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第11報

「それにしても……今日の映画、すごい面白かったね」

「ふふん、そうでしょ?見る前はあんな微妙な顔してたのがウソみたいでしょ!」


品川駅前の横断歩道を渡りながら、私たちは今日見た映画の感想を言い合った。

昼ご飯を食べた後、私たちは少しゲームセンターによった後、映画を鑑賞した。アメリカ軍のエースパイロットがどっかの国の重要施設を攻撃するという不可能任務に向けて、仲間とともに挑んでいくというアクション映画だった。ハリウッド発の大作で、世間的にも結構話題になっているとテレビでやっていたのをポスターを見て思い出した。

正直自分は微塵も興味がなかったのだが、すみれはこれを見ようとグイグイ押してくるし、特に見たい映画があったわけではないので見ることになったのだが、いざ見てみるととても面白い映画だった。


「トンネルの中から大空に飛んでいくシーンとか、最初からすごい迫力だったよね」

「うん……そういえば、そのシーンのあたりでちょっと地震起きてたよね」

「え、そうだった? 私気が付かなかったけど」


映画の序盤。敵の戦闘機を倒すためにトンネルの中から出撃するシーンの時に、地震が発生していた。席に座っていたときに少し揺れを感じたが、映画が中断されることはなくそのまま上映されていたし、特に気にすることなくそのまま鑑賞を続けていた。


「揺れたと言ってもちょっとだけだったから。スマホに通知が来てるかも……」


映画を見るときに機内モードをオンにしていたが、それを解除する。通信が回復すると、すぐに『【速報】神奈川県で地震、最大震度5弱』というニュース速報が表示された。

詳しく見るをタップすると、地震の震度情報などをまとめた記事が表示された。関東や東海を写した地図が一番上に表示され、そこには場所ごとの震度情報が掲載されていた。


「えーっと、最大震度が5弱でこの辺りは2みたい」

「じゃあ大したことないね。それより映画の話だけどさ……」


地震の話題はそこで終わり、再び映画の感想へと話は戻った。スマートフォンをポケットへとしまう。信号は青に変わり、人々が駅から、そして駅へと向かって行く。私たちは駅へと向かう集団の先頭にいた。

改札に向かうまで、映画の感想の言い合いは続いた。

ストーリーは割と単純明快なものだったが、アクション映画というのは大体そうなのだろう。戦闘機の飛ぶシーンや戦うシーンはとてもよかった。戦闘機の種類だとか、どんなミサイルなのかとかはよくわからなかったが、素人ながら映像の見せ方もとても良いと感じたし、音響もこだわりを感じることができた。

クライマックスのアクションシーンには瞬きを忘れるほど没頭してしまった。世間が熱狂するのも納得である。まあツッコミどころがないわけではないが、それもアクション映画のお約束事だろう。


「クライマックスのアクションもなんというか……ぶっ飛んでたよね。レインボーブリッジみたいな橋の隙間を飛んでいるところとか、トンネルの中に突っ込んで爆弾を落とすところとか」

「いやそうだよね!私も見たのは5回目だけど、あのシーンは何度見てもいいもんなんだよねぇ……」

「まあ確かに……えっ、5回も見たの!?」

「うん!いい映画っていうのは何回見てもいーもんなんだよ」


5回も見ているという発言に少し驚いた反応をすると、彼女は人差し指を左右に振りながら私に向けてきた。確かにいい映画ではあったが、流石にそう何回も見ようとは思わない。が結構な映画好きであるということは知っていたが……

引いているわけではないが、すみれがそういうタイプの人間だったというのは新たに知ったことだった。


「あと3回ぐらいは見たいなー。いやでも、今月上映開始の期待している映画があるから、そっちも見たいしな……うあーど~しよ~……」


こんな人が興行収入に貢献しているのかな思いながら、自動改札機に通学定期券も兼ねているSuicaをタッチする。1923円という表示がディスプレイに表示されると同時に、軽快な電子音が流れた。

