第106話 真っ白な未来 君と描いて⑤
未明子とのデートから数日後。
夜明から招集の連絡が届いた。
学校終わりで未明子と一緒に拠点に行くと、すでに私達以外は全員揃っていた。
全員が集合しているのを見ると改めて人数の多さに驚いてしまう。
ステラ・アルマとステラ・カントルが合わせて12人。何とも大所帯になったものだ。
それを一番感じているのはこのユニバース最初のステラ・カントルである夜明だろう。
最初は自分とアルフィルクの2人だけだったのに、今ではチームに分かれてバレーボールができてしまう程の人数に増えているのだから。
「数とは力だ。何事も数が多ければ選択肢が増える。選択肢の多さは未来の多さだよ」
「突然どうしたの夜明? お腹減っちゃった?」
「こらこらアルフィルク。私を腹ペコキャラに仕立て上げようとするのは止めたまえよ」
「夜明ってば人が多い所に行くと何故か空腹になるものね」
「目から入る情報の多さにカロリーを消費するからね。しかしこれ位の人数なら平気さ」
「あ! アタシ、バームクーヘン買ってきたよ!」
「私もドーナツ買ってきました」
「わたくしもフルーツ大福を買ってきました」
「え!? みんなそうやってお菓子を持ち寄る感じだったの? なんか持ってたかしら……カバンの中にビーフジャーキーが大量にあるわね」
「何で梅雨空はそんなしょっぱい物を大量に持ち歩いてるんだ」
それぞれが持ってきた差し入れであっという間に机の上が賑やかになる。
人が集まるならと稲見とフェルカドが飲み物を用意してくれていたので軽いパーティ状態だ。
「甘いものと、しょっぱいもので、永遠にループ、できる」
「メリク、夕飯前なので控えめにして下さいね」
「すばるさん、このフルーツ大福ってこのまえ月で見たやつ?」
「同じお店の物ではないと思いますが、気になってつい注文してしまいました」
「何で月にフルーツ大福があったん?」
「さあ……何故でしょう?」
三人寄ればかしましいなんて言うけど、これだけ女の子が集まるとおしゃべりが止まらない。
本題に入る前に日が変わってしまいそうだ。
「あの、みなさん! まずは夜明さんから今日集まった理由を聞きませんか?」
あまりに話が進まないのでとうとう稲見が声を上げる。
こういう時に最初に動くのは今や一番歳下の稲見になってしまった。
最年長で言い出しっぺの夜明はどうしたのかと見てみると、ビーフジャーキーが噛みきれずに苦戦していた。
「ほら夜明。一回ペッしなさい」
「赤子か?」
ツィーのツッコミをスルーして、ジャーキーを渋々口から出した夜明が咳払いをする。
「緊急の呼び出しにスケジュールを合わせてくれてありがとう。今日みんなに集まってもらったのは情報共有をしたかったのと、ある実験のためだ」
「情報共有と実験?」
「うむ。ここのところバタついていたからね。一度自分達の置かれた状況を整理しておいた方がいいと思うんだ」
夜明は展望フロアの隅に置いてあるキャスター付きのホワイトボードを引っ張ってきた。
みんなが集まっている付近まで運んでくると、ホワイトボードにマーカーで色々と書き込んでいく。
「私達は先日、月に宣戦布告を行った。これにより通常の戦闘から月との戦闘へと移行した」
「通常の戦闘が他の世界と戦って勝ち抜くってやつだっけ?」
「その通りだ梅雨空くん。一定数の戦闘を勝ち抜けば最後に月の用意したボス戦が行われる。それに勝てば晴れてその世界は戦いから解放されるというものだ。それに対して私達はこの戦いを管理する月と直接戦うことを選んだ」
ホワイトボードには9399世界と記された地球と月が描かれていた。
夜明が月にマーカーを突き立てる。
「この場合の勝利条件は月の女神セレーネを倒すこと。その為にセレーネの私兵であるセプテントリオンを倒すことだ」
夜明は月の上にセレーネとセプテントリオンを書き足していく。
「月で戦えるのはセプテントリオンだけなの?」
「いや、梅雨空くん達が戦ったルミナスが5万体配備されているらしい」
「ふーん」
「ふーんって梅雨空。あんな大きいのが5万体もいるのよ?」
「でもアレ弱いじゃん。時間かけていいなら全部私がぶっ壊すわよ」
「あ、あなたどんだけ自信あるのよ……」
私は直接見ていないけど、あの戦いで2体のルミナスを倒したのは稲見と梅雨空らしい。
エネルギーを操れる稲見が敵の攻撃を利用して倒したのは分かるけど、梅雨空は単身突っ込んで倒したそうだ。
