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第124話 The Other Side of the Wall⑦

「今のもう一回言ってもらえる!?」


 オーパ秘密基地。

 展望ホールに声が響く。


 声の主は梅雨空で、声をかけられているのは稲見だった。


 セプテントリオンの襲撃に備えて訓練が続く中、この日は他のメンバーも参加していた。


 作戦担当の稲見とパートナーのフェルカド。

 戦いに参加できない代わりにメンバーのサポートを担当しているアルフィルクとミラ。


 稲見から大事な話があると言われ入院した夜明を除く全員が集まっていた。


 主に作戦に関する話だったのだが、概要を伝え終わった稲見が最後にとんでもない事を言い出したのだ。


「私がフォーマルハウトさんに乗ります」

「本気で言ってるの!? 稲見がそこまでする必要がある!?」

「あります。いまお伝えした作戦を実行したとしても、まだ全然分が悪いです」

「だからって……!」


 声を上げて反論しているのは梅雨空だけだったが、他のメンバーもそれぞれ複雑な表情をしていた。


 中でもあからさまに不満そうな顔をしているのはミラだった。


 ミラはフォーマルハウトが生きていて、この世界に残っているのを聞いてはいた。


 あるマンションに閉じ込められていて自分からは外に出られない。

 未明子の命令には逆らえない。

 今後ミラとは絶対に顔を合わせない。


 未明子からそう言われ、自分を殺した相手ながら自分を救ってくれた相手でもあるフォーマルハウトに対して、複雑な思いを抱えながらも処遇に関しては口を出さないようにしていた。


 ただそれはフォーマルハウトが相応の扱いを受けているからギリギリ許容できていたに過ぎない。

 稲見がパートナーとなって再び戦いの場に連れ出すなど賛同できる筈もなかった。


 突然裏切って大切な仲間が攻撃されるかもしれない。

 そうなればまたあの惨劇が繰り返される。

 いくら命令に逆らえないと言われてもそれが不安でたまらなかった。


 ミラ以外のメンバーもそれは同じだった。

 まだフォーマルハウトに対する恨みは残っている。

 ミラを救うのに力を貸したところで許せる相手ではないのだ。


「ご存知の通りフェルカドは攻撃向きではありません。しかも能力がバレている以上、敵も対策を立ててくるでしょう。そうなると私は足手まといになります」

「そんなこと……」

「いいんです。私が敵だったらまず私を潰します。戦力を他に回せるし仲間の士気も下がる。そこを逆につくんです」

「それで伏兵からのフォーマルハウトで出撃ですか」

「別にフェルカドとの契約を解消するわけではありません。あくまで一時的にフォーマルハウトさんと契約するだけです」

「アイツがそんな中途半端な契約を許すかしら?」

「それに関してはすでに確認は取れています。ね、梅雨空さん?」

「……そうね。それは私も聞いていたわ」

「あ。もしかしてあの時?」


 アルタイルには心当たりがあった。

 光の道でミラを救った後、稲見達とフォーマルハウトがしばらく戻って来なかった時だ。

 拠点でミラの処遇について話し合っている間、光の道の中でその話をしていたのだろう。


「あの時はフォーマルハウトの新しいパートナーを見つけるって意味だと思ってた。まさか稲見が自分で乗るなんて思ってなかったわ」

「稲見ちゃん。さっきソラちゃんも言ってたけど、何でそこまでするの?」

「何でって……負けたら死ぬんですよ? 死ぬのが嫌ならやれる事は全部やるべきです。死ぬと分かった時にああしておけば良かったって後悔しても遅いじゃないですか。死ぬのに比べたら別のステラ・アルマと契約するぐらい大した事じゃないですよ」


 それはごく最近まで仲間を失っていたメンバーの心に強く刺さる言葉だった。


 ミラが殺された時、本当になりふり構わず抗えていたのだろうか。


 死を覚悟するのと死なないように全力で備えるのは全く別の話。

 稲見は多くの死に触れてきた経験から、死に対する向き合い方がシビアだった。


「フォーマルハウトさんがコントロールの効かない人だと言うのは分かります。だけどあの人の力が今の私達に必要なのも分かりますよね?」


 稲見の考えを否定できる者はいなかった。

 フォーマルハウトの強さは全員が身に染みて分かっている。

 敵に回したくない相手ほど味方になった時は心強い。


 ただし本当に味方になってくれれば、だが。



「ミラさん!」

「は、はい!」


 稲見は未明子の影に隠れるように立っているミラに近寄った。

 

