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第132話 The Other Side of the Wall⑮

 現れた小柄な女性はアケルナルと名乗った。


 エリダヌス座の1等星。

 鷲羽さんやフォーマルハウトと同じ最高位の星。

 以前ベガさんが、人間やステラ・アルマに対する執着心が強いと言っていた人だ。


「久し振りだなお前達。元気してたか?」


 アケルナルさんは他の1等星と気さくに話していた。


 笑いながらフォーマルハウトの腰をペシペシと叩いたりしていて驚いてしまう。

 顔見知りとは言えどんな命知らずなんだ。


「で、何でお前がここにいるんだよ」

「その話をする前にアルタイルの怪我を治してやった方がいいんじゃないか? ついでにアルデバランも」

「私はついでか」

「じゃあ姫を治療するから、その間にそいつから話を聞いておけアルデバラン」

「命令すんな。後で絶対私も治せよ?」


 フォーマルハウトは鷲羽さんの腕に巻かれている上着をほどいて治療を始めた。

 

 アルデバランさんとフォーマルハウト。

 性格的にはぶつかりそうな二人なのに、そこまで険悪な仲では無さそうだ。


 アケルナルさんを含めたやり取りを見ていると1等星同士は思いのほか仲が良いのかもしれない。


 ……と思っていたのに、そのアルデバランさんはアケルナルさんを怖い目で睨んでいた。


 二人の身長差がありすぎてまるで子供を叱る大人みたいな絵面になっている。


「おい猿。お前ベガに余計な話を吹き込んだだろ?」

「余計な話とは失礼な。情報は人によって価値が変わる。ベガにとって有益な情報を与えて何が悪い。あと猿って呼ぶのやめろ」

「そのせいでこっちが迷惑被ってんだよ。当然その迷惑に対する報復も計算に入ってるんだよな?」

「分かっとる。だからこうして私が出向いて来てやったんだろうが」

「あ?」

「ここにいる別の世界の戦士達は私が集めて来たんだ」

「さっきどこかの世界の奴がお前を主催とか言ってたな」

「左様。お前らが月に反旗を翻すのは分かっていた。だから前もって様々な世界に使者を送り協力者を探していたんだ。月の話は中々信じてもらえなくてな。時間をかけて何とか4つの世界の協力を取り付けた」


 さっきミラが説明しようとしてたのはこれか。

 あの人達はアケルナルさんに連れてこられた人達だったんだ。


 でもそうすると大きな疑問が出てくる。


「どうやって協力を得たの?」

「何だアルタイル。信用してないのか?」

「それはそうでしょう。だって彼女達に協力するメリットが無いじゃない」


 それだ。

 協力してくれるのは有難いんだけど、他の世界の人達にメリットが無いんだよな。


 このまま全員でセレーネを倒したとしても戦いの対象から外れるのは私達の世界だけ。

 協力してくれた人達の戦いは終わらない。


 何故なら、私達はセレーネを亡き者にしたい訳じゃないからだ。


「確かにセレーネを倒すだけではあいつらにメリットは無いな。地球が増え続けるのは止められないから、それを管理するセレーネを滅ぼす訳にはいかん。だから戦いは続けなくてはいけない」


