4 友達が出来た
昼休憩になり、教室で待機しているとリュカが現れた。
「食堂案内して」
「ええ、じゃあ行きましょうか」
私に関する助言は聞いたと思うが、私に対する態度は変わらないようだ。私の現在の状況はゲームのヒロインとはかなり違う。もしかしてリュカも他の生徒みたいに私を避けるかもしれないという不安があったが、大丈夫なようだ。
流石、空気読まない系男子。去年の秋からずっと君を待ってたの。何かもう惚れそうです。
しばらく何気ない会話をしながら歩いて、食堂へ着いた。
「じゃあ、私は研究棟でお昼を食べるので、食べ終わったら迎えに来ますね。校内を案内します」
「え、何で」
「何でと言われましても、私はお弁当なので」
「じゃあここで食べればいい。そのほうが効率的」
「ええ……まあそうですけど」
グイグイと背中を押され、食堂の中へ足を踏み入れてしまった。
――刺さる、刺さる! 生徒の視線が! 楽しい昼食時に何でお前が来るんだよという視線が!
しかも今日の私は一人ではない。その事が余計に視線を集めている。リュカはそのことを気にも留めず、私を壁際の席に座らせる。
「先食べてて」
そう言ってリュカは私を置いて自分の昼食を確保しに行ってしまった。
――キッツ! この視線の中ご飯食べるのキッツいよ!
仕方が無いのでリュカを待つ。ほどなくして彼は戻って来た。そして私の周囲を見渡す。勿論私の座る席二メートルほどは空席だ。
「本当にシャノンは学園中で避けられてるんだね」
「ああ、やっぱり聞きましたか」
彼は私の隣に着席した。
「王子たちに何したの」
「何も」
それを聞いて彼は首を捻る。
「私は王子たちとは殆ど会話したことがありません」
「じゃあ、何で」
「それは……」
転生者だとか乙女ゲームだとか説明して大丈夫なほど彼と親しくは無いし、信用できるかも判断できていない。
「私にもわかりません」
白いパンにジャムを塗りながら「ふーん」と呟く彼。
「まあいいや、どうでも」
――どうでもいいんかい。
「俺は王子より君と仲良くなりたいと思うからどうでもいい」
「リュカさん……」
ゲームとは全く異なる展開だが、やはりリュカがヒロインに興味があるのは間違いない。
――これで、国滅亡は回避できるかもしれない。
私はいままで一人で背負ってきたそれが軽くなるのを感じた。同時に、転生して友人が初めてできたという事実に抑えていた感情が高ぶる。いつの間にか視界が歪み、自分が泣いていることに気が付いた。
隣で黙々と昼食を食べ進めていたリュカもそれに気づき慌てる。
「な、な、なん、なん、何で泣い……」
不思議系マイペース男子がキャラに似合わずおろおろ狼狽している。こんな姿ゲームには無かった。可笑しくて笑ってしまう。
「今度は何で笑う……」
「ふふふ……すみません」
私は涙を拭いて、お弁当を広げる。さっさと食べて、早く校内を案内してあげよう。
――前世では友達は少ないほうだったから人付き合いは得意じゃないけど、不得意なりに今世で初めて出来た友達は、絶対大切にしよう。
□
翌日、学園に通うようになって初めて憂鬱ではない朝を迎えた。もう学園でぼっちじゃない、そう思うだけで明るい気分になれる。
リュカに少しでも良くみられたくて、身嗜みを整えるのに時間を掛けたので少し遅めの登校になった。教室に近づくと、何か揉めているのか大きな声が聞こえた。
「だから! お前の為に僕たちが教えてやると言っているんだ!」
そろーっと教室に入ると、リュカが私に気が付いて近寄って来た。嬉しそう。何か飼い主の帰宅を歓迎する犬みたい。
「シャノン、おはよう」
「おはようございます、リュカさん」
二人で微笑み合っていると、リュカの背後から先ほどの声の主が怒鳴った。
「おい、僕を無視するな!」
それは第三王子アルベルトだった。
後ろにはぴたりとアイリーンが寄り添っている。私を見てヒュッと息を呑み、いつも通り青ざめた。
「もう話は終わった、君たちの助けは必要ない、以上」
リュカが私の背中を押しながら、彼らの横を通り過ぎようとする。アルベルトは立ち塞がってそれを阻む。
「授業についてくのが大変なお前を手助けしてやれと教師から頼まれているんだ!」
なるほど。途中編入のリュカの勉強の面倒を見てやれと言われた訳か。
「私、生徒会員ですので、それで頼まれたのですわ」
アルベルトじゃなくてアイリーンが。
――アイリーンが頼まれたのなら一人で言いに来たらいいのに。何で取り巻きを一緒に連れてきたんだろう。まさか自分だけなら普通に断られると思って、王族であるアルベルトに申し出させて平民のリュカが断れないように画策を? でもこれだと学園の校則を使えば回避できるし、まあ気にし過ぎかな。
「はぁ? 教師には事情が伝わってないのか? まあ、どうでもいいや。授業は問題ない。五月蠅いからあっち行って」
リュカがアルベルトとアイリーンに向けて追い払うように手をひらひらさせる。
「百歩譲って授業は問題無いとしても、王族に対してその態度は問題だ! 貴様に礼儀を教えてやる!」
「この学園は身分関係なく魔力持つ者全てが対等、って聞いたけど」
――うん、やっぱり使うよね校則。
この校則ははっきり言って建前だ。様々な場面で平民よりも王侯貴族が優遇される。しかし、建前といえども正面を向いてそれを言われて否定することは難しいのだ。それを分かっているアルベルトは悔しそうな顔をした。
アイリーンは黙ってしまったアルベルトに変わり、口を開いた。
「……ええと、ではリュカ様、困りごとがあればいつでも私たちに仰って。お力になりますわ」
少し青い顔のまま、彼女は優雅に微笑んだ。
「んー、そう」
リュカはそれだけ言って、私の手を引いて席に向かって歩き出す。
――うーん、アイリーンはこれからもリュカに何かと世話を焼く体で近づくのだろうか。困ったなあ。今の所リュカは私に好意的だけど、アイリーンにも好意を抱いたら……。
悩んでいるとリュカが私の顔をそっと揉み始めた。
「あの……何ですか……」
「何か難しい顔してるから、表情筋がこると思って」
─―でも突然女子の顔を揉むのはどうかと思うよ。