「この中で一番反対したいのはミラさんの筈です。ミラさんはフォーマルハウトさんの被害者ですから。でもミラさんが賛成して下さるなら、他の皆さんは納得してくれると思うんです」

「そ、そうですかね?」


 勢いに押されて思わず敬語が出てしまう。

 いまの稲見には、隣で見ていた未明子でも口を挟めない程の圧があった。


「もしミラさんがどうしても反対なら止めます。でも代わりに犬飼さんの負担が大きくなるのも覚悟して下さい。さっき伝えた通りこの戦いは犬飼さんが主軸です。フォーマルハウトさんの力が借りられない分、その皺寄せは全部犬飼さんにかかります」

「あ。えーと、そうだよね……」


 そう言われてしまったらミラは反対できない。


 すばるは稲見の話の進め方に感心していた。

 日頃から未明子に負担をかけたくないと言っていた稲見がどうして未明子主体の作戦を提案してきたのか疑問だったが、どうやらミラにこれを認めさせる為の布石だったようだ。


「どうでしょうか? 私がフォーマルハウトさんに乗れば犬飼さんの負担が減ると思うのですが」

「えっと、その、ちゃんとフォーマルハウトを制御できるのならいいと思います」

「それは誓って私が何とかします」

「じ、じゃあ、稲見ちゃんにお願いしようかな」

「ありがとうございます」


 稲見の押し勝ちだった。

 ミラにとって一番の弱点である未明子を利用して、見事自分の意見を通したのである。


「ミラさんにご納得いただけたようなので、皆さんもよろしいですか?」


 ここで反対意見を主張するような空気の読めないタイプはここにはいない。

 ミラの次に不満そうにしていたツィーも渋々納得したようだった。


 何とか説得に成功した稲見は安堵のため息をつく。

 

 そして安心したのは稲見だけではなかった。

 稲見のパートナーであるフェルカドも内心穏やかではなかったのだ。

 大きな問題もなく話がまとまった事に胸を撫で下ろす。


 それを察したアルフィルクがこそっと声をかけた。


「フェルカドもそれでいいの?」

「はい。私は最初のセプテントリオン襲撃の夜から説得されていたので」

「そんな前から? 稲見って結構頑固なのね」

「真面目なんですよ。そういうところが可愛いんです」


 パートナーが一時的とはいえ別のステラ・アルマと契約するのはフェルカドにとっても好ましい事ではないだろう。

 しかしフェルカドは稲見を信頼して主張を支持したのだ。

 アルフィルクはそういう判断を下せるフェルカドを少し羨ましいと思った。


「なら、そういうところがフェルカドの可愛いところよね」

「アルフィルク、何か言いましたか?」

「いいえ。別に」



「基本的な作戦は変わりません。私は最初出撃せずに拠点で待機します。それで敵が伏兵を警戒して戦力を温存してくれれば目論見は達成。他のみなさんで時間を稼いでもらって犬飼さんに各個撃破して頂きます。ただし誰かが少しでもピンチになったらすぐに私が出撃します。もし伏兵が効かずに敵が一斉に攻めてくるようだったら、その場合もすぐに出撃します」


 特訓によるパワーアップ。

 稲見の作戦。

 更にフォーマルハウトの戦力が組み込まれるのなら、セプテントリオンと渡り合えるかもしれない。

 

 少しだけ見えてきた希望に、全員の気持ちも高まるのだった。


「まあ、この私がピンチになるなんて事は絶対に無いと思うけどね!」

「確かに。ソラちゃんのアウローラ凄いもんね!」

「あればっかりは五月でも真似できなかったからな。梅雨空を尊敬してもいい」

「私が黒馬さんを倒す前にソラさんの方が勝っちゃったりしてね!」

「梅雨空ならやりかね無いから怖いわ」

「わたくし達も梅雨空さんに負けないようにしなくてはいけませんね」

「梅雨空さん、運もいいし、持ってる」

「そうでしょうそうでしょう! 私に任せておきなさい! もっと褒めてくれてもいいのよ! ……で、ムリは何でそんな顔してるのよ?」

「いや、別に……」



 そして迎えた決戦当日。


 みんなの期待を存分に背負った梅雨空が最初に窮地に陥った事により、予定通りに稲見が出撃してきたのだった。








 現在。

 桔梗と対峙する稲見。


 遠景に隕石が落下していく中、全身金色の派手な機体と紫色の禍々しい機体が向き合っていた。

 

