第109話 この世界は何のためだって
「ミラ! ミラ! 本当にミラなのね!」
「心配かけてごめんねアルフィルク」
「ミラちゃーんッ!! 寂しかったよぉッ!!」
「私もです五月さん。少し髪を伸ばしたんですね」
管理人から連絡を受けたアルフィルク達が拠点にやってきた。
稲見、フェルカド、梅雨空、ムリファインの4人は鯨多未来と面識が無いので後日改めてという事で呼ばれなかったが、見知ったメンバーとはようやく再会を果たしたのだった。
鯨多未来も他のみんなも嬉しそうに話していた。
もう絶対に会えないと思っていた人に会えたんだから当然か。
一度死んで生き返った後に、同じ知り合いに会うのってどんな気持ちなんだろう。
私も何度か死んで再構成されたけど生前の知り合いに会えた事は無い。
だって私が死んだって事は、私を知ってる人も死んだか、世界ごと消滅しているんだから。
こんな風に再会できるなんて羨ましい。
私は少し離れたところでその様子を眺めていた。
そして私の隣で未明子もその様子を眺めていた。
「混ざらなくていいの?」
「私はさっきたくさん話せたから今はみんなに譲るよ」
「……嫌な言い方に聞こえたらごめんね? 思ったより嬉しそうじゃない気がする」
「うーん。嬉しくないわけじゃないんだけど、まだ実感がなくて」
「あんなに激しいキスをされてたのに?」
「こんな感じの夢は何十回と見たからさ」
「え?」
「実はミラが生きてましたって夢をね、何度も見たんだ。でもいつも夢の最後に絶望して終わりだったんだ」
余計な事を言って、嫌な事を思い出させたかもしれない。
未明子は元々規則正しい生活を送るタイプだった。
平日だろうと休日だろうと朝は同じ時間に起きて、夜は日付が変わる前に眠る。
寝覚めも入眠もバッチリでどんなに疲れていても一晩眠れば回復していたそうだ。
それが鯨多未来が死んだ後はほとんど眠れなくなった。
寝床に入る時間は変わらなくても、そのまま朝まで眠れないなんてざらだったらしい。
うまく眠れた日があったとして、そんな夢を見ていたのでは休めていないのと同じだ。
そんな毎日が未明子の目の下に深いクマを作った。
活発でいつも楽しそうだった優しい目は、この世の全てを恨むような目に変わってしまったのだ。
「だから今回も最後には夢みたいに絶望するんじゃないかって心配でさ」
「未明子……」
「何度もこれは夢じゃないって確認したけど、やっぱりまだ信じられないみたい」
未明子はいつもの濁った目で無感情に笑った。
彼女の自己肯定感の低さはそのまま自身の望みへの信頼に繋がる。
自分なんかの望みが絶対に叶うはずがない。
そう思い込んでいるから ”大切な人が帰ってきた” なんて信じられないんだろう。
これだけ苦しんだのに未明子はまだ救われていない。
会いたかった人に会えたのに、彼女の心は深い闇の中に沈んだままのように思えた。
目の前にいる鯨多未来は抱き合ったり、手を繋いだり、それぞれの形で再会を確かめている。
他のみんなはあっさりと鯨多未来との再会を受け入れられたのに、それを一番強く望んでいたはずの未明子だけが受け入れられないなんて悲しすぎる。
「未明子ー!」
みんなと一通り話を終えたらしい鯨多未来が呼んでいる。
未明子は「ちょっと行ってくるね」と言って、その輪の中に入って行った。
代わりに、その輪から夜明がこちらにやってきた。
「ふう。一度死んだ人に再び会うなんて初めての経験だよ」
「ステラ・アルマになればそこそこ経験するわよ?」
「おやおや。別の世界の同一人物はもはや他人と言ったのは君の方じゃなかったかい?」
「夜明は本当に人の話を良く覚えているわね」
「勿論さ。聞いた話はどこでどう繋がるか分からないからね。今回だってしっかりと情報を蓄積した結果だよ」
「確かに。そう考えると夜明の凄さが分かるわ」
「そうだろうそうだろう。私だってアルフィルクにお世話をされるだけのボンクラじゃあないんだよ」
「誰もボンクラなんて思ってないわよ。それよりも夜明に相談があるの」
