1 肩身狭い
私の毎日は憂鬱である。
この王立魔法学園で私に優しく接してくれる生徒は一人もいない。
お昼ご飯は教室でも食堂でもとれない。私の座った席から2メートル程が空席になるのは毎回傷つくし、遠くからひそひそ噂話する人達の視線の中食べるお昼ご飯は味がしない。
だから私は学園で唯一親切といっていい存在、アリシア先生の研究室にお邪魔してお昼を食べる。
アリシア先生も私と同じ平民の魔力持ち。卒業後も学園で教授の元で研究を続けて学者になり、その優秀さから学園が教師になってくれと頼んだ程のすごい人。でも平民出だから全然偉そうじゃない優しい先生。
――今日はどんなお茶を淹れてくれるかなアリシア先生。
ふんふーんと鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さで研究棟へ向かう途中、気分をどん底に叩き落としてくれる存在が道を塞いでいた。
――うげ、アイリーンと、攻略対象たち……。
輝く金髪に紫色の瞳を持つ侯爵令嬢アイリーン。彼女は本来『ヒロイン』である私を苛め抜くいわゆる『悪役令嬢』。だが今目の前で攻略対象に囲まれ微笑んでいる彼女が私を直接苛めた事は無い。無いのだが……。
研究棟への道はここしかないので、仕方なく無言で道を塞ぐ彼らに近づく私。
攻略対象達と談笑していたアイリーンは私の姿を目にした途端、わざとらしいと感じる程に顔を青褪めさせ震えだす。彼女の異変に気付いた攻略対象達が私の存在に気付き、アイリーンを庇うように立つ。
「研究棟へ行くので通してください」
感情を表に出さず彼らに要求した。
「ああ、すまない道を塞いで」
攻略対象その一、第二王子ジェラルドが笑顔で道を開けた。ただし目は笑っていない。
開けてくれた道を通ろうと足を踏み出すと小さな舌打ちが聞こえた。
攻略対象その二、第三王子アルベルトだな。今のは。王子として舌打ちはいかがなものか。
通り過ぎる私を無言で睨む男。
攻略対象その三、騎士団長の息子ローデリック。
「おいローデリック、彼女怖がってるだろ、睨むなよ」
口では注意しているが、ヘラリとした顔で茶化している軽薄な男。
攻略対象その四、公爵家長男ルーファス。
よくもまあ、何もしてない私にここまで敵意剥き出しに出来るものだ。
「通してくれてありがとうございました」
一応お礼を言って足早に研究棟へ向かう。背後から攻略対象達がアイリーンへ掛ける言葉が聞こえる。
「ほら、アイリーンもう怖くないよ」
「大丈夫? 医務室に行く?」
「僕たちが居るから安心して」
「私が運んでいこう」
「おい、抜け駆けするな」
――あー、悪役令嬢様、さぞかし嬉しかろうなあ、イケメンにちやほやされて。何もしてない私を見ただけでそんなに体調崩すんですかー。生きていくの大変そうなほど繊細ですねー。正にヒロイン様ですねー。本来ヒロイン私ですけどー。何もしてない私に敵意を向ける攻略対象達盗られた所で何とも思いませんけどー。むしろ攻略対象には嫌悪感しかありませんけどー。
そう、私に学園ハブられぼっち生活を満喫させてくれているのは攻略対象達と言えるのだ。
何故私がこんな目にあわなければいけないのか。
私は本当にアイリーンにも攻略対象にも何もしていないというのに。