「あの隕石、ここらには降ってこないみたいだね」

「そりゃ能力者の近くには降ってこないですよ。考えれば分かりませんか?」

「あれぇ。何か挑戦的だね。もしかして怒ってる?」

「怒ってないですよ。ただ、努めて冷静でいないと暴れ出してしまいそうで」

「怖いなぁ。フォーマルハウトなんかに乗ってるせいじゃないの?」

「どうでしょう? 別に気分が悪いわけではないですよ。むしろ気分はいいです。散々みんなを虐めた相手に仕返しできるんですから」

「えー? 僕はまだ誰も傷つけてないけどな」

「セプテントリオンが、月が、犬飼さんに何をしたか忘れたんですか?」

「いや全然知らないし。そもそも犬飼って誰だっけ? あ、捕獲対象の子か」

「捕獲対象? また犬飼さんを連れていくつもりなんですね?」


 掲げたフォーマルハウトの右手の指にエネルギーが集中していく。

 攻撃の予兆に気づいた桔梗はすぐにその場から離れた。


「そうはさせませんよ」


 右手の五指から紫色のビームが発射された。

 

 そのビームは異常な速さだった。

 早めに回避行動を取ったはずの金色の機体も完全には回避できず、脚の先に少しだけ被弾していた。



 コル・ヒドラエ。

 フォーマルハウトが好んで使用する速射型のビーム兵器だ。

 10本の指それぞれから撃つ事が可能で、発射されたのを見てからではまず回避できない弾速を誇る。


「とんでもなく速いね! 速さだけならアルカイドのビームよりも上なんじゃない?」

「その浮かんでる小さな砲台ですよね。試してみればいいじゃないですか」

「煽るねえ」

「その砲台で梅雨空さんを痛ぶったんですよね? 見てましたよ」

「痛ぶったって! 僕は普通に戦っていただけだよ!」


 桔梗は5機の浮遊砲台をフォーマルハウトの周囲に配置し、5方向からビームを浴びせた。


 しかしそのビームは突然現れた紫色のゲートに全て吸い込まれていく。


 桔梗は浮遊砲台を別の場所に再配置してビームを放つが、それも同じようにゲートで無効化されてしまった。


「何だいそのゲート!?」

「ああ、残念。ビームの速さとか関係なかったですね」

「ふん。ならばこれならどうだい!」


 今度は浮遊砲台と合わせて両手の砲台も使ってビームの乱射を試みる。


 上下左右、前方後方。

 あらゆる方向からビームが放たれるが結果に違いはなかった。


 全て展開されたゲートに飲み込まれて無効化されていた。


「気は済みましたか?」

「これは参った。なかなか恐ろしい固有武装を持ってるね」

「これは固有武装じゃないですよ。フォーマルハウトさんの固有武装はこっちです」


 稲見が空を指さす。


 見上げた空は紫色の巨大な雲で覆われていた。

 フォーマルハウトを中心に半径300メートル程が厚い雲に覆われ、立川の街に影を落としている。


「いつの間にこんな大きなものを……」

「あなたが無駄な努力をしている内に作らせてもらいました」


 雲はフォーマルハウトの背中の煙突から吹き出ている煙が集まって作られていた。

 雲が一定の密度に達すると、紫色の毒々しい雨が降り始める。


 その雨に触れた金色の機体は、機体の表面から白い煙をあげた。


「ええ!? 何か煙吹いてるんだけど!?」

「この雨、1等星以外のステラ・アルマが触れると溶けるみたいですよ」

「何だって!?」


 雨が本格的に降りだし、アルカイドは体のいたるところから白い煙を吹き出し始めた。

 雨が装甲を溶かして本体にまで影響を及ぼせば、それだけでダメージになる。


 逆にフォーマルハウトは雨を浴びる事によって体の周りにオレンジ色の環を作り出した。


 この環が現れている間は全ての能力が上昇する。

 上昇率はアウローラには及ばないが、この能力の本領はアニマの回復量も上昇する点だ。


 その回復量は凄まじく多少アニマを消費したところですぐに回復する。

 メイン武装としているコル・ヒドラエ程度なら100発撃ったところで残量は減りもしない。


「へぇ! 長い時間は戦えないという事か!」

「長時間戦うつもりだったんですか? もしかして舐めてます?」

 

