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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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過去も、未来も、現在も -Arman-Ⅲ【和解】②


 廊下を歩くアルマンの足取りは、気持ちと同様に重い。

 彼が今まさに向かっているのは、あの日以来避けていた場所、医療棟である。

 最後に見たセシリヤのもの悲しそうな顔が頭から離れず、無意識に預かった手紙を握り、くしゃりと音を立てて皺になったそれを慌てて伸ばすと、何度目か分からない溜息を吐いた。

 医療棟へ近付くに連れ、徐々に重さを増して行く心と足取りに逃げ出したいとさえ思ってしまう。

 セシリヤに会った所で何をどう話せば良いのかわからないし、預かった手紙だけを突きつけて帰ることもできない。

 いっそのこと、彼女がいない間を見計らって手紙を置いてきてしまおうかと考えていれば、服の裾がピンと張ったことに気がつき振り返る。

 けれどそこに人の姿は無く、徐々に降りて行く視線の先に、小さな陰を見つけて首を傾げた。


「……子供?」


 裾を握っているのは、不安に揺れる瞳でじっとアルマンを見上げている見知らぬ子供で、どう言った経緯か解らないが何故か城に迷い込んでいた。

 ぱっと見る限り、その綺麗な身なりは貴族と思われる。

 誰かの知り合いか、はたまた単に偶然が重なりあって迷い込んでしまったのかは不明だが、不安に満ちた瞳は今にも大粒の涙を溢してしまいそうだ。


 正直、アルマンは子供の扱いは得意ではない。

 外見からして世辞にも柄が良いとは言えない上に、言葉も態度も乱雑だ。

 故に、素直で残酷な子供は瞬時にアルマンを恐怖の対象として認識し、泣いて逃げてしまう。

 勿論、目の前の子供も、その例外ではなかった。

 アルマンが何を訊ねても、あやそうと手を伸ばしても、怯えて後退ってしまう。

 ほとほと困り果てて周囲を見回すが、職務中と言う事もあって誰も助けに入る者はいないようだった。

 このまま子供を見捨ててしまう訳にもいかず、そうかと言ってこのままだと身動きがとれない。

(そもそも、子供がアルマンを怖がっているのだから、どうする事も出来ないのだけれど)

 泣き喚いている子供の声に、ただ焦りと苛々が募るばかりだった。


「どうしたんですか?」


 ふとアルマンの横を通りすぎた影が子供の前でしゃがみ込むと、堰を切った様に上がっていた泣き声が少しだけ、小さくなった。

 鼻先を掠めた香りは、アルマンがよく知っているものだ。


「どうして泣いているんですか?」


 指先で子供の瞳からこぼれる涙を拭っているセシリヤに事情を説明しようと口を開きかけたが、彼女は人差し指を唇に当ててそっとアルマンに目配せをする。

 つまりは、子供を怯えさせない為に、「黙れ」と言う意味だろう。

 いつもの癖で反論しかけたが、子供がセシリヤに対して少し気を許しているのを見て、仕方なく押し黙る。

 微妙に居心地の悪い空気が漂っていて、ここから立ち去ろうとも考えてみたけれど、それはそれでセシリヤに子供を押し付けてしまった様な気分になるので、後味が悪い。

 仕方なく、アルマンはただそこに立って事の成り行きを見守ると言う選択をした。


「あなたは、何処から来たんですか?」

「……あっち」


 セシリヤの問いかけに、子供は的を得ない曖昧な答えを返す。

 アルマンならば即ブチ切れている所だが、彼女は穏やかな笑みを浮かべながら、子供の話に耳を傾けて、時折それに相槌を打っていた。

 そんな繰り返しが続けられる内に、いつしか子供は泣く事を止め、笑顔を見せながら得意気に話をし始めていたのだ。

 アルマンが聞いている限り、内容はあって無いものの様に思えたけれど、懸命に話をする子供にセシリヤは微笑み聞いている。


 ……本当に、これが、あのセシリヤ・ウォートリーなのだろうか?


 その横顔は、あの荒療治を施すとは思えないくらいに優しく穏やかで、いつの間にかアルマンはぼんやりと彼女を見つめていた。

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