 セレーネを倒す。

 私はそれを聞いた時、セレーネを倒せばこの戦い自体が無くなってもう誰も戦わなくても済むんだと思っていた。


 でも違った。

 セレーネが倒れたとしても地球はどんどん増え続けて、やがて限界が来てしまうのは変わらない。

 それを何とかする為にどうしてもセレーネには存在し続けて貰わなければいけないんだ。


 だから私達がやるのはセレーネの戦力を潰して降伏させるまで。

 そして私達の世界を戦いの対象外にするところまでだ。


「もしかして騙して連れてきたの?」

「そんな事をしたら戦いが終わった後に面倒になるだろうが」

「じゃあどうやったのよ」

「ふふん。良く聞けい!」


 アケルナルさんはキッキッキッと笑いながら手を叩いた。

 なるほど。こんな笑い方だからアルデバランさんが猿って呼んでるんだな。


 アルデバランさんに猿と呼ばれたアケルナルさんは、楽しそうに人差し指を空に掲げてこう言った。


「セレーネを倒した後、月の女神の座を奪うことにした!」


 その言葉を聞いていた1等星達。

 双牛ちゃん。

 そして多分私も、理解が追いつかずに呆気に取られた顔を浮かべていた。


 月の女神の座を奪う。

 私には突拍子もない話に思えた。

 だってそれは星の管理をまるまる引き受けるってことだ。


「そもそもこの殺し合いの理不尽はセレーネが仕切っている事に端を発している。ならば誰か別の者がその座を引き継いでやり方を変えればいい」

「誰かって誰だよ」

「それはセレーネを倒してから決めればいいさ。そういうのに向いてるステラ・アルマが何人かいるだろ?」

「この戦いを乗っ取るつもりなの? あの女がそんなの認めないと思うけど……」

「乗っ取る訳じゃない。これはあいつが決めたルールに ”(のっと)って” あいつを引き摺り下ろす作戦だ」

「ルール? そんなルールあったかしら?」

「管理人の特権だ」

「管理人の特権?」

「そう。各世界に配属されている管理人には自分の担当している世界が戦いをクリアした際に報酬が与えられる。それはセレーネに何でも意見を通せると言うものだ」


 それは初聞きだった。

 シャケトバさん達は月から与えられた仕事として戦いを管理しているのかと思ったけど、そういう事情があったのか。

 それなら妙に協力的なのも納得できる。


 前にルールの隙間をついてズルをしてきた世界も、何が何でも自分の世界を勝たせようという管理人の意志があったのかもしれない。


「でもそんなルールであの女が女神の座を降りるとは思えないわ。ファミリアの意見なんて握りつぶされるに決まってる」

「そうかな? あいつのルールへの拘りが異常なのは承知だろう? その気になれば好きに世界を消せるのに、わざわざ反乱を許すような奴だぞ?」

「そ、それはそうだけど……」

「おい猿。お前の言っているのが事実だとしても、セレーネを引き摺り下ろしたい管理人なんてそうそう見つからないだろ。あいつらはセレーネの部下なんだぞ?」

「まあそこはフォーマルハウトの服従の固有武装でも使おうかと考えていたんだがな。すでにその意見を持った管理人を見つけた」

「そんな都合よく?」

「そう。そんな都合よくアルタイル、お前のいる世界の管理人だ」

「え!?」


 鷲羽さんが驚いて私を見た。

 確認されても私だってそんなの知らない。

 シャケトバさんがセレーネを女神の座から下ろそうとしているなんて考えもしなかった。

 

