押し返されていた。


 その毛房さんが私の側に寄ってきて、耳元で「ありがとうね」と言ってくれた。


 いえいえ。どういたしまして。



「ありがとうございます。もう充分です。満たされました」


 委員長ちゃんが鷲羽さんの肩を抱いて優しく引き離す。


「そう? 良かった」

「私達も精一杯戦います。何卒、よろしくお願いします」


 もう吹っ切れたのか普段通りの毅然とした態度に戻っていた。


 そして隣でニヤニヤしている毛房さんに気づいた委員長ちゃんは、右手を振りかぶって毛房さんのお尻を思いっきり叩いた。


「痛あい!」

「ニヤニヤしてないで行くぞこころ。帰ってみんなに作戦を共有だ」

「もう! 照れ隠しで私のお尻にフルパンするのやめて」

「うるさい。顔の皮だけじゃなく尻の皮も厚いんだから文句言うな」

「ひどーい。こんなモチモチお尻を前にして」

「ほう。さぞ突き甲斐があるんだろうな。正月もだいぶ過ぎたがモチ突き大会でもするか?」

「なんたる残酷な仕打ち」


 二人は揉めながらアケルナルさんの用意した帰還ゲートの前まで行くと、振り返ってこちらに深くお辞儀をした。


「それではこれで失礼いたします」

「みなさん今後ともよろしくお願いしまーす」


 別れの挨拶を済ませた後、また何か口論しながら帰還ゲートの中に入って行った。

 お互い別の世界に住んでるのに仲良しなのって素敵だな。



 これで代表の人達は全員がそれぞれの世界に戻って行った。

 特に大きな問題もなく話し合いが終わったことに、みんなも安堵しているみたいだ。

 

 そんな中、鷲羽さんだけはいまいち浮かない顔をしていた。


「結局、木葉さんは何だったのかしら?」

「憧れの人に会ったら誰でもあんな感じになるよ」

「憧れ? 私が?」

「多分。私にはそう見えた」

「さすが犬飼さん。ファンへの対応は完璧ね!」


 そこにソラさんがやって来た。

 私の肩に手を置いて、良くやったとばかりに親指を立てる。


「ソラさんもやっぱりそう思いました?」

「あれは完璧にアルタイルに惚れてたわね。最初に他の人達が絡んでた時にあえて参加しなかったのがガチっぽいわ」

「そうなの?」

「あんなお堅そうな子を魅了するなんて1等星って凄いわね。もはや存在そのものがアイドルじゃない」

「梅雨空。あなたあそこにいるちびっ子を見てもそう思うの?」


 鷲羽さんが指差した先には、展望ホールの机の上に寝転がってお菓子を貪り食べているアケルナルさんがいた。


 その姿はとてもアイドルなんて言えるものじゃなかった。

 何なら女性というのも憚れる程のだらしない姿だ。


「あれは……5等星ね!」

「残念だけどあれでも1等星。等級10番目なのよ。私より上なの」

「あの人が地球から見える全ての星の中で上から10番目に輝いてる星なんだ。他のステラ・アルマが知ったら泣きそう」

「もしかしたら磨けば光るタイプなのかもしれないわよ?」

「磨けないのよアレは。あれが最終形態なのよ」


 鷲羽さんにアレ扱いされるアケルナルさんは、お付きのアカマルさんとザウラクさんに机から引き摺り下ろされていた。


 アケルナルさんの隣でお菓子を食べ散らかしているサダルメリクちゃんも別の姿は1等星だし、委員長ちゃん達が1等星と聞いて鷲羽さんを特別視するのも分かる気がする。


「協力してくれるのが話の分かる人達で良かったわ。せっかく人数が揃ったのに足並みが揃わないのは嫌だったもの」

「本当そうだね。アケルナルさんが連れてきた人達だから心配もあったけど」

「ああ見えて優秀ではあるからね。人格が破綻してるだけで」

「鷲羽さんのお気に入りもいたしね」

「…………え? 何の話?」


 何の話と聞きながらも目を合わせようとしないのは自覚があるんだろうな。


 これは面白そうだから少しからかってみよう。


 私は鷲羽さんを背後から抱えて動けないようにした。

 