私もルミナスをそれほど脅威だとは思っていない。
でも最近戦い始めたばかりの梅雨空が単騎で落とせるような機体ではないと思うのだけれど……。
「ここまでが現在の状況だ。前回の戦いは痛み分けで終わったが次は総力戦になる可能性が高い。その対策を考えねばいけないね」
「夜明さん、そこに書いてある9399世界って結局なんなの?」
「セプテントリオンも言っていたが私達の世界は9399世界と呼ばれているらしい。これは月が管理の為につけた番号で、別に9399個目の世界というわけでは無いそうだ」
それぞれの世界に番号が付けられているなんて知らなかった。
そもそもこれは月と関わらなければ分からない事実だから、今まで月と対峙した事のない私が知らないのは当然だった。
「これはすばるくんが確認を取ってくれた」
「はい。わたくしが先日セレーネさんと話した際に確認いたしました」
「確認を取ってもらって悪いが、正直ここが何番目の世界だろうとあまり関係ないな」
「私もツィーくんと同じ意見だよ。ただしこれには面白い法則があるそうなんだ」
「これまで戦う世界は完全にランダムで選ばれていると言われていましたが、実はこの管理番号1000単位で争っている事が分かりました」
「1000単位で争うってどういうこと?」
「わたくし達でいうと9000世界から9999世界までが1つのグループとして争い合っているそうです」
「へぇー。何かそういうチーム分けみたいなのがあるんだ。じゃあ自分のところ以外の999個の世界が消えちゃったらどうなるんだろうね? 次のグループと戦うのかな?」
「その場合、勝利数に関わらず月への挑戦権が得られるそうです」
「何じゃそりゃ!? じゃあなるべく世界の数が少ないグループが有利じゃん!」
「そうは言ってもどのグループにどれだけの数の世界が残っているかは分かりませんからね。この辺りは完全にセレーネの遊び心だと思いますよ」
これも私の知らないルールだった。
あの女の事だから本当にただの気まぐれでこのルールを入れたような気がするけど、もしかしたらあまりに挑戦権を得られる世界が少なすぎる事への配慮なのかもしれない。
「ん? ちょっと待てよ。最初のグループだけ数が合わなくないか?」
「何で? どこのグループも1000個ずつでしょ?」
「馬鹿たれ五月。私達のグループが9000から始まるなら、最初のグループは1から999までしかないだろうが」
「あ、本当だ」
「わたくしもそこが気になったので聞いてみました。どうやら最初のグループには0世界という世界が存在しているらしいです」
「なに、その中二心をくすぐる、ネーミング」
「やはりメリクが食いつきましたね。0世界は唯一の特殊な世界。何が特殊なのかは教えてもらえませんでしたが、この世界はまだ勝ち残っているそうです」
「おお、何か謎のままになってるのが、更に面白い」
「とは言え私達とは違うグループなので0世界と戦う事はないでしょう。気にはなりますが今は詳しく知らなくてもいいと思います」
0世界。
確かに正の整数でも負の整数でもない0は他とは別枠のように思える。
どうして月がその世界を0としたのかは謎だけど、これは今議論しても仕方がないか。
「それよりもすばる、そんな情報を提供してくれるなら管理人は味方と考えて良いのね?」
「はい。月と戦うのは違反ではなく選択の一つとして許可されているそうです。ですので各世界の管理人は今まで通りの協力はするとおっしゃられていました」
「この前はあくまで未明子が違反をしたから非協力的だったって事かしら?」
「そうですね。勿論この先も違反行為があれば同じ態度を取ると思います」
管理人はあくまで月の使者。
セレーネの決めたルールを守らなければ力を貸す筋合いは無いって訳か。
まあ、ここの管理人は甘々だからそれでも何かしら協力してくれる気はするけど。
「そう言えば管理人の呼称ってどうなったの? やっぱりセレーネのまま?」
「いえ。お願いしたら固有名を教えてくださいましたよ」
「え!? 暁さん、それ教えてください!!」
「犬飼さんは何でそんなにあの方に熱心なんですか」
「色々隠されるからですよ! 隠されると逆に知りたくなるじゃないですか!」
未明子ってそういうの気になるタイプだったのね。
じゃあ気を引こうと思ったら何か隠し事をすればいいのかしら。
でも私、何でも話しちゃうから今更隠せる事が無いのよね……。
「まあ次に会った時にでも聞いてみてください。わたくしからの共有は以上となります」
