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第14報

「……収まった……かな?」


私は物が散乱した車の中で、私はそう呟いた。

私たちは六本木から茅ケ崎の海岸に向けて車で移動をしていた。

途中に市の担当者やイベント主催者に連絡を取ったが、5弱は小田原方面で観測されたみたいで、茅ケ崎の方は震度3で、特に被害は発生していないそうだ。取材も問題なく行えるということで予定通り向かうことになった。

一般道を通ってその海岸を目指していたが、途中で一般道でも渋滞が発生していたため、カーナビの設定を変えて脇道を進むことになった。こういうことは、このディレクターは割とよくすることだった。

そして、名もなき道を進みもう少しで目的地に着くという時だった。

緊急地震速報のアラートが鳴ったかと思えば、突然の激しい揺れ。車が横転するのではないかと思うほどの大きさだった。

揺れが始まるとともに車は止まったが、内部の荷物も散乱した。車内では悲鳴も時より飛んだが、4人だけの空間がパニックになるようなことはなく、比較的落ち着いていた。それでも、何か話すということもできず、ただただ地震に耐える時間が続いていた。

揺れが小さくなったと思えば、再び大きくなるというのを繰り返し、収まりだしたのには恐らく3、4分はかかっただろう。

窓の外では自治体の防災無線から放送が流されており、先ほどの地震が震度7であるということを伝えていた。


「……みんな無事か!?」


揺れがほぼ収まると、小栗さんが真っ先に声を張り上げる。携帯の緊急地震速報の通知音を切ったのもその時だった。


「けがは……ないです」

「私も大丈夫です」

「すごい揺れだったな。どこで揺れたんだ、震源は……っと!」


再び揺れが強くなり、アシストグリップにつかまり揺れに耐える。さっきほどではないが、車が前後左右に揺れ、少しばかり外に出ていったものを詰めた鞄から再び物が出ていった。

揺れが続いている中、外で再びサイレンの音が聞こえた。自治体の防災無線からだ。再び緊急地震速報が流れたのかと思ったが、さっきとはことなるアラートだった。

先ほどの緊急地震速報のアナウンスに続いて、J-ALERTの警報音が聞こえた。間違いなく、何かよくないことを知らせるためだろう。


『大津波警報が発表されました。海岸付近の方は、高台に……』

「収まった、か……?」

「多分ですけど……それより、津波が来ますよ、これまずいんじゃないんですか!?」


声を荒げた。外からだけでなく、各々が持っている携帯からも警報音が鳴り響いていた。

津波が来る。ここにいることが得策だとは思えない。私たちは直ちに移動する必要があった。

カーナビに目を向けると、今いる場所は海岸から700mほどの距離といったところか。同じくらいの距離には川が流れており、海抜もそこまで高くないはずだ。やはり早急な避難が必要だった。


「そうだな、すぐに避難するぞ。とりあえず内陸方向に移動するか」


態勢を立て直した小栗さんは、ハザードランプを止めると少しでも海から離れようと車を動かし始めた。ちょうどすぐ近くにアパートの駐車場があったためそのスペースを少しばかり拝借し、車は180度の転換を行った。


「ヘルメット一番後ろになかったか」

「えっと……あ、あります!」

「それくれ、後腕章も。それとカメラ回してるか?」

「はい、揺れてすぐにとっています」


流石カメラマンというべきか、あの大きな揺れの中ですぐに撮影を開始していたそうだ。少し感心しながらも、車の一番後ろに雑に置かれているヘルメットとテレビ局の腕章をみんなに回していった。各々取り付けはじめ、私も慌てながらも手早く取り付けた。