「やーめーて未明子。離してちょうだい」

「鷲羽さん、委員長ちゃんのことお気に入りでしょ? 会議中もチラチラ見てたもんね?」

「そ、そうかしら。まあ話の中心にいたし注目することも多かったかもしれないわね」

「だって委員長ちゃん昔の私に似てるもんね」

「……言われてみれば似てるかもしれないわね。でも別に未明子に似てるからってお気に入りなんて言わないわよ」

「鷲羽さんの好きなメガネっ子だし」

「……」

「私に似てて、その上メガネをかけてたら、そりゃあ鷲羽さんの性癖にストライクだもんね。別にいいんだよ。私だって見た目が好みの女の子がいたら気になるだろうし」

「それを分かってて木葉さんにハグさせたの?」

「うん。鷲羽さん的にも嬉しいかなって思って」

「……いじわる」

「わあ。可愛い反応頂きました」


 委員長ちゃんが鷲羽さんにお熱だったように、鷲羽さんも委員長ちゃんにお熱だった。

 何か反応がおかしかったのはそういう事だと途中で気づいて観察していたのだ。


 やっぱり鷲羽さんは分かりやすくてかわいい。


「ミラさーん! 何かこの二人イチャイチャしてるけど放っておいて大丈夫!?」

「ちょっと梅雨空!?」


 ソラさんに呼ばれてこっちに気づいたミラが怖い顔で近づいて来る。


 別にイチャイチャしてるつもりは無かったんだけどな。

 ミラの顔を見るにどうやらアウトだったらしい。


「コラー! 私の見てないところで乳繰り合わないで欲しいんだけど!」

「乳繰り合ってないわよ!」

「未明子は本当に鷲羽さんに甘いよね。この子会議中に浮気してたんだよ?」

「するわけないでしょ!?」

「あれれ。ミラも鷲羽さんがメガネ好きなの知ってたの?」

「それは知らないけどあの目は獲物を狙う目だよ。クラスでもそうやって未明子を見てたもの。って言うか鷲羽さんメガネが好きなの? レンズマニア?」

「どうしてメガネその物を好きだと思ったのよ」

「あーだから夜明さんに対しても変な目をしてたのか。なるほどだよ」

「ねえ未明子。私ってそんなに変な目をしてる?」

「うーん。目つきはどうか分からないけど鷲羽さんは色々と分かりやすい方だと思うよ」

「うぅ……やっぱりそうなのね。気をつけなきゃ」

「これはいい情報を得たね。メモメモ……」

「何をメモしてるの? 嫌な予感がするわ」

「ふふふ。これは楽しみが増えたよ」


 何やら二人だけが分かる話で盛り上がっているみたいだ。

 ミラがいたずらっぽい顔してるからまた何か悪巧みしてるんだろうな。

 どんどん二人が仲良くなってるみたいで私は嬉しいよ。


「未明子はこのあと予定ないよね?」

「うん。私は大丈夫。でもアケルナルさんは放っておいていいのかな?」

「いま聞いてきたら、この後シャケトバさんと打ち合わせするって言ってたから大丈夫じゃないかな。だから少し付き合って欲しいんだ」

「いいよ。どこか行きたい所があるの?」

「すばるさんの家。鷲羽さんと一緒に」

「鷲羽さんと?」


 私が鷲羽さんを見ると、何とも言えない表情で頷いた。

 なら鷲羽さんはこのあとの話を聞いていたのか。

 でもミラが鷲羽さんと暁さんの家に行く用事って何だろう。



 最後に、残ったメンバーで軽く打ち合わせをしてその場は解散となった。


 それぞれが帰路に着く中、私達は秘密基地に残る。


 このあと暁さんの家に向かうのは本人も知っていたみたいで、何とオーパまで暁家の迎えの車が来ると言うのだ。

 お迎えの車なんてやっぱり暁さんはいいところのお嬢様なんだよな。


 その車を待って、サダルメリクちゃんを含めた5人で暁さんの家に向かった。


 私は車での送迎が楽しくてテンションが上がっていたのに、何故か鷲羽さんと暁さんとサダルメリクちゃんは無言。

 ミラだけがご機嫌だった。

 

 よく分からない空気のまま走ること数十分。

 久しぶりに新百合ヶ丘にある暁邸に到着した。


「相変わらず大きなお屋敷ね」

「鷲羽さんがステラ・アルマって知ったのもここだったし、何気に思い出深いところだよね」

「そう言えばそうね」

「ふーん。二人にとっては思い入れがある場所なんだね」

「何でミラはさっきから悪そうな顔してるの?」

「それはこの後のお楽しみだよ」


 ミラはオーパを出た時からずっとニコニコ、と言うよりニヤニヤしていた。

 ミラがこの顔をしている時はだいたい良からぬ事を考えている時だと私は知っている。


 鷲羽さん達の顔色が悪いのと関係あるんだろうか。

 楽しいことだと良いんだけどな……。



 広い洋館を案内されて、見知った暁さんの部屋に通された。


 そこに私とサダルメリクちゃんだけが残される。

 ミラと鷲羽さんと暁さんは準備があるからと言ってどこかに行ってしまった。

 