「さっきお前達の世界に来た時に判明した。反乱を起こした世界の管理人がそう考えているなら話が早い」

「まさかあの管理人がそんな事を考えていたなんて」

「先程の質問に答えよう。何故私がここにいるのか? それはこの世界を合わせた5つの世界の戦士達で力を合わせてセレーネを倒し、奴を女神の座から引き摺り下ろすためだ」

「なるほどな。まあそれは分かったが、何故お前がそれを扇動する? お前は戦いには積極的じゃなかっただろう?」

「そんなに睨むなアルデバラン。私にも罪悪感があるだけだ。ベガに情報を渡したせいであいつを窮地に陥らせてしまったからな」

「ベガが!? アケルナル、どういうこと!?」

「そこの人間。犬飼未明子だな?」


 アケルナルさんが青い瞳で私を見た。


 目が合って初めてその整った顔立ちに気づく。

 小汚い格好をしてるし素行も悪いから忘れそうだけど、やっぱりこの人もステラ・アルマなんだ。


「はい。そうです」

「お前が犯したルール違反をベガに伝えた。そうしたらあいつはそれを月に報告したんだ」

「やっぱりお前の差金だったのか」


 鷲羽さんの治療を終えたフォーマルハウトがアケルナルさんに掴み掛かった。


 首元を締めて小柄な体を引っ張り上げる。


「苦しい苦しい! 離せフォーマルハウト」

「お前が余計な事をするからセプテントリオンが攻めてきた上に、私は月に乗り込むハメになったんだぞ?」

「私もまさかベガが月に報告に行くなんて予想外だったんだ! ただアルタイルの近況を教えてやるだけのつもりだった」

「何であなたが私の近況を知ってるのよ」

「言っておくが私は止めたからな! セレーネは大のステラ・アルマ嫌い。そんな奴の元に行ったらどうなるか分からないぞとな」

「ベガは月に行った後どうなったの?」

「消息不明だ。どの世界からも反応がなくなった。おそらく月に囚われている」

「それがお前の罪悪感ってやつか」

「過程はどうあれ私のせいでベガが月に囚われたとなると寝つきが悪い。だからこうして協力者を集めてベガを救おうとしているんだ」


 鷲羽さんの顔色は良くなかった。

 妹であるベガさんが月に囚われているのは心配だろう。

 もしかしたらステラ・アルマ嫌いの女神に酷い目に合わされているかもしれない。

 

「で、ここからどうするつもりだ?」

「この世界の戦士達と各世界の代表で話がしたい。月に攻め込む打ち合わせが必要だ。可能なら今からでも構わん」

「ふざけるな。私達は戦い終えたばかりだぞ?」


 アルデバランさんが千切れた右腕をアケルナルさんに突き出し、血の滲んでいる傷口を見せつけた。


「見ての通り全員怪我人だ。私のパートナーに至っては死にかけている。話があるなら後日にしろ」


 それは尤もだった。


 九曜さんとソラさんは気を失っている。

 ならパートナーのツィーさんとムリちゃんだって同じように気を失っているだろう。


 双牛ちゃんも疲れた顔をしているし、暁さんは衰弱して危険な状態。

 私だって貧血で気を抜くとフラフラする。


 とても話し合いをするようなコンディションじゃない。


「全員の予定を合わせるのも大変なんだがな」

「そんなの知るか。何で私達がお前らの都合に合わせなきゃいけない? そういうのを調整するのもお前の仕事だろうが」

「それは……まあ、そうだな……」


 見た目通りの荒っぽい言い方でアルデバランさんがアケルナルさんを説得……いや、脅していた。

 基本怖い人だけどこういう時には頼りになる。



 結局、すぐに話し合いをするのは不可能という結論に落ち着きアケルナルさんは援護に来てくれた全員に帰投の指示を出していた。


 他の世界の人達も私達の現状を見て空気を読んでくれたみたいで反対意見は出なかった。


 全員の帰投準備が整った後、アケルナルさんが白衣の中からメスのような物を取り出し、それで空間を切り裂いた。


 裂かれた場所にユニバースを移動する為のゲートが開く。


 フォーマルハウト以外のステラ・アルマは扉に近い物を使ってしかユニバースの移動はできないハズなのに、このメスみたいな物を使えば任意の場所にゲートを開けるみたいだ。


 セプテントリオンも近い物を持っていたし、実はゲートを開くのって簡単なのだろうか。


 他の世界の人達がアケルナルさんの開いたゲートで自分達の世界に戻って行くのを見送り、最後にアケルナルさんも見送る。


「……じゃあ私は一旦自分の世界に帰る。他の世界との日程調整が終わり次第管理人を通して連絡するから待っててくれ」


 そう言い残し、ゲートで元の世界に戻っていった。

 


 ゲートが完全に閉じると、1等星の三人は大きなため息をついた。


「あの猿。結局自分の非を認めなかったな」 

「これだからアイツが関わるとロクな事にならないんだ」

「まあ、おかげで助かったんだから良しとしましょう」


 仲が良いように見えたけど、別に好かれてる人では無いんだな……。




 フォーマルハウトが嫌々ながらアルデバランさんの腕を治療したので、私達は手分けして怪我をしたみんなを秘密基地に連れて行った。


 幸い九曜さんとソラさんの怪我はたいした事はなかった。

 九曜さんがすり傷を作ってるくらいで、ソラさんはほとんど無傷で済んでいた。


 ツィーさんは外傷が無い代わりにアニマ切れを起こしていた。

 ラピスを使わせてもらおうか迷ったけど、試しに私の指を少し切って口に突っ込んでみたら顔色が良くなった。

 意識が無いツィーさんの口に強引に指を突っ込むのはどうかと思いつつも、緊急事態だから許して欲しい。

 

