第100話 私達のフロンティア④
ベッドに寝かされている未明子を見た時、梅雨空は小学校の理科の授業でフナの解剖をしたのを思い出した。
臓器を観察する為におしりの方からハサミを入れていき、首の辺りまで切っていく。
子供心に体を切る時はメスを使うのだと思っていたら、メスは薄い皮や筋を裂くもので固い皮膚は解剖用のハサミで強引に切るしかなかった。
魚に痛覚は無いが反射でバタバタと暴れる。
クラスメイトが悲鳴を上げて目を背けている中、梅雨空は強い好奇心で切り開かれていく体をじっと見ていた。
皮膚が剥がれ落ちると内臓が見えた。
エラの横に小さな赤い塊があってそれが心臓だと教えてもらった。
心臓は本当にトクトクと鼓動をしていて、生きているんだなと感じた。
一通り観察が終わると、先生がフナを死なせてあげて下さいと言った。
みんな可哀想と口にしていたが、このまま意味もなく生かされている方がよっぽど可哀想だと思った梅雨空はフナの心臓にメスを突き立てた。
メスの刺さった心臓は少しの間だけ鼓動が倍くらいに早くなり、すぐに動かなくなった。
梅雨空は生き物が目の前で死ぬのを見るのは初めてだったし、自分で生きるのを止めるのも初めてだった。
友達には残酷だと言われた。
でも嫌がる人に無理やりやらせたらそれこそ残酷だ。
梅雨空は自分のやった事に一切後悔は無かった。
ただ、生というのはとても簡単に終わるものなんだという事をその時に学んだのだった。
その梅雨空が、目の前で同じように体を開かれている仲間の姿を見て胃の中の物を吐き出した。
まるで作り物のように並んだ、魚よりも複雑な臓器の数々が目に焼きつく。
それらが気持ち悪かったから吐いたのでは無い。
理不尽に体を開かれた未明子が可哀想でたまらず、精神が拒否反応を示した結果だった。
自分を応援してくれるあんな優しい子がどうしてこんな酷い目に合わなければいけないのか。
体が震える程の悲しみに包まれると同時に、激しい怒りが沸いていた。
すばるとフォーマルハウトの対応は早かった。
2人とも状況を把握するや否やすぐさま動き出す。
すばるは未明子の身体を拘束しているベルトを外し、フォーマルハウトは治癒の能力を発動させる。
人体に詳しいすばるの指示に従いながらフォーマルハウトの懸命な治療が行われた。
ツィーはその様子を見ながらファミリアの拘束を強めた。
口調も質問から尋問のそれへと変わる。
「コイツに何をした?」
「身体の中を調べていたんだ。見れば分かるだろう!?」
「何が目的だ?」
「目的も何もセレーネ様からの命令だ! お前こそ何が目的なんだ!?」
「それも言わなくても分かるだろ? コイツを助けに来たんだ」
「助ける!? それは無理だ! この女はここに運ばれてきた時点で虫の息だった。左半身の粉砕骨折に内臓破裂。脳波も異常でどっちみち助からない!」
お前はそんな状態の人間の体を弄んだのか
ツィーの頭にその言葉が浮かんだ時には、両腕でファミリアを締め落としていた。
梅雨空のような力任せでは無く、最適化された動きで動脈を圧迫し、苦しみの声を出させる間も無く相手の意識を刈り取っていた。
ファミリアの体が力を失って床に崩れ落ちる。
それを見計らったかのようにすばるが大声をあげた。
「ツィーさん! 梅雨空さん! 毛布か何か、体を暖められる物を探して下さい!」
指示を理解したツィーはすぐに動き出した。
部屋の壁に収納を見つけると次々に中を探し始めた。
吐いた後うずくまっていた梅雨空もすばるの言葉で動き出した。
自分の頬を両手で叩いて意識をハッキリさせ、まだツィーが探していない収納を乱暴に開けていく。
2人が片付けを度外視してそこら中をひっくり返すと、医療の為の部屋というだけあって清潔そうなシーツが見つかった。
それを持ってすばるの元へ向かう。
「これ、毛布じゃないけど使って!」
「助かります!」
ツィーと梅雨空がベッドにやって来た頃には未明子の治療は大分進んでいた。
すでに胸部は閉じており、腹部の傷も塞がり始めている。
「撫子、助かりそうか?」
「分かりません。微弱ながら呼吸はしていますが、とにかく体温が戻りません。傷が塞がっても衰弱が酷ければ命に関わります」