「ありがとう。それでは次に五月くんからお願いできるかい?」
「オッケー! 実はこの前、セプテントリオンのメンバーとお茶してさぁ」
「セプテントリオンとお茶してさぁ!?」
五月からさらっと爆弾発言が出た。
流石にそれは予想だにしていなかった。
みんながシンプルに驚いている中で、ツィーはいきなり機嫌が悪くなり、梅雨空は物申したそうな顔をしていた。
「実はセプテントリオンの中に別の世界のアタシと友達だった人がいてね?」
「そういう可能性もあるんですね。でも何でこの世界の五月さんに接触してきたんでしょうか?」
「まあ……色々とあるんだけどちょっと話がしたかったみたいだよ。その時にできるだけ敵の情報を引き出したんだ」
「そういうのって話してくれるものなんだ? 藤袴って奴といいセキュリティガバガバね」
「そいつらが本当の事を言ってるか分からんがな」
ツィーが乱暴に机の上に頬杖をついた。
これは明らかに五月に対して不機嫌になっている。
五月は苦笑いしながらツィーに両手を合わせた。
「だからごめんて。ツィーを呼び出さずに敵と会ってたのは謝るよ。でも信用していい相手だと思うんだ」
「どうだかな? 腐っても月の連中だぞ。そんな簡単に信用できん」
ツィーの言い分はもっともだ。
セプテントリオンは敵で、その敵に負けて私と未明子は危うく死ぬところだった。
勿論正々堂々戦ったのだから負けた事を恨んだりはしていないが、だからと言ってお茶を飲みながら楽しく会話ができるかと言われれば難しい。
「信用できるかはひとまず置いておいて、聞いた話を共有してくれるかい?」
「うん。アタシが会ったのはセプテントリオンの1番と2番の子だった。元々アタシ達と同じで他の世界と戦ってたんだって」
「葛春桃もそう言ってたわね」
「それでボス戦まで辿り着いたんだけど、その直前の戦いでリーダー以外の子が負けちゃってボスと戦うのを諦めたらしいんだ。その後実力を認められてセレーネにセプテントリオンにならないかってスカウトされたみたいだよ」
「セプテントリオンってそうやって集められたんだ」
「で、セプテントリオンになる代わりに元々いた世界は戦いから解放されたんだって」
「なるほど。セレーネの下についた報酬として世界の平和を買ったのね。私は嫌だけど理解はできるわ」
「メンバー自体はセレーネの命令に従ってるだけでアタシ達に敵意は無いってさ」
実際に会った印象と五月の話から受ける印象に若干の差は感じるものの、確かに葛春桃以外のメンバーにはそこまで悪い印象は無かった。
私達が戦った黒馬おみなえしも戦う前は未明子と仲良くしていたし、もう一人の藤袴という少女も戦いに横槍を入れたりはしなかった。
命令に従っているだけ、というのは間違っていないのかもしれない。
「だからと言ってワンコが連れていかれたのも、アルタイルが殺されかけたのもアイツらがやった事に変わりはないだろ?」
「私もツィーさんと同じ。アイツらがどんなつもりだろうと、月側なんだからぶっ飛ばす相手には違いないわ」
ツィーと梅雨空がやたらと月に対して嫌悪感を抱いているのが伝わる言い方だった。
そう言えばこの2人とすばるは未明子を助けに月に乗り込んでくれたメンバーだ。
もしかしたら月で何か嫌な目にでもあったのだろうか。
すばるは特段変わった様子はないけど、感情を隠すのがうまいタイプだから表情だけでは分からない。
「ふむ。他には何か聞いたかい?」
「次は全員で攻め込んでくるって言ってた」
「やっぱりそうか。そこは予想通りだね」
「あと、攻めて来るならもうちょっと待ってってお願いしてみた」
「いや五月。流石にそのお願いは無理があるでしょ……」
「そしたら2月くらいまでは待ってくれるって言ってたよ」
「ええ……」
五月とその2人はどういう関係値なの。
いくら五月が友達だとしても敵からしたら待つ理由が全くない。
それは信用しない方がいいかも。
「だからその間に特訓するつもり。ツィーとはボチボチやってるんだ」
「あ! それ私からも提案したかったんです」
「未明子ちゃん?」
「私がまだ鷲羽さんの性能を引き出せていない事を実感したので特訓したいと思ってました」
「いいじゃん。みんなでやろうよ!」
「特訓ね。どうせしばらくライブもやれないし、そっちに集中してもいいかも。ね、ムリ?」
「わた……ボクは構わないけど怪我しない程度にしてね」
「分かってるわよ!」
