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フェチレコーダー

ある時代、自分が感じていたフェチズムを感情や感覚に基づいた記録として脳内に呼び覚ます装置が発明された。その時代人間のほとんどが脳を機械化させて新しい人類となっていた。だがそのフェチズムを呼び覚ます装置が多くの事件を引き起こしたのだった。それは“フェチレコーダー”とよばれた。


ある退役軍人は、薬莢のにおいが忘れられないんだ!!。といってガンショップを襲い、その場で取り押さえられた。脳内に沸き上がる“何かに対する執着心”その衝動を多くの人間が抑えきれなくなり、暴走する。その事件では多くの死傷者がでて、その退役軍人は牢屋に入った。極刑だった。牢屋で彼は、いかに自分の人生と人殺しが無意味であったかを綴った。そこで支えとしていたのが、ヘビースモーカーだった彼が、たばこがたりないために戦場で嗅いでいた煙の臭いだったのだ。


ある女は失った双子の妹になりきろうと自分の顔をなんども整形して命をおとした。究極にまで器量のよく、綺麗な顔をした双子の妹にあこがれをもっており、自分の顔や器量の悪さを嫌っていたために、フェチがいきすぎてついに自分の命を失うほどに、手のほどこしようのない回数の整形をしてしまったのだ。


ある男は、元恋人のにおいが忘れられずストーカーじみた行いをするが、ふと我に返り、自分の喉に盗んだものをつっこんで自滅した。



共通して言えることは、彼らは“フェチレコーダー”を使い、その感覚に麻痺して、半分自分の意識を失って、究極までフェチズムを追い求めてしまったことだった。



人間は生きている限り、“好きなものが嫌いになったり”“心についた傷が記憶を汚したり”するものだ。

それでも、生き残ったものが“フェチ”として残ることもあるが。嫌いになったり心に追った傷によって“元来のフェチ”を失うことがあり、時に失った自分を取り戻したくなることもある。この装置はそのなつかしさを強烈に呼び起こすために、現実との落差に人々を落としいれ、人々を狂わせた。それが、自分の命を奪うような事につながっても。だがこの“フェチレコーダー”はこんな事件を起こしても、問題とはならなかった。現代よりも生存や仕事への競争が過激になり、誰もが人の好き嫌いや才能に嫉妬や不満を持ち、吐き出す世界では、“かつて愛した自分の感情や感覚”をその時のまま、ありのまま受け止めていたいという人間が多かったからだ。なにより、その時代、“死”は本当の死の意味をもたなかった。いつか誰かに再生される自分の記憶が残っているのなら、それは死ではない。人々は傷ついた末に新しい感覚をもつ人類になったのだった。


だがこんな話もまことしやかにささやかれていた。

ある男が、事故で失った妻子の記憶をもとめ、事件をあさるがどこにもその記録がない。だが男には妻子の記憶がちゃんとのこっていて、男はその形見をもっていた。男が自分の事について入念にしらべていくと、やはり結婚した記憶などなく、住民としての登録もどこにもなかったという。しばらくすると、形見は別の国で別の男性のものとわかった。妻子がなくなった事故もその国で起きたものだとわかった。つまりはその男の妻子の記憶を別の男がもち、フェチレコーダーを再生していだのた。フェチレコーダーを盗まれた痕跡はなかったものの、本物の持ち主はたしかにフェチレコーダーに妻子の記録を登録していたのだ。コピーしたのだろうか?一体どうして“フェチレコーダー”を男はもっていたのか、それとも男にはしられざる過去があったのか、フェチレコーダーを信用しすぎる事の教訓もまた残されていたのだった。


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