いつも健康そうな色をしていた未明子の肌は、まるで毛を毟ったニワトリの肌のような色に変色していた。
すばるが握る未明子の手も、人の肌の感触というよりも固いゴムのような感触だった。
明らかに血圧が足りていない。
「馬鹿言うな。生きているなら絶対に私が何とかする。お前達は脱出の準備でもしておけ」
それはこの場においては何よりも頼もしい言葉だった。
だがフォーマルハウトの額に滲んだ汗が、決して楽観できない状況だと言うのを示していた。
3人は見ている事しかできない。
いま未明子を救えるほどの医療的知識も技術も待ち合わせていないのだ。
ただただ、フォーマルハウトの能力を信じて待つしか無かった。
しかし状況は更に悪くなっていく。
突然、施設全体に緊急を知らせるアラームが鳴り響いたのだった。
「ちっ! タイムリミットか!」
保管庫に捕らえていた藤袴が見つかったのか、それとも存在感を薄くする固有武装の影響外であるファミリアの異常を察知されたのか、とにかくこの施設はアラート状態になってしまった様だ。
部屋から見える通路の先から、武装したファミリアの集団がこちらに向かって来る。
「フォーマルハウト、どれくらいで治療は完了する?」
「3分稼げ! そしたら地球に戻るゲートを開く!」
「撫子、いけるか?」
「はい。わたくしも戦います」
「私も! ここでもう一回くらい活躍しとく!」
「お前さっき吐いてたけど大丈夫なのか?」
「もう大丈夫よ! 胃の中の物出してスッキリした!」
「奴らが持ってる長い棒のような物には絶対に触れるな。あれは電気で筋肉を強制的に収縮させる武器だ」
「つまりスタンロッドだな。飛び道具じゃなければ問題ない」
3人は顔を見合わせ、治療室を出た。
通路の先には防護服を着たファミリアが30匹ほど待ち構えていた。
全員がフォーマルハウトの言っていた武器を装備している。
「この通路だと一度にかかって来られるのは3人くらいですね」
「つまり私達で壁を作って誰も通さなければいいって事だな」
「上等! いま物凄く頭に来てるから荒っぽくなっちゃうわよ!」
ツィーを中心に据え、すばる、梅雨空が両端を守る。
武装するファミリアの集団に対して3人は丸腰だった。
頭数も差がありすぎる。
普通ならどうにもならない戦力差だ。
状況的に有利と判断したのか、集団の先頭にいた3匹のファミリアが何も警戒せずに攻め込んで来た。
しかしその判断はあまりにも甘すぎた。
その3匹のファミリアは、一瞬で蹴散らされる事になったのだ。
手にしたスタンロッドを降りおろして来たファミリアは梅雨空の回し蹴りを食らって吹っ飛んだ。
未明子達がいる部屋とは別の部屋の窓を突き破って、ガラスと共に床を数メートル滑って行った。
反対側から攻めていたファミリアは、いつの間にか距離を詰めていたすばるに投げ飛ばされた。
天井にぶつかって派手な音を立てた後、地面に叩きつけられ口から吐瀉物をまき散らした。
左右の同胞がやられたのを目で追ってしまったファミリアは、ツィーの方に向き直るまでの一瞬で顎に高速の手刀を貰い、意識を手放してその場に倒れ込んだ。
まさに瞬殺。
この場において、3人は武装したファミリアよりも遥かに高い戦闘力を有していた。
例え武器を持っていたとしても。
例え相手の10倍の数を揃えていたとしても。
そこには絶望的なまでの力の差があった。
瞬く間に味方がやられてしまったファミリアにしてみれば、目の前にいるのは3体の鬼だった。
そしてその鬼達は恐ろしい形相でこちらを睨んでいる。
数の利を活かすなら相手が対応できなくなるまで攻め続けるのが定石。
しかし攻め込んだ数秒後の自分の姿が容易に想像できてしまう以上、そんな勇気のある者はいなかった。
ファミリアが尻ごみしていると、今度は鬼の方から敵に向かって行った。
うしろが詰まっているせいで後退できなかった最前列の3匹が、やぶれかぶれで迎え撃つ。
だが結果は何も変わらず、先程と同じように壁と天井に吹き飛ばされただけだった。
その光景を見た残りのファミリア達は恐怖から一斉に逃亡を始めた。
どうあがいても勝ち目が無い。
逃げなければアリの様に潰されていくだけだ。