 ムリちゃんは怪我が酷かった。

 激しい戦いだったのか、全身火傷と打撲だらけの重症だった。

 今回はシャケトバさんが例のライトを貸してくれたので、それを使って治療したら怪我は綺麗に消えた。

 下手に傷が残ったらソラさんが発狂していたかもしれない。

 

 そして一番危険な状態だった暁さんはアルフィルクが病院に連れて行ってくれた。

 暁さんはここでは何の治療もできないから、人間の医者に診てもらうしかない。

 私もお世話になった暁家専属のお医者さんに連絡を入れたので、後はお任せしよう。



 ひとまず全員の治療が終わり、私は展望ホールの椅子に座って一息ついた。


 一緒に治療してくれていた双牛ちゃんは疲労がピークに達してしまったのか、フェルカドさんの肩を借りて眠っていた。


 私の隣にはミラと鷲羽さんが座っている。

 そして反対側にはフォーマルハウトが座っていた。


「ちょっとフォーマルハウト。あんたいい加減にしなさいよ」

「ふぁんのふぉふぉら?」

「いつまで未明子の指から血を吸ってるのよ。もういい加減アニマも回復したでしょ?」


 流石にアニマを使いすぎたのか今度はフォーマルハウトがアニマ切れを起こしてしまい、仕方なく私の血を与えていた。


 いい加減血を取られすぎて干からびそうだけど、考えてみればフォーマルハウトも戦闘後だ。

 あれだけ治療を行えばアニマが切れるのも仕方がない。


 それを怒りの表情で睨む鷲羽さん。

 その隣で巨大な芋虫でも見るかのような過去最大級の嫌悪の表情で見るミラ。


 ……うーむ。


 やっぱりフォーマルハウトがいるところにミラを近づけさせちゃ駄目だな。

 私的には、見た事のないミラの顔を見られたのは嬉しいけど。


「鯨多未来。その顔は可愛くないからやめなさい」

「……私の未明子の大事な血液があんな奴の体に……」

「気持ちは分かるけどそれなら見えないように向こうに行ってなさいな」

「そんなの無理だよ。あいつが未明子の指を噛みちぎったらどうするの?」

「大丈夫よ。こいつ未明子には逆らえないんだから」

「許せない。私だって飲んだ事ないのに」

「そこ? 血なんて飲むものじゃないわよ」

「鷲羽さんはいいよね。戦ってる時は未明子と一緒だし、血ももらってるし。私なんて見てるだけしかできないのにさ。帰ってきた鷲羽さんは手足が千切れてて心配してたのに気がついたら治ってるし。何か私一人だけ蚊帳の外だよ」


 ミラがヤンデレさんみたいになってしまった。

 これはこれで可愛いけどフォロー入れた方がいいかな。


「ミラは訓練の時も手伝ってくれたじゃん。今日だって私達を見守っててくれたから生きて帰って来られたんだよ。それに戦いの後もみんなを助けてくれたし蚊帳の外だなんて思ってないよ」

「未明子が優しい」


 前の戦いの時も、助けてくれる仲間がいなかったら鷲羽さんは死んでいた。

 戦い終わった後にケアしてくれる人がいるのは本当に心強い。

 そういう意味では今回はミラやアルフィルクのおかげで戦闘後の事を心配せずに全力で戦えたと思う。



「……さて」


 アニマが充実したのか、フォーマルハウトが私の指から口を離した。


 口元を拭いながら真正面に座る荒っぽい女性。

 アルデバランさんの方を向く。


 アルデバランさんはサダルメリクちゃんと違って身長が高い。

 髪も長いし何より目つきが飢えた狼のようにギラついていた。

 