映画を見た後は帰るということになったので、行きと同じ、上野東京ラインを使うことにした。改札を通ると、私たちは6番線ホームを目指して歩いて行った。

移動している途中、今度上映される映画について

話したと言っても私はほとんど聞いているだけだった。その映画のことは私は微塵も知らなかったし、かといって彼女が熱心に話しているのを止める気も起きない。ほとんど一方的に聞いて相槌を打つだけだった。

今度の映画は宇宙からやってきたトルネードシャークを撃退する現代によみがえった侍の話らしいが、聞くだけでいかにもな映画だなと思った。

そんな映画も見ているんだなというか、期待できる内容なのかなと思ってしまう。


「いつだったけな、再来週の月曜上映開始だった気がする……そういえば公共の宿題って月曜までだっけ?」

「うん・……え? あーそうだけど。もしかしてまだやってない? 結構量あるけど」


ホームへと向かう途中でも相変わらず映画の話を続けていたが、月曜という言葉から宿題のことを思い出したみたいだ。

その宿題が出されたのは今週の月曜で中々面倒な量だったが、どうやら何も手を付けていないようだ。


「うわ全然やってないや。ほら、夏休みの宿題も最後にやるタイプだから。いや帰ったらやらないと……めんどいなー……」


確かに夏休みの最後の方では、宿題が全然終わらないという悲鳴のメッセージを送ってきていた。普段であっても彼女が宿題やら何やらを期限ギリギリになってから手を付けるタイプなのは私も知っている。

彼女は宿題の存在を思い出して陰鬱そうな顔をしていた。


「ねぇー、宿題やり終わっているならプリントの写真後で送ってよー」

「ダメ。そういうのは自分の力でやらないと」

「いいじゃんいいじゃん、私への誕生日プレゼントということで」

「いやよくない……そういえばそうじゃん。17日だよね? 来週なんかあげるよ」


その一言で、すみれの誕生日が1月17日だということを思い出した。

去年の12月は私の誕生日だったが、その時はいくつかのお菓子を貰った。チョコで船の模様が描かれたお菓子だったり、あるいはコーラの中に入れると爆発するキャンディーだったり。

誕生日ということなら私もお菓子の詰め合わせでもプレゼントしようか。


「えぇありがとー、プレゼントは神戸牛希望でーす」

「じゃあ牛1頭丸ごと送り付けようかな」

「嘘嘘、そんな大したものじゃなくていいから」

「ま、それなりに期待して待ってて」


彼女の冗談を軽く流す。プレゼントのお菓子については今日の帰りか、土日の間に買っておいとこう。とりあえず埼玉銘菓のお饅頭でもあげようかな。あとは店でどんなのがいいか考えるのがいいだろう。

そんな考えをしながら階段を下りていく。ちょうど電車の接近を知らせるメロディーが鳴っていた。


『まもなく、6番線に、上野東京ライン、高崎線直通、普通、高崎行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください』


自動放送のアナウンスが流れる。ちょうど私たちが乗ろうとしていた電車だ。ホーム上はもうすぐ帰宅ラッシュの時間帯ということもあり、少し人が多い。1つのドア当たり10人前後はいる感じだろうか。

駅舎の中にいる時も寒かったが、ホームに出たら風も相まって余計寒く感じる。そんなに強風ではないが、冷たい風が当たるたびに体温が低くなっていくような感じがした。マフラーは着けてはいるが、やはりハイソックスではなくタイツを着ておけばよかったなと家から出たときから後悔していた。

電車がすぐに来るみたいでよかった。外にいる時間は短いに越したことはない。

私たちは階段から少し離れた場所にできていた列の1つに並んだ。ここが一番並んでいる人が少ないと思ったからだ。

並んでからは特に会話のネタがない感じになってしまったので、私はブレザーのポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。さっきの映画についての話を振ってもいいのだが、申し訳ないけど私はあまり魅力的な話題だと思わなかった。

