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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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とにかく、あいつはヤバイ女だ -Arman- 【不服】①

 問題:目の前に越えられない壁があったとしたら、どうするか?

 答え:越えられないのなら、壊してしまえばいい。


 そう言っていたあの頃の自分のプライドを見事にへし折ってくれたのは、まぎれもなく、彼女だった。




 【03】



 先ほど第四騎士団へ伝えられた情報に、アルマンは舌打ちをしながら廊下を歩いていた。

 足早に向かう先は、ロガール騎士団兵舎に併設された医療棟。

 第四騎士団の監視下にある西側エリアに現れた多数の魔物の討伐に出ていた部下達が負傷したことへの心配と、何よりも()()()がいる医療団に……、ましてやその団長・副団長が今日に限って不在の時に一切の治療を任せられるものかと言う不安で、ぎりぎりと奥歯が音を立てる。

 一秒でも早く部下達を無事に連れて帰らなければ、と言う焦りが更に彼の不機嫌なオーラを醸しだしていた。


 ……何があっても、()()()にだけは絶対部下を診せるわけには行かないのだ。


「第四騎士団副団長・アルマン・ベルネックだ」


 入室許可の返事も待たずに医療棟内総合救護室の扉を開けると、既に処置を終えたらしい部下達が放心状態で座り込んでいるのが目に映った。


「……遅かったかっ!」


 アルマンが言い捨てたと同時に、総合救護室の最奥にある扉の閉ざされた部屋から劈くような悲鳴が心地良いほどに響き渡る。

 忘れたくても忘れられないアルマンの苦い思い出を彷彿とさせる悲鳴を上げた部下に、心底同情してしまったことはここだけの秘密だ。


「すみません、今日は忙しくて少し治療が荒いみたいです。あ、でも、彼女の腕は信用して下さい! 大丈夫ですから!」


 わたわたと救護室を走り回っている医療団員の言葉に眉を顰めると、アルマンは不機嫌な表情のまま、部下を虐げている(実際は治療しているのだが)人物のいるだろう部屋の扉を押し開けた。


 アルマンが彼女と初めて出会ったのは、第四騎士団へ移動する以前…、騎士学院を無事に卒業し、第七騎士団へ配属された後のことなのだが、とにかく、その時の第一印象は最悪だったと今でも思っている。



*

*

*



 騎士団は大所帯になればなるほど所属する騎士が、例えば貴族の出であったり、平民の出であったり、人間とはまた別の種族であったりと多種多様になり、その性格も異なって来る。(騎士団に限らないのだが)

 こと、ロガール騎士団においては、種族や身分、性別など一切関係ないと言うのだから、尚更である。

 例えば、ロガール騎士団内でも国内一般の治安警備を担っている第七騎士団は、国民同士の小さな揉め事の仲裁から王都付近の魔物の討伐でも真っ先に駆り出される部隊であるせいか、血の気が多い騎士が目立っていた。

 また、それら騎士達で構成された第七騎士団の一日は、治安警備もそこそこに、鍛錬と言う名の戦闘の繰り返しで、暇さえあれば誰彼構わず戦いを始めるような団で怪我をしない筈もなく、そこへ配属されたばかりのアルマンは程なくして医療団の常連となり、打撲・斬り傷・骨折、絶えることのない負傷に、医療団員達はただただ苦笑するばかりだった。

 しかし、そんな日々の繰り返しのお陰かアルマンの剣の腕は確実に上がって行き、けれど、いつしかそれが驕りとなって、彼は負った傷でさえも勲章であると豪語するようになり、完治する前に病室を抜け出してしまう等、医療団の中で手を焼かされる騎士の一人へと変貌を遂げてしまうのである。


 そんなある日の出来事だった。


 第七騎士団で暇を持て余していた先輩騎士と共に、立ち入りを禁止されていた洞窟へ魔物を狩りに行くなどと言うほんの些細な遊び心が、思わぬ事態へとアルマンを転がしたのだ。

 第七騎士団での訓練で強くなったとすっかり驕っていたアルマンを嘲笑うかのように、その場所に住み着いていた魔物はいとも容易く彼らを捩じ伏せた。

 共にいた先輩騎士も既に事切れ、その骸を目にしたアルマンが絶望感を抱くのは当然とも言うべきか……。

 為す術も無く、このまま魔物に殺されることを覚悟した、その時だ。



「自惚れは、命取りですよ」



 いつも聞き慣れている低い男の声質とは別の声が耳に入ったと同時に、アルマンに覆いかぶさっていた魔物の重みが消え去った。

 目の前には、見知らぬ騎士がいる。

 しかし、既に意識が朦朧としていたアルマンには、はっきりとその顔を捉えることはできなかった。

 声からして女であることは解ったものの、どこの団の誰なのかまで聞けるほど今のアルマンに余裕はない。

 命の恩人とも言えるその騎士が差し出した手を取ろうとしたが、助かったと言う安堵に意識が途切れてしまい、届かぬままその手は地に落ちた。

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