 フォーマルハウトが怪しくて近づきがたい存在なら、アルデバランさんは危険そうで近づきがたい。

 こうやって向き合ってるだけでも威圧感を感じるほどだ。


「アルデバラン。お前があのチビの中にいたと言うのはどういう意味だ?」

「言葉通りだ。サダルメリクと私は一つの体を共有している」

「一つの体って……体格も全然違うじゃない。それに着てる服まで変わるなんて」

「そうだな。一つの体と言うよりは一つの存在としてまとまっていると言った方が正しいか。サダルメリクと私はどちらか片方の存在だけが表に出て来られる」

「二重人格みたいなものか」

「だが人格は別々でも記憶は共有している」

「じゃあ、あなたは今までずっと私達と一緒にいたって事?」

「そうだ。お前とはすばるの家で共に風呂に入ったよな」

「あ! あー……あれもそういう事になるのね……」

「何故言わなかった? お前がアルデバランと分かっていたなら稲見はそれを踏まえた作戦も立てられた」


 フォーマルハウトの言う通りだった。


 今回の戦いだけじゃない。

 1等星が仲間にいるなら、今までの戦いだってもっと楽に戦えていた。


 私の隣にいるフォーマルハウトと戦う時だってアルデバランさんがいればあそこまで苦戦はしなかった。


「まず、この姿に戻るには大量のアニマが必要だ。サダルメリクの状態では何十日もアニマを溜め込まなくてはいけない。いつ8本腕と遭遇するか分からない状況では容易に戻れなかった」

「8本腕?」

「過去に私とサダルメリクを倒した奴だ。私達はそいつに復讐するのが目的だ。まさかセプテントリオンのリーダーがその復讐相手だとは思わなかったがな」

「だから今回はアルデバランの姿に戻って戦ったのね」

「そうだ。サダルメリクの中に私がいると分かれば間違いなく頼ろうとしただろう? ただでさえ戦力不足なんだからな」

「それはそうでしょうね」

「もう一つはすばるへの負担だ。私に乗っている時、すばるには精神的な負荷がかかる。その上固有武装を使用するのにも精神力を酷使するんだ」

「あの物を浮かしていた能力か?」

「プレヤデス・スタークラスター。最大7つの物体を自由に操れる。しかしそれをコントロールするには同時に複数の物を動かすイメージが必須だ」

「そんな脳に負担の強そうな能力……。それはすばるが創った能力なの?」

「いや、前のパートナーが創った能力だ」

「え?」


 何故か鷲羽さんが困惑していた。

 

 1等星は固有武装を3つ持つ。

 その内1つが元々持っている能力で、残りの2つは契約したパートナーが創り出す事ができる。


 鷲羽さんの場合はアル・ナスル・アル・ワーキが元々の能力。

 他人の固有武装を奪うのは私が創った能力だ。


 だからアルデバランさんの固有武装の1つが前のパートナーが創りだした能力でも驚くような事ではないと思うんだけど。


「未明子が不思議そうな顔をしているから説明しようか」


 私の心情を察したフォーマルハウトがフォローに入った。


「通常ステラ・アルマは別の世界に再構成された際に全てをリセットされる。その中で1等星は記憶 ”だけ” を引き継げる。だから本来パートナーが創った固有武装はリセットされるんだ。なのにこいつは以前の固有武装をそのまま引き継いで再構成されている。普通ではありえない状態だ」

「じゃあアルデバランさんは倒されたけど破壊はされずに、再構成もされてないってこと?」

「いや、あの8本腕に破壊された」

「うーん……全然分からないや」

「考えられるとすれば固有武装だな」


 その答えを出したのはフォーマルハウトだった。

 アルデバランさんはその答えに頷いて肯定を示す。


「私の固有武装はプレヤデス・スタークラスター。それに元々持っているランパディアース。残った1つはサダルメリクと合体できる能力だ」

「合体!? サダルメリクちゃんと!?」

「これも以前のパートナーが創り出した。任意のステラ・アルマ1体と合体して能力を使用できる。サダルメリクは防御力が高かったから攻撃特化の私と相性が良かったんだ」

「サダルメリクが妙に我慢強いのは二人分の耐久力を持ってたからなのね」

「8本腕にやられる寸前にサダルメリクと合体しようとしたんだが、合体してる途中でやられた。結果不自然な形で混ざり合ったらしく、再構成された時には一つの体で記憶も能力も持ったまま復元されたんだ。しかもサダルメリクの方がメインでな」