「ひとまず内陸方面に向けて移動しながら学校を目指そう。避難所になっているはずだ。カーナビで学校を調べてくれ」

「わかりました!」

「あとどこかで車捨てるかもしれんから、荷物もまとめておいてくれ」


車は住宅街の市道を進んだ。速度は遅いが、乗り心地は先ほどよりも明らかに悪かった。


「うわ、あの建物倒壊してる……」


後藤さんは車の外の様子の撮影を続けていた。そんな中、私は自分がなすべきことを思い出した。


「……後藤さん、こっち向けてもらっていいですか」

「え? ああ、はい!」


私は咳ばらいをするとできるだけ平然な、だが緊迫感ある表情を作り上げた。


「えー……私は茅ケ崎市にいます。時刻は、16時43分です。今大津波警報が発令されています。現在車で内陸方面へと向かっています」


私は周囲の様子のリポートを始めた。現場にいるアナウンサーとして、被害の状況をわかりやすく、正確に伝える必要があった。目の前のカメラに向けて、私は情報を伝えた。


「あたりを見渡すと、ブロック塀が倒壊していたり、屋根の瓦が落下しているのが見受けられます。電柱も少し……傾いてます。電柱が傾いているのが確認できます。建物のほうも、あちらの建物はひびが入ってますね。地震によってでしょうか、大きな亀裂が入ってます」


辺りには倒壊こそしていないものの、何らかの損壊が発生している建物が数多くあり、地震の大きさを物語っていた。


「そして、今……また今少し揺れています、揺れを感じています。車の中ですが、揺れていることがわかります」


車の中だと揺れは少し感じずらいが、それでも揺れが発生しているのはすぐに分かった。それなりの早さで走っていた車も速度を落とさざる終えなかった。

10秒程度やや強い揺れが続くと揺れは収まった。小さな地震ではなかったが、さっきのと比べればかわいいものだった。


「止まったぽいな……ここから一番近い学校は?」

「えっと、この先に中学校があります。あ、海岸方面にも小中学校がありますけど。こっちのほうが近いですが反対方向です」

「あー……海岸に向かって進むのはまずいかな。もう方向転換もしちゃったしこの先の方に行こう」


八島さんがカーナビを操作して学校を調べ上げた。もう少し近くに別の学校があるが、そちらは海岸方面だった。

私も、声には出さなかったが小栗さんに同調する。海から津波がくる以上、少しでも海から離れた場所に行きたかった。それに、もう津波が来ているのなら戻っている途中に遭遇することもあるかもしれない。

車は避難所になっているであろう学校へと向かっていた。周りには閑静な住宅街が続いていた。ただし、地震による被害は至る所で見受けられた。ブロック塀が倒れていたり、窓ガラスが割れていたり、電柱が斜めになっていたり、道路もひびが入っていたり。数えればきりがない。


「あー、これはちょっと通れなさそうだな」


ゆっくりと進んでいた車が止まる。道をふさぐように木造の家屋が倒壊していた。小栗さんが言うように、少なくとも車でここを通るのは無理だろう。私はその様子もリポートした。


「今、道をふさぐようにして建物が倒壊しているのが確認できます。木造の住宅が完全に倒壊しています。ブロック塀も同じようにして横倒しになっています」


もっとも、ブロック塀が倒れている光景は珍しいものではなかった。恐らく半分かそれ以上、私が見た限り倒れているのが見えていた。

車は少しバックして別の道を通った。相変わらず地震の被害は至る所で見受けられた。

時折大きくガコンと音を立てながら進むと、やがて東海道線の線路沿いの道まで移動することができた。

目的地の学校へと向かうためにはこの路線を乗り越える必要があった。踏切はすぐのところにあった。だが遮断機は下りたままだ。警報はなっていなかったので。停電が発生しているのかもしれない。私たちの車はそこをスルーして線路沿いの道を進み続けた。


「……今の踏切渡っちゃえばよかったかな……」


通り過ぎた後に独り言のように小栗さんが呟いた。

遮断機が下りていたので反射的にスルーしてしまったみたいだが、考えてみれば列車はこの地震で運転することはできないだろう。ここは渡るのが正解だったかもしれない。

だがUターンをしようにも後続から車が来てしまった。結局私たちは踏切を渡ることはできなかった。

次の踏切は渡ろうとしていたのだが、今度はちょうど停車した列車が道をふさぐように鎮座していたため、再びスルーせざるを得なかった。一瞬しか見えなかったが、列車の外には人だかりができていた。恐らく車内にいた人達が外に降りたのだろう。あの人たちは無事に避難できるのだろうか。あまり気にする余裕はなかった。

結局、さらに線路沿いを進んで大通りへと移動をした。主要道なら踏切ではなく地下か、あるいは高架になっているはずだから鉄道の影響は受けないはずだ。万が一踏切があっても、今度こそ超えることができるだろう。