悲鳴を上げて後退していくファミリア達を3体の鬼は、なお追いすがった。
逃げきれずに追い付かれたファミリアから次々と無惨な姿に変えられていく。
最早惨状
30匹ほどで編成されたファミリアは
3分も経たない内に
何一つ敵に攻撃を加えられず
全滅した
「お前らどこまでファミリアを追いかけたんだ」
「失礼いたしました。少し熱が入ってしまったようです」
「す……すばるさんって怒らせたら駄目なタイプだったのね。投げ飛ばされてた連中の泣き声が耳に残ってるわ」
「まあ少しは気が晴れたな。それよりも治療はどうだ?」
ファミリアを駆逐して治療室に戻ってきた3人が様子を窺うと、未明子の傷そのものはほとんど癒えていた。
だが顔色は悪いままで生気は全く感じられない。
「ステラ・アルマなら問題ないが人間だと分からん。言いたくないが普通ならとっくに死んでいてもおかしくない」
「連れ帰って医師に診せた方が良いですね。事情を説明するのも面倒ですし、暁の息がかかった病院に運びましょう」
「こういう時は近くに金持ちがいてくれて助かるな」
「もう犬飼さん動かしても大丈夫? わたし背負って行くよ?」
「梅雨空、お前は少し残れ。暁のお嬢さんと仏頂面は未明子を連れて先に戻るんだ」
未明子の治療を終えたフォーマルハウトは、部屋の隅に地球に戻るためのゲートを開いた。
「梅雨空をどうするつもりだ?」
「お前らは憂さ晴らしできて満足だろうが私はまだ鬱憤が溜まってるんだ。悪いが梅雨空には付き合ってもらう」
「……へ?」
フォーマルハウトは梅雨空に近寄りもう一つ別のゲートを開いた。
そこに両手を差し込み、中から1メートルほどの柄のついたハンマーを2本取り出した。
その片方を梅雨空に投げ渡す。
「ちょっ、何これ?」
「シンプルな武器だ。これで殴った場所が爆発する」
部屋の奥にある未明子が入れられていた装置の前に立ったフォーマルハウトは、持っていたハンマーを振りかぶると思いっきり振り下ろした。
ボゴォッ! と命中した場所で爆発が起こる。
爆発した場所は金属がひしゃげて黒焦げになっていた。
「こういう事だ。使い方は分かったな?」
「あーはいはい。なるほどぉ、理解したわ」
これで何をすべきか理解した梅雨空が悪い笑みを浮かべる。
フォーマルハウトはハンマーを肩に担ぐと、すばるとツィーに向かって言った。
「私と梅雨空で少し暴れていく。適当な所でずらかるからお前らは未明子を医者の所に連れて行け」
「承知しました。……あまり無茶はしないで下さいよ?」
「それは私の気分次第だな。おっと、戻る前に私の核を梅雨空に渡してやってくれ」
「そうでしたね」
すばるは懐にしまっていたフォーマルハウトの核の入ったポーチを取り出すと、それを梅雨空に渡した。
これを持ったまま地球に戻ってしまうと体と核が離れすぎて死んでしまうからだ。
「それでは先に戻らせて頂きます」
残っていく2人に会釈したすばるは、未明子を背負ってゲートの中に駆け込んで行った。
「梅雨空、危なくなる前に戻ってこいよ」
それだけ言い残すとツィーもすばるに続いてゲートの中に入って行く。
地球に戻った2人を見送り、フォーマルハウトと梅雨空はお互いに顔を見合わせた。
「これ、私が持ってていいの?」
「別に誰が持っててもいい」
「これがあったら命令に従うんでしょ?」
「別に命令なんかしなくても、いま考えてる事は同じだと思うがな」
施設内にはけたたましいアラーム音が鳴り続けている。
その内また警備の兵士がやってくるかもしれない。
時間をかける過ぎるとセプテントリオンがやって来るかもしれない。
だが未明子をあんな目に合わされては腹の虫が収まらない。
フォーマルハウトの言った通り2人の意思は同じだった。
気に入らない物は全部壊す。
2人はハンマーを高々と構えると同じ言葉を叫んだ。
「「ぶっ潰してやるッ!!」」
「鷲羽さん!」
未明子が叫んだ時、アルタイルの右腕が地面に落下した。
黒馬おみなえしの操るアリオトの攻撃をかわし切れず腕を斬り落とされたのだ。
『平気! それよりも相手の動きをよく見て!』
腕を喪失して平気な訳は無いが、泣き言を言っても敵の攻撃は止まらない。