未明子達は話に夢中になっているので、いま少し外したところで問題は無いだろう。
私は夜明を管理人のところへ連れて行った。
管理人は例の事務室で書き物をしているところだった。
私達が来たのに気づくと席を立ってこちらにやって来る。
「もうミラとの再会は済んだのか?」
「今日のところはね。これからじっくりと時間をかけてこれまでの空白を埋めていくよ」
「そうするといい。アルタイルが一緒にいるという事はミラについての話か?」
「夜明には早めに知っておいてもらった方がいいと思って連れてきたの」
「何だかあまりいい話ではなさそうだね?」
「うむ。微妙なところだな」
管理人はさっき座っていたデスクに戻ると、机に置いてある端末を操作した。
モニターを確認しながらこちらに声をかける。
「さっきアルタイルには話したんだが、ミラの変身能力に問題が発生した」
「と言うと、ロボットに変身できなくなった……とか?」
「驚いたな。その通りだ。ある程度予測していたのか?」
「まあね。あの時も言ったが、光のトンネルの中に残されていたミラくんの構成体はあくまで”大部分”だ。その他の部分は消滅した世界で霧散してしまった。ならばどこかが欠けてしまったと考えるのが自然だ」
「昨日あの後ミラの体について調べてみたんだが、ステラ・アルマの体を構成する組織が本来の87%ほどしかなかった」
「残りの13%がロボットに変身する為の組織だったのかい?」
「ほとんどがそうだ。その部分を失ったことによって変身するのは不可能となった」
「ふむ。ほとんど、という言い方が気になるね。それ以外にもあるという事かな?」
「ある。実はこちらの方が大きな問題だ。ミラはその13%を失った事によりアニマを体に固定できなくなってしまった」
「アニマを固定する? それはどういう意味だい?」
まさかそんな欠点まであったなんて。
それはステラ・アルマにとっては非常事態だ。
管理人の言う通り、ロボットに変身できない事よりも重たい事実かもしれない。
「アルタイル、同じステラ・アルマであるお前から説明してもらってもいいか?」
「分かったわ。私達ステラ・アルマは核と肉体を維持する為に常にアニマというエネルギーを使っている。車で言うガソリンのようなものね。もしアニマが尽きてしまうと核が崩壊を始め、それに連鎖して肉体も崩壊を起こすの。ここまでは知ってるわよね?」
「それはまあ理解しているつもりだよ。でも確かアニマは激しい使い方をしなければ少量は回復していくんだよね?」
「そう。パートナーがいなかったとしても、むやみにゲートを開いたりしなければ少しずつ回復していくの。でもそれは私達の体の中にタンクのようなものがあるからよ」
「同じく車で例えるとバッテリーのような物かな?」
「それが分かりやすいわね。回復したアニマ、もしくはパートナーから供給されたアニマはそのバッテリーに溜められていくの」
「ではアニマが固定できないと言うのはそのバッテリーが故障しているせいなのか」
「そういう事。鯨多未来のバッテリーが壊れているせいで、アニマがどんどん体から失われていってしまうの」
車のバッテリーを例えに出すと理解しやすくはあるけど、ステラ・アルマがアニマを溜めるのなんて極自然に行っている事で体の中にそういう特別な機関があるわけでは無い。
その部分を直すだとか、交換したりだとかなんて不可能だ。
「風船に穴が開いていてどんどん空気が漏れている状態なのか」
「その穴をふさぐための組織は宇宙に散ってしまった。おそらくフォーマルハウトの治癒能力でもこれは治せないと思う」
「思ったよりも重要な13%だったみたいだね……」
「でも一応対策はある。そうよね?」
私の問いに管理人が頷く。
「風船の空気が常に抜けているなら、定期的に空気を入れてやればいい」
「つまり未明子くんがアニマを供給し続ければいいのか」
「それしかないわ。どれくらいの頻度で供給してあげればいいの?」
「犬飼だったら毎日キス程度の供給で足りる計算だ」
