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次の日の朝。今日は昨日と同じ午前のうちに学校が終わってなおかつ今日は金曜日だ。
今週は入学したばかりで学校に行くこと自体で疲れたことは無いけど色々とハプニングがあったので少しありがたい。
何事もなく学校にたどり着き、下駄箱で靴を履き替えて教室に向かおうと階段に行くと知らない女の子に邪魔をされた。
肩より少し上くらいのところで揃えた艶のある黒い髪、同じく黒い瞳は夜空の星のように輝いていて全体的にどことなく先輩に似ている少女だった。
そんな彼女は僕の前を通せんぼするように仁王立ちして睨みつけてくる。
「あんたが、須永樹?」
「そうだけど。誰?」
「同じクラスなのに知らないの?私の名前は姫野恵。昨日の自己紹介聞いてなかったんなら覚えといて。」
昨日の自己紹介は姫野さんのことで頭がいっぱいだったからあんまり周りに集中してなかったんだよね。
というか…
「え?姫野?そ、それって…。」
「私、あんたに告白した姫野咲希。つまりお姉ちゃんの妹だから。」
「え…え!?姫野さんって先輩だったの!?」
確かに、言われてみれば少し大人っぽいような気もする。同じ学年だと思ってたけど先輩だったなんて思いもしなかった。
「紛らわしいわね…。まあそういう事。で、聞きたいことがあるんだけどなんでお姉ちゃんがあんたに告ったか、分かる?」
そういえば、姫野さんが僕に告白した理由は分からないままだった。昨日の帰り道はなんとか会話を続ける事に集中していたからそんなこと浮かばなかったし。
「ごめん、僕もよく知らない。」
僕がそう言っても彼女はそもそも話を聞けるとは思っていなかったのかあまりショックは受けていない様子だった。
「そう、知らないの。まあ良いわ。本題はこっちじゃないから。」
と、言葉をそう続けて。本題?と僕がそう思った矢先に、彼女は続きを話し出す。
「お姉ちゃんの告白、なんで断ったわけ?OKしても、そんなんてない話だと思うけど。」
その言葉を聞いて、僕は少し胃が重たくなるのを感じた。
何故なら僕は、姫野さんのことが間違いなく好きだからだ。
一緒にいればそれだけで嬉しいし、会話をすればその一言一言が記憶にはっきりと刻まれていく。
傍に居られないと切なくて、いつだって気がつけば彼女の事を考えてしまう。
これを恋と言わずしてなんと言うのか、そんな具合に僕は姫野さんにぞっこんだった。
普通なら間違いなくOKしているはずで、わざわざ姫野さんが僕と距離を縮めようと頑張る必要もなく相思相愛だ。
ただ、それでも。僕は彼女とは付き合えない。
いくら一緒に居て僕が幸せでも、その選択肢は選べない。
彼女にどれだけ愛されていたとしても僕は彼女が別の人と付き合って幸せになって欲しい。それだけは揺るがない。
だからこそ、本来はいらないはずの問いに僕は覚悟を持って答えた。本来の答えと違う、真っ赤な嘘を。
「……好きじゃない、からだよ。そもそもとして初対面だったし、それで付き合えって言う方が無理な話だし。」
「そう、そういう理由。」
それを聞いて、聞きたいことは聞き終えたらしく妹さんは教室に向かっていった。
そのままついて行くのは少し気まずくて、僕は少ししてから彼女の後に続いた。
その日は姫野さんはしばらく待っても校門に現れず、聡太郎は用事があるから先に帰ってくれと言われたので一人で帰った。