 機嫌の悪そうな声を出した稲見は、両手でコル・ヒドラエを発射した。

 左右10本の指から順次繰り出されるビームの速度と連射力で弾幕を形成する。


 桔梗はその攻撃を浮遊砲台からのビームで必死に相殺し、残った左足の砲台でフォーマルハウトを狙った。


 しかしコル・ヒドラエを撃ち続けながらも自動でゲートが発動。

 本命の攻撃もあえなく無効化された。


「そのゲートずるくないかい? こっちの攻撃は効かないのにそっちだけ攻撃できるなんてインチキだろう?」

「そう思いますか? 不快感を与えられてるなら嬉しいなあ」


 稲見は桔梗をあざ笑った。


 明らかに稲見の性格はいつもと違っていた。

 それはフォーマルハウトの影響でそうなったのか、元々燻っていた感情が湧き出したのかは分からない。


 しかし一方的に相手を蹂躙できる事に喜びを感じているのは間違いなかった。


「随分調子に乗っているようだね。しかしセプテントリオンを舐めてもらっては困るな」

「へえ。まだ何かできるんですか?」

「アルカイドはただビームを撃つだけのステラ・アルマではない! 僕がそうであるように、この機体は複数の仮面を持っているのさ!」


 桔梗はコル・ヒドラエの攻撃を回避しながら上空に飛び上がった。


 そこでまた謎のポーズを決める。


「アルカイドのもう一つの固有武装をお見せしよう!」


 そう言うと突然アルカイドの金色の体が輝きだした。

 更に装備している装甲が動き始める。


 肩、腕、胸、腰、膝、脚。

 全ての装甲がせり上がり、クルンと一回転して金色から黒色に変わる。


 次々に装甲が裏返り完全に変化すると、今度は本体の色も黒に変色し始めた。

 同時に浮遊砲台の色も黒に変わっていく。


 やがて金色の部分は全て消え、アルカイドは黒一色の機体に変形した。


「これぞアルカイドのもう一つの姿。ベネトナシュさ!」


 アルカイド転じてベネトナシュ。


 装甲が裏返った事により体の突起が減り、変身前よりも丸みを帯びた姿になっていた。

 しかしそれよりも色の変化の印象が大きく、まるで全く別の機体のように見える。


「アルカイドとベネトナシュは表裏一体。二つの姿を好きに変えられる固有武装なのさ!」

「姿を変えるのに意味あるんですか? 結局無駄なビームを撃つだけでしょ?」

「そうでもないよ」


 浮遊砲台が稲見の周囲を再び囲む。

 すると砲門だった部分を塞ぐようにカバーがかかり、その上に刃が形成された。

 

「アルカイドは射撃型の機体。対してベネトナシュは近接攻撃型なのさ!」


 先端が刃となった浮遊砲台ならぬ浮遊刺突刃が稲見に向かって突進する。


 砲台の時とは違い砲撃のポジション取りが必要なくなった分、速度が上がっていた。


 稲見はすぐに自分の真後ろにゲートを開いた。

 そして攻撃が届く前にその中に入り込む。


 閉じるゲートに刺突刃が突っ込むも、完全に閉じられた事により攻撃目標を見失ってしまった。



 桔梗の背後に紫色のゲートが現れ、そこから稲見が姿を現す。


「ふむ。やはりそのゲートで無効化できるのは飛び道具だけのようだね?」

「……」

「ビームのように一度撃ち出したら進行方向が変わらないものはゲートに入れてしまえばいいが、自ら動く物はゲートから戻ってきてしまうからね。違うかい?」


 稲見は何も答えず、コル・ヒドラエを構えた。


「つまり!」


 桔梗が急接近してくる。


 稲見は右手でコル・ヒドラエを撃ち出し迎撃を試みるが、軌道を読まれていたのか回避されてしまった。


 接近するベネトナシュが両腕を握り込む。

 すると腕の砲台からも刃が飛び出した。


 それを見た稲見はツィーの固有武装であるアイヴァンとナビィを作り出す。


 桔梗が両腕の刃で斬りかかり、稲見が2本の刀で受け止める。

 斬撃の勢いを表すかのように刃と刃の衝突で火花が飛び散った。

 