空中で激しくぶつかり合う2体のステラ・アルマ。
しかし形勢は圧倒的に敵に傾いていた。
敵もアルタイル同様飛行能力を持っている。
空を飛べるという点では同等の性能だが、アルタイルには更に加速という特性があった。
それゆえ空中戦では無類の強さを発揮する。
しかしこの敵にはその加速が通用しなかったのだ。
その理由はアルタイルの加速飛行とはまた違う、自由飛行とでも言うべき敵の移動方法にあった。
戦闘開始直後、アリオトの腰に折りたたまれていた装甲が変形した。
本来の脚の後方にもう一つの脚を形成し、アリオトは4本脚となったのだ。
その姿は上半身が人間で下半身が馬であるケンタウロスの様だった。
アリオトは4本の脚で空中を蹴った。
踏めしめる場所は全て地面だとばかりに空を駆け、凄まじいスピードで移動して来たのだ。
アルタイルの加速は推力を噴射して高速で移動する能力。
例えば敵がいる方向に加速すれば、次の加速は前方でも、左右でも、上下でも好きに移動する事ができる。
ただし後方に加速する事はできない。
その為には今得た加速力を全て殺し、逆方向に推力を得なければいけないからだ。
それに対してアリオトの移動は空中を蹴った力を利用していた。
一歩一歩の推力はアルタイルの加速に及ぶべくも無いが、代わりに複雑な動きを可能にしていた。
右へ左へ。後方にステップした後、再び前方へ。
時には上から下に向かって走るなど、アリオトは空を縦横無尽に駆ける事ができるのだ。
未明子はこの高スピードの戦闘でアリオトの動きを捉えきる事ができなかった。
アル・ナスル・アル・ワーキをすでに5射。合計30発のビームを避けられていた。
必殺の威力を持つアルタイルの固有武装も敵にあたらなければ意味が無い。
むしろ発射の隙をついて接近されてしまい、近接戦闘を余儀なくされた。
アルタイルの接近戦における選択肢は右手のサーベルと左手のパイルバンカー。
パイルバンカーは精密な狙いを必要とするため動き回る相手には適さず、実質サーベルのみで応戦していたのだ。
敵は見た目通り近接戦闘を得意とする機体だ。
右手に持った槍でサーベルの間合いの外から攻撃されて、アルタイルは一方的にダメージを蓄積していった。
距離を取る為に後方加速してもすぐに追いつかれて同じことの繰り返し。
残りの攻撃手段はフォーマルハウト戦で使用した超加速による斬撃のみだった。
未明子はそのタイミングを慎重に見極めていた。
だがその高速移動を先に使用してきたのは敵の方だった。
空中を蹴る力に大量のアニマを込めて瞬間的に距離を詰めてきたのだ。
敵がアルタイルほどの加速力を持っていなかった為に何とか反応できた未明子は、攻めで使用するつもりだった超加速を敵の攻撃を回避する為に使用した。
反応できていなければ槍で胸を貫かれて負けていた攻撃。
だが完全な回避は叶わず、右腕を斬り落とされてしまったのだ。
「凄いね! まさかあれを避けると思わなかった!」
黒馬おみなえしの賛辞の言葉も虚しく、すでに未明子は詰め手を失っていた。
頼みの綱だった固有武装は封じられ、接近戦でも相手の方が上。
切り札の超加速による攻撃も右手を喪失した事によって有効的な戦法ではなくなってしまった。
加速で相手の攻撃を何とかいなし続けていても、それも時間の問題。
アルタイルのダメージも限界を迎えつつあり絶望的な状況だった。
『何で2等星の機体がここまで強いの!?』
「黒馬さんが強いんだ。動きと思考を完全に読まれてる。それにこっちの動きについてきてるのにアニマ切れを起こさないなんて」
『特別な2等星だからアニマの量も多い、という事かしら』
「絶対絶命だね」
『ここから逆転できそう?』
「頑張る。けど、正直難しいかも」
未明子が不調だったわけではない。
フォーマルハウトとの戦いを経てレベルアップしているのは確実だが、それでも黒馬おみなえしには及ばなかっただけだ。
「……」
『未明子?』
「一個だけ方法がある……けど、良くて相打ち、下手をすれば……死ぬ」
『……』
「なにより鷲羽さんを犠牲にしなきゃいけない戦法だから踏み切れない」
『……でもこのままだと確実に負けるだけだわ』
「そうだね。それは悔しい」
