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第6報

昨日から続けていた業務もひと段落し、背を伸ばすと、腹時計が鳴る音がした。これは自分のだ。時計を見ると、時刻は14時20分を示していた。昼飯時というよりはおやつの時間の方が近いが、おやつには12時ごろにチョコを一つ食べてしまった。順序は逆だが、お昼ご飯を食べることにした。

普段、昼飯はコンビニで何か買ったり、弁当を持ってくることも多い。だが今日は食堂で食べることにした。この時間でも内閣府庁舎内にある食堂は営業している。お昼時の営業は終わり今は喫茶の時間となったが、一部食事メニューも食べることができる。

2階にある食堂は、まばらではあるが人はいた。飲み物やデザートを食べている人が多いが、何かしらの食事を食べている人も少しながら存在した。自分と同じように仕事が立て込んで食べることが出来ていなかったのだろうか。ただ十分座ることができる程度には空きがある。

温泉卵をトッピングに乗せたカレーライスを頼み、それを空いていた適当な席へと持っていく。

いただきます、と小さくつぶやくと、黙々と食事を始めた。名店にも負けない、とまではいかないが、値段以上の味とは言えた。


「よっ、上原。ここ座るぞ」

「ん……ああ」


3口ほど食べたころ、突如後ろから声をかけられる。振り向くと、サンドウィッチとカフェラテを持った前沢哲参事官がそこにいた。返事をすると、空いていた隣の席に座った。

前沢は私と同い年、それも大学の同期だった。法学部に在籍していた我々は同じゼミに入り、大学時代を共に過ごした。同じ国家公務員志望で、2人とも試験に合格したときは酒を朝まで飲みあい祝った仲だ。彼は気象庁に入庁したが、現在は内閣府に出向し、内閣府政策統括官付の参事官となっている。今は同じ内閣府で働いているということもあり、たまに出会うことがある関係だ。

といっても今日は特に会う約束はしておらず、ここに一緒に居るのは偶然だった。以前あったのは昨年末に飲みに行った時だったか。


「いやー、やっと食えるよ。うちの所に国会答弁の質問通告が回ってきて、今ようやく一区切りついたとこなんだよ。今日の夕方には法制局に送られる見込みだそうだ。そっちは?」

「質問主意書の対応。今期国会では自分の所に質問が来ないよう祈ってたんだがな」


通常国会は例年1月下旬に召集されることが多いが、今年は例年と比べてかなり早い招集だ。

国会が開くとなると通常の業務のほかに国会答弁や質問主意書など、国会業務の対応にも追われることになる。

大規模災害発生後はともかく、消防庁も今いる事態室も、国会から質問が来ることは少ないので、今期も質問が来ませんようにと祈ったりもしたのだが、祈りむなしく質問が届いてしまったため資料制作に追われているのだった。彼の所も少ないはずだ。


「まあ質問が来た以上、こっちも誠心誠意対応するさ。議員や国民に対してちゃんと対応するのは当然のことだ」

「真面目だねぇ、いや俺もそうだけど。今回は早めに質問通告してもらったからよかったけど、ギリギリできたらもう大変よ。恨み言の1つや2つ言いたくなるほどにね」


その言葉を聞く限り、というよりも彼は昔から真面目な人間という言葉は似合わない男だ。思わず眉をひそめる。

とはいえ気持ちはわかる。何年か前に通告がかなり遅れて届き、それに対応するということがあった。質問対応の担当ではなかったが、当時の所属部署がかかわることだったので共に制作にあたることになった。

が、その時の忙しさは尋常ではなかった。何せタイムリミットが明日なのだ。質問通告に関しては与野党間の合意によって2日前の正午までという決まりがあるのだが、あまり守られているとは言えず、前日の夕方や夜に通告されることもあった。この時のがまさしくそうだ。

作業は夜まで続き、何とか日付が変わる前に一区切りをつけることができた。それでも質問担当の職員はまだ作業しなければならず、死んだ魚のような眼をしながら作業しているところを見送ることとなった。


「まあ、たしかに早く出してほしいという思いはあるが……」

「だろだろ? 先生方にはもっとしっかりと合意ってやつを守ってほしいもんだけどね……あそうだ。娘さん、さっきテレビでニュースに出ていたぞ」


ここで言う娘は、もちろん上の方のだ。


「ああ、見てたのか」

「偶然だけどな。そっちは見てないのか、録画した?」

「いや、もう今はわざわざ録画するようなことはしてないよ。もう十分見させてもらってるしな」

「えぇー、そういうもんなの?」


サンドウィッチを口に含みながら、彼は驚いたような不思議なような表情を浮かべた。

少なくとも今日出演している初めてテレビに出演した時や、テレビに出始めた最初の頃は欠かさず録画していたが、優香が立派に仕事をこなしニュースを伝える姿は、この目にしっかりと焼き付けている。

本当はもう1人の娘の方が全部録画したいと言っているので録画はしているのだが、私は今となっては、5分程度のニュースであれば見ることはなかった。もっとも、30分のニュースとか、大きな番組に出るというのであればしっかりと録画しておくが。


「まあ、そうなのかな……そっちはどうよ、最近参集の頻度が多くなってるだろ」


彼が口に含んでいたサンドウィッチを飲み込んだところで再び話題が変わったということに気が付いた。今度は仕事の話か。


「そうだなー、まあ最近多くなってるのは間違いないな」

「相模トラフでの地震関連だろ?」

「そうだが……そこで何か起きてるのか?」


何か含みがあるような言い方をしていることに私は気が付いた。彼は相模トラフに関して何かあるからこのようなこと聞いているのではないかと、疑いのまなざしを向けた。


「あるといえばある」


サンドウィッチが口の中にありながらも、彼は私の予想が当たっていることを伝えた。

相変わらずサンドウィッチを食い続けており、飲み込むためにいったん言葉を切った。


「相模トラフ周辺で地震が頻発しているのは知ってるだろ」

「勿論だ」

「それが今本庁の方で問題になっているらしい。巨大地震発生の可能性があるってな」


自分の耳がピクリと動いた感覚がした。相模トラフではここ最近地震が頻発しているのみならず、もし彼の言う通り巨大地震が発生するのであればここ、首都東京も被災範囲に含まれる。

無論、日本全国どこであろうと大地震が発生するというのは気にすることではあるが、1000万人を超える人口を抱える東京に多大な被害を与えるであろう地震となれば、扱いは別格だろう。

気象庁が問題にしているのだから、無根拠の話ではない。何故可能性があると考えているのかが気になった。


「どうしてだ。地震が頻発しているからか」

「あー、というより地震が頻発している理由の方だ」

「理由?」

「んー」


彼はカフェラテを飲み一呼吸置いた。

新たにプロローグを追加しました。もし未読であれば、そちらもご覧いただければ幸いです。

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