 部屋のソファに座って待っているだけなのも落ち着かない。

 せっかくなのでサダルメリクちゃんとカードゲームをやりながら待つ事にした。


「サダルメリクちゃんはミラが何をやるつもりなのか知ってるの?」

「うん。まあ、私も責任を取る側だから、大人しく、見てる」

「責任? 何か物々しいね」

「ここに未明子さんを呼ぶあたり、根は深いと、思う」

「えぇ……だんだん怖くなって来た」


 この感じ、絶対に楽しい事ではない。


 そもそもミラが楽しいと思っている事に鷲羽さんを誘うのがまずおかしい。


 サダルメリクちゃんもこの様子だし、もしかしたら私もその責任とやらを取る立場なのかもしれない。

 ここに来た時のワクワク感よりも不安な気持ちの方が強くなって来た。


 そんな私の不安を煽るように、部屋に戻ってきた鷲羽さんと暁さんは何故か可愛く着飾っていた。


 鷲羽さんはいわゆるゴシックロリータな黒いフリフリな洋服を着ていた。

 普段からお人形さんみたいなのに服装のせいで余計にそう見える。


 暁さんはと言うと、高そうなブラウスにロングスカートとお嬢様感がマシマシな服装だった。

 そして初めて見るメガネ姿。すっごいIQ高そうだ。


 二人とも凄く似合っていて良い。

 目の保養になる。

 

 ……のはいいんだけど、本当何で着替えたんだろう。不安だ。


「二人ともどうしたの?」

「鯨多未来に着せられたのよ」

「ミラに?」

「とは言え服装はお互いに選びました」

「どういうこと? じゃあ鷲羽さんの服は暁さんが選んで、暁さんの服は鷲羽さんが選んだの?」

「そうだよ。お互いに好きなお洋服を選んでもらったんだ。前にアルフィルクが言ってたのを採用したんだよ」


 二人の後ろからミラがひょっこり現れた。

 相変わらずのご機嫌な笑顔で私の隣に座る。


「どう? 未明子」

「どうって……二人とも良く似合ってると思うよ」

「だよね。お互いの良いところを引き出してるよね」

 

 ミラは満足そうにそう言いながら二人に手招きした。

 二人はため息をつきながら部屋に入って来て、私の正面に座る。


「ミラさんや。これはいってえ何の催し物だい?」

「おうおう。これは二人なりのケジメってもんだあよ」


 良かった。私のボケに乗ってくれるなら少なくとも私が何かやらかしたわけでは無さそうだ。


 でもケジメって何だろう。

 この二人につけなきゃいけないケジメなんてあるんだろうか。


「さて鷲羽さん。あなたは私のいない間に未明子といい仲になりましたね?」

「……はい」

「すばるさん。あなたも私のいない間に未明子とやっちゃいましたね?」

「……はい」


 ……あ。

 

「それぞれの事情は分かっています。私もしばらく死んでいたわけですし、その間に何かあったとしてもそれは受け入れなければいけません」


 これあかんやつや。


「それはそれとして、私の未明子に手を出したケジメはつけて欲しいと思っているのです」


 ケジメってそれか。


「そこで私は考えました」


 ミラがとびっきりの笑顔を浮かべて言った。

 

「二人には未明子の見ている前でエッチしてもらいます!」

「え!?」

「え!?」

「え!?」

「いや二人ともビックリしてるんだけど!? 二人は知ってたんじゃないの!?」

「未明子の見てる前とは聞いてないわよ!」

「わたくしもそれは初耳です」

「だって誰かが見てなかったら適当にごまかされちゃうかもしれないもん」

「だからと言って何で未明子の前なの?」

「二人がやらしい事してるのを見せられたら未明子もエッチな気分になるかなって。そうなったらそのエッチな未明子は私が貰って行くって寸法だよ」

「何を言ってるのあなた!? もしかして酔っ払ってるの!? そんなムチャクチャ許されないでしょ!?」

「い、犬飼さんはどうなんですか? 自分のパートナーであるアルタイルがわたくしに抱かれるのを見ていられるのですか?」


 全員の視線が私に注がれた。


 いや待ってほしい。

 みんな勝手に盛り上がっているけども、そもそも私は二人がそんな事をするなんて知らなかったのだ。


「えーと。これってもしかしてクリスマスの時に鷲羽さんに渡してた手紙の内容?」

「そうだよ。これで私が溜めてたわだかまりを解くって約束だったんだ。ね、二人とも?」


 鷲羽さんも暁さんも渋々頷いた。

 