こうやって話している間も敵の攻撃は止まらず、どんどんダメージは増えていく。
すでに未明子もアルタイルも敗北の覚悟は決まっていた。
後はもうどこまでやるかだけだった。
「もし生き残れたら何でも鷲羽さんの言うことを聞くからやってみてもいい?」
『私が未明子のやりたい事を断ると思う?』
「そうだね。ありがとう」
未明子が感謝の言葉を伝えた時、敵の攻撃によってアルタイルの左腕が吹き飛ばされた。
この時点でアルタイルは両腕を失った。
もう攻撃をいなす事もできない。
アルタイルは一度だけ後方に加速して距離を取った。
敵はすぐに距離を詰めるべく空中を蹴って追いかけてくる。
「みんな、後は任せたよ!」
未明子はそう叫ぶと、迫りくる敵に向けて加速した。
敵の移動と合わせて一瞬で距離が詰まる。
その動きに反応したアリオトが槍を前方に構えた。
すると未明子は槍の先に向かって超加速で突っ込んだのだった。
「!?」
おみなえしがその動きに気づいた時には、超加速で向かってきたアルタイルの腹部に深々と槍が突き刺さっていた。
「な、何で自分から!? ……はッ!!」
槍に体を貫かれたアルタイルの背中から、6本の砲身が展開されてアリオトを狙う。
「この距離なら間に合わないよね?」
「そのためにわざと!? 犬飼さん!!」
アルタイルの固有武装 ”アル・ナスル・アル・ワーキ” から6本のビームが発射され、アリオトに命中した。
ビームが命中した事で爆発が起き、八王子の空に爆煙が広がる。
その煙の中から、人影が2つ落下していった。
変身の解けたアルタイルと未明子だった。
アルタイルは失った両腕と腹部から血を流し、戦いで崩れた民家の瓦礫の上に落下した。
そして未明子も、すぐそばに走る道路に何の緩衝も無く落下した。
高さにしておよそ20数メートル。
二人とも体を激しく地面に打ちつけ、動かなくなった。
爆煙が晴れると中からアリオトが姿を現した。
とっさにアニマを込めた移動で回避した為に、何とか直撃を免れていた。
直撃は避けたものの右半身は焼け爛れボロボロになっている。
未明子の捨て身の戦法で与えたダメージとしては悲しい程に被害は少ない。
だがおみなえしの判断が一瞬でも遅れていたらアリオトは破壊されていた。
それ位のギリギリの回避だったのだ。
「あ……危なかった……」
おみなえしは戦いにおいて最後まで気を抜かない。
本人的に言うなら対戦は画面に勝利メッセージが表示されるまで目を離しては駄目なのだ。
もしアルタイルを追い詰めた事で勝利を確信し、油断していたら自分達もあの2人のように落下して地面に叩きつけられていただろう。
その事実に心臓の動悸がおさまらなかった。
「ひッ! おみなえしちゃん! 大丈夫っすか!?」
「藤袴さん……私は大丈夫です。それよりも犬飼さんを」
「ひッ! 回収ですか? もう死んでません? この高さですよ?」
「一応生死に関わらず連行と言われているので連れて行きましょう」
「り、了解っす」
藤袴の乗るミザールが地面に着地する。
足元に横たわる未明子は耳と鼻から血を流し、腕も足もあらぬ方向に曲がっていた。
ミザールは左手に抱えた棺桶を地面におろすと、未明子を掴みあげて右手に乗せた。
「ひッ! 凄い。まだ息がありますね」
「では急いで月の医療局に運びましょう」
「へッ!? 助けるんですか?」
「死ぬには惜しいなと思っています。私情ですけどね」
「自分は別にいいと思いますけど……ステラ・アルマの方はどうします?」
「そっちはいいです。このまま死ぬならそれでも構いません」
「ひッ! 了解です! じゃあ月へのゲートを開きますね」
ミザールが空に手を掲げると、空中にゲートが現れた。
置いておいた棺桶を左腕で抱え直したミザールは、移動中に未明子が吹き飛んで行かない様に手で包み込んだ。
ふわりと空に浮かび上がり、ゲートに向かって飛行して行く。
アリオトもそれに続いてゲートに向かった。
途中で一度振り返り、瓦礫の上で無様な姿を晒しているアルタイルを一瞥する。
「……アルタイル、犬飼さんが負けたのは君のせいだからな」
おみなえしは吐き捨てるようにそう言うと、ゲートの中に飛び去って行った。