「良かった。それくらいだったら現実的ね」
「いや。でも毎日欠かさずというのは結構難しいものだよ? 例えばミラくんは一人や、未明子くん以外の友達と泊まりがけの旅行には行けない。未明子くんと離れて二日目にはもうアニマが切れてしまう」
「う。そう言われるとそうね……」
すると未明子と鯨多未来は毎日一緒にいなければいけない。
パートナーだから普段から近くにはいるだろうけど、お互いの生活がある以上365日ずっと一緒というのは無理がある。
一日でも欠ければ、それがそのまま鯨多未来の消滅に繋がると考えると思った以上に大きいペナルティかもしれない。
……あれ。
そういえば。
ふと、私の中に嫌な予感が広がった。
今の話で思いあたることがあったのだ。
そして相変わらず私の嫌な予感は当たるもので、ホールの方から騒ぎ声が聞こえてきた。
夜明と管理人もその騒ぎ声には気づいたみたいだけど原因までは分からない。
だから私だけがすぐに部屋から駆け出て、騒ぎ声の方に向かったのだった。
ホールまで戻って来ると、みんなが慌てているのが見えた。
騒ぎの中心は鯨多未来。
そして彼女の腕の中にはぐったりと横たわる未明子がいた。
やはり嫌な予感はこれだった。
未明子が倒れたのだ。
原因は私とのキス。
昨日鯨多未来を救って帰った後。
そして今日の朝。
私は未明子とキスをしていない。
鯨多未来で頭がいっぱいの未明子に、いつも通りにキスしましょうなんて言えなかったからだ。
それが災いした。
鯨多未来が未明子からアニマを供給されないと駄目なように、未明子は私の中にある何かを供給されないと駄目なのだ。
すぐに未明子の元に駆け寄ろうとすると、鯨多未来に阻まれてしまった。
触らないでと言わんばかりに未明子を胸に抱えて離そうとしない。
「何をするの? いま大変だから近寄らないで欲しいよ」
「そんなの分かってるわ。少しでいいから未明子を離してくれない?」
「どうして? あなたはお医者様じゃないでしょう? すばるさん、救急車を呼んでくれませんか?」
「あの、ミラさん……少し落ち着いて任せてもらえませんか?」
「……どういうこと?」
ここにいるメンバーはどうして未明子が倒れたのか理解していた。
だからみんなすばると同じ反応だった。
鯨多未来だけ理由が分からず、みんなの反応を見て困惑していた。
「ミラ。こっちおいで? 未明子はすばるに任せれば大丈夫だから」
「アルフィルクまでどうしたの? 突然意識がなくなるなんて普通じゃないよ。すぐに病院に連れて行かなきゃ……」
納得のいかない顔をしながら、鯨多未来はアルフィルクに連れられて離れていった。
代わりに未明子を抱きかかえたすばるが私に目配せする。
私は頷いて未明子の元まで行き、これ以上何か言われる前にすばやくキスをした。
「えっ!?」
鯨多未来が驚きの声を上げる。
……気持ちは察するわ。
いきなり未明子が意識を失ったのにみんな冷静で、しかも自分が遠ざけられたあげくに、嫌いな相手がキスするんだもんね。
でもこうしないと今の未明子は駄目なのよ。
鯨多未来の顔が困惑から怒りに変わっていくのが横目で見える。
アルフィルクの腕を振り払って今にも飛びかかってきそうな空気を感じた時、未明子が目を覚ました。
「……あれ? もしかしてまた倒れてた?」
みんなが自分の周りを囲んでいるのを見てすぐに状況を理解したようだった。
ヨロヨロと立ち上がって申し訳なさそうな顔を向ける。
「そういえば今日してなかったね。ごめん」
とりあえず大事ないようで安心した。
だけど今度は別の心配事も生まれている。
「それはいいんだけど、あの子を説得してもらってもいいかしら? このままだと引っ叩かれそうなの」
それは比喩でも何でもなく、鯨多未来は顔を真っ赤にして拳を握り込んでいた。
アルフィルクが手を離せば闘牛のように私に向かって突っ込んでくるかもしれない。
生憎私にはマタドールの素養は無いので、そんな事をされたら吹き飛ばされてしまう。
