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■リーグ戦

■リーグ戦


 小悪魔クィッティーと出合った次の日、関東学連のリーグ戦の初戦だった。

大学3年生となった俺は、レギュラーではあったが、チームの中での成績はあまり芳しくなく、みんなの足を引っ張らないようにするのが精いっぱいであった。

複数の大学で組織される学生アーチェリー連盟では、年に一度リーグ戦が開催される。

距離は50mと30m、射つ本数はそれぞれ36本の計72本。各校8名の選手が出場し、上位6名の合計点により勝敗を決める。

試合の進行は、まず1エンド目、先攻が3本射ち、次に後攻が3本、さらに先攻が3本、後攻が3本、各自計6本射って相互看的・矢取り。

2エンド目は先攻・後攻が入れ替わり、あとは同じ手順を繰り返す。

朝早く晴天のなか試合が開始された。本校が先攻。

俺は距離50mの射線に立ち、まずは試射の3本から。


一射目、10点。調子は上々。

二射目、10点。うん? 本当に調子いいぞ。

三射目、10点。


現時点で30金! 新記録だ!

相手チームの試射3本も終了した。

本校、試射の続き。


四射目、10点。調子が良すぎる。何かがおかしい。心臓がドキドキする

五射目、10点。??!! 現在50金。残すは一射。

六射目、10点……。


試射の6本が射ち終わった。いきなり60金(すべて10点)が出てしまった。

チームのメンバーが口をぽかんと開けている。相手チームも俺の試射60金を察知したようで、全員こっちを見ている。心臓の鼓動の高鳴りが止まらない。

俺はそっと胸に手を当てて小悪魔クィッティーの首飾りをユニフォームの上から握りしめた。

心なしか少し熱を帯びているように感じる。試射を終え試合はこのまま競技に突入した。

アーチェリーの点数は大体の目安として、50m・30mの合計点で620点もだせればそこそこ貢献したという感じだ。6射をひと単位として1エンドと言うのだが、50mで1エンド50点が出せたら自慢していいレベルである。

本日の俺の50m、試射と1エンド目で、立て続けに60点の満点が出てしまった。全日本クラスの選手でもなかなか出せる数字ではない。チームメイトが驚きを通り過ぎて、ほとんどあきれ返った表情をしている。相手チームも全員固まってしまったのが手に取るようにわかる。

俺のなかに得体のしれない恐怖が沸き起こった。唇が微かに震えている。俺はそれを周りに悟られないようにしながら、50m、2エンド目の射線をまたいだ。

2エンド目はあっさりと終了した。また全金60点の満射だ。震えが止まらない。自分の中にある不可解な恐怖に耐えられなくなった俺は、ふと思いつき、”上手い”外し方を試してみることにした。

そして迎えた3エンド目。


一射目、左の8点を狙った。左の8点に刺さった。

二射目、右上の9点を狙った。右上の9点に刺さった。

三射目、四、五、六射目、全て均等に外した。


結果、3エンド目合計45点。いつもと変わらないスコアメイクだ。

俺の的面をチェックしていた相手チームと本校チームともども、安心しきった雰囲気が伝わる。俺も気持ちが楽になった。

結局50mの合計点は297点と平凡な点数になった。30mも”上手く”はずし、332点と抑え、50,30m合計629点となった。チームの中ではそこそこの、いい順位である。

大和大洋弓部は、1部リーグのAブロック4位という、これまた中途半端な順位に落ち着いた。

そして俺のリーグ戦は無難に終わった。無難という言い方はおかしいが、とにかく目立たず、普通レベルの高得点を重ねることで、学連リーグ戦個人平均点順位5位という中途半端な好成績でリーグ戦の幕を閉じたのだ。しかし、試射、1エンド目、2エンド目の3回立て続けに60金を出してしまったことは、そのあと事件として学連じゅうに広まった。


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