いつの間にか、辺りには防災無線が鳴り響いていた。先ほどのJ-ALERTに続いて、今度は自治体が流す放送だった。


『こちらは、防災、茅ケ崎です。現在、大津波警報が、発令、されています。直ちに、避難してください……』

「うわ、今度は渋滞かよ……」


小栗さんはそう独り言を呟いた。向かう予定であった大通りは目の前だった。だが、前に止まっている車は中々動かない。合流先の県道は私は初めて見る場所だが、そこでいつも以上の混雑が発生していることはすぐに分かった。

何時かが経ち、大通りへと合流することができた。実際にはそこまで長く止まっていたわけではないが、いやに長く感じた。

やはり停電しているようで、信号機は点灯していなかった。警察官の誘導もないため、その場の流れによって車は動いていた。当然いつもよりも交通のキャパシティは低くなるだろう。その上避難のために一斉に車が来て渋滞に拍車をかけていた。私たちが通った道だけでなく、ありとあらゆる脇道からも次から次へと車が来ていた。

ノロノロと進みながらも何とか線路を超えるトンネルを抜けたが、渋滞は改善するどころか、時が経てば経つほど深刻なものになっていった。いよいよ完全に完全に止まっている時間の方が長くなるほど悪化していた。


「今、車で避難をしていますが、渋滞が発生しています。現在ほとんど動けない状態です……これ、歩いて行った方がいいんじゃないですか?」


ほとんど動かない車列を見て、私はいったんリポートをやめて小栗さんへそう進言した。

車で避難するのは渋滞に巻き込まれてしまうため危険である、そういう話は聞いたことがあった。確か父もそのような話をしていたはずだ。


「そうだな……反対車線なら通れるんだが……」

「走っていいんじゃないですか? こういう時って走ってもいいとおもいますけど」

「まあ、流石に今は取り締まりはやってないだろうけど……」


こんな時ではあるが、反対車線を通るかどうかについては、決められずにいた。やりたくないわけではないが、この場合走っていいのかがわからない。

周りを見ても、反対車線を通る車はいなかった。海岸に近づこうとする車はもちろん、逆走して進もうという車もまたいなかった。

いや、1台の車が反対車線を通った。逆走して通っているのは消防車だ。搭載している無線から、津波が近づいているため、避難するようにとやや早口で呼び掛けていた。


『車で避難している方、反対車線も使って避難してください。車から降りれる方は道路脇などに車を止めて、歩いて避難してください』

「じゃあ、言う通りにしてみっか……」


そのアナウンスによって、消防車の後ろをボチボチと反対車線を使い始める車が出てきた。

私たちの車も、その流れに乗って反対車線を走り始める。100mぐらいは、それなりの速度で進むことができた。

が、やはりまたすぐ止まってしまった。やはり車での避難は難しいか。しびれを切らし、脇に車を止めて歩こうとしている人もいた。


「やっぱ車じゃ移動するのは難しいか……脇に止めて歩くか」

「そうですね……あのあたりなら止められそうです。こういう時って鍵さしっぱなしの方がいいんでしたっけ」

「ああ、そうするのが「あれ津波じゃないですか!?」


突然、八島さんの声が車中にこだました。全員が指をさすその方向に一斉に視線が向く。

それは水であると呼ぶには、あまりに濁っていた。茶色い、あるいは黒いそれは、車や木材などとともに、街を飲み込んで私たちの方へと迫っていた。それは間違いなく津波であった。

まだ距離はあるが、ここにいては波に飲み込まれてしまうことは明白だった。


「……車捨てて走るぞ、降りろ!」


小栗さんがそう声を荒げるのに時間は掛からなかった。シートベルトを外すと、すぐにスライドドアを開ける。車の4つすべてのドアが開く。

私たちはとにかく走った。全力で、とにかく全力で走った。

今日は阪神淡路大震災から29年になります。私はまだ生まれる前ですが、震災は日本中に衝撃を与えました。高速道路が倒壊している様子、至る所で火災が発生している様子の映像を見て、当時の人々はどれほどの衝撃を受けたのか筆舌に尽くしがたいでしょう。

元日の地震のように、日本はいつ地震が起きてもおかしくない、地震と向き合い続けなければならない国です。本作品でも地震、災害へと人々が、日本が向き合っていく姿を描きたいと思います。

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