ティックトックを起動しながら、帰ったら何をするかというのを私は考えた。土日は特に予定があるわけではない。今日お菓子を買わなかったら土日に買おうとは思うが、それもそこまで時間をかけることではないだろう。宿題もあるが、それも30分もあればすべて片付く見込みだ。

とりあえず読みかけだった小説の続きでも読もうかな。全7巻11冊の大長編は半分ほどまで読み終えたていた。通して読むのは今回で3回目ではあるが、それでも1日中閉じこもっていたいぐらい読むのにはまっていた。あとは録画していた番組を見たり、お気に入りのユーチューバーの動画を見たりするのもいい。

そういえば、お気に入りのチャンネルが今日のお昼ごろに動画を投稿していた。電車の中だと走行音がうるさくてイヤホンをしていても動画の音が聞き取りづらいのが癪に障るので、あまり電車内で見る気は起きないのだが、前から欠かさず見ている実況シリーズの動画だし、中でも気にせず見てもいいかもしれない。今度ノイズキャンセリング機能の付いた物でも買うべきだろうか……でもちょっと高いしな……

とりあえず今はショート動画でも見ていよう。私は起動したアプリを操作しようとした。

瞬間、すぐ近くでバサバサという音が駅で発せられる音に混じったのに気が付いた。私は視線をスマホから離した。

私は鳥を見た。ハトだ。ホームに設置されている時計の所に止まっていた。ちょうど私たちのすぐ上に設置されている時計だった。時計の針は4時32分を示していた。

何かと思えばただのハトか。すぐに視線を外そうと思ったが、それよりも前にその鳥は飛び去っていった。だがその音は1羽の鳥が出す音にしては大きい。それにそのハトから出ていない感じもした。

その答えはすぐに分かった。ほかのハトも飛んでいたからだ。名前もないそのハトは、大空に羽ばたいている群れに向けて飛んでいき、その中の1羽となった。

だが目に入ったのはその群れだけではなかった。少なくとも100羽、もしかしたら500は越えているかもしれない。まるで地上にいるのが嫌になったかのように、どんどん空高くに向かっていた。線路の上やホームに駅舎、さらには周りのビル、ここから見えないどこかからも、一斉に羽ばたいていったのだろう。

ハトだけではなくカラスも、恐らくこの辺りにいたありとあらゆる鳥が大空に飛び立ったのという気がした。

とても珍しい光景だった。これほど多くの鳥が飛び立っていくのは見たことがない。鳥たちは群れを成して、高層ビルの合間を縫いながら雲に覆われた空の彼方へと向かっていた。


「何見てるの?」

「え、いや……鳥をちょっと」

「へー……あ、鳥と言えば、昨日の夜に唐揚げ食べたら中がまだ凍っててさー」


鳥つながりで思い出したのか、彼女は唐揚げの話をし始めた。先ほどの鳥のことは見ていなかったようだ。

少し辺りを見ても注目した人はいないみたいだ。単純に視界に入らなかったのか、もしかしたら割とよくあることなのかもしれない。珍しい光景だと思っていたが、何か惹かれてしまったのは自分だけなのか。

こういうのは何かが起きる合図だったりするというのは、本の読みすぎなのだろうか。誰かがその答えを教えてくれるわけもなく、私は彼女の話の続きを聞いた。


「レンジであっためたんだけど、今度は温めすぎて。せっかく衣が……」


突然、携帯が震えだした。

それだけはなかった。甲高い警報音とともに、地震です、と決して小さくない音量で警告を出し、私たちの会話を遮った。手に持ったままだったスマホを見ると、画面には緊急地震速報という表示が出されていた。辺りを見回すと、私の携帯だけからではなく、いたるところで警報音が鳴り響いている。


