表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/290

泣くのは、我慢しなくて良いんだよ -Priscilla- 【続・無邪気】①

 半透明の小さなキャンディを太陽に透かし、キラキラと輝く様を眺めてから口に放り込むと、甘いフレーバーが口いっぱいに広がって、たちまち幸せな気分になる。

 セシリヤと初めて出会った時に彼女からもらったキャンディは、今でもプリシラのお気に入りで、偶然イヴォンネと立ち寄ったお店で同じものを見つけてからは、いつもこのキャンディを持ち歩いていた。

 カラカラと音を鳴らし、口の中でキャンディを遊ばせながら隣を歩くセシリヤにも同じものを差し出すと、彼女はお礼を言って受け取り、キャンディを口へ放り込んだ。

 沢山あるから欲しい時はいつでも言ってねと、キャンディの詰め込まれたポシェットの口を開けて見せると、セシリヤは微笑んで頷き、離れていたプリシラの小さな手を再び取っ手歩き出す。


 道中、初めて王都の外へ出たプリシラの質問攻めにも、嫌な顔をせずセシリヤがひとつひとつ丁寧に答えてくれるお陰で、退屈することもなかった。




 王都を出てからセシリヤの言った通りに暫く歩き、ようやく辿りついた所は、小さな墓石が二つ隣り合わせにある小高い丘だった。

 領内の山道付近にあるその丘は、特にこれと言ったものがある訳でもないせいか人も寄りつかず、けれど魔術団の結界もギリギリ届いている事もあって、穏やかで静かな場所だ。

 墓石の先に視線を寄越せば、開けているせいか随分と眺めも良く、小さくなった王都が見える。

 国のシンボルであるロガール城の隣の空に片手を置き、自分の手と同じ大きさに見える事にはしゃいでいると、反対側のセシリヤと繋がれていた手が離れ、どうしたのかと振り向けば、彼女は持っていた花を墓石のそれぞれへ手向けていた。

 胸元で手を組み、静かに祈りを捧げるセシリヤの見様見真似でプリシラも祈りを捧げながら、ちらりとセシリヤの顔を盗み見る。

 目を閉じて長い祈りを捧げているセシリヤの表情は、今にも泣き出してしまいそうで、イヴォンネがいつも自分にしてくれるように頭を撫でてあげたくても手が届かない代わりに、セシリヤのスカートの布地をキュッと掴んだ。


「これは、だれのお墓なの?」


 そう見上げて訊ねるプリシラの頭を、セシリヤの手が優しく撫でる。


「……秘密です」


 優しくて心地の良い声が耳を擽るように抜けて行ったが、その瞳はとても悲しそうな色を湛えていて、そんな彼女を見たことがなかったプリシラは、チクチクと痛み出した胸に手を当て、再び二つ並んだ墓石に視線を戻した。


 きっと、この丘で眠っているのは、セシリヤにとって大切な人だったに違いない。

 まだ幼いプリシラでも、セシリヤの表情を見れば容易に理解できた。

 それが、家族だったのか恋人だったのかまではわからないけれど、彼女は今、この世界でひとりぼっちなのかも知れない。

 大切な人を失って、孤独と言う寂しさに、たった一人で震えているのかも知れない。

 けれどセシリヤは、涙を流すこともなく、いつも穏やかに笑っている。

 本当は泣きたいくらい寂しくて辛いのに、ずっと一人で抱え込んだまま、我慢しているのだ。

 どうして泣くのを我慢しているかは聞かなくても何となく、プリシラにはわかってしまった。

 セシリヤには、プリシラと違って、それを受け止めてくれる人がいないのだ。

 泣いている時に、優しく抱き締めてくれる優しい腕も、受け止めてくれる温もりも。



「あのね……、セシリヤちゃん。泣くのは、我慢しなくて良いんだよ」



 口から出た言葉は、いつかセシリヤがプリシラにかけてくれた言葉だった。


「わたしは、セシリヤちゃんの おともだち だから、セシリヤちゃんが泣きたい時は、一緒にいてあげる」


 迷子になったあの日、セシリヤが泣くのを我慢しなくても良いと言ってくれたから……、一緒にいると言ってくれたから、プリシラの心はとても救われた。

 もしも、セシリヤにそう言ってくれる人がいないのなら、彼女の友達である自分がその心を受け止めるのだと小さな胸を張って見せるも、セシリヤが随分と驚いた顔をしている事に気が付いたプリシラは、何か変な事を言ってしまっただろうかと胸を過る不安に、スカートの布地を握る力が強まった。

 それでも、


「セシリヤちゃんはひとりじゃないの。だから寂しくなんてないよね?」


 一生懸命見上げてそう続けると、プリシラの視線と合わせるように膝をついたセシリヤが小さく頷き、


「ありがとう、プリシラちゃん」

「うん!」


 お互い、どこか照れたように笑い合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