「君は接近戦には付き合わなければいけない」


 次いで桔梗は刺突刃を操作した。


 5つの浮遊する刃が稲見を取り囲む。

 しかし両腕を防御に使わされているため迎撃する手段がない。


 突進してきた刺突刃は今度は完全に目標を捉え、5本ともフォーマルハウトの脚に突き刺さった。


「どうだい? こうやって攻められたら防ぎ切れないだろう?」


 刺突刃は突き刺さりながらもなお進行し、脚に深く食い込んでいく。


「このまま脚を抉り落としてあげるよ。その次は腕。最後に首を斬り落として僕の勝ちかな?」


 桔梗の言う通り、刺突刃がフォーマルハウトの脚を抉り取るのは時間の問題だった。


 勝利を確信した桔梗が両腕に力を込める。


「それ、いいですね」


 絶体絶命の状況の中、稲見がポツリと漏らす。


「まずは脚を抉って……」

「うん? 君は何を言ってるんだい?」


 一瞬、風を切る音が聞こえた。

 

 その次にドサドサという重いものが地面に落ちる音が聞こえる。


「……え?」


 地面には2本の脚が落ちていた。

 それは黒い装甲を纏ったベネトナシュの脚だった。


 フォーマルハウトの肩と胸の装甲が棘のように変形し、それが空に浮かぶベネトナシュの両足を切断したのだ。


「何だってえええッ!?」

「次は腕でしたっけ?」


 悪寒を感じた桔梗が急速にその場を離れた。


 しかし離れた先には2つのゲートが開いていた。

 桔梗がそれに気づいた時にはすでに手遅れだった。


 それぞれのゲートから刀が飛び出し、ベネトナシュの両腕を切断した。


 腕も両脚と同じく音を立てて地面に落下。


 両腕両脚を失った事で飛行のコントロールを失い、ベネトナシュ本体も地面に落下した。



 稲見は脚に突き刺さっている刺突刃を1本ずつ抜いて、丁寧にコル・ヒドラエで破壊していった。


 最後の1機を破壊したところで、今度は右手で刺突刃がつけた傷口を覆う。


 フォーマルハウトの右手に青い光が現れ、しばらくすると傷口は綺麗に消えていた。


「これでよし、と」


 刺突刃によってつけられた5箇所の傷を全て治療すると、目の前にゲートを開いてその中に入っていく。


 ゲートの出口は桔梗の目の前に開いていた。


 満身創痍になった桔梗の前にフォーマルハウトが姿を現す。


「で、最後に何でしたっけ? 首を斬り落とすんでしたっけ?」


 稲見の冷たい声が桔梗に向けられた。


「あれぇ!? 僕が大ピンチだよ!?」








 空から降ってくる隕石は立川全域に及び、それぞれのメンバーも対処を迫られていた。


 未明子は以前フォーマルハウトとの戦いでこの能力を経験している。

 その時は隕石を全て撃ち落としたが、今回はあえて手を出さずに回避に専念する事にした。


 隕石は次々と昭和公園に落下して地面を破壊していた。


 当然おみなえしも隕石を回避しなければいけない。

 推力を噴射して長い距離を移動するアルタイルと違い、アリオトの移動は4本脚で空を駆ける。

 それ故、一つの隕石を避けるのには多くの移動が必要だった。


 能力を駆使して回避を続けるおみなえしに未明子は固有武装の照準を向けた。


「ごめんね黒馬さん!」


 その言葉に謝意は一切なかった。

 やれ仕留めたりという気持ちでアル・ナスル・アル・ワーキを放ったのだった。


 隕石への回避行動を取っていたおみなえしは、まさか来るとは思っていなかった砲撃に反応が遅れてしまった。


 あわや命中というところで4本の脚それぞれにアニマを巡らせ、超スピードのステップでビームを回避したのだった。


「こんな状況で攻撃!?」

「おしい!」

「まさかこの隕石……!」

「その通り! 実はこれも作戦なんだ。私達はもう50回くらい訓練したから、こんな中でも普通に戦えるよ!」