模擬戦であそこまで殺意の高い戦いをする梅雨空の特訓……。
ムリファインの心配が的中しそうで怖い。
「私はフェルカドと夜明さんと一緒に作戦を考えます。多分なにか一つ戦局をひっくり返せる作戦が無いと厳しい戦いだと思いますので」
「稲見くんの言う通りだ。力が足りないなら頭を使うしかない。やれるだけやってみよう」
対策は立てつつ、個人の技量を伸ばす。
今できるのはそれが限界だろう。
敵が待ってくれるにしても、そうじゃないにしても、やれる事はしておかなければいけない。
次の戦いが私達の最後の日になるかもしれないのだから。
「他に誰か共有しておきたい事項はあるかい? なければ次に進みたいのだが」
「次って何だっけ? あ、ざくろっちの実験?」
「そうだ。少々みんなの力を借りる事になる」
夜明が私の方を見た。
それは最後の確認。
夜明に送ったメッセージから心変わりはない。
私はもう覚悟を決めたんだ。
黙って頷き返すと、夜明はこちらの気持ちを受け取ってくれたようだった。
他に何か言いたい事のある人がいないかを確認すると、夜明は全員に向かって重々しく言った。
「それでは今からミラくんの救出を試みる」
それを聞いた私以外の全員が動きを止めた。
アルフィルクすら聞かされていなかったのか、驚きの表情を浮かべて固まっている。
無論、誰よりも大きく動揺していたのは未明子だ。
「狭黒さん……あの……」
「何だい?」
「ミラの救出って?」
「前に話した通りだよ」
「でもそれって万に一つの可能性だって……」
「万に一つの可能性さ。さっき言わなかったかい? 数とは力だと。そして選択肢の多さは未来の多さだと。ここに集まった力が万に一つの未来を引き寄せたのさ」
粛々とその言葉を綴る夜明の表情は真剣だった。
彼女が真剣な顔をしている時は冗談やごまかしは一切ない。
だから本当に今から鯨多未来を救う気なのだ。
「あの、夜明さん。ミラさんって犬飼さんのステラ・アルマですよね? 確か亡くなったと聞きました」
「そうだ。ミラくんは死んだ。核を潰されて光の粒になって消えた」
「それはステラ・アルマの正しい消滅の仕方だと思います。消滅した人を救出なんてできるんですか?」
稲見が当然の疑問を口にした。
その疑問はみんなの頭の中にあった。
以前この話を聞いていた者ですら、本当に実現可能な話だとは思っていなかった。
あくまで未明子の気持ちに寄り添った発言だと思っていた筈だ。
だが狭黒夜明は違う。
やると言ったらやるのだ。
「普通なら無理だろう。ただしミラくんの場合は特殊なパターンが重なった。体は失ったが消滅はしていないんだ」
聞いた話でしかないけど鯨多未来は核を潰されて未明子の腕の中で光の粒となって消えた。
何をどう判断しても、それはステラ・アルマとしての消滅を迎えている。
話を聞いている未明子の瞳はいつものように暗く沈んだままだった。
まだ夜明の言い出した事を飲み込めないでいるようだ。
他のメンバーも同じ。
夜明自身を信頼していても消滅した者を救い出すなんて無理だ。
そういう顔をして話を聞いていた。
「この実験をする前に、まずステラ・アルマの命について説明しよう」
夜明が再びホワイトボードに書き込みを始めた。
「ステラ・アルマが破壊される、もしくは核を潰されて消滅した後、その構成体は宇宙に戻り時間をかけて地球に戻ってくるんだ」
「え? そうなの? ツィー知ってた?」
「いや。私は知らん」
「ボクも初めて聞きました」
それを知っているのは基本的には1等星。
3等星であるアルフィルク、2等星であるツィーやムリファインは知らない事実だ。
「私と稲見は知っていました。ステラ・アルマは体を失ったとしてもいずれどこかの地球に再構成されると聞いています」
「どうしてフェルカドは知ってたの?」
「以前いた世界にそれを知っている仲間がいました」
そう。
1等星がいない世界でそれを知っているとすれば外から情報を得ているパターンだ。
どこかで1等星からそれを聞いた者が他の者に話し、それを例えば戦いを通じて他の世界の者が知るなんてのは十分あり得る。
「ただし再構成された際に過去の記憶は全て失い、まったく新しい人格として生まれるとも聞いています」
「その通り。ステラ・アルマの命は宇宙を介して永遠に失われる事はないんだ。その代償として記憶はリセットされ新しい命となる。みんながこの世界に誕生する前後の記憶が曖昧なのはこの為さ」
その事実を初めて知るメンバーは驚愕していた。
