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それから20分ほど電車に揺られただろうか、先輩に言われて駅を降りる。高いビルの森を歩き回って、駅から遠ざかる。
そうして辿り着いたのは、水族館だった。
外観からしてかなり大きそうで、昼前に来たんだから恐らく飲食できる場所もあるんだろう。
「さあ、行こうか。」
そう言われて手を引かれる。まだ慣れてなくて恥ずかしいのに、そんなことに気付いてないみたいな素振りで強引に。
受付を済まして、その奥へ。壁が水槽になった仄暗い海の中のような空間へ足を踏み出した。
「水族館、なんですね。場所を何も告られなかったのでもっと凄いところに連れてこられるのかと。」
「いくつか候補はあったんだけど、ここが1番お気に入りだったんだよ。だから、君にも見てもらいたいなって。」
そう言ってなんだか少し楽しそうに水槽へと目を向ける。その後ろ髪に惹かれながら僕も足を進めた。
最初のコーナーはサンゴ礁があった。その周りを小さな魚たちが泳いでいる。
濃いオレンジ色に白い帯が走った魚。白と黒の線があってしっぽの方が黄色の魚。体のほとんどが青くて、しっぽだけ黄色の魚。
パッと目に映る様々な種類の魚たち。そのどれもが群れをなして、自由に泳いでいる。
淡い光に照らされて、その光景が綺麗で、自然と見入ってしまう。
水族館自体が落ち着いた雰囲気なのもあってあれだけ興奮気味だった気持ちも穏やかになってきた。
「ふーーー。」
耳元に唐突に息を吹きかけられた。
「っ!?」
せっかく落ち着いてきた心臓が跳ねて動き始める。先輩と居ると僕は落ち着けないんじゃないだろうか。
「きゅ、急に何するんですか!」
「水族館では静かに、だよ。須永君。」
やった理由の答えもなく、ただ単に叱られる。そっちが原因なのに釈然としない。その上先輩は楽しそうなものだからちょっとにくい。
ただ休ませてもくれないようで、
「ねえ、手を繋がないかい?」
なんて手を差し出してくるんだ。気持ち的にはかなり厳しい。だけどそれは先輩も同じなはずで。それに今日はデートなんだ。
少し悩んだ、だけど結局頑張ってその手を握る。
手を握られることはあったけどそれも少しだけの間だし、自分からというのは初だったから恥ずかしさが倍だった。
なんだかこのまま立ち止まってるとおかしくなりそうだったから、手を引いて先に進む。
次のコーナーは、大きな群れが泳いでいた。
数百を優に超えるような数の魚が、1つの流れを作って泳ぐ。それは高波見たいに激しくて、1匹1匹が光を反射してまるで流星群のようだった。
僕の背よりも高い大きな水槽。そんな中で、水を走る流星群。あまりにもそれが大きいものだから迫力が凄くてつい握る手に力が入る。
同じように先輩も握り返してきて、同じ時間、同じ空間を共有してるんだなってことを強く意識した。
「綺麗ですね、先輩。」
「うん。まるで星が流れてるみたいだ。」
まさか、同じことを思ってるなんて。ちょっぴり照れる、けどなんだか嬉しかった。