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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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血は途絶えていない -Yvonne-【秘密】③

「セシリヤちゃん、今日は天気がいいね。こう言う日はお外で遊ぶと楽しいよ」


 病室で一人呟くプリシラに声をかけると、彼女は椅子を降りて此方へ駆け寄って来る。

 もう帰る時間になったのかと訪ねるプリシラに、まだ大丈夫である事を伝えれば、勢いよく頷いて再びベッドサイドにある椅子に腰かけ話の続きをし始めた。

 結界が破られたあの日から、プリシラはこうしてセシリヤの下で話を続けていた。

 彼女曰く、目が覚めた時に誰もいなかったら寂しいでしょう、と。


 とは言え、ここ連日イヴォンネが魔術団で仕事をしている間はずっと付きっきりで、流石にマルグレットもそんな幼いプリシラを心配していたが、彼女のことを思うと止めさせる訳にもいかず、結局はこうして好きにさせてくれている。

 サイドテーブルには、プリシラのお気に入りのキャンディが転がっていて、日毎に増えるそれは、セシリヤが起きた時にお腹が空いていたら食べてもらう為に置いてあると言っていた。


「そう言えば、セシリヤちゃんを運んでくれた人……、名前なんだっけ? ねえ、ママ、あの人なんて名前?」


 不意に質問され、多分シルヴィオのことを言っているのだろうと答えれば、プリシラは両手を叩いてそうだったと再びセシリヤに話しかける。


「シルヴィオ! あの人、かっこ良かったんだよ! こうやって、指をぱちんって慣らして、魔物を倒しちゃうの!」


 凄かったなあと、まるで恋する乙女のように話すプリシラに頭痛を覚えたが、そこまで深い意味はないだろうとあえて突っ込まなことにした。

 正直、シルヴィオは好きではない。

 あののらりくらりとしたうさん臭さと言い、女性に対する不誠実さと言い、とにかく全てにおいて好きになれる要素がない。

 悪いことは言わないからやめておきなさいと口にこそ出さなかったが、プリシラには見る目を養って欲しいと願うばかりだ。


 椅子に座るプリシラの頭を撫でながら、反応のないセシリヤに視線を移す。

 呼吸も安定し微かに上下する胸の動きが、彼女の生きている証だ。

 少し青白い頬に手を伸ばし、精神に干渉している魔術の気配がないかを探ってみる。

 随分と昔に解除したが、万が一にでも名残があれば、こうして弱った所で悪さをして再び同じ過ちを犯してしまう可能性もある。

 慎重に探りながら、イヴォンネはあの時の事を思い出していた。




 *




 三度目の魔王討伐を終えて、間もない任務でのことだ。

 魔王を討伐し三代目の勇者も帰還してから数日、その日目撃された魔物は新種なのか随分と厄介で、討伐に当たった第七騎士団は苦戦を強いられていた。

 魔力も知能も高いのか、まるでこちらの動きを読んでいるかのように翻弄し、攻撃をしかけてくる。

 応援に駆り出された魔術師が術式を描けば即座に中断させ、隙をついて斬りかかればひらりと躱し、避けられない絶妙なタイミングで攻撃をし、連携を取っても防御魔術で防いでしまうのだ。

 幸いなことに攻撃力は然程高くはないようで、しかし下手をすれば魔王よりも質が悪いのではないかと思わせる程だった。

 攻防を繰り返し、何とか魔物の攻撃を凌いでようやく止めを刺せたと気を緩めた時だ。

 止めを刺したはずの魔物が、最後の悪あがきのように暴れ強力な一撃を繰り出し、疲弊しすっかり油断していたイヴォンネは反撃も防御さえする間もなく、その一撃が自分の身に降りかかって来るのをただ見ている事しか出来なかった。

 しかし、間一髪のところでセシリヤがそれを弾き、魔物に止めを刺した。

 断末魔の叫びと共に朽ち果てる間際、魔物から蔓のような物が延びてセシリヤの前で不規則に動くと、直後に枯れ果てる。

 霧散して行く魔物の姿に安堵したイヴォンネがセシリヤに礼を言うが返答はなく、不審に思いどこか痛めたのだろうかと声をかけると、次の瞬間、あろうことか剣の切っ先をセシリヤ自身に向けたのだ。

 両手で握った剣身に伝う血がやけに赤く映える。

 何をと声を上げる前に彼女はたった一言「これで、償える」と呟き、迷うことなく剣を心臓に突き立てた。



 行動とは裏腹に穏やかな表情が、不気味だった。



 一斉に騒めく騎士や魔術師に指示を出して救援を呼び、倒れたセシリヤの元へ駆け寄り呼吸を確認する。

 僅かに急所は外れていたが虫の息で、救援が到着するまでの間、イヴォンネは治療魔術をかけ続けた。


 医療棟に運び込まれた後、マルグレットが寝る間も惜しんで懸命に治療を施してくれなければ、その命の灯は消えていただろう。

 治療を終えて部屋から出て来たマルグレットに容態を聞き安堵したが、助かったにしては彼女の顔色が随分と浮かないものであったことにイヴォンネは首を傾げ、何か思う事でもあったのかと訊ねて見れば、セシリヤから得体の知れない魔術の気配がすると言うのだ。

 具体的には説明できないが、どうやらそれが今回の自刃の件に関係しているのではないかと言うマルグレットの許可を得て、イヴォンネはその魔術を特定する為に病室に踏み入った。

 ベッドで眠っているセシリヤは、落ち着いたのか静かに呼吸を繰り返している。

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