嘘は、いけないなぁ -Silvio-Ⅱ【推測】②
「ごめんごめん。それで、アイリは僕に何を聞きたいの?」
「ジョエルって、何となく、私よりセシリヤを優先してる気がするんだよね」
「あー、アレは無意識と言うか……、条件反射ってやつだろうね。二人の関係は詳しく知らないけど、それなりに親しいみたいだし、アイリを第一に護る事を考えてはいても、咄嗟にいつもの癖が出ちゃうって言うかさ」
「……それって、セシリヤが傍にいる限り、ずっとそうって事?」
機嫌良く話を聞いていたアイリの表情が僅かに曇り、これは相当ジョエルに執心していると同時に、セシリヤを意識していると悟ったシルヴィオは、アイリの機嫌を少しでも直そうと慎重に言葉を選ぶ。
こんな事で彼女の機嫌を損ねて、また諍いが起きるのは面倒だ。
「セシリヤは君を護る為に同行している訳だし、ジョエル団長だってちゃんと君を護る事も考えてるよ。勿論ジョエル団長は今回の旅の責任者だから、君を含めて他の皆の事も護らないといけないのは、聡明な君なら理解してるよね?」
「それは、勿論わかってる」
「それに、君の護衛はセシリヤだ。彼女が先に倒れたら次に危ないのは君。だから、ジョエルは君の盾であるセシリヤを先に護るんだよ。なんて合理的! よって、君が考えているような関係じゃないと思うけどね」
恐らく、アイリが思っている関係以上にジョエルとセシリヤの間には複雑な感情が絡んでいる。
ジョエルがセシリヤを見る目と、セシリヤがジョエルを見る目は同じであって同じではない。
お互いに心を許し合っているようで、どこか踏み出せない、踏み込ませない……、そんなもどかしささえ感じる程に。
「……なんか、うまく誤魔化そうとしてない?」
じっと瞳を覗き込んで来るアイリにそんなことはないとお道化て否定し、彼女が求めている「いつものシルヴィオ」を演じながら視線を逸らせば、「敵わないなぁ」と楽し気に笑う声が聞こえて来る。
とりあえず、アイリの機嫌を取る事には成功したようだ。
ここで対応を間違って、ジョエルやセシリヤに迷惑をかけることだけは避けなければ……。
妙な使命感に振り回されている事に、らしくないと頭を抱えた。
「やっぱりどこかでイベント、起こさないとダメなのかなぁ」
ふとアイリが呟いた言葉に顔を上げたシルヴィオだったが、既に彼女は村人に挨拶を終えたジョエルとセシリヤに気付いて彼らの元へ駆けて行ってしまった為に、呟かれた言葉の意味を問う事は出来なかった。
上機嫌にジョエルの腕を取って身体を摺り寄せるアイリだったが、当のジョエルは狼狽える事も顔色一つ変える事もなく、極めて紳士的……と言うか、そもそもあまり気にしていないようだ。
(アイリが滑稽で、若干可哀そうに思えなくもない)
とりあえず、アイリの機嫌が悪くなる前に、彼らの元へ向かいジョエルに声をかける。
「随分長い挨拶でしたね、ジョエル団長」
「待たせて悪かったね。実は、この村の近辺でも度々魔物が出ては畑や家畜を襲っていると言う話を聞いてね。出来れば、討伐してもらえないかと言う相談を受けていたんだ」
「……では、王都に残った騎士団へ依頼を出しておきます。ここで貴重な時間を食ってしまうのは得策ではないでしょうから」
魔物に怯える村人の願いをすぐにでも叶えたい所ではあったが、ここで余計な討伐を請け負って時間と人員を割く訳には行かない為、今から王都へ急ぎ使いを出し、残っている騎士団に討伐依頼を出そうと話が纏まりかけていた所で、
「村の人も困ってるって言うなら、それを退治して行きましょう! 急な話だけど、放っておけないもの! ねえ、ジョエル!」
そんなアイリの一声で、急遽この村の近くで目撃される魔物退治と言う余計な仕事が増えてしまったのである。
勿論、反対する騎士も中にはいたが、勇者の声に強く出るられる訳もなく、言い出したら聞かない彼女に折れる形でジョエルもそれに同意する。
その日、急遽野営の準備に忙しなく動く事になった騎士達を後目にしながら、アイリがセシリヤにやたらと接触している姿を目撃していたが、決して雰囲気は悪くなかった為に、特に気にする事はなかった。
――― やっぱりどこかでイベント、起こさないとダメなのかなぁ ―――
けれど、アイリの呟いた言葉だけはいつまでも頭を離れず、更にそれを具現化するように、この後、セシリヤは負傷でアイリの護衛を外れ、王都へ戻る事になった。
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