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5 生徒会

 リュカとは順調に仲良くなっていった。やっぱりどこか親切心がずれていたり、こちらの気持ちを考慮しなかったりでマイペースな彼に振り回されつつ、友人をやれていたと思う。


 朝は別々に登校だけど、学園では毎日放課後まで一緒にいる。私もリュカも寮に住んでいるので帰りも一緒。とにかくリュカが積極的に私を構ってくれるので人付き合いが苦手な私でもすぐに打ち解けた。お互い他に友人が居ないこともあって、距離が縮まるのは早かった。


 ゲームでのデートイベントである休日のお出かけなんかもしたし、リュカは私によく手を繋ぎたいと要求するし、私もリュカに敬語を使わなくなった。


 これはもうリュカルート入り確定だと安心して日々を穏やかに過ごせていたけど、それは長く続かなかった。


 リュカが授業など受ける必要が無い程、魔法の知識実技ともに非常に優秀というか天才であることは、おのずと周囲に知れ渡っていったのだが、それを聞きつけて生徒会が彼を引き込んだ。ゲームではこんな展開無かったのに。


 何故大人しくリュカが生徒会入りしたかというと、教師陣まで圧力を掛けてきたからだ。優秀な生徒が生徒会入りするのは義務、それを放棄するのであれば単位はやらないだとか、暗に言ってきたらしい。


 詳しくは知らないが、リュカはどうやら学園を卒業しなければいけないようで、渋々従った。


 その結果、私は再び殆どぼっち状態に。


 生徒会はいつも強引にリュカを生徒会室に連行する。朝早く授業前に生徒会室で一日の予定を確認。昼食も生徒会員と親交を深めるためだとか言って連行。放課後は勿論生徒会業務。まるで私からリュカを引き離すみたいに彼を生徒会室に縛り付ける。


 生徒会にはアイリーンとその取り巻きの攻略対象三人が所属している。この状況だけ見ると悪役令嬢様がリュカまで逆ハーレムに加えたようにみえるが、幸い彼はアイリーンに興味は無いらしい。今の所は。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 授業が始める直前にリュカが大きな溜息を吐きながら教室に入って来た。彼は私を見つけると少し明るい表情になる。


「リュカ、お疲れ様」

「シャノンんんんんん、もうやだ生徒会辞めたい」


 隣の席に着くなり私に凭れ掛かってくるリュカ。


「卒業はしなきゃいけないんでしょ?」

「そうだけどさあああ……うーん、何かもう、いいかなあって」


 彼の白くて柔らかい髪を指で梳きながら、宥めてやる。


「何か目的があるんじゃなかったの? それは少しの困難で諦めていいものなの?」

「うーーーーん………………」


 私の肩に額を押し付け、とてつもなく悩み出した。


「リュカ……私に詳しく事情を教えてくれる?そうすれば、一緒に考えて……」


 バッ顔を上げたリュカがブンブンと首を振る。


「シャノンにだけは言えない……シャノンにだけは」

「えぇ……」


 何度聞いても、彼は卒業しなければいけない理由を教えてくれない。


「じゃあ、もう知りません」


 口調を敬語に戻し、ツンと横を向いて拗ねたような仕草をすると、リュカはわかりやすくしょげる。


「だって……言ったら……」


 ごにょごにょと呟いているのを無視していると、教師が教室にやってきて授業が始まった。


 ――私にだけは言えない理由って何だろう。


 それが気になって、授業は半分も頭に入らなかった。





 昼食休憩になると、生徒会メンバーがリュカを迎えに来るのがいつもの光景。リュカが自発的に生徒会室に向かわない為に強制連行されるのだ。

 しかし、今日は違った。


「やあ、リュカ。迎えに来たよ」


 第二王子ジェラルドが親し気にリュカに話しかける。後ろにはジェラルドの侍従とアイリーン。


「あ、もう、そういうのいいです。昼にわざわざ集まるとか意味ないし」


 リュカが断った。


「しかし、生徒会員同士、情報共有や親交を深める為に必要なことだ」

「俺が生徒会入る前はこんなことして無かったんでしょ」


 ――何だと。


「それはそうだね。でも、アイリーンが慣れない君を気遣って発案したことなんだ」


 ――あーーーーー。悪役令嬢様はリュカとお近づきになろうとしてますね、これは。そんなにリュカを逆ハーレムに加えたいんですか。


「前々から思ってたんですけど、何で生徒会はボードウェル嬢と俺を親しくさせようとするんですか」


 ――んんんんん? 何かリュカが今とんでもないこと言ったぞ? 生徒会メンバーがリュカとアイリーンを親しくさせようとしてる??????


