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全て先輩の思い通り  作者: 白月綱文
9/13

1-8

次の日を迎えて木曜日。今日はどこに行こうかと考えていたところ、今度は聡太郎に連れられて演劇部の部室へと連れられた。

部室の引き戸を開けると案の定姫野先輩がいて、どうやら彼女が聡太郎に僕を連れてくるように言ったみたいだ。

使われていない教室をあてがったと思われる部室の中には姫野先輩と姫野さんを含めないで数人居た。

顧問の先生だと思う女性の先生と、6人ほどの生徒。上履きの色が違うため恐らく上級生の演劇部員の人だろう。

聡太郎に促されて姫野先輩の隣に座らされ、それから少しして女性の先生から部活動の説明が入る。

それから軽い説明も終えて、軽く演技をしようという流れになった。

もちろん、演技なんてやった事がないから少し不安に駆られる。

そんな僕に対して、姫野先輩は当たり前のように席を立って演技をするために教卓の方へと向かっていって凄い。

後に続いて教卓の近くに向かうと、1枚の紙を渡された。

台詞が書いてあってどうやら台本みたいだった。それも、多分オリジナルのものだ。

目を通していると、先生の声がかかり台本を見ながらの演技を始めようと言う話になる。

ここには僕達しかいないからと言って、まさかこうなるなんて思ってもみなかった。

周りを見ても示し合わせているのか僕のことなんて気にもせず台本に目を向けている。

どうならやるしかなさそうだ。大人しく僕は諦めて台本に集中することにした。


渡された台本の話を簡単にまとめると、現代版かぐや姫みたいな話の1シーンのようだ。

書いてあったのはその中でも特徴的な3人の男に求愛をされてかぐや姫が無理難題を課すなんて話が書いてある。

僕達4人の配役は、先輩は主役であるかぐや姫。僕を含めた他3人は無理難題を課せられる男の役。

場所は高校の校舎裏でかぐや姫はそれぞれ3人の男に別々の日に呼び出され告白をされる。

ただかぐや姫には意中の男性が居るため断るが、それでも3人は引き下がらない。

それで、諦めてもらうために明らかに不可能なぐらいの難題をしたら結婚してもいいと言って諦めてもらおうとする。

そんな辺りで台本が区切られていた。


まずは一番劇が得意そうな姫野さんがトップバッターとなった。その次に聡太郎が先輩と演技をした。

そして、僕の番がやってきた。

重い気持ちを息を吸い込むことで少しでも軽くしようとする。

演技だとはいえ、先輩に告白をしてその後に会話をすると言うのはかなり緊張する。

僕が定位置に着くと先生の声を合図に、少し慣れた動作で違和感なく姫野先輩が振り返る。

最後の三人目、校舎裏に呼び出された先輩と呼び出した僕。

周りに人がいるのに、先輩が纏う雰囲気からかまるでこの場所には二人しかいないんじゃないかって、そう思った。

でも、ただ目の前の姫野先輩に心を奪われていただけかもしれない。

そのまま僕の方へと向き、先輩は口を開く。

「呼び出したのは、君かな?」

告白されるのはもしかしたら結構あるのだろうか、慣れたような素振りで自然と話しかけてくる。

それに対して僕は、少し息を整えてから拳を握り口を開いた。

「先輩、話があります。」

「·····なんだい?」

僕が演じるのはヒロインのかぐや姫と呼ばれる女性に惚れた後輩役。

家柄としては大手会社の息子で、性格も良く勉強も出来て非の打ち所がない。

そんな彼が、同じく大手会社の令嬢であるかぐや姫に対して告白をする。

条件としては前の2人と同じようなものだと思う。ただ、彼だけが少し違う。

1人目の告白する役は、彼女を道具としてしか捉えていない。

2人目の告白する役は、自分のことばかりで彼女に寄り添おうとしない。

でも、彼だけが。この役はかぐや姫と呼ばれる彼女に、本気で恋をしている。

家柄だったり周りの評価なんて関係ない、ただ1人の人間として彼女を愛している。

だから彼は、ただ真剣に愛を告白するのだ。

たった1人の好きな人である、空の向こう側に居るような彼女へ。かぐや姫へ、好きだと伝えるのだ。

「話というのは、その…。えっと。」

ただ、役を演じてるだけの僕はそうはいかない。

演技とはいえ、誰かに告白するのは思うように体が動かなかった。

息が乱れる、視界が滲む。先輩の方へと向いていた視線も、頼りなく宙をさまよって落ち着かなくなる。

そこから少し踏ん張って、取り繕うように声を上げた。

「あはは、恥ずかしいな。これ。」

我ながら、わかりやすい誤魔化し方だと思った。

先輩も劇を途中でやめて、そのままこの瞬間を腫れ物のように扱う空気感のまま時間が経っていった。

帰り道もいつも通り先輩と当たり障りのない会話をする。

手を伸ばせば届く距離なのにやけに遠い。3人目の彼は告白する時にどう思ったのだろうか。

そんなことを考えた上で、やめた。こんなことを考えたところで僕がなにかする訳でもないから。

ただ物語のかっこいい登場人物にはなれそうにはないななんて、漠然と思い返した。

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