未明子はすぐに鯨多未来の元に駆けて行って説明を始めた。
「ミラ、これはね……」
「浮気!」
「え?」
「未明子、それは浮気だよ!」
「いや違くて。これは毎日しなきゃダメな事って言うか」
「毎日してるの!?」
「え? ああ、まあ……そうだね……」
珍しく未明子が受けに回っていた。
そもそも鯨多未来が未明子に怒るのなんて初めて見た。
いつも、おしどり夫婦のように仲睦まじくしてたのに怒る時はしっかり怒るのね。
「ぐぬぅ……私のいない間に何があったのか全部話して!」
「ええ!? みんなが来るまで散々話したじゃん」
「そんな普段からキスする仲なんて聞いてないし、それをみんなが許してるのも聞いてないもん! 鷲羽さんとの関係も全部話してよ!」
とても意外だった。
この子、未明子の事になるとこんなに自分を出してくるんだ。
学校で見ていた、のほほんとした雰囲気の女の子と同一人物とは思えなかった。
「落ち着いて! 話すから!」
「うわーん! 未明子がクラスの女の子に取られたぁ……」
そしてそんな泣き方をする子だったのね。
……認識を改めておこう。
子供のようにグスグスと泣き出してしまった鯨多未来をアルフィルクが宥めていた。
未明子がさっき話さなかった私との関係や、一度死にかけた事を改めて細かく話すと、その都度顔色を変えて騒ぎ出しそうになるので、もうアルフィルクは彼女を抱きかかえるどころか両腕でガッチリホールドするみたいな体勢になっていた。
「……って感じで、怪我の後遺症で鷲羽さんにキスしてもらわないと意識が続かないようになっちゃったんだ」
未明子が話し終わっても鯨多未来は納得いかなそうな顔で私達を見ていた。
「ああ……ミラが拗ねてる……何てかわいいのかしら」
「アルフィルクはちょっと気持ち悪いよ。そろそろミラくんを離してあげたらどうだい?」
「半年ぶりなんだからもうしばらくこのままでいさせて」
「甘やかしがすぎる……」
「鷲羽さんとはパートナーとして一緒にいるんだ。だから浮気じゃないよ」
「そう言われてもショックだよ。まさか2人の関係がそこまで進んでるなんて思ってなかった」
「そうしないとフォーマルハウトは倒せなかったんだ。みんなで協力してギリギリ勝てたくらいだし」
「でもその月の討伐部隊には負けたんでしょ?」
鯨多未来の視線は私に突き刺さっていた。
「1等星なのに未明子を守り切れないなんて……」
「ミラ。それは違うよ。負けたのは私が弱かったからだ。鷲羽さんのせいじゃない」
「さっきから鷲羽さんの肩ばっかり持つよね」
「別に贔屓してるわけじゃないよ。だって鷲羽さんは私の無茶な戦い方に付き合って命懸けで戦ってくれたんだから」
「うう……何かモヤモヤする」
私から鯨多未来に言える事は無い。
戦いのパートナーとして未明子を奪い取ったのは本当だし、力及ばず傷つけてもいる。
だから何を言われても反論はしないつもりだ。
こうやって未明子が必死に守ってくれているだけで涙が出そうなほど嬉しい。これで充分だ。
「……話は分かりました。私が死んだ後に鷲羽さんが頑張ってくれたのも理解しました。……納得はしてないけど。でもそれだったら、もう鷲羽さんとの契約は解除してもいいよね?」
まあ、この流れになるだろうと思った。
未明子は鯨多未来の復讐をするために私と契約をしてくれた。
その後は鯨多未来を救い出すため。
その二つの目的が達成された今、未明子が私と契約を続ける理由が無い。
契約の続いている本来のパートナーの元に戻るのが自然だ。
ただ、それは不可能だった。
私と夜明しか知らないけど彼女はもう戦えない。
ロボットに変身できない彼女はステラ・アルマとしてこの戦いに関わる事はできないからだ。
それをこのタイミングで私の口から語ったところで状況が悪化するだけ。
今は未明子に任せて、いったん元の契約関係に戻るのが得策だろう。
――そう思っていたのに。
「いや。鷲羽さんとの契約は解除しない」
未明子の口から予想外の言葉が出た。
何で?
どうして?