 あの時、手紙を読んだ鷲羽さんが青い顔をしていたのはそういう事か。

 暁さんがミラの家に来るって言った時に私を追い出したのも、この話をしてたんだな。

 

 いやしかし突然のビックリパーティに頭の整理がつかない。


 どうすればいいんだ。

 何が正解なんだ。


 狼狽えている私の手をミラが握ってくれた。


「未明子。正直に言ってくれていいんだよ? もし未明子がこんなのやめてって言うなら私が我慢すればいいだけなんだから。鷲羽さんもすばるさんも未明子にとっては大事な人なんだもんね?」


 それはそうなんだけど、その言い方はなんかズルくないかな。

 

 うーん……。

 この状況、私は誰の味方なのって問われている気がするな。


 鷲羽さんに関しては最初に手を出したのは私だし、暁さんの件だって私が許したんだから責められるなら私だ。

 この二人は悪くない。


 でもここで私が全部悪いんだよって言ったところでミラは絶対納得できないだろうしな。


 私としてはみんな大事だし、仲良くして欲しいし、変なわだかまりは残して欲しくないのが正直なところだ。


 でもそうなると一番ケアしなきゃいけないのはやっぱりミラなんじゃないだろうか。


 鷲羽さんも暁さんもそこに至るまでの過程があるのにミラは結果だけを押し付けられている立場だ。


 だからこの中で主張を通してあげなきゃいけないとすれば、それはミラな気がする。


 ただその前に私の考えを伝えなきゃ。


「……とても悩ましいけど、いま私の思っている事を全部話してもいい?」

「うん。聞かせて欲しいな」

「まず大前提として鷲羽さんが私といい仲になったのは私がそうなるようにお願いしたからなんだ」

「……」


 予想通りミラの顔が暗くなった。

 ミラの立場からしたら聞きたい話じゃないもんな。

 でもここで話を止めたらダメだ。


「ミラ、最後まで聞いてくれると嬉しい」

「分かった」

「暁さんの件に関しても私がそれを許したんだから暁さんだけが責められる筋合いじゃないと思うんだ」

「犬飼さん……」


 私が悪者になるのは全然構わないから、まずは二人は悪くないよってのを言っておかないといけない。


「この話をミラが後から聞かされた時のショックは分かるよ。いや、私が大元の原因なんだから他人事みたいに言うなって話なんだけど。それでミラ的には鷲羽さんと暁さんがこの詫びエッチをすれば気分的には晴れるんだよね?」

「うん」

「……分かった。じゃあまずは鷲羽さんに伝えておくよ」

「は、はい」

「私は別に鷲羽さんが誰と仲良くしてても全然構わない」

「……え?」

「待って待って。それは鷲羽さんに興味が無いとかじゃなくて、私が大切だと思ってる人達同士ならいいって事。例え体の関係を持ったとしてもそれは仲が良いって証明だと思ってる。勿論私の知らない人や嫌いな人達には指一本触れさせたくないよ。あくまで私の大事な人達だけ」

「う……うん」

「次に暁さん。暁さんにも同じように思ってる。必要だと言われれば私の身を捧げる覚悟はあるし、例えばミラとどうしてもイチャイチャしたいって言うんだったら、ミラが良いって言うなら私は口をださないよ」