 アイリーンは顔が少し赤くなったが、澄ました顔をしている。


「それは……君の気のせいだね。私たち生徒会は全員、君と仲良くしたいと思っているよ」

「俺は仲良しごっこする必要ないと思います。という訳で昼食はシャノンと一緒がいいから」


 ――お? 朝に少し冷たくしたのが効いたのかな。私と一緒がいいかあ、聞きましたか? 悪役令嬢様?


「シャノン、行こ」


 リュカは私の手を握り、それから「ああ」と小さく呟き、


「朝に生徒会室行くのも、もうやめますね。一日の予定確認なんて前の日の放課後にやればいいから必須じゃないし、予定確認の後はいつも授業始まるまで雑談しかしてないじゃないですか。時間の無駄なんですよ」


 とジェラルドに向かって言った。


 ――そういえば、リュカが生徒会入りする前は普通に朝早く教室にアイリーンが居た。ということは朝に生徒会室に集まるなんてことはしてなかったんだ。ふーーーーーーん。どうせまた悪役令嬢様が言い出したことなんだろうな。


 ジェラルドは大袈裟にやれやれと首を振り、聞き分けの悪い子を諭すような口調で話し出す。


「リュカ、生徒会の業務を円滑に進めるには生徒会員が団結しなければいけないんだ。それはわかるだろう。君も生徒会員となったのだから責任というものを負っているんだよ?」


 それを聞いたリュカがハッと鼻で笑った。


「社会に出たら劣悪な人間関係の中でも仕事をこなすのが普通です。早めにそれを学ぶのにいい機会かと」


 ――おっとリュカくんから不思議系とは思えない発言が出たぞ。やっぱり平民だからそういう感覚は持ってるんだなあ。


 要するに生徒会員とは仲良くしたくないと言ったリュカに彼らはそれ以上何も言えず、私達はその場を後にした。





 食堂で昼食後、二人でアリシア先生の研究室へ向う。


「ようこそシャノンくん、リュカくんは久しぶりだね」


 アリシア先生は笑顔で私達を迎え入れ、お茶を淹れてくれた。


「よかったねえ、生徒会からリュカくんを取り戻せたのかい」

「アリシア先生……取り戻したとかじゃないですよ。元々、リュカは私のものじゃないし」


 苦笑して否定すると、何故かリュカが口を挟む。


「生徒会に所有されるより断然シャノンに所有されたい」

「何言ってるのリュカ……」


 アリシア先生はふふふと笑っている。


「それでどうやって生徒会から抜け出せたんだい」

「いえ、生徒会には所属したままです。もう放課後の生徒会業務以外には付き合わないと言ってきました」

「おや、それは……大丈夫かね。何か嫌がらせされたりするんじゃないかい」


 ――確かに。何もしてない私を冷遇するような性格の悪い攻略対象共だ。リュカにもみみっちい嫌がらせをしそうだ。


 心配になり、リュカの顔を伺うと彼は笑っていた。


「大丈夫。嫌がらせと言ってもせいぜい仕事を押し付けるくらいでしょ。生徒会の仕事なんて子供の遊びみたいなもんなんで一人で平気です。だからシャノン、そんな心配そうな顔しないで」


 そう言ってリュカは私の頬を揉み揉みする。最初に表情筋がこるとか言って揉んできた頃より遠慮が無い揉み方である。


 ――むにむにもみもみむにむにもみもみ……長いな。


「リュカ……私は良いけど、あまり他の女子の頬を長々揉まないようにね」

「うん」


 微笑ましく見守っていたアリシア先生だが、あまりにも長いこと揉むので若干引いていた。


「リュカくんは柔らかいものを揉むと興奮するとかそういう性癖かい?」

「いえ、決して性癖とかいやらしいものではなく」

「どうでもいいから、そろそろ紅茶飲ませて」


 そういえばパッと手を離してくれた。小さく溜息を吐いてから紅茶を一口。


「まあ、とにかく他の生徒会員に困らせられることがあれば私に相談するといい。出来る限り力になるよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫だと思います。生徒会はお上品な王侯貴族ばかりなんで、そんなひどいことはされないかと」


 しかし、リュカの予想は外れ、生徒会はリュカをとっても不快な気分にさせるのだった。


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[良い点] 生徒会を嫌がるリュカが好きです
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