「え、どうしよう、頭とか守ったほうがいいのかな」


すみれが不安そうな表情を浮かべながら辺りを見回している。彼女の持っていたスマートフォンにも、同じく緊急地震速報の表示がされていた。

地震が来る。こういう時するべきことといえば、机の下に隠れるとか火の始末をするとかかだろうが、今はホームの上だ。駅にいたときにはどうすれば良いのかというのを、私たちはよく知らなかった。


「うーんとりあえず、上から落ちてくるものには気を付けないと……掲示板の近くとかは危ないかも」

「そうだね」


ずいぶん前だが、地震の時に電光掲示板が落下したという画像を見たことある気がする。電光掲示板や時計なんかは、もし人が居るところに落ちてきたら大けがをしてしまうというのは容易に想像できる。ちょうど上にあったので、私たちは歩いて少し距離を取った。

辺りを見回したが、やはり他の人も地震を気にしているみたいだ。特に気にしないでいる人も多いが、私と同じように辺りを見まわしたり、頭を守るように抱えていたり、しゃがんでいる人もいた。混乱した様子は見えないが、みんなどこか不安そうだった。

ホームから見えていた乗る予定だった電車は、ちょうど私たちの前で先頭車両が止まった。キキーと、金属のこすれる音が聞こえていたが、普段聞く音よりも大きく、だが短かった気がした。それにこの位置は本来の停車位置ではない。どうやら電車も緊急停止したようだ。

速報の通りに揺れが始まった。少し体が揺さぶられる。そこまで大きな揺れではないが、小さな揺れでもない。


「揺れてる……」

『ただいま緊急地震速報を受信いたしました、列車緊急停止いたします。ホーム上のお客様、できるだけ線路から離れ、姿勢を低くしていてください。現在緊急地震速報を……』


そのアナウンスの最中にも、ゆっくりと、小さくない揺れが続いていた。

地震であれば私も幾度となく遭遇しているが、この地震には少し不気味な感じがした。それでもすごい揺れというわけではなく、少し歩くぐらいならできそうだった。

どれくらいの大きさの地震なのだろうか。揺れが大きいのなら電車が止まったりしないだろうか。もし止まってしまったらどれくらいで復旧できるのだろうか。体を揺らされながらも、私は揺れが収まった後のことを考えていた。

……やけに、揺れが長く続いている気がした。もしかしたら結構大きな地震かもしれない。

瞬間、ドーンという大きな音が聞こえた。それと同時に揺れが一気に強くなる。


「うわ……!」


悲鳴があたりに一帯に響き渡る。今まで経験したことがない揺れだった。

これはまずい。そう思ったときには、何も動くこともできないほど、激しい揺れが始まった。

身体が前後左右へぐらつき、バランスがうまく取れない。


「ひゃ……!」


とても立っていられる状況ではなかった。すぐに座ろうとしたが、その前にうつぶせる様に倒れてしまった。左腕で頭を守ることはできたが、起き上がろうとしても起き上がることができない。地震は収まることはなく、さらに激しくなっている気すらした。もしかして地球という星が終わってしまうのではないか。そう思ってしまうほどだった。

何とかひざまずくような体勢を取り、手を地面につけ、それでもどこかに吹っ飛ばされてしまうのではないかと考えてしまう。誰かが持っていたカフェラテが床にこぼれ、それが私の手についていたが、気にする余裕などなかった。

ホームの上のライトや電光掲示板などが波打つように動いていた。金属がこすれるような音がそこら中から鳴り響きいた。地面からは、聞いたことがないような音が聞こえていた。これが地鳴り音なのだろうか。そして人の叫び声や途切れ途切れになりながらも何かを伝えているアナウンス。列車は左右に強く揺れ、パンタグラフからは時折火花が飛んでいた。

ありとあらゆるものから何かしらの音が発生しているのではないかと思えた。

揺れはさらに激しさを増していった。私は、ただただ耐えることしかできなかった。

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