「何かシステムのバグみたいだ」

「そう受け取っても間違いは無いだろう。私自身も何故こうなってるのかは分からん」

「今もサダルメリクちゃんはこの会話を聞いてるんですか?」

「聞いている。聞いているがさっさと帰って寝たいそうだ」


 とてもらしい反応だった。

 とりあえずサダルメリクちゃんの存在が消えてしまった訳ではなさそうで安心した。


 でもそれならそれで気になる事がある。


「どうやってサダルメリクちゃんに戻るんですか? まさかこのままアルデバランさんのままなんですか?」

「いや。もうしばらくしたらサダルメリクに戻る。一時的な変身だ。……なんだ未明子。私は嫌なのか?」

「いえ、アルデバランさんが嫌ではないですけどサダルメリクちゃんに会えなくなるのは嫌です」

「相変わらずの正直者だな。まあいい。お前が考えたアウローラのおかげで私が表に出やすくなった。これからは顔を合わせる機会も多くなるだろう」

「そうなんですね。じゃあこれからよろしくお願いします」


 話してみるとそれほど怖い人でも無いのかもしれない。

 そう思って軽い気持ちで握手をしようと手を出したら……突然フォーマルハウトが間に入ってきた。


 更に鷲羽さんが私の腕を掴む。

 妙に息のあった連携でアルデバランさんへの握手を止められてしまった。


「え? 二人ともどうしたの?」

「未明子気をつけて。こいつはフォーマルハウトとは別の意味で危険なの」

「言ってくれるな姫。私はこいつみたいに見境無しじゃないぞ?」

「危険?」

「こいつは女は全て自分の物だと思っている。例え仲間だろうと敵だろうと、人間だろうとステラ・アルマだろうと、女であるなら自分が好きにできると思っているんだ」

「ええ!?」

「失礼な事を言うなフォーマルハウト。すばるの仲間だぞ? 乱暴にはしない」

「いま私達が止めなかったらそのまま抱えて連れ去ろうとしていただろう?」

「それは当然だ。何たってすばるとサダルメリクのお気に入りだしな。私も興味がある」

「と言うことだ未明子。間違ってもこいつと二人きりになるなよ?」

「……き、肝に命じとく……」

 

 鷲羽さんとフォーマルハウトが最初から警戒していたのはそういう事か。


 サダルメリクちゃんが戦いの後に荒っぽくなるのも、やたらえっちの数が多くなるって言ってたのも、アルデバランさんの性格が滲み出てきてたんだろうな……。


「まあいい。今日のところは大人しく帰ってやる」

「いやどこに帰る気よ。その顔のまま暁家に入ったら叩き出されるわよ?」

「そんなもん街まで繰り出せば女なんていくらでもいるだろ? 適当に誰か拾って朝までどっかで寝る」

「あなたアホなの!?」

「未明子、やれ」

「ういー」


 私は右腕をアルデバランさんに向けた。

 まさかこの能力を味方に使う事になるなんて。


「あ! てめえ! やめろ!」

「アルデバランさんに命じます。サダルメリクちゃんに戻るまでここで過ごして下さい。あと、みだりに女の子に手を触れないこと」


 右腕につけた腕輪が光り、アルデバランさんに服従の固有武装が発動した。











今回も読んで頂きありがとうございました。


今後の更新スケジュールです。

1月2日(木)はお休みを頂いて1月9日(木)から再開予定です。

そして1月からは隔週で月・木の2話更新したいと考えています。


1月9日 (木)133話

1月13日(月)134話

1月16日(木)135話

1月23日(木)136話

1月27日(月)137話

1月30日(木)138話


といった感じで1話更新の週と2話更新の週を交互に繰り返していく予定です。

あまりに厳しくてまた1話更新に戻ってしまったら申し訳ありません。

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