表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第5報

今日電波に、私の姿が映った。街頭インタビューなどではなく、ニュースを伝えるアナウンサーとして、だ。

アナウンサーという職について1年。やはり収録がある日は、終わるまで緊張の糸が切れることはなかった。局につく前から放送終了の合図がでるその時まで、私は緊張感に包まれていた。

ニュースが全国区(といっても映らない都道府県や地域もいくつかある)の放送に乗ったのは14時から5分程度。だがこの5分を放映のために、私は2時間以上前にテレビ局に到着していた。六本木にあるテレビ放都のスタジオには、鉄道やタクシーを利用して12時前についていた。先に食事を済ませようと食堂でスパゲッティを食べると、そこからメイクや原稿読みといった、放送前に必要な準備を行った。

放送開始20分前に1つニュースの差し替えがあったが、それもうまく対処した。ニュース原稿が変わるというのは割とよくあることだ。速報でニュースを流すこともあるし、地震などが起きたときはその場で新しい情報を伝えなければならない。私はまだそのような経験はしていないが、訓練はしっかりと行っている。

特に問題もなく昼のニュース番組への出演を終えると、今度は神奈川県へと向かうための準備を行った。簡単な打ち合わせの後、車両に乗って移動するために地下駐車場へと向かった。

神奈川へと向かう理由は、茅ケ崎で行われるイベントのリポートを行うためだった。リポートはリポーターが本来やるものだが、局によってはアナウンサーが兼任してやることもある。まさにうちの局がそうだった。

場所は市内の海水浴場、6時ごろに取材をする予定だった。基本的に取材は明るいうちに行われる場合が多いが、今回の取材は夜に開かれるイルミネーションに関する取材なのだから、当然暗くなってから取材が行われる。

市のPRのために、地元の商店街や企業などの有志によって開催されたとのことだが、これが結構な規模らしい。設営を実施している様子がネットに上がっていたが、昼の様子なのでその奇麗さはわからないが、100メートル以上に及ぶイルミネーションが準備されている様子は、夜には一見に値する景色へと変わるのは容易に想像できた。

イルミネーションの風景だけでなく、それにかかわっている関係者にも簡単な取材を行う。協力している地元の人たちや市の担当者とも話す予定だった。

テレビ局の屋内駐車場には、何台かの一般車やロケ車が止まっている。そのうちの1台が、今日私たちが利用する車だ。4人乗りのワンボックスカー、車体後部にはテレビ放都という文字と社章が書かれている。車両後方のスペースは人間の代わりに機材を載せることができるが、今日の荷物はそう多くない。頑張れば前側の乗車部分だけで十分荷物を置くことができるくらいだ。パラボラアンテナなどは搭載されておらず、純粋に移動のみに使われる車だ。車両の中にはアンテナ搭載の車もあるが、今回は生中継はしないので、希少なアンテナ付き車両を使う必要はなかった。

その車の前には、すでに今回一緒に取材へと行く2人が揃っていた。


「あ、小栗さん。今日はよろしくお願いします」


先に車の前に集合していた小栗さんに挨拶をする。

小栗信二さんは何回か現場を一緒にしたことがある。初めて現場でリポートを行った時も彼がディレクターとして現場を仕切っていた。いかつい見た目ではあるが、見た目に反してとてもおおらかな性格だ。街ブラのようなバラエティーなど幅広く色んな現場を担当したそうだが、特にニュースの取材系をよく担当しているそうだ。ドライブが好きだという理由で、こういうロケの時は毎回運転手をしている。今日も運転をするみたいで、右手に車のカギを持っていた。


「はい、お願いしまーす。じゃあ行きましょうか。八島、荷物の確認だけしといてくれ」

「あ、待ってください、カメラさんがまだ……」


もう1人車の前にいた女の人がそう言った。彼女はADの八島愛美さんだ。私と同じくらいの年の女性で、ここ最近は小栗さんと一緒に見かけることが多かった。

彼女の言う通り、カメラマンの人はまだ来ていないようだった。車の中にも誰も乗っていない。


「いや、今来たから」

「すいません、遅れました」


声が聞こえた後ろを振り向くと、小走りで走ってくる人の姿があった。彼が今回一緒に行くカメラマンなのだろう。申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、こっちも今着いたところだから大丈夫。今日はよろしくお願いします」

「はい。あ、上原さん、カメラマンの後藤と申します。いい撮影をしますので、今日はよろしくお願いします」


ジュラルミンケースを提げながら、彼は軽く会釈した。


「あっ、上原です。よろしくお願いします」


こちらも挨拶し返す。今まで見たことがない顔だった。もしかしたらスタジオで一緒に仕事をしたことはあるかもしれないが、少なくとも現場にまで行ってリポートを撮影してもらったことはない。

だがすでに名前は知っている。確か後藤祐樹だったか。打ち合わせの時に今日共に行くカメラマンの名前が載っていたので、その名前で間違いないだろう。

年齢は私とそこまで変わらないぐらいだろうか。もしかしたら少し年上かもしれないが、いずれにしろ私と同じ若手に分類されるだろう。


「荷物の確認終わりましたー。それ後ろに乗せますか?」


八島さんが荷物の確認を終え、彼の持っている荷物も載せるかを聞いてきた。

後藤さんの抱えている銀色のケースを指しているのだろう。中身はカメラだろうか。1人で何とか持ち運びができるサイズではあるが、それでも大きさはあった。前の方に載せておくのは難しいだろう。


「そうですね、お願いします」


彼はADへと荷物を手渡した。手に持った瞬間に重そうな表情を浮かべたが、そのケースはすぐに後ろに詰まれることになった。


「じゃあ全員乗ってくださーい」


小栗さん運転席でエンジンをかけながら、窓からそう呼び掛けた。私は後方のドアを開いて、中に入った。後藤さんも同じドアから入るため、右から左へと詰めていく。最後に八島さんが助手席へと座った。全員乗車し、ドアが閉まったことを確認すると駐車スペースから出入り口へと動き始めた。


「あ、カーナビの設定してくれ」

「わかりました」


車を動かしてすぐ、八島さんがカーナビの設定を始めた。ピッという電子音が車内に響く。まもなく、案内を開始しますというアナウンスが流れた。


「目的地までは1時間ぐらいですね」


今の時刻は3時くらいなので、夕方ごろには到着するだろう。

しかし、仕事とはいえイルミネーションを見ることができるというのは少し楽しみだった。クリスマスなどのイルミネーションを見るのは子供のころから好きだった。今日はどんな光景がみられるのだろうか。

湘南が取材場所であるというのも私を期待させた。もし取材前や取材後に時間に余裕があるのなら、何かしらお土産を買っておきたいな。

これが役得ということだろうか。勿論リポートも楽しいものばかりではないが、それも含めてとてもやりがいのある仕事であると思っていた。

そんなことを思いながら、車は駐車場の受付を通り一般道へと入った。いつもと変わらない東京の街並みが車窓に映り込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