「めめめめめっそうもございません!」

「だからここで二人が抱き合っても、それで私が嫌だなとは思わない」


 一気に喋ったので口が乾いてしまった。

 何か飲み物を持ってくれば良かった。

 いや、こんな事を長々喋るなんて思いも寄らなかったんだから仕方がない。 


「じゃあ未明子的には別にOKなのかな?」

「うん。ただそうなるとミラの気持ちがどうなのかなって気にはなる」

「どうして?」

「だってこれって私が嫌がると思ったから二人への罰になるんでしょ? 私が普通にOK出しちゃったら意味なくない?」

「それは……そうかも」

「それでも良ければ二人がエッチするのはいいと思うよ。鷲羽さんと暁さんの仲はエッチできるくらいに良いって事だから」


 私にそう言われたミラは上を向いて考え出してしまった。


 多分、自分と同じように後からこの話をされたら私がショックを受けると思ったんだろう。

 だから先にこういう事をしますよって伝えるために私を立ち合わせたんだと思う。


 だけど立ち会ったことで私がOKを出しちゃったから、最早この詫びエッチをしたとしても二人に罪の気持ちは生まれない。

 つまりこの段階でミラの企みは瓦解してしまったのだ。


「私、だんだん何がしたかったのか分からなくなってきちゃった」

「だよね。どうする? 何か別の手を考える?」

「えーと、えーと、私はどうしたいんだろう?」

「じゃあミラ。もう二人にはセックスしてもらって、それで、手打ちにしたら?」


 ずっと黙っていたサダルメリクちゃんがここで口を挟んできた。

 

「罰とか、あてつけとか、もう難しい事は考えないで、二人がやる事やったら、それでミラも納得する、で良くない?」

「そ、そうかな。そうなのかも……」

「代わりに、今日以降、ミラは二人に普通に接するんだよ?」

「それはそうだよね! だってケジメをつけたんだもんね! あれ? そういう事だよね?」


 ミラらしからぬ判断力と理解力になってる。

 もう頭の中がゴチャゴチャなんだろうな。


 そもそもミラにこういうのは向いてないんだよ。

 人に優しくするのが得意なタイプなのに、その逆をやろうとしてるんだから。


「未明子さんも、それで、いいよね?」

「そうだね。それで手打ちでいいと思う」

「……で、その。結局私はすばると寝るのよね?」

「そうだよ。いいじゃん、一回くらい、やっときなよ」

「サダルメリク、あなた自分のパートナーなのにいいの?」

「寝取られ、とやらに、ちょっと興味、ある」

「特殊性癖すぎるわよ!」

「あの……よろしいでしょうか? アルタイルを抱くのは元々覚悟していたのでいいんです。ですがその、犬飼さんが見ている前で、と言うのだけは何とかなりませんか?」

「私もそれはお願いしたいわ。できればサダルメリクにも見られたくない」

「お互いのパートナーの目は、避けたい、のか。ミラ、どうする?」

「うーん。未明子、どうする?」

「ここで私に振るの!? えーと、多分誰にも見られてない方が盛り上がるんじゃない……かな。私達は退場でいいと思います」


 何か私も自分が何を言っているのか分からなくなってきた。

 頭を冷やす意味でも一旦ここから離れた方が良さそうだ。


「ではここは、若い二人に任せて、私達は、退場しますか」

「鷲羽さん。すばるさん。私、二人を信じてるからね!」

「もう分かったわよ! あなたを納得させるためにちゃんとやるわよ!」

「はい。そこは信頼して頂けると」


 よし、これで話はまとまった。

 まとまったと判断しよう。


 私はミラとサダルメリクちゃんの手を取って、そそくさと部屋から出た。


 あえて部屋に残った二人の顔は見ないで部屋の扉を閉める。



 ミラとサダルメリクちゃんと手を繋いだまま部屋から少し離れて、窓のある場所までやって来た。


 冷たい風を入れる為にカーテンを開いて少しだけ窓を開ける。


 窓から見える夜空には、月が大きく輝いていた。 


「ふー。私達は最後の決戦前に何をやってるんだろう」

「それを、未明子さんが、言うんだ」


 サダルメリクちゃんのツッコミは尤もだった。

 大元の原因は私なのを忘れてはいけない。


 でもこれでミラと鷲羽さんのわだかまりが無くなるなら、それは何よりだ。


「良し。じゃあ、片付けなきゃいけない問題は片付いたし、ここから、真面目な話をしても良い?」


 突然雰囲気を変えたサダルメリクちゃんが私とミラの前に立った。


 驚いた私はミラと顔を見合わせる。


「いま未明子さんは、何をやってるんだって言ってたけど、実はこの茶番、結構、大事だったんだ」

「へ? どういう事?」

「ミラは、アルタイルと、もっと心を近づけなきゃ、いけない」

「サダルメリク?」

「最後の戦いの前に、私が、ミラに伝えたい話がある」

「サダルメリクが私に?」

 

 サダルメリクちゃんの表情は真剣そのものだった。

 ミラも私も、固唾を飲んでサダルメリクちゃんの言葉を待った。


「ミラが、最後の戦いに、参加する、方法」


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