生命のサイクルに対しての驚きは有るだろうが、それよりも自分が消滅して再構成されている可能性がある方が衝撃は大きいだろう。
何故ならその事実は、今のパートナー以外にも過去に契約したパートナーがいた事を示しているからだ。
今のパートナーを運命の相手だと思っているのなら尚更ショックは大きいはずだ。
「何で夜明はそれを知ってるの?」
「そこにいる1等星の子から聞いたんだよ」
みんなが私に注目したので、適当に手を振ってごまかした。
”実は1等星の記憶だけは残る” とバラされなかったのは面倒な質問を回避できて助かる。
「でもそれが真実だったとしたら、ミラはもうどこかの世界に再構成されているんじゃないの? しかも私達のことは忘れてるんでしょ?」
「いや、それは無いんだよアルフィルク」
「どういうこと?」
「ミラくんだけは幸か不幸かそのサイクルから外れてしまっているんだ」
「はあ!? 何でミラだけが!?」
動揺で大きくなったアルフィルクの声が展望ホールに響いた。
一番付き合いの長いアルフィルクにとっては、鯨多未来だけが他と区別されているのは許せないのだろう。
夜明の説明に対して反抗的な目でそれを訴えていた。
「ずいぶん賑やかにやっておるな」
アルフィルクの声が合図だったかのように、奥の部屋から管理人が姿を現した。
いつもの様に帽子を目深に被ってこちらにやってくる。
「狭黒。そろそろワタシの出番か?」
「ナイスタイミングだよセレーネさん。……おっと、もう違う呼び名なんだっけ?」
「とりあえずセレーネでいい。それよりもミラを救うなんて本気なのか?」
「本気さ。私の計算が正しいならセレーネさんに協力してもらえればミラくんを救える」
「管理人の力を借りるの?」
「その通り。そしてもう1人ここに呼び出す必要がある。未明子くん、連れて来てくれたかい?」
「はい。そこで待たせています。……おい!」
未明子がホールの出入口の方に声をかける。
するとそこから人影が現れ、ひょこひょことこちらに向かって歩いてきた。
ただ歩いて近づいて来るだけなのに何故か不快感を感じてしまうのは、もうコイツの天性の才能だろう。
「フォーマルハウト!?」
やってきたのはフォーマルハウトだった。
顔を見たアルフィルクの不機嫌ゲージが一気に上がる。
「こんばんわ。ここは賑やかだな」
「何でアンタがいるのよ!?」
「知らないよ。私は未明子に呼び出されただけだ」
「狭黒さんから呼んでおいて欲しいって頼まれたんだ」
フォーマルハウトまで呼ばれているとは思っていなかった。
命令の内容を変えたから、わざわざ会いに行って命令を書き換えなくても未明子が連絡するだけで部屋から出られるみたいだ。
フォーマルハウトは「やあやあ」と全員に挨拶をすると椅子を持ってきて未明子の隣に座った。
同じ机を囲んでいるというだけでツィーや五月の顔にも嫌悪が浮かぶ。
「そこの隅で話を聞いてたら死んだステラ・アルマを蘇らせるだって? 夜明は愉快な事を言い出すな」
「愉快でも何でも無いよ。本気だと言っただろう。あとお前は黙ってろ。不愉快だ」
「へーい」
夜明に釘を刺されたフォーマルハウトは勝手に机の上のお菓子をつまみ出した。
そのふてぶてしい態度にアルフィルクの怒りが今にも爆発しそうだ。
「夜明、こんな奴の力を借りる気なの?」
「そうだよ。未明子くんも言っていたが使えるものは全て使う。それで構わないよね?」
「はい。それでミラが救えるなら構いません」
未明子がそう言ってしまえば誰も文句は言えない。
少々不穏な空気になりながらも夜明は話を続けた。
「あとフェルカドくん、稲見くん」
「はい」
「君達にも力を貸してもらう」
「……私と稲見もですか?」
「うむ。それにムリファインくんと梅雨空くんもいいかい?」
「え!? 私達も!?」
4人は互いに顔を見合わせた。
まさか自分達に指名が入るとは思わなかったのだろう。
管理人。
フォーマルハウト。
フェルカド。
稲見。
ムリファイン。
梅雨空。
このメンバーで何をすると言うのだろうか。
私には全く予想がつかなかった。
だけど夜明の顔に曇りはない。
揃うべき者が揃ったとでも言わんばかりに6人を見る。
「さあ、ではこの6人でミラくん救出作戦を決行しよう!」
先日お知らせさせて頂きました通り応募用作品の執筆を進めたい為、来週からしばらくのあいだ更新を週に一回とさせて頂きます。
次回更新は6月27日(木)を予定しております。