 フォーマルハウトに乗ると決まってからは稲見も特訓に参加していた。

 操縦に慣れる為もあったが、能力を利用した作戦を立てる為でもあった。


 その一つがこれ。

 しし座レグルスの固有武装「コル・レオニス」

 地球の周りにある石や宇宙ゴミ(スペースデブリ)を地球に引き寄せる能力だ。

 

 この能力に初めて巻き込まれたら、回避に気を取られて敵と戦うなどまず無理だろう。


 しかしこの隕石群を回避しながら戦う訓練をしていた未明子達にとっては、隕石は利用すべきオブジェクトに過ぎなかった。

 

「ちょっとズルい気もするけど、こういうステージだと思ってね!」

「触れたら即死のステージギミックなんてクソゲーだよ!」


 未明子は容赦なく砲撃を続けた。


 アルタイルの固有武装は静止しなくても砲撃が可能。

 故に隕石を避けながらでも継続して砲撃を続けられるのだ。

 

 おみなえしは未明子と隕石どちらも背後にならないように立ち回るが、高速で動くアルタイルにどうしても気を取られてしまう。


「くそっ! 流石に厳しい!」

「そう言いながらも全部避けてるの凄いよ!」

「こう見えてもセプテントリオンの筆頭だからね! 情けない戦いはできないんだ!」


 この短い時間でおみなえしはこの空域を把握しつつあった。


 飛来する隕石の隙間を縫いつつ未明子に接近して来る。

 それを嫌って離れようとする未明子だったが、隕石が邪魔でうまく距離を離せない。


 アウローラ状態であれだけ距離を詰められないように戦っていたのに、おみなえしは逆に隕石を利用して未明子の動きを制限してきたのだ。


((強い!))


 未明子とアルタイルは改めて敵の強さを認識した。


 落下してくる隕石の動きを予測しながら、こちらの回避先を潰すように動き接近してくる。

 状況への修正能力が半端では無い。


「どうして初見でそんな事できるの!?」

「経験だね! 戦ってれば不測の事態なんていくらでも起こるよ!」


 とうとう射程まで詰め寄ったおみなえしは槍で攻撃を仕掛けてきた。

 アウローラ状態の回避力で攻撃を避け、砲撃で応戦する。


 隕石の雨が降る中、ギリギリの攻防は続いた。


 やがてお互いに有効打の出ないまま隕石群の流れが終わる。


 それでも2人の攻防は止まらなかった。

 

「まさか切り抜けられるなんて思わなかったよ」

「あれなら超魔界村の幽霊船の方が難しかったね」

「あーあそこ難しいもんね。序盤の難易度じゃないよね」

「でも私から言わせてもらうと、まだ戦い始めて一年も経ってないのに互角に戦われている方がショックだな」

「へへ。褒められちゃった」

「ねえ犬飼さん。もしこの勝負で私が勝ったら、セプテントリオンに入らない?」

「何ですと!?」

「私がセレーネ様に交渉してみるよ。セプテントリオンになれば犬飼さんの罪も帳消しになると思うからさ!」

「何で私ってこんなに勧誘されるんだろう。チョロそうに見えるのかな……。でもさっき殲滅の命令が出てるって言ってなかった?」

「勿論! だから機体は破壊させてもらうよ。でも安心して、きっと北斗七星の機体に空きがでるから」

「黒馬さん。それは話にならないよ」

「どうしてさ? 悪い話じゃないだろう?」

「私が鷲羽さん以外に乗るわけないでしょ!」


 アリオトの槍がアルタイルを完璧にとらえた。


 しかしまるで蜃気楼に槍を刺したかのようにアルタイルの姿がグニャリと崩れ、槍は何もない空間を刺していた。


「残像!? そこまで早く動けるの!?」


 おみなえしの背後に回った未明子は、そのガラ空きの背中にアル・ワスル・アル・ナーキを撃ち込んだ。


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