未明子は彼女が変身できない事はまだ聞かされていないはず。
ここで私との契約を続ける理由が分からない。
「私は私の望みのために鷲羽さんに力を貸してもらった。だから今度は私が鷲羽さんの望みのために力を貸す番だ。自分だけ望みが叶ったから ”じゃあさよなら” なんて絶対に言いたくない。だから契約は解除しない」
私はいま何を聞いているのだろう。
それとも少し前から夢でも見ているんだろうか。
そんな都合のいい言葉があるだろうか。
ステラ・アルマにとってパートナーと一緒に戦うのは一番の望みだ。
それは誰だって同じ。
いま未明子とのパートナーの権利を持っているのは鯨多未来だ。
それなのにどうして私が選ばれているんだろう。
未明子のその言葉は本気だった。
私を慮っての言葉じゃないのはすぐに分かる。
本気の本気で、私との契約を続けてくれる気でいる。
私が心から願っていた一番欲しい言葉だった。
でもそれは鯨多未来にとっては一番言って欲しくない言葉でもあった。
彼女はその言葉を聞いて、今にも泣き出してしまいそうなくらいに瞳を潤ませた。
「……何で? そうしたら私はどうしたらいいの? 私、未明子の契約者なのに。未明子と一緒に戦うのは私なのに」
「分かってる。だからそれは考えるよ。ミラも大事なパートナーなんだから」
「おかしい。おかしいよ。未明子は私だけのものなのに。どうして鷲羽さんにそんなに優しくするの?」
「鷲羽さんも私にとって大切な人になったからだよ」
「……鷲羽さんと体を重ねたから?」
「ううん。ちゃんと心で決めた」
「嘘だよ。私とはまだしてくれてないのに、先に鷲羽さんとしちゃうなんて。そんなの酷いよ」
えっ。
まさかの発言に場が凍りついた。
私は当然もう済ませているものだと思っていた。
他のみんなも当然そうだと思っていた。
だからそのやり取りに全員が動揺していた。
取り分け動揺していたのがすばるだった。
涼しい顔こそ崩さないものの、似合わない脂汗をダラダラと流している。
額から流れた汗が机にポタポタとこぼれる程だった。
衝撃のカミングアウトにより未明子の初めての相手は鯨多未来でも私でも無く、全く関係のない暁すばるだったというのが判明したのだった。
すばるは暗に「言わないで下さい。どうかそのまま流して下さい」という願いを込めた視線を未明子に送っていた。
未明子の性格的にさらっと言ってしまいそうだが、それがバレれば更に大きなショックを与える事になる。
全員の緊張感が一気に上がる中、未明子が言葉を続けた。
「ミラとは約束があるでしょ? 私、忘れてないよ」
良かった。
とりあえず地雷は避けられた。
全員が安堵のため息をついた。
「私もう未明子が分からないよ。たった半年間で別人になったみたい」
「変わった……のかもね。でも私がミラを一番好きなのは変わってないから」
「その言葉が遠くに感じるよ。……ごめんね。少し頭を冷やして考えたいかも。本当はもっと一緒にいたいけど今日は一旦帰るね」
「あ、じゃあ送るよ」
「大丈夫。一緒に帰っても気まずそうだし」
「そっか……」
「アルフィルク。ありがとう。もう大丈夫だから」
鯨多未来はアルフィルクの腕から抜け出すと、みんなに向かってお辞儀をした。
「改めて。みんな、私を助けてくれてありがとう。これからまた一緒に戦っていけるから今後ともよろしくお願いします!」
そう言うと、ずっと置きっぱなしになっていた自分の荷物を持って拠点から出て行ってしまった。
未明子は後を追わずに黙って見送った。
明らかに落ち込んでしまった未明子にアルフィルクが耳打ちする。
「私が送るわ。どうせミラの家の鍵も私が持ってるし。あなたはアルタイルと今後どうするかを相談しておきなさいな」
「アルフィルク……」
「大丈夫よ。こんな事であなたとミラの絆は揺るがないわ。それは分かってるでしょ?」
アルフィルクはウインクをすると、ミラの後を追って行った。
後に残された未明子は鯨多未来と同じようにみんなに頭を下げた。
「ごめんなさい。変な空気にしちゃって……」
「いや構わないよ。ミラくんが戻ってくる以上、遅かれ早かれこうなる事は分かっていたからね」
「いいんじゃないか? ワンコはミラともう一度こういうのもしたかったんだろ?」
「そう……ですね。はい。そうです!」
「ミラちゃんもさ、半年ぶりに未明子ちゃんのアニマをもらってまた酔ってるのかもしれないから気にしない方がいいよ。勿論アルタイルちゃんもね!」
「五月……」
「それに、未明子さん。いま、一番穏やかじゃないのは、すばるだから」
「メリク。お黙りなさい」
未明子は何の事か分かってなかったみたいだけど、他のメンバーは笑っていた。
私の存在が大きな原因である以上大きな事は言えない。
だけど私達の関係は精算をしなければいけないんだ。
この先も一緒に戦ってくれると言った未明子に応える為にも、私もちゃんと答えを出さなければ。
その後、夜明が残ったメンバーに鯨多未来の今の状況を話した。
驚きと戸惑いの反応の中、未明子